ドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽たち』のトークイベントが行われ、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が登壇した。
『すばらしき映画音楽たち』は『ロッキー』や『E.T.』『スター・ウォーズ』『タイタニック』など世界中の人々の心に残る名作映画たちを支えてきた映画音楽がどのようにして生まれたかをひもとくドキュメンタリー。
本作の感想について宇野は「監督が純粋に映画音楽を好きな方なんだなと伝わってきて、オーソドックスな作りですけど楽しめました。劇中にも登場する『ダークナイト』などの作曲を手掛けているハンス・ジマーはデジタル以降の映画音楽家の代表格だと思うのですが、彼が劇中で『オーケストラを維持することは映画音楽にとって生命線』と言っていて。それを映画音楽にオーケストラを起用してきた人たちではなく、ハンス・ジマーが 言うことにすごく説得力を感じましたね」と語った。
さらに、「オーケストラが入れるレコーディングスタジオは今あまり無くなってきているんです。それに対し、映画音楽においてオーケストラをなくしてはいけないという監督の思いがすごく伝わってきた作品でした」と本作を振り返った。
本作ではハンス・ジマーとジョン・ウィリアムズという映画音楽の歴史を変えた人物が登場する。それに関して宇野は「ハンス・ジマーは現代の映画音楽の代表だと思うんですけど、ジョン・ウィリアムズが劇中で“神”と言われているのも分かります。今の映画音楽は必ずと言っていいほどデジタルの音楽が入っているのに、『スター・ウォーズ』に関しては生のオーケストラだけを起用していますし、シリーズものなのにレベルが全く下がらないので彼は特別な作曲家なんだなと思いましたね」とあらためて ジョン・ウィリアムズのすごさを説明。
また、作曲家たちが劇中でプレッシャーに押しつぶされそうになる本音を語っていたことについては「今のハリウッドの大きな作品の音楽は5、6人の作曲家に仕事が集中している。代表的な人物を挙げると、ハンス・ジマー や『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』などを手掛けたジャンキーXL、どうして出てこなかったのかと思ったけれど『スパイダーマン ホームカミング』を手掛けたマイケル・ジアッチーノ。なぜ彼らに仕事が行くかというと、彼らは何百億という制作費のプレッシャーにも負けず、納期を必ず守るという“特殊技能”を持っているからなんですよね。これは才能だけではできないと思います」と語る。しかし劇中で『アルマゲドン』の作曲を手掛けたトレヴァー・ラビンが、納期を守るためにカレンダーが用意されていたと語るシーンについて「あれはひどかったですよね!!」と同情し、観客からも笑いが起こった。
今後の映画音楽について聞かれると、「今は映画がネットで配信されていて、簡単にどこでも映画が見れる時代になりましたよね。それでも映画館へお客さんを呼び寄せるために、3DやIMAXなどが出来てきたと思うんですよ。でも、実はみんな無意識に気づいているかと思うんですけど、あの音量・音圧を感じることが、映画館で映画を観ることの一番の理由なんじゃないかと思うんですよね。そして聴きたいと思わせる、それに相応する音楽を作るのがハンス・ジマーやジャンキーXLらだと思います」と映画・音楽ジャーナリストならではの考えを述べた。
最後に来年のアカデミー賞作曲賞に輝く作曲家を予想してもらうと、「『ブレードランナー2049』の作曲を手掛けたヨハン・ヨハンソンに注目していたら、なんと『ダンケルク』のハンス・ジマーがこれまでのさらに上のレベルに達した“異次元ハンス・ジマー”になっていました!お楽しみに(笑)」と映画ファンにはとても気になるメッセージを残した。
『すばらしき映画音楽たち』
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