“悲劇”をテーマに松尾スズキが作・演出を手掛けるプロデュース公演、日本総合悲劇協会 vol.6『業音』が8月10日(木)より上演される。
『業音』は、2002年に「日本総合悲劇協会」の3作目として初演。荻野目慶子を主演に迎え、人間の業や執念、情念を描き、現代の日本人の生々しい感情をさらけ出した人物造形が大きな話題となった。
今回、松尾作品の新たな方向性を作った問題作として再演を望む声の多かった本作が、15年の時を経て再演決定。初演時、荻野目の体当たりの演技が話題となった主人公役に、この再演では、初演時は「粥」役として出演した平岩紙が挑む。
本作では、パリ公演も実施。2013年、松尾にとって初の海外公演となった「マシーン日記」(作・演出/松尾スズキ、東京芸術劇場プロデュース)パリ公演は、言語を超えた理解で高い評価を得た。 以来、パリの観客、劇場関係者から「松尾作品を再びパリで」と上演を望む声が多く、松尾の作品作りの基本である“大人計画”の劇団公演として、大人計画旗揚げ30周年を目前に初の海外公演に臨む。そして、フランスにおいては「アヴィニョン演劇祭」と双璧をなす舞台芸術祭「フェスティバル・ドートンヌ」への参加も決定した。
初演で介護、宗教問題、エイズと、現代社会が抱える問題を描き、悲劇性と喜劇性を融合させた松尾は、今回の再演について「“わかっちゃいるけどやめられない”という人間の持つ“業”を、悲劇性と喜劇性が一緒くたになったような混沌の世界の中で描きます。“神とは何か”という壮大なテーマになっていきますが、笑いの中でそれをどう見せていくかということにチャレンジしてきます」と語っている。また、再演では固有名詞をはずし、より普遍性を高めた物語へ改訂していくという。
<平岩紙コメント>
◇再演で主人公役を演じることについて
前から松尾さんから『業音』の再演をするというお話は聞いていました。初演の時、荻野目慶子さんが演じていた役を演じることを現実的に考えられる年齢に、自分がやっとなったかなと思います。役者として重ねてきた年月を経て、ようやく向き合える役だと思います。
◇『業音』は平岩さんにとってどんな作品ですか?
松尾さんの作品の中でも、とっても特殊で、特別な作品だと思います。1つだけ浮いている感じします。荻野目さんの存在がとても大きい舞台で、荻野目さんの空気の中で演じていた感じがします。不思議なふわふわした作品というか、特別ですね。
◇初演時の『業音』の思い出を教えてください。
初演時、私の演じた粥のせりふのなかで「いっぱいいっぱいで生きてるし」と言うシーンがありました。当時からこのせりふは自分に響いて、不思議なことに、未だに忘れられません。
また、この作品でギターを弾くシーンがありまして、ギターを弾くのは初めてだったので、ものすごく緊張しました。
宮藤さんが先生になってくれて、稽古以外の時間に宮藤さんがわざわざ来てくださって、教えていただいたんです。当時、宮藤さんもよく時間があったなと思います(笑)
でも、ゲネプロぎりぎりまで弾けなかったんです…。初日の日に、えい!やんなきゃいけない、びくびくして失敗するよりも、思いっきり弾いて失敗するほうがいい!と覚悟を決めて弾きましたね。
◇大人計画初の海外公演について
パリの方々からどういう反応が返ってくるのか楽しみですね。
15年経っても、介護の問題をはじめとした今でも変わらない社会問題が描かれていて、それがどう伝わるのか。
また、繊細な松尾さんの台詞が、どういう風に訳され、海外の方々に伝わるのかが楽しみです。
◇意気込みとPRメッセージをお願します。
いつも私たちをテレビでしか見ていない新しいお客様にも、毎回大人計画の作品をご覧頂いる昔からのお客様にも、みんなに観て頂きたいです!
昔、松尾さんが書かれた作品と、今の松尾さんが書かれた作品はまた違いますし、『業音』は重いというイメージがありますが、松尾さんの中にある原点をのぞき見してもらいたいな、と。松尾さんにとっても、この作品は特別な作品だと思います。
また、久しぶりに劇団員の先輩方とやれるので、大人計画という劇団がどういったところで、どんな作品を上演するのか、ということを知っていただき、いろんな視野のお客様に観て頂きたいです。
日本総合悲劇協会 vol.6「業音」
作・演出:松尾スズキ
出演:松尾スズキ、平岩紙、池津祥子、伊勢志摩、宍戸美和公、宮崎吐夢、皆川猿時、村杉蝉之介、康本雅子+エリザベス・マリー (ダブルキャスト)
東京公演
8月10日(木)~9月3日(日)東京芸術劇場 シアターイースト
名古屋公演
9月13日(水)~14日(木)青年文化センター アートピアホール
福岡公演
9月16日(土)~18日(月・祝)西鉄ホール
大阪公演
9月21日(木)~24日(日)松下 IMP ホール
松本公演
9月29日(金)~30日(土)まつもと市民芸術館 実験劇場
パリ公演
10月5日日(木)~7日(土)パリ日本文化会館
オフィシャルHP:http://otonakeikaku.jp/2017go_on/
<ストーリー>
限りなく深い人間の“業”が奏でる物語…。
母の介護をネタに、演歌歌手として再起を目指す落ちぶれた元アイドルの女は、借金を返すために、マネージャーと共に自身が運転する車で目的地に向かっていた。
途中、自殺願望を持つ夫と、夫をこの世につなぎ止める聡明な妻と遭遇し、不注意から妻を車ではねてしまう。 妻は脳を損傷し、一生涯植物人間として生きる事に。
怒り狂った夫は責任を迫って、女を拉致連行し、“有罪婚”と称し、二人は結婚。奇妙な共同生活が始まる。
芸能界を夢見て東京に出てきたものの、結局体を売る事でしか生きていくことの出来ない堕落した姉弟、年を偽わってまでも孤児院に入る事に執着する屈折したゲイの男、正体不明の老婆らを不幸のループに巻き込み、負の連鎖は更に奇怪にうねってゆく…。
やがて、マネージャーとも関係を持つ女は、父親がわからない子を身ごもり出産するのだが、夫との時間に執着し、子供の命を引き換えにしてまでも、「10ヶ月の夫婦生活の元を取るため」と、夫とのわずかな触れ合いを選択するのだった。
“それ”をやらなければ物事は上手く運ぶのに、どうしてもやらずには先に進めない各自の“固執”。 その“固執”が“業”を生み、空回りするそれぞれのエネルギーは、不協和音のような音楽を響かせてゆく…。
撮影:田中亜紀