映画監督・廣木隆一が出身地・福島で生きる人々の人生を映し出した同名小説を原作に、自らが監督を務めた映画「彼女の人生は間違いじゃない」が7月15日(土)より公開。週末になると福島県の仮設住宅から東京の渋谷まで高速バスで向かい、デリヘルのアルバイトをする主人公の女性の複雑な心境を中心に、登場人物それぞれが行き止まりの思いを抱えながらも前に進んでいく様が描かれている。主人公・みゆきを演じた瀧内公美さんに、本作への思いを聞いた。
◆東日本大震災から6年が過ぎました。しかし福島の現実はそのままの状態で、そこで暮らす人々のさまざまな思いが描かれていました。
いろんな人がいろんなところで交差していく。思いが交差していって、それがまた別のいろんなところにつながっていく。登場する人たちのどこかに必ず感情移入できると思います。世の中生きていると矛盾していることが多くて、自分にいら立ったり、人にいら立ったりするときもあると思うんですけど、それでも自分と向き合い続けて生きていく姿を見れば、きっと救われる人もいるし、あらためて考える人もいると思うし、いろんな考えが持てる作品だなと思います。
◆被災地ではない方たちが見ても当てはまる部分がありますよね。
デリヘルっていう仕事は、みゆきのように福島の震災に遭って自分の気持ちの整理がつかないまま自分がやっていることが正しいのかどうかを確認したり、生きている感覚を取り戻すためにやることもあるかもしれませんけど、そうじゃなくて普通に暮らしてきた女の子がする場合もある。でもそれにも決断する理由があると思うんです。だから誰もが人に引け目を感じていることがあっても、でもそれでも自分の人生で決断してやることは間違いではない。もし間違っていることだったとしても、点で見たらそうかもしれないけど、線で見たらそうじゃないよって思う部分があると思います。
◆演じられたみゆきはどういうキャラクターだと思いましたか?
すごく平凡に、平穏にみんなに守られて生きてきた人なのかなって思いました。だから自分が想像もしていなかったような大きい出来事が起きて衝動的にデリヘルをやることになったのかなって。それを私は想像しにくいですけど、みゆきは今の日本で普通に生きている人間だなと思いました。優しい環境の中に育った彼女は、市役所で働いていて、正直震災が起こるまでは安泰ですよね。でも震災が起こった後は、すべてが一変してお母さんは津波で流されてしまって、お父さんと一緒に仮設住宅で暮らすことになって。市役所では震災の処理とか行方不明者の安否確認とかしていくわけですよね、その現状が市役所は特にいろいろと耳に入ってきやすい場所だと思うんですよ。その中で自分の中でも整理がつけられない。いら立ちがある。これまでと同じ仕事をしている場所だけど、現実の場所として自分の気持ちとのギャップが激しくて、すごく生きにくいんだろうなって思いました。
◆みゆきの同僚で柄本時生さん演じる市役所勤務の新田がスナックでインタビューを受けるシーンが特に印象的で、日常的に行われていることが実は最も被災者の方を傷つけていることになっていると思うと身につまされる思いになりました。
廣木監督ならではの優しいけど、厳しい目線のメッセージだと私は思いました。廣木監督は東京で映画を撮っていますが、福島が地元ですよね。ご自分でも映画にするのは苦しい部分もあると思うんです。インタビューする彼女は自分の仕事をしていて、福島の今を福島以外の人たちにも伝えよう伝えようっていう思いがある。その思いが逆に傷つけてしまうこともあるという。
◆自らの原作の映画化でさらに福島出身の廣木監督の思いもかなりあったと思います。監督の演出はいかがでしたか?
監督は厳しくないんですよね。ただふっと言葉にしたことが突き刺さるというか、“普通にやればいいんじゃないのかな”とか(笑)、普通がすごくレベル高い…自分の中でも分かっているつもりだけど、結局は分かっていないんですよね。それが徐々に身に染みてくるんです。私は監督の優しさや愛情だと感じていました。私自身が自分に対して納得いかなかったことが多かったので。撮影前に福島の人間ではないし、自分が福島という題材をやることへの重みは感じていましたが、実はその中で生きていく人間を演じることはもっと重いと思ったんですよね。それに対して愚直にやっていかなければいけなかったと思いました。
◆監督はオーディションで、瀧内さんに対して、迷いがある雰囲気がよかったとおっしゃっていましたが、実際にはオーディションの時はどうだったんですか?
自分の人生に迷っている時にオーディションを受けました。誰もがみんな迷いながら生きていると思っていて、例えばこういうインタビューもそうですけど、どう伝えていけばいいのか難しいじゃないですか。伝え方によっては傷つく人もいるかもしれないし。ハッピーな作品でみんな最高―っていう感じだったら、そんな悩むってことはないかもしれないですけど、考えされられる作品となるとそうはいかなくて。それと一緒で私も私の人生でちょうど悩んだり考えたりしていた時期で、さらにみゆきのことを考え、自分より深い人間の役をどう作っていくか、どう表現していくのかどうやって空気を出すのかに悩みました。その空気を出すこと、そこが苦しかったですね。
◆空気という意味では、バスに乗って東京に向かうシーンでのみゆきはとても印象的でした。
イメージさせることを監督はしてくださるんです。そのシーンでは私が好きな曲を聴いていいよとか。みゆきを自分の中に取り入れやすくさせてくださるんです。こうやって1人の人生を作っていくなんだということも学ばせてもらいました。
◆それではみゆきを中心にした本作のPRをお願いします。
この作品は廣木監督もおっしゃっていて、なるほどと思ったんですけど、今実際に起こっている出来事なんです。だからそれをスクリーンで目の当たりにしても、知っているよってぐらいにしか思わない人がいるかもしれない。一方で、実感や共感してくれる人もいると思うんですけど。この映画は今の時代の映画だなと思っています。2011年に東日本大震災が起こって、今こういうふうに生きている人がいるってことを、例えばこの先5年後に見て衝撃を受ける人もいるかもしれない、知らなかった人たちが見たときにちょっとでも光を探そうと思って、行動に移してもらえる、そんな人たちが頑張れる応援メッセージでもあると思うので、時がたてばたつほど、考えたりできる作品になっていると思います。みゆき自身でいうと女性は外に出て戦って生きていくんだなと感じました。やっぱり女性は強いなと思ったし、逆に弱いなと感じる部分もあって極端。そんな中で自分が生きていく場所を探していく。普段からそういうことを感じていなくてもそういうことが起こったときにふとこの作品を見てもらうと、あなたも大丈夫だよって言ってもらえるような気がします。すべてが敵じゃないから。救われる部分があると思います。
◆瀧内さんが「光」を見いだすのはどんな時ですか?
光を見いだす時は、やっぱり迷って考えて悩んでいる時なので、現場に入っている時かもしれないですね。それが自分にとっての光かもしれない。何かが見つかる瞬間とは違って、次へのプラスになっていくことが私はこの作品ですごく多かったので、私にとっての光は現場なんだなと思えました。いろんな人にもまれて怒られて、叱られて、考えて…それが自分の光だし。廣木監督に出会うまではそういうことは絶対に思わなかったんですけど。私は私だし、絶対に負けないと思っていたんですけど、諦めそうになった私を監督に拾ってもらって、自分が生きていく上でこれが光だなって思う瞬間でしたね。
■PROFILE
瀧内公美
●たきうち・くみ…1989年10月21日生まれ。富山県出身。AB型。「グレイトフルデッド」では映画初主演を務め、最近の主な映画出演作は、「日本で一番悪い奴ら」「夜、逃げる」「ブルーハーツが聴こえる 人にやさしく」など。
■映画情報
「彼女の人生は間違いじゃない」
7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか 全国順次公開
監督・原作:廣木隆一
脚本:加藤正人
出演:瀧内公美、光石研、高良健吾、柄本時生、篠原篤、蓮佛美沙子 ほか
<ストーリー>
毎週末、みゆき(瀧内公美)は高速バスで東京へ向かい渋谷でデリヘルのアルバイトをしていた。そして仕事を終えると父親の修(光石研)と暮らす福島の仮設住宅に戻り、月曜日からは市役所勤めの日常に戻る。田んぼは汚染され、農業はできず、生きる目的を見失った父は、保証金をパチンコにつぎ込む毎日を送っている。みゆきの同僚の勇人(柄本時生)は、東京から来た女子大生に、被災地の今を卒論のテーマにするからと、あの日からのことを“取材”されるが、家族がバラバラになった勇人は、言葉に詰まってほとんど答えられない。それぞれがさまざまな思いを胸に暮らしていた。
©2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会
●photo/金井堯子 hair&make/中島愛貴(raftel)styling/馬場圭介 衣装協力/FRED PERRY