趣里インタビュー「私はずっと絵の具でありたい」『山本周五郎時代劇 武士の魂「晩秋」』

特集・インタビュー
2017年04月14日

ドラマ・映画・舞台と数多くの作品に出演し、着実にキャリアを積み重ねる女優の趣里さん。昨年、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で出版社の女性編集部員役を演じていたのも記憶に新しい彼女が、BSジャパンで放送中の山本周五郎時代劇『武士の魂』の1編である「晩秋」に出演。その撮影エピソードや、趣里さんのオン/オフに迫りました。


自分を奮わせて、しっかり立っている必要がありました

趣里インタビュー

◆BSジャパンで山本周五郎さん原作の時代劇に出演されるのは、昨年の『山本周五郎人情時代劇』の「初蕾」に続き2作目になりますね。

 先に台本を読んでいたマネージャーさんから「絶対、趣里ちゃんにやってほしい!」と言われたんです。舞台の合間でスケジュール的に結構大変なときだったんですけど、台本を読み始めたら涙が止まらなくなってしまって。電車の中だったので、マスクをしていてよかったなと(笑)。

◆どのあたりが趣里さんの心に刺さったんでしょう?

 主人公の主計(田村亮)は、私が演じる都留の父を切腹に追いやった人。つまり、都留にとっては父の敵なんです。母の死の間際に無念を晴らすと約束するんですけど、主計の身の回りの世話をすることになって、実際に本人と向き合ってみると、思っていた人と違うなと感じて、そこに葛藤が生まれて都留の気持ちが変化していく。主計のある決意に対して都留が放つ言葉は勇気がいったと思いますし、その後のラストシーンは、ドラマや映画の撮影でも今までカメラの前でそんなふうになったことないんじゃないかというくらいグッときました。

◆本編は都留と主計、ほぼ2人のやり取りで進んでいきますね。

 そうなんです。でも田村さんがいらっしゃるだけで、作品の世界観が出来上がるんですよ。田村さんがそこに立っていれば、それだけでもらえるものがたくさんあったので、私は自分で無理にどうこうするということはなくて。安心感がすごくありました。撮影は4日間くらいでとてもタイトでしたが、全然苦にならないくらい楽しくて。とても充実していました。

趣里インタビュー

◆「初蕾」のときと比べて気持ちに変化はありましたか?

 そうですね。「初蕾」は初めて本格的にやらせていただいた時代劇で、オーディションでは所作のことなんかもあり、現代劇とは違った難しさを感じていました。それを踏まえて今回は心構えを持って臨むことができましたし、スタッフさんの顔触れも「初蕾」で一緒だった方が多くて心強かったです。

◆趣里さんが思う時代劇の良さはどんなところでしょうか。

 昔の方って毎日が生きるか死ぬかみたいな状況じゃないですか。だから、たくましいですよね。切腹や自害で死を選ぶ人もいますが、今の時代で言う“自殺”とは意味合いが少し違っていて。覚悟も強さの表れなんだと思います。都留も恋愛や結婚を考えるわけでもなくお母さんとの約束を果たそうと、命を懸けて敵討ちをしようとしている。そういう家族の縁や血の強さというのも、時代劇の良さであり美しさなんだと思います。

◆「晩秋」は派手な立ち回りはないですが、その分、人情の機微がしっかりと描かれた作品になっています。

 本当にそうなんです。だから、どのシーンでも後悔したくなくて、自分を奮わせて、しっかり立っていないといけないなと思っていました。そんな中で田村さんの存在は大きかったですし、ちゃんと役者と向き合ってくださる永江(二朗)監督にも助けられました。「このせりふが言えなかったら無理して言わなくてもいい」とか「今の感じだったらいけそうだね」とか話を聞いてくださって、とても感謝しています。

◆この作品を通して、視聴者に伝えたいメッセージはありますか?

 山本周五郎先生が書かれる時代劇はとても情緒があって、言葉も美しいんです。登場人物がみんな自分の人生を真っ直ぐ生きているので、見る方の状況にもよるとは思いますが、きっと心に響く作品があるんじゃないかと。回によってキャストも雰囲気も全然違いますので、ぜひ全話通して見ていただきたいです。


監督を筆として、私はずっと絵の具でありたい

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◆2011年に女優デビューして以来、本当に幅広い役を演じられていますが、スイッチの切り替えが大変じゃないですか?

 自分でも「自分って何だろう?」と思うことがあります(笑)。ついこの間まで舞台でアイドルの役でしたし、ほかにも死んだ女子高生や夫を殺そうとして牢屋に入っていた役とか…振り幅がすごいですね。でも、自分の中でスイッチを入れないとできない役は、それだけやりがいもあるので楽しいです。

◆では、あまり1つの役を引きずるようなこともないと?

 作品が終われば「はい次!」という感じのタイプなので。でも、ふとした瞬間に思い出すことはあります。例えば車の窓からどこかの地名を見たときに、あの役をやったときに出てきた場所だ、ってよみがえってきたり。そうやってだんだん、自分の中にストックが増えていっている感じで。今はお芝居が楽しいです。

◆スイッチをオフにしたときの趣里さんはどんな方でしょう。

 う~ん、インドアかな?(笑)基本的には、家にずっといたいんですよ。だから「趣味は何ですか?」って聞かれると答えに困っちゃう。イメージと全然違うみたいで、「お友達がたくさんいそう」だと言われるんですが、実際はお友達は特定の人ばかり。この間は(劇作家の)根本宗子さんと舞台を一緒に見て、そのままファミレスに行って、ドリンクバーでお代わりしながら6時間しゃべりっ放しでした。楽しかった~!(笑)

◆確かに全然イメージと違いました!

 そうですか!? この前、女優の梅舟惟永さんと「ラ・ラ・ランド」について延々語り合ったばかりで。お互いに感想を言い合って「その解釈はしてなかったわー!」みたいな(笑)。そういうのが大好きなんです。

趣里インタビュー

◆そんな趣里さんがお芝居を始めたきっかけは何ですか?

 私、小さいころはずっとバレエをやっていたんです。お芝居を始めたのは、けがでバレエを断念したのがきっかけで。ずっとバレエ教室と家を行き来する毎日でした。お休みの日は、バレエのビデオやDVDを飽きることなくずっと見ていました。将来は絶対にプロのバレリーナになるんだって。きっと当時からインドアだったんですね。外に出て遊ぶことは、あまりなかったなぁ。

◆バレエが続いたのは、それだけの魅力を感じていたからですよね。

 やっぱり舞台に立って踊っていると、見たこともない世界に行けるんです。だから、けがしてバレエができなくなったときは本当につらかったですけど、こうしてまた女優という表現の道を選んだのは、バレエの経験があったからなんだろうなって思います。舞台での距離の取り方とか、空間把握能力もすごく役に立っています。こう見えて体力もあるので、1日2公演も全然大丈夫(笑)。映画や舞台で踊ってほしいと言われることも多くて、それってこれまでの自分があるからこそできることですし、今まで生きてきた証だなと思って楽しんでいます。

◆今後女優を続けていく上で、目指す理想像はありますか?

 以前、大林宣彦監督がトークショーで「役者は絵の具」というようなことをおっしゃっていて、「なるほど!」と感動したんです。だから、作品がキャンバス、監督が筆だとしたら、私はずっと絵の具でありたいなと。そうすれば、ドラマや映画、舞台とこだわらず、どんなフィールドでもフラットな自分でいられるんじゃないかって。あとは作品というのは、監督がいて、スタッフさんがいて、それを見てくれる方がいて、初めて成り立つもの。自分一人で作れるわけではないので、常に感謝の気持ちを持ち続けることは絶対に忘れないようにしようと思っています。

 

■PROFILE

趣里 SHURI
●しゅり…1990年9月21日生まれ。東京都出身。山本周五郎時代劇は2度目の出演。出演ドラマ『リバース』(TBS系)が4月14日(金)スタート。5月12日(金)から、舞台「黒塚家の娘」に出演。

 

■ドラマ情報

山本周五郎時代劇 武士の魂「晩秋」山本周五郎時代劇
武士の魂「晩秋」
BSジャパン
4月18日(火)後8・00~8・54

<ストーリー>
藩の財政再建のために厳しい改革が行われるが、これに異を唱えた勘定奉行の浜野新兵衛(田中宏昌)は、藩主の要人・進藤主計(田村亮)を刺そうとして切腹を命じられ、無念の死を遂げる。10年後、新兵衛の娘・都留(趣里)は、家老・水野外記(長谷川公彦)の家の世話係となり、主計と対面する。

©BSジャパン

 
●photo/中村圭吾 text/甲斐武

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