男の子から女の子に生まれ変わり、現在、女優・タレントとして活躍する真境名ナツキさんのドキュメンタリー映画「ハイヒール革命!」(9月17日(土)公開)。真っ黒のランドセルに違和感を覚え、中学校では女性教師とバトル。性同一性障害の壁を乗り越え、ついにスカート登校へ。そんな真境名さんを再現ドラマパートで演じたのが、天才子役からの成長著しい濱田龍臣さん。「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」「トランスジェンダー」。4つの頭文字を組み合わせた「LGBT」の世界を真正面から描いた本作で、初めての“女の子”役という新境地に挑んだ彼の素顔に迫ります。
僕の感じた“女の子”というイメージを表現したつもりです
――オファーをもらったとき、率直にどう思われました?
面白そうだなと思いました。体は男の子だけど心は女の子という役柄は自分にとって初めての挑戦ですし、いい経験になるんじゃないかと思いました。
――難しい役柄だったと思いますが、何か事前に準備したことは?
もちろん、LGBTについて調べたりはしましたけど、真境名さんご本人と直接会ってお話することができたので、その中でいろいろと教えていただいたという感じですね。
――真境名さんとの対談の様子は、劇中にも登場しますよね。真境名さんに対して、どんな印象を持ちましたか?
すごく明るい方でした。テンションが高くて、話していて楽しいですし。台本を読んで想像していたイメージとは真逆でしたね。
――演じる上で参考になる部分もありました?
そうですね。男の子のときは落ち着いた感じで、女の子になってからはウキウキと明るく、という形で芝居に変化を出せたんじゃないかと思います。
――目の前に実在する人物を演じるというのは、どういう感覚ですか?
何か、まねしてるみたいで、ちょこっと恥ずかしい部分はありました(笑)。
――実際に真境名さんのしぐさを取り入れたりとかも?
それもありますけど、監督からは単に真境名さんをまねして役を作るんじゃなくて、1人のLGBTという人間を演じてほしい、というようなことを言われたんです。だから、真境名さんだけじゃなく、僕の学校のクラスの女子や女性スタッフさんにも話を聞いたり、そのしぐさを見たりして、いろんな人の部分を取り入れました。僕の感じた“女の子”というイメージを表現したつもりです。
――カツラや服装で見た目にも女の子になった自分の姿は、どう映りましたか?
どうしても自分っぽいというか、やっぱり男だなって(笑)。顔の輪郭といい、肩幅といい、女の子の服を着てるのに、すごいデカいなと。違和感がありましたね(笑)。
――女の子メークにも挑戦されていますよね。
大変でした。現場ではメークさんがやってくださるので、僕が何をするわけじゃないんですけど、例えばアイラインなら半目でいないといけなかったり、すごくかゆくなったりして。女の子ってこんなに大変なんだって思いました(笑)。
――周りのスタッフの反応はどうでしたか?
撮影も終盤になってくると「慣れてきたね、自然になってきた」って。「逆に男の子であるほうが変なくらい」とも言われましたね(笑)。
――ファンの反応は気になりますか?
多少は気になりますね(笑)。でも、情報が解禁されて、写真で僕の女の子の姿を見た友達は「かわいかった」と言ってくれたので、意外に大丈夫なんじゃないかと思い込んでます(笑)。
――ちなみに、濱田さんが女の子に対して求めることはありますか?
あまりないですけど、口を開けてご飯を食べる人は嫌ですね(笑)。自分の食欲もなくなってしまうので。そこだけは譲れないです。それさえクリアしていれば、あとは全然大丈夫(笑)。
“周りが理解してくれれば障害じゃなくなる”
――この作品を通して「性」に対する考え方は変わりましたか?
そうですね。劇中に「周りが理解してくれれば障害じゃなくなる」っていうせりふが出てくるんですけど、まさにそのとおりで、周りの人の受け止め方次第なんだなって思いました。
――ナツキさんの場合は、お母さんが最大の理解者となってくれたことが大きいですよね。
そうですね。身近に支えてくれる人がいるっていいなって。力になるんだなって思いました。僕ももし、身近にLGBTの方がいたら、その人の話や意見をちゃんと聞いて自分なりに受け止めてあげたいし、何か力になってあげられたらと思いましたね。
――濱田さんご自身の支えとなっている存在は?
やっぱり、両親の存在は大きいです。まだ実家暮らしなので、毎日会話もしますし、この仕事のことも応援してくれてるので、すごく助かってます。
――子役から経験を重ねてきて、仕事に対する意識って変わりましたか?
ちっちゃいころはせりふが言えるだけで「すごい!」って評価されましたけど、今はもう大人の一員になってきて、そのレベルの芝居ではもちろん通用しない。今の自分に求められているパフォーマンスをきちんとできるようにしたい。その辺りの意識は、変わってきてると思います。
――もう子供じゃないんだと思うときって、ほかにもありますか?
電車料金が上がったことですかね(笑)。仕事のときはいつも電車で現場に行ってるので、交通費がかさんできたなと(笑)。それは冗談として、やっぱりほかの役者さんと一緒にお仕事させてもらうと、いろいろ指導していただいたり、励ましていただいたりして。そういうときに自分自身、周りから見られる形が変わってきたんだなと感じますね。
――先輩方の存在は刺激になりますか?
そうですね。見習っていかないと、と思います。
【自分とは全く違う人格を演じるのって、面白いんですよね】
――あらためて自分は俳優なんだと実感する瞬間はありますか?
現場で大人たちに囲まれると、自分は仕事してるんだなって思います。
――多感な時期をそういう状況で過ごしていて、嫌になったことはありませんか?
嫌というほどではないんですけど、小さいころから僕のことを知ってる人が多いので「大きくなったね~」ってよく言ってくださるんですけど、会う人会う人それが続くと「あぁ、はぃ…」みたいな(笑)。そういう時期は一瞬だけありましたね。
――それでも俳優という仕事を続けるだけの魅力は、どんなところにありますか?
自分とは全く違う人格を演じるのって、面白いんですよね。いろんな人との出会いもありますし、すごく楽しいです。
――今の俳優としての目標は?
いろんな役を演じられる俳優になりたいです。
――例えば、どんな役に挑戦してみたいですか?
ブラックというか、ダークな役に興味があります。イメージとしては、「デスノート」(ドラマ版)で窪田正孝さんが演じていたキラみたいな。今までどちらかと言うと気の弱い役が多かったので、そうじゃない、振り切った役にも挑戦してみたいです。
――確かに今までの作品では、気の弱い役柄が多かったですよね。ご自身もそういうタイプですか?
小学校くらいのころはやんちゃなわんぱく坊主だったかなとは思いますね。外で遊んでて骨折ったりしたこともありますし。気の弱い部分も多少はあったのかなとは思いますけど。
――そのころにハマっていたエンタメってありますか?
幼稚園に入るまでは「アンパンマン」が大好きだったんですけど、幼稚園に入ってからは「ウルトラマン」ひと筋でした。テレビ放送も毎週録画して見てましたし、フィギュアを買ってもらったりもしましたね。
――「ウルトラマン」のどんなところが魅力だったんですか?
かっこいいっていうのもありますし、人を守る姿にも憧れました。人が変身して、あんなふうに戦えるんだ! みたいな。怪獣とのストーリー性も面白いし、単純にすごいなと思って見てましたね。以前、劇場版に出させていただいて、ウルトラマンに近いところまで行けたので、今度は変身してみたいです(笑)。幼稚園のころの夢がウルトラマンになることだったので、あと5歩くらいでその夢にたどり着けるのかな、と。頑張ります!
――では最後にあらためて、本作の見どころをお聞かせください。
ドキュメントではありますけど、ドラマの要素もあって見やすい映画に仕上がったんじゃないかなと思います。LGBTについて、今まで縁がなかったという人も、ぜひこの映画を見て考えてもらいたいです。身近に起こり得ることだと思うので。そして、もし身近にそういう人がいた場合には、自分から歩み寄って、理解する努力をしてほしいなと思います。
PROFILE
濱田龍臣
●はまだ・たつおみ…2000年8月27日生まれ。千葉県出身。A型。
NHK大河ドラマ『龍馬伝』で福山雅治の幼少期を演じ、天才子役として一躍脚光を浴びる。
以降、「ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国」、ドラマから引き続き映画「怪物くん」などに出演。
今後の出演作品に、東野圭吾のミステリーを映画化した「疾風ロンド」(11月26日公開)が控える。
作品情報
「ハイヒール革命!」
9月17日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
監督:古波津陽「築城せよ!」「JUDGE」
出演:真境名ナツキ、濱田龍臣、秋月三佳、中田裕一、藤田朋子、西尾まり
公式HP http://highheels.espace-sarou.com/
●photo/中村圭吾 text/甲斐 武