『踊る大捜査線』シリーズの脚本家として知られる君塚良一氏がオリジナル脚本で手掛けた監督作。朝のワイドショーを舞台に、番組キャスターの男が巻き込まれる災難続きの1日を、テレビ業界の裏事情を織り込みながらコミカルに描いていく「グッドモーニングショー」。本作のBlu-ray&DVDが4月26日(水)に発売。そこで主人公・澄田真吾を演じた中井貴一さんにお話を伺った。
相手が存在する中での1秒ずつのせめぎ合いをしていくのはコメディの難しさ
◆昨年10月に劇場公開された「グッドモーニングショー」。朝の情報番組を舞台にテレビ局の裏側をコミカルに描いています。
基本的に日本は、映画やドラマの題材になるものが世界に比べると少ないかもしれません。日本は軍隊を持つわけではないですし、貧富の差が異常にあるわけでもない。きっとみんなが中庸だと思っていて「幸せではないけれども不幸ではないんだ」という均一の社会の中で物語を作り出そうとするのはとても難しいことだと思うんです。最近は「テレビが面白くない」と言われるようになっている中でテレビの裏側をテレビ局側が作ってみようというその姿勢が、僕はいいなと思い(笑)、この役をお引き受けしました。
◆中井さんが演じるのは「グッドモーニングショー」のちょっと落ち目のメインキャスター・澄田。お人よしというか、誠実なんだけどどこか頼りないキャラクターですが、中井さんご自身と共通する部分はありますか?
相通じる部分もあるし、全く違うところもありますね。決して相手から「いい人に見られたい」と思っているのではなく、自分が物事を解釈するときに、単なる優しさとは違い、相手の悪い部分を見ずに「なるべく良く」解釈してしまう人っていますよね。それによって結果、自分が損をしてしまう人。そういうところは、自分にも多少あるかもしれませんが澄田は「お人よしすぎるんじゃないの?」と思いながら演じていました(笑)。
◆澄田と長澤まさみさん演じる小川圭子のやりとりがとても面白かったのですが、澄田と圭子は何かあったのでしょうか?
(笑)。僕もそれは監督に何度も聞きました。これは2人になんかあったということで、書いたのですか?と聞くたびに監督もぼやかすんですよ(笑)。「何もなかったんです。でも中井さん、澄田は圭子の家に行ってしまったんです。行ってしまったので、澄田は“これはまずい”と思ったんです。何もなかったんです。でも家にはいってしまったのです…」って繰り返し仰っていました。
◆公開後、周囲の感想などはいかがでしたか?
ご覧になった方からは、面白かったよ、楽しかったよって言ってもらえたのと同時に、本当はもっと笑う映画だと思っていた、シビアなのでびっくりしたという感想も頂きました。前半はコメディ要素が強く出ていますが、僕は喜劇を撮影しているという感覚があまりなくて、いわゆる日本の人情喜劇というよりは、海外のコメディのような乾いた笑いに近いのかなと感じました。
◆笑いの中に、例えば劇中ではワイドショーと報道番組のいざこざを描いていたり、現在のテレビではワイドショーと報道番組の境界線が薄れているような感じがしていたので、とても印象的でした。
ワイドショーはショーですからもっと明確に報道との違いっていうものを見せていたほうがいいのかなと思います。だから映画の中にもありましたが、昔は報道の人はワイドショーを敵対視していて、“俺らの素材を使って、てめえら面白おかしく扱うんじゃない”って、ワイドショーの人が行くと、素材を隠されたっていうぐらいに確執があったって言うんです。でも今はそういうことはないと。もしかすると、そのころのほうがテレビ界的には正しかったのかもと思いますよね。ワイドショーと報道の違いが見る側に対して分かりやすくなるのかもしれないなと思います。
◆DVDにはメイキング風景も収録されていますが、撮影時に特に印象に残っていることを教えてください。
監督がカット撮りという方法を取らないんですよ。1台のカメラを常に現場の中で動かしながら押さえたいものを押さえる。ここからここまでを撮りますっていう手法ではなかったんです。だからどこかに自分が映り込んでいるわけで、その間は脚本にないことでつなげないといけないわけだし、そういう役者のドキドキ感というのがスクリーン中でリアリティーを持たせているのかなと思いました。普段、あんまり絡まない相手の役名って覚えないんですけど、とっさのときに途中でアドリブを入れられるように、今回は劇中の番組スタッフの役名をあらかじめ台本で覚えておいて、即席で“おい!〇〇、こっち入ってくれ”“そこにおいてくれって”言える状態にしておくってことが必要だと撮影初日に認識しました。映画でありながら、舞台上で芝居をしているようで、とても新鮮で楽しかったですね。
◆放送するまでのスタジオ内のドタバタや、リポート現場での画面全体から伝わる緊張感はそうやって生まれていたのですね。
そういう撮影だったので、画面に入る全員が絶対に生きていないといけないんですよ。だからどちらかというと監督は隅々の人に芝居をつけることに力を注いでいらっしゃいました。隅々まで見ててくれているのが役者にとってどれだけ力になるのか、逆に後ろの人間にリアリティーがあるということが、僕たちを引き出してくれるかってことにとても感動して、監督に本当にありがとうございますって言ったんですよ。そしたら、監督は「ごめんなさい」って言うんです。「いや、謝ることはないですよ、お礼を言っているんだから」って思っていたんですが、監督から「それは中井さん、俺を見てないね」っていうことですよねって(笑)。「いやそんなんじゃないです!本当に僕は…」って言っているんだけど、「いや分かります、中井さんを見ていなくてすみません」と。こうやって捉えられていくんだなって思って、うかつなことは言えないなと身に沁みました(笑)
◆これまで多くの映画やドラマにご出演されている中井さんですが、特にコメディを演じるにあたり気を付けていることはありますか?
僕はいつも思っているのは、コメディ、喜劇の中には悲劇が存在していて、悲劇の中にはコメディ、喜劇が存在しているということ。本作は特に分かりやすい構図になっていると思います。その中で演じるときに気をつけているのは、相手とのせりふの掛け合いの間尺みたいなものは、1秒の違いも許しちゃいけないということです。そこをテストのときに追求して、でも当然本番になれば相手の間も変わるわけだから、それを瞬時にどの呼吸の間合いで言っていくかっていうのをクリアに構築していく。掛け合いになったときに相手の呼吸を感じながらせりふの1秒ずつのせめぎ合いをしていくのはコメディの難しさだと思います。コメディに限ったことではないんですが、今でも映画のクランクインの初日、テレビでもそうですけど、僕は前夜、眠れないんですよ。第1声を発するまで、その第1声でドラマではあれば1クール、映画ではあれば2時間の声のトーンがそのひと言で決まると思うと眠れない自分がいて、俺ってこの仕事向いていないんだなって今でも思っています(笑)。
◆劇場公開され、今回Blu-ray&DVD化もされて、作品に関してひと段落したかと思うのですが、今冷静に本作を振り返ってみて、中井さんにとってどんな作品になりましたか?
僕、自分の作品を冷静に見られるようになるのは、だいたい10年後ぐらいになるんです。今だと45歳ぐらいのときの作品がようやく冷静に見られるようになったかな。それぐらいの周期にならないと冷静には見られないので、「グッドモーニングショー」を冷静に見られるのもまだ先になると思います。
◆特典映像には「紙兎ロペ」との共演も収録されていますね。
僕「紙兎ロペ」が大好きなんでよ!『めざましテレビ』で放送する以前から。東宝の映画館で上映していたときも「紙兎ロペ」が見たくて映画館に行っていたっていうくらいに、「紙ロペ」が好きなんです。だから今回やらせてもらって、あ、俳優やっていてよかったなと思いましたよ。出演したのは一番の思い出です!…そんなことはないけど(笑)。
◆DVD化を迎えあらためて楽しみ方をお願いします。
DVDサイズで見ると、ワイドショーのシーンがテレビサイズになるわけですから、よりリアリティーが出るんじゃないかなと思っています。映画館とは別の楽しみ方ができると思いますのでぜひご覧ください。
■PROFILE
中井貴一
●なかい・きいち…1961年9月18日生まれ。東京都出身。血液型A型。1981年、映画「連合艦隊」で俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、CMなど出演作多数。主な出演作に、大河ドラマ『武田信玄』、ドラマ『ふぞろいの林檎たち』『最後から二番目の恋』、映画「四十七人の刺客」「壬生義士伝」「寝ずの番」など。出演映画「花戦さ」が6月3日(土)より公開。
■作品情報
監督・脚本:君塚良一
出演:中井貴一、長澤まさみ、志田未来
池内博之、林遣都、梶原善、木南晴夏、大東駿介、
濱田岳、吉田羊、松重豊、時任三郎
Blu-ray&DVD
4月26日(水)発売
■Blu-ray 豪華版
価格:5500円+税
<映像特典>
本編ディスク…特報、本予告、特別映像、TVスポット集
特典ディスク…ザ・メイキング・オブ・グッドモーニングショー~まもなく本番です~、深夜のグッドモーニングショー(1~5話)、紙兎ロペ×映画「グッドモーニングショー」コラボ企画「グッドモーニングショー」、宣伝キャンペーン集(完成披露試写会、モントリオール世界映画祭、初日舞台挨拶、大阪舞台挨拶)
■DVD 通常版
価格:3800円+税
<映像特典>
本編ディスク…特報、本予告、特別映像、TVスポット集
公式HP:http://good-morning-show.com/
発売元:フジテレビジョン
販売元:東宝
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●photo/金井堯子