持ち前の知恵と負けん気の強さで戦国の荒波を乗り越えた女城主・井伊直虎(柴咲コウ)の生涯を描く大河ドラマ『おんな城主 直虎』。制作統括・岡本幸江プロデューサーへのインタビュー後編は、室内セット、衣装、音楽について解説してもらいました。
■プロフィール
制作統括 岡本幸江
●おかもと・ゆきえ…1992年NHK入局。これまで、連続テレビ小説『ごちそうさん』(13年)、ドラマ『経世済民の男/小林一三』(15年)などを担当。
花瓶の花は、「直盛が挿した」という設定のものも
◆自然豊かな井伊谷ということで、室内セットの井伊館も緑が豊かです。
田舎なので、通常の時代劇より緑を多めに配置しました。要所要所に岩肌が見えるようにしたり、庭にはチャボがいたり(笑)、ちょっとしたところにも田舎らしさが出るようにしています。
◆オープニング映像やポスタービジュアルは「戦う花」がテーマとなっていますが、井伊館の中にも随所に花が出てきますね。
そうなんです。当時の武士はたしなみとして「立花」をしていて、これは生け花の様式の1つ。直盛(杉本哲太)も、悩んだときに花を活けながら話すシーンがありますよね。ですから、花瓶の花には、お父さんが挿したという設定のものもありますし、壁に飾ってある花は、もしかしたら千賀(財前直見)さんやたけ(梅沢昌代)さんが摘んできたものかもしれないですね。井伊谷らしい自然感を出すために、飾ってある花も野花中心になっています。
◆井伊家の主家であり脅威でもある今川家は、居館の印象も井伊家とは対照的です。
駿府の町はカラフルでにぎやかですが、今川館で暮らす人たちは、誤解を恐れずに言うと「スター・ウォーズ」の帝国軍のようなイメージ。衣装も居館も、シャープでダークにして、井伊家との差を出しています。オープンで風通しのいい井伊家と、格式のある今川家、といったところでしょうか。
◆井伊発祥の地は井戸というお話もありましたが、龍潭寺の井戸端は印象的なシーンにたびたび登場しています。見せ方にこだわりはありますか?
井戸端は井伊家の神聖な空間であり、幼なじみ3人の思い出の場所でもあり、かつ自然を感じられる…という自然とファンタジーのバランスを考えて試行錯誤しました。物語の最後まで井伊家の原点であり守るべき場所として出てくると思うので、どんなに井伊谷が戦で焼かれようとも、井戸は枯れずに拠り所となっていくのではないでしょうか。実際に、龍潭寺の裏側あたりに、大きな岩がいくつもある「天白磐座遺跡」があるので、古代からの神聖な場所というイメージも頭に入れつつ作りました。
こだわり抜いて作った柴咲さんの頭巾。実は2種類あります
◆尼僧ということで常に法衣を着用している次郎法師(柴咲)ですが、衣装へのこだわりを教えてください。
実は法衣そのものに仕掛けがあり、タスキをかけずとも腕が出るようになったりするので、柴咲さんも動きやすいと思います。中でも特にこだわったのは「頭巾」。顔の周りにかかるものですから、柴咲さんにぴったり合うよう、ドレープの具合や長さなどを数センチ単位で調整し、動いてもあまり邪魔にならないようになっています。布の質感からかなりこだわって作りました。頭巾は通常用とは別に作務用もあり、2種類を使い分けています。作務用はドラマオリジナルで、首元が割れ、後ろがひとまとめにできるようになっているんです。
◆明るく朗らかな直親(三浦春馬)と、頭脳明晰でクールな政次(高橋一生)。対照的な幼なじみ2人は、お着物の雰囲気もまったく異なります。
色や柄も、役柄に応じてテイストを変えているんです。直親をはじめ井伊家の男たちは、草木染で温かみを感じる色合いで、柄も溶け込むような柔らかいものを採用しています。一方で井伊家ながら今川寄りの家臣である政次は、今川家が基調とする青・黒・シルバーを少しずつ忍び込ませていたり。明るめの色なので今川よりは柔らかい印象ですが、幾何学的で切り裂くような柄にすることで、小野が井伊家の中で浮いた存在であることを表しています。大河ドラマは登場人物が多いので、パッと見たときに誰が何の味方か視覚的に分かるように工夫をしています。
音楽・菅野よう子さんは「おたまじゃくしが止まらない!」と(笑)
◆脚本・森下佳子さんのほか、音楽・菅野よう子さんとも『ごちそうさん』以来の再タッグとなりますね。
菅野さんに台本をお送りしていたところ、第3話を読んだタイミングあたりで「できた!」と連絡が来ました(笑)。読んでいく中で、ファンファーレで始まる、女の子が駆けていくようなテーマが浮かんだそうです。その後も台本を読むたびに次々と曲が浮かんだそうで、「おたまじゃくしが止まらない!」とおっしゃっていて(笑)。
◆岡本さんのほうからのリクエストはあまりなかったということですか?
全然!(笑) 見終わって晴れ晴れするような読後感が残る作品にしたいという一番大きなところはお伝えしていたのですが、細かい打ち合わせはしていません。打ち合わせというよりも、物語を提示して作曲していただく、という感じですね。
◆テーマ音楽の指揮はパーヴォ・ヤルヴィさん、ピアノはラン・ランさんと世界的な音楽家が務められています。
これも菅野さんのご希望でお声掛けさせていただきました。パーヴォさんは、N響(NHK交響楽団)の主席指揮者になられて初の大河のテーマ音楽。ドラマの世界観をあっという間に理解して、すごく生き生きとした音楽を作り上げてくださいました。ラン・ランさんは、テクニックももちろん素晴らしいですが、音色そのものに突き進んでいく明るさや躍動感があり、まさに直虎にぴったりですよね。
◆最後に、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
先週からいよいよ大人の俳優たちが登場し、大きくなったからこそのハラハラドキドキを演じてくれています。放送開始から見ている方はもちろん、これから見る方も十分楽しめますので、新たなステージをお楽しみください。
《インタビュー前編はhttps://www.tvlife.jp/pickup/100600にて公開中》
■放送情報
大河ドラマ『おんな城主 直虎』
NHK総合 毎週(日)後8・00~8・45
BSプレミアム 毎週(日)後6・00~6・45
<第6話「初恋の別れ道」(2月12日放送)ストーリー>
井伊谷に帰ってきた亀之丞(三浦春馬)は、元服して井伊直親と名を改め、次郎法師(柴咲コウ)を還俗させて自分の妻に迎えたいと願い出る。しかし、政次(高橋一生)は今川家に直親が帰還したことの許しを得ることが先決だと言って反対。これは、次郎法師の出家が井伊の本領安堵の条件になっていたためだった。そんな中、駿府に出向いた新野左馬助(苅谷俊介)は、今川家が尾張の織田攻めに向けて軍役を課そうとしているという噂を耳にし、次郎法師の還俗を願い出るのは諦めたほうがよいと直盛(杉本哲太)に進言。それでも夫婦になることを諦め切れない直親は、次郎法師にある提案を持ちかける。
公式HP:http://www.nhk.or.jp/naotora/
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©NHK
●text/金沢優里