男優劇団スタジオライフが萩尾望都原作の「エッグ・スタンド」を初舞台化し、3月1日に初演の幕が開いた。新宿シアター・サンモールで3月20日(月・祝)まで、大阪ABCホールで3月24日(金)~26日(日)上演される。
「ポーの一族」の40年ぶりの連載開始で現在も熱い視線を集め続ける萩尾が、1984年に発表した100ページの中編漫画「エッグ・スタンド」。スタジオライフは、「トーマの心臓」「11人いる!」など萩尾作品を数多く取り上げてきたが、本作の上演許可を萩尾からもらったのは今から10年以上前のこと。脚本・演出の倉田淳が構想をあたため続け、「今だからこそ」と満を持しての初舞台化となった。
第二次世界大戦化、ナチスドイツ占領中のパリで少年ラウルと踊り子ルイーズ、レジスタンスの青年マルシャンが偶然出会う。緊迫した情勢の中でも、孤独な魂を寄り添わせるようにして結びついた3人はほんの少しの間だけ心を通わせ、思いを温め合う。しかし、マルシャンの不思議な行動に気づき始める…。
「なにもかも きわどいところにある 愛も 憎しみも 生と死も」
人間が人間でなくなってしまう戦争の時代。萩尾は「ハンセン」を声高に訴えかけはせず、そこにも確かに今の私たちと同じようにちょっとしたことで笑い、涙する人間がいたということを、独特の繊細な筆致で描く。薄いベールのように様々な要素が重なり合う作品の奥に横たわるものを、脚本・演出を務める倉田が一つひとつ丁寧に解き明かしていく。萩尾の代表作を20年間上演し続けてきたスタジオライフだけに、倉田は萩尾作品の奥深い部分まで分け入り、新たな息吹を感じさせることができるのだ。
メインの3役はダブルキャストでの上演で、初日はNoirチームが出演した。ラウル役の松本慎也は「トーマの心臓」のエーリクやユーリを演じた経験を糧として、新たな少年像を描き出す。母親の束縛から逃れ、パリに移ってきた少年の内面に宿るものを透明感のある演技で表現。ラウルがピュアであればあるほど、戦争の狂気は人間の中に宿っているのだということを感じさせる。
曽世海司は、ドイツから逃れてパリに移り住んできたユダヤ人女性ルイーズをみずみずしく演じた。マルシャン役は岩﨑大。包容力のある演技で新たな一面を見せ、マルシャンがラウルの謎に迫る過程が観客の心に寄り添っていた。
作品のタイトルになっている「エッグ・スタンド」は、孵化しなかった卵が誤ってゆでられ、卵の殻をむくと中には真っ黒にゆでられたヒヨコがいたという作中のエピソードから。ゆでられてしまった卵は親の愛にがんじがらめになった少年であり、戦争を繰り返す世界そのものを表現しているのか。不安定な世界はエッグ・スタンドに乗ることでどうにか均衡を保っている。世界を支えるエッグ・スタンドが壊れそうな気配も感じる昨今、本作を上演する意義は大きいだろう。