『昼顔』でドラマデビューし、『コウノドリ』では中学生の妊婦を演じて注目を集めた山口まゆさん。写真をご覧いただければ分かるとおり、朗らかな笑顔で印象的で、「ドラマや映画での役の雰囲気とは全然違うんですね」と声をかけると、「ふふふ、よく言われます」とはにかんだ。そんな彼女が、「相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断」(2月11日(土)公開)に抜擢され、物語のカギを握るヒロイン役に挑んでいる。『相棒』と同じ2000年生まれの16歳。現役高校生でもある山口さんに、撮影を振り返ってもらいました。
◆『相棒』シリーズは、それまでご覧になっていましたか?
学校から帰ってきてテレビをつけるとよく『相棒』の再放送がやっていて、それを見ていたことが多いです。私が生まれたのが2000年で、『相棒』が(単発ドラマで)始まったのもちょうどその年だとお聞きしまして。“同い年”という縁もあり、今回、劇場版に出させていただけることになって、とてもうれしかったです。
◆うれしさの半面、プレッシャーもあったんじゃないですか?
そうですね。今までやってきた中で一番大きい作品と言っても過言ではないので、不安はすごくありました。
◆しかも、今回演じられた在英日本大使館・参事官令嬢の瑛里佳は、7年前に起きた集団毒殺事件の生き残りで、その後国際犯罪組織に誘拐されたまま、現在も行方不明という壮絶な背景を抱えた役です。どんな準備をして、撮影に臨まれたのでしょうか?
役への入り口は、衣装でした。今回、お話を頂いてからわりと早くに衣装合わせがあったんですけど、結構男っぽいというか、クールなファッションになって、「あ、こういう子が瑛里佳なんだな」と。そのときに瑛里佳が使う銃もわたされたので実際に持って手になじませました。あとはもう、ひたすら台本を読み込むのみでしたね。それでもやっぱり“?”が出てくるので、そこは現場に入ってから自分なりに探っていきました。
◆監督とのディスカッションはあったんですか?
最初は監督に対して緊張していたというか、何て話していいか分からず、躊躇してしまって…。だから、全部自分でやらなきゃいけないと思っていたんです。でも、現場で監督が指示してくださることによって芝居が変わっていった部分もあったので、ディスカッションは大切だなと思いました。
◆瑛里佳を演じる上で、苦労した部分はありますか?
全部と言えば全部なんですけど…瑛里佳は意思の強い女の子である一方で、やっぱり弱いところもあって。彼女が誘拐される前に起きた、7年前の集団毒殺事件がそれだと思うんです。その「弱さ」と「強さ」の両方を見せながらお芝居するのは大変でしたね。
◆瑛里佳が誘拐されてから現在に至るまでの7年間は、劇中で描写されることはありませんが、その空白の時間についてどう想像しましたか?
台本を読み込んでいろいろ想像しました。例えば、瑛里佳は同世代のほかの子たちとは全然違う教育を受けていたんじゃないかなと。きっとその一環に、銃の扱い方もあった。あと、瑛里佳って仲間意識が強いんです。彼女の中にそれが“絶対に守らなければいけないもの”として根付いたのもそのころだろうと思いました。
◆瑛里佳という役をつかめたと感じる瞬間はありましたか?
せりふを発してお芝居しているときというよりは、アジトでの居方や、誰かのために一生懸命走っているときに、自分なりにではありますけど、そういう感覚はありましたね。
◆瑛里佳を演じきってクランクアップを迎えたときは、率直にどんなことを思いました?
クランクアップのシーンにアクションがあったんです。私、アクションに対して苦手意識があって、練習もたくさんしたので、そこを何とか乗り越えられてすごく達成感がありました。「うれしい、たのしい、達成感クランクアップ!」って感じです(笑)。
◆アクションには、かなり苦戦されたんですか?
そうですね。殴ったりとか蹴ったりとかそういうアクションではなく、ただ飛び越えればいいだけだったんですけど、いろんな壁にぶつかりまして…。恐怖心から入ってしまったので、まずはそれを取り除かなければならず、大変でしたね。
◆どう恐怖心を取り除いたんですか?
アクション指導の方もいらっしゃいましたし、あとは今回ご一緒させていただいた北村一輝さんからもいろいろ教えていただきました。「恐怖心から入ったら、いつになっても飛べないよ」と指摘されて、とにかく慣れることから始めようと。最初は飛び越えるというよりまたいでいる感じだったんですけど(笑)、そこから頑張って何度も練習しました。
◆北村さんとは、山口さんのドラマデビュー作となった『昼顔』でも共演されていますよね。
そうなんです。ちょっとの共演だったので、私のこと、きっと覚えていないだろうなと思っていたらちゃんと覚えていてくださって、すごくうれしかったです。アクションは初めてで、不安だらけだった私に「こうしたら痛くない」とか「こう見せたらいい」とか、いつもアドバイスを下さって。あと、重いシーンが控えていてそのことでずっと考え込んでいたときも「自分なりの瑛里佳をやればいいんだよ」と、優しい言葉をかけていただきました。
◆水谷さん、反町さんとの共演はいかがでしたか?
今までにない緊張感がありました。刑事と、その捜査に関わる人物という役柄上の関係もあり、最初はやっぱりどう話していいか分からず、現場では1人で台本を読んでいたり、考え込んでいたりすることが多かったんですけど、水谷さんも反町さんもすごく優しく接してくださって。芝居の話よりも、世間話がメーンで、私の緊張を解きほぐすためにあえてそうしてくださったんだろうなと思います。
◆水谷さんと反町さんにもインタビューさせていただきましたが、お2人とも、山口さんのことを褒めていらっしゃいましたよ。
本当ですか? はぁ、よかった…。正直、胃が痛くて吐きそうになるほど緊張していたんです(笑)。やっぱり、お2人のようなベテランの俳優さんがいらっしゃる中で、自分としてはしっかり芝居を突き詰めているつもりでも、ちゃんと突き詰め切れていないんじゃないかという不安は常にあったので。でも、それを聞いて、今改めてこの役をやってよかったなと思いました。
◆先輩俳優さんたちとの共演は、どんな刺激になりましたか?
当たり前のことですけど、皆さん全力でやっているのを間近で見ていて、すごいなと。そんな皆さんに、私は見えないところでもすごく助けられていたんだなと、作品を見てあらためて思いました。私は、瑛里佳のことだけに集中していて切羽詰まっていたので。
◆今作での経験は、今後に生かされそうですか?
そうですね。新しい経験がたくさんあったので、今後、生かしていきたいです。役についてこんなに悩んだのは初めてで、違う作品でももっともっと突き詰めていけば、いろんなものが見えてくるのかなと。そういう役作りの面でも、とても勉強になりました。
有名になりたい。そして、もっと知らない自分を見つけていきたい
◆普段、お芝居をするときは、感覚的なところを大事に演じるタイプですか? それとも、理論的に突き詰めて演じるタイプですか?
感覚でできるものもありますけど、そうじゃないものもあります。自分にはない未知のキャラクターで、どうしても考えないとできないものは、感覚と理論の両方でやりますね。
◆今作で演じた瑛里佳は、未知のキャラクターですよね。
そうですね。だから、感覚ではまずできなかったです。全く想像がつかなくて。
◆『昼顔』では浮気をしている母の娘役、『コウノドリ』では中学生妊婦役、そして今作の瑛里佳など、精神的にハードな役が多いと思いますが、キツくないですか?
やっている間は、すごくつらいです。緊張や不安もあって、撮影から帰ってきてからも「どうしよう、どうしよう」って1人でずっとぶつぶつ言っていて、お母さんから「うるさい!」って怒られるほど(笑)。でも、いろんな作品をやってきて、最近は本当に少しだけですけど、周りの意見や反響を聞く余裕を持てるようになってきて。特に『コウノドリ』のときはたくさんの方から感想を頂いて、ドラマよりそっちで泣いてしまいました。私もOAを見ていて、自分の芝居に対していろいろ思うところもあったんですけど、頑張ったかいがあったなと。こんなに皆さんに感動してもらえると、うれしいですよね。
◆ご自身の出演作は、よくご覧になるんですか?
そうですね。1人のときに見ます。そういうものは1人で見たいですよね。家族と一緒に、というのは恥ずかしい(笑)。自分の演技は撮影中もモニターでチェックするんですけど、今回の「相棒」はカットがかかったらすぐ次のシーンに入ってしまうような現場だったのでチェックができず、自分の芝居を客観的に見られないままだったんです。だから、完成した作品を見て、「自分、こんな芝居してたんだ」と思うこともたくさんありました。
◆高校生活との切り替えは、どうされているんですか?
普段、学校では今みたいにのほほんとしていて、テキトーな感じなんです(笑)。でも、現場に入ればやっぱり緊張するので、それで「仕事しなきゃ!」というスイッチが自然に入るんだと思います。
◆役を引きずるようなことはないですか?
あまりないですね。引きずれるくらい、もっと役にのめり込んでいかなきゃ、とも思いますけど、今はまだ家に帰れば素の自分に戻ります(笑)。
◆山口さんが女優を頑張るモチベーションは、どんなところにあるんでしょうか?
有名になりたいというのもありますし、あと、もっと知らない自分を見つけていきたい。今作でも、こんな自分もいるんだ、という発見がありました。それがモチベーションですね。
◆そういう気持ちは、子供のころから持っていたんですか?
子供のころはミュージカルをやっていたんですけど、レッスンの中でも特にお芝居が大好きでした。バレエでも舞台に立っていたので、当時から人に何かを見せるというのは好きだったんだと思います。
◆山口さんにとって、女優は一生の仕事ですか?
そうなるように頑張りたいです。大きな目標を持つというよりは、目の前にあることを全力でやるように心がけていて、そうすることでどんどん次へつなげていきたいです。
■PROFILE
山口まゆ
●やまぐち・まゆ…2000年11月20日生まれ、東京都出身。小学4年生から子役として活動し、『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』でドラマデビュー。以降、ドラマ『アイムホーム』『ナポレオンの村』『コウノドリ』『インディゴの恋人』などに出演。映画は「くちびるに歌を」に続いて今作が2作目。3月には「雪女」が公開される予定。
■作品情報
「相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断」
2月11日(土・祝)より丸の内TOEIほか全国公開
脚本:太田愛
音楽:池頼広
監督:橋本一
出演:水谷豊、反町隆史、仲間由紀恵、及川光博、石坂浩二、北村一輝、山口まゆ、鹿賀丈史ほか
©2017「相棒-劇場版IV-」パートナーズ
●photo/金井尭子 text/甲斐 武