濱田岳さん主演で、吉本浩二さんの同名実録漫画を実写化。「思いを寄せる女性に告白するために強い男になりたい!」。そんな思いを胸にバイクで日本一周を目指す旅に出た吉本さんを演じた濱田さん。壮大なスケールのロードトリップドラマへの挑戦と、来年迎える30代について語る。
◆吉本さんのこの原作を実写化すると聞いたとき、どう思われましたか?
吉本先生の作品って、例えば悪魔の実を食べたら腕が伸びて敵を倒すとか、毒グモに噛まれて糸が出るようになるとか、そういうのとは違うじゃないですか(笑)。日常のあるあるとか、人には話せない恥ずかしい部分を投影したキャラクターとか、そういう部分で読み手が自分と照らし合わせてくすっとしたり、ジーンとしたりできるのが魅力で。特にこの「日本をゆっくり走ってみたよ~」は吉本先生自身の実録ですし、なおさらほかの、いわゆる“漫画原作の実写化”とは一線を画す作品になるだろうなと思いました。
◆5月から約3か月かけ、東京からぐるっと周って日本最北端の北海道宗谷岬まで、マイクロバスで約2万740キロを移動しながら撮影するという壮大なスケールに、躊躇はなかったですか?
地上波だったらなかなか実現しないでしょうし、この先俳優を続けていても二度と巡り合えないかもしれないお話でしたから、喜んでみんなと旅します! という気持ちでした。吉本先生の原作と、それを無謀にも実写化しようという行動力のある方々。いろんな歯車がかみ合った奇跡的な組み合わせに僕も呼んでいただけて、すごくうれしかったです。
◆吉本役に対してはどんな印象を持たれましたか?
尊敬します。吉本先生って実際にお会いしてもものすごく腰の低い、見るからに優しい人なんですよ。僕、それまでバイカーってハーレー(ダビッドソン)乗りのイメージがあったんですけど、そういう無骨さとは正反対。そんな吉本先生が好きな女の子に告白するために強い男になりたいと、単身バイクで日本一周の旅に出たわけですから。僕からしたら、その時点でもう十分強い。ただ、どう強くなるかは全く想定しないまま旅しているんですよね(笑)。
◆その行動は、同年代の男性として共感できましたか?
やみくもで、無鉄砲に行動を起こしちゃうところはすごく分かります。男なら誰しものあるあるなんじゃないですかね。そのリアリティーを消したくなくて、演じ手としてはちょっと誇張したいところも今回はあえてせず、前田(司郎)さんの脚本にいっぱい盛り込まれていた「えっとぉ、まぁ、何て言うかぁ」みたいな口語体を常に意識して、なるべくせりふ口調にならないようにしていました。大阪で昔付き合っていた彼女と再会するシーンなんかも、全然ドラマチックじゃなくて、妙な無言があったりするんですよね。でも、現実ってこうだよねと(笑)。そういう共感できる部分を大事にしたかったんです。
◆この作品で描かれているのはまぎれもなく吉本さんなのですが、濱田さんへのあて書きなんじゃないかというくらいぴったりハマっていて。
あははは(笑)。ありがとうございます。
◆吉本役にはすんなり入り込めましたか?
どの役柄でも、僕がやる作業ってあまり変わらないんですよ。今回の吉本にしても、『釣りバカ』のハマちゃんにしても、『ゴールデンスランバー』の殺人犯役にしても、みんなキャラクターは全く違いますけど、どこか僕っちゃ僕の部分があって。吉本の見切り発車で旅に出ようとするあの発想力は僕も少なからず持っているから、ぐーっと引き伸ばす。だから、演じる上での苦労っていつもそんなにないんですよね。特に今回は実際に旅していますし、来る日も来る日もバイクで走っていればおのずと吉本の気持ちにもなれましたから。
初めてのバイクと、旅を通して強く結ばれたスタッフとの絆
◆吉本を演じる大前提としてバイクの免許が必要だったわけですが、濱田さんはお持ちではなかったそうですね。それまでの人生の中でバイクとの関わりはありませんでした?
全くなかったんですよね。バイクの免許は一生取ることはないと思っていました。18歳の時に車の免許は取ったんですよ。で、バイクは車からこんなに見えないんだということに衝撃を受けて、そんな危ないものには乗らない! って心に決めて(笑)。でも、今回のこのお話に惹かれて教習所へ通いました。免許を取ったら撮影に行けるんだっていうわくわくもあって、楽しかったです。大人になって試験を受けることってなかなかないから緊張もしましたけど、無事に免許が取れたときはすごくうれしくて、肩切って鮫洲を歩きました(笑)。
◆免許取得後、一般道での走行はわずか1日のみで撮影に入られたそうですが、不安はなかったですか?
ありましたよ。最初のころはしょっちゅうエンストしてましたし(笑)。でも、吉本の旅も原作ではほこりをかぶったバイクを引っ張り出してくるところから始まっているので、たどたどしいのも味になるかなと。最近は映画でもドラマでも、僕たち演者は運転できないんですよ。何かあってからじゃ遅いという理由で。もちろんそれはそうなんですけど、今作に関しては吉本、つまり僕がバイクで旅しているのが醍醐味で、それを映さなきゃ意味がない。スタッフのみんなもそこをちゃんと分かっていて、万全の状態を用意してくれたので、終始楽しいという思いしかなかったです。自然環境に左右される乗り物だから雨や小さな虫でも当たれば痛いし、風を受け続けていれば寒くもなるし、そういう大変なことはありましたけど。でも、旅が進むに連れてスタッフの中のバイク好きな人たちも「乗り方が慣れたね」とか「最初のころと比べると別人だよ」とかってほめてくれるようになりました。
◆旅を共にした「YAMAHA SEROW 250cc」には、愛着も湧いたのではないですか?
そうですね。今日、(撮影で)久々に会ったんですけど、うれしいです。初めて乗ったバイクがこのSEROWでよかったなと。旅の道中、結構SEROWとすれ違ったんですよ。聞いたらやっぱり旅向きのバイクとして有名だそうで。ほかのバイクに乗ってないのになんですけど、その意味が分かりました。乗りやすさ抜群なんですよ。
◆日本各地を巡る中で、現地の人たちとの印象的な出会いもありましたか?
ゴールの宗谷岬って、バイカーたちの聖地でもあるんです。だから、吉本と同じようにそこを目指してバイクでやって来る方々がいて。その中に、スーパーカブに乗った20代か30代前半くらいの若い女性がいて、彼女が涙を流していたんです。道中が大変だったのか、宗谷岬までたどり着けてうれしかったのか、それとも吉本みたく何か目的があって一念発起していたのか、理由は分かりませんけど、その光景がすごく印象的で。僕がバイクじゃなく飛行機で宗谷岬まで行っていたらその女性に涙のワケも聞けたかもしれないですけど、同じ旅人としてそのときかけられる言葉って「お疲れ様」とか「頑張ったね」とか、それくらいしかないんですよね。
◆濱田さんご自身は宗谷岬でゴールを迎えたとき、どんなお気持ちでしたか?
まずは率直に終わった! と。達成感ってこういうことなんだろうなと思いました。と同時に、スタッフのみんなと字のごとく苦楽を共にしてきたので、もうこれで会えなくなるんだなと思ったらとてつもない寂しさが押し寄せてきて。冷静に考えればみんなの連絡先も知っているし、会おうと思えば会えるんだけど、でもこんなにもピュアにお別れするのが寂しいと思えたのは、子供のとき以来かもしれないです。
◆それくらい濃密な時間を一緒に過ごされていたんですね。
チーム感というかファミリー感というか、その絆が尋常なくらい強いものになっていました。この先僕が「あ、死ぬ!」ってなったとき、走馬灯の中に絶対にみんなとの旅の思い出がどこかに入ってくると思うんです(笑)。そうそう、撮影の後半になって(吉本の意中の女性役の)本仮屋ユイカさんが僕らに合流してきたとき「何か海賊みた~い」って言われたんですよ(笑)。どういうことですかって聞いたら、みんな役割やキャラはまちまちなんだけど、同じ船に乗っているような猛者感がすごい出ていると(笑)。後から加わるからなじめるだろうかと不安もあったらしいんですけど、でもこの人たちなら大丈夫だって思えたって言ってくださって。その猛者感って僕たち本人には分からないですけど、旅してきてよかったなと思いましたね。そしてやっぱり本仮屋ユイカはかわいいなって、スタッフのおじさんたちみんな喜んでましたよ(笑)。
デビュードラマで故・蟹江敬三さんからもらった金言
◆10歳で『ひとりぼっちの君に』(1998年)で役者デビューして20年。長かったですか? それともあっという間でしたか?
20年って数字で聞くとすごい続いたなって気はしますけど。でも、徒然なるままに今を迎えているので、特別そんなに感慨深い思いもなくて…でもまぁ、あっという間かな。初めてやったその『ひとりぼっちの君に』っていうドラマのことは今でも昨日のことのように鮮明に覚えているので。スタッフさんの顔、名前、どんなふうにしゃべっていたかまで。
◆共演していたダウンタウンの浜田雅功さんや永作博美さんのことも?
もちろんです。永作さんはそのドラマ以降、共演することがなかったんですけど、3年前に『軍師官兵衛』(2014年)をやったときにNHKの廊下で偶然お見かけして思わず声をかけに行ったら、僕のこと覚えていてくださったんですよ。ものすごくうれしかったなぁ。あと、『ひとりぼっちの君に』のOAが始まって、昨日まで一般の小学生だった僕がたくさん声をかけられるようになったとき、共演させていただいていた蟹江敬三さんに「ちょっとおいで」って呼ばれたことがあるんです。「ドラマ出てどう?」って聞かれて「いっぱいお姉さんとかが話しかけてくれるー」なんて答えたら、蟹江さんが「それはおまえが一生懸命頑張ったからだよ」ってほめてくれたんですけど、その後に「ただ、おまえのことを100人好きな人がいるとしたら、その倍以上はおまえのことが嫌いだと思いなさい」とおっしゃって。当時の僕が鼻につく感じだったのか、危なっかしく見えたのか。もちろんそんなつもりはなかったんですけど。
◆蟹江さんからのその言葉を、10歳の濱田少年はどう受け止めたんですか?
よく意味は分からなかったですよね。最初にほめておいて意地悪言うのはなぜなんだろう、くらいにしか思っていなくて。でも、20年この仕事を続けているとその言葉が毎日沁みてくるんですよ。だから、例えば「CMとかやって人気者だね」とか言われたとしても全然調子に乗れず、鼻が伸びない自分がいる。それは蟹江さんが当時、僕の鼻を折ってくれているからだと思うんです。
◆まだまだ役者業への面白さは尽きないですか?
このお仕事って大好きな人とでも、けんかして仲悪くなった人とでも、長くてせいぜい3か月くらいでお別れなんですよ。一般的な職場と比べるとレアなケースですよね。そうやってメンバーが変われば、役柄も変わる。同じ役柄って、続編は別として、二度とないですから毎回新鮮です。それと、芝居がいいか悪いか決めるのは、現場では監督ですけど、最終的にはお客さん。だから、どんなに自分の中で100点の演技…「全米が泣いた」クラスの演技ができたとしても(笑)、お客さんが大根役者だと思えば僕は大根役者なんです。だから、満足感が得づらい。そういう意味でも全く飽きないですね。悪く言えば責任感があまりないってことにもなるのかもしれないけど(笑)、だからこそ続けてこられたのかなとも思います。僕の代わりなんていくらでもいるし、もっと素晴らしい俳優さんだってたくさんいる。でも、例えば今回なら僕が吉本を演じたことで、一緒に回った身内もそうだけど、お客さんにも「やっぱり吉本は濱田岳じゃないとできないよね」って思っていただけたら幸せです。
◆濱田さんは来年30歳。今回演じた吉本と同じ30代という道のりをどう旅していきたいですか?
10歳からこの仕事をやっていると、ありがたいことに大御所と言われる方々ともたくさん共演させていただけて。皆さんに共通することって、僕みたいな若輩者が言うことではないですけど、男性でも女性でも、皆さんすごくすてきなんですよ。だからこそずっと第一線で活躍し続けていられるんだろうし、この先もこの仕事を続けていくには、もちろん技術的なことも必要になってくるでしょうけど、それ以上にそのすてきさが必要なんじゃないかなと思うようになりました。吉本ばりに漠然とだけど(笑)、30代はすてきな人になりたいです。
■PROFILE
●はまだ・がく…1988年6月28日生まれ。東京都出身。A型。デビュー後、ドラマ『軍師官兵衛』『HERO』『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~』、映画「ゴールデンスランバー」「永遠の0」「ヒメアノ~ル」など数多くの作品に出演。NHK連続テレビ小説『わろてんか』に武井風太役で出演中。
■作品情報
Amazonオリジナル『日本をゆっくり走ってみたよ~あの娘のために日本一周~』
Amazonプライム・ビデオにて見放題独占配信中
出演:濱田岳、本仮屋ユイカ、山崎紘菜 ほか
原作:吉本浩二「日本をゆっくり走ってみたよ~あの娘のために日本一周~」(「漫画アクション」双葉社 刊)
脚本:前田司郎
監督:湯浅典子、藤井道人、北川瞳
©Copyright 2017 Televider Entertainment Inc.
●photo/金井尭子 text/甲斐 武 hair&make/池田美里(MILLISOL) styling/勝見宜人(Koa Hoke inc.)撮影協力/YAMAHA SEROW 250cc