東京03、三代目J Soul Brothersの山下健二郎、山本舞香。異色の3組が『ゴッドタン』などの放送作家でこれが初監督となったオークラさんとタッグを組み、絶妙な化学反応を巻き起こすシットコムドラマ『漫画みたいにいかない。』。角田晃広さん扮する全く売れない漫画家の日常を描いた、笑いと哀愁の物語だ。その漫画家のおバカなアシスタントを演じた山下さんと、小悪魔なワケあり娘を演じた山本さんが笑いのプロたちとの撮影を振り返る。
絶対笑っちゃいけないシーンで吹き出しちゃって、NGになることも(山下)
◆今回のオファーを受けたとき、どう思われましたか?
山下:僕は関西(京都)出身でお笑いとかコントとかをよく見て育ってきましたから、こういうジャンルは大好きですし、やってみたいという思いもずっとあったので、すごくうれしかったですね。もちろん難しい挑戦であることは分かっていたし、緊張もしましたけど、絶対にものにしようと。
山本:私は自分にできるんだろうかと不安で…。
山下:そうなの?
山本:コメディってそんなに得意じゃないし、そもそも経験もなくて。なんなら一番避けてきたジャンルかも。でも、東京03さんや山下さんとこういう形で一緒にお芝居できるなんてもうこの先ないかもしれないと思ったので、精一杯やってみようと思い切って飛び込むことにしました。皆さんと本読みしたとき、それぞれのお芝居のやり方があって、あぁこれは面白い作品になるだろうなと感じたのを覚えています。
◆役柄も今までにない挑戦的なものだったと思いますが、演じる上で意識したポイントはありますか?
山下:最初は役作りに関してすごく悩みましたけど、演じていく中で出来上がっていった感じはありますね。
山本:中盤からはオークラさんのあて書きでしたよね。あと、空き時間に東京03さんや私たちが話しているのをオークラさんが聞いていて、それがストーリーに盛り込まれたりもして。だから、私もどう役作りすればいいかと思っていたんですけど、それは最初だけで、結構素でいられました。
山下:そうだね。僕もめっちゃ素が出ていたと思います(笑)。あとはやっぱり、東京03さんにすごく助けていただきました。こっちが間違えてもそれを笑いに変えて、全然ミスじゃない雰囲気にしてくれて。
山本:ただ、アドリブをいっぱい入れてくるのだけは本当にやめてほしい!(笑)
山下:分かる、分かる。それはすごい分かるよ(笑)。
山本:私のセリフの直前にアドリブを入れられると、きっかけを失って、どのタイミングで入ればいいか分からなくなっちゃうんですよ(笑)。でもそういう面ではすごく鍛えられました。
◆そのアドリブ力からも、東京03さんのすごさを感じられたのではないですか?
山本:そうですね。終始笑ってましたよね。
山下:笑いをこらえるのが大変なんですよ。絶対笑っちゃいけないシーンでも思わず吹き出しちゃって、それでNGになることもありました。僕が何を言っても全部面白く返してくれるから、だんだん気持ちよくなってきちゃって(笑)。
山本:セリフの間も絶妙でしたよね。
山下:そもそもの演技という面で、3人はやっぱりずっとコントをやられているだけあって、びっくりするくらいお上手なんですよ。台本を手離すのも早いし、呼吸も出来上がっているから、何とかそこにしがみつこうという思いでした。僕は今回の撮影を通して、3人のことは完全に役者さんだと思いましたね。
◆オークラ監督の演出はいかがでしたか? 長回しにはかなり苦労されたとお聞きしましたが…。
山下:オークラさんはこれが初監督作で、どういう形でやられるのか楽しみにしていたんですけど…確かにあの長回しはつらかったよね(笑)。
山本:本当につらかったです(笑)。
山下:10分以上撮り続けることもあって、どこかでトチっちゃうと頭からやり直しになるわけじゃないですか。その緊張感はすごかったですけど、撮りきったときはとてつもない達成感を得られるんですよ。1か月というタイトなスケジュールの中で、本当に濃い時間を過ごしたなと思いますね。2話分を1日で一気に撮ったときもあったよね?
山本:ありましたね。やっと1話撮り終わったのに、まだもう1話ある…と思って(笑)。
山下:でも、オークラさんの撮り方とかセリフの書き方ってやっぱり独特で、僕にとっては何から何まで新鮮でした。この作品にはオークラさんの世界観というものがしっかり出ているんじゃないかなと思います。
こんなに笑えた現場も、終わるのが寂しいと思った現場もないです(山本)
◆ここまでのお話を聞いていても、東京03さんやオークラ監督という笑いを本職とする方々との作品作りがほかとは全然違ったことが伝わってきますが、どんなところが一番勉強になりましたか?
山下:普通のドラマや映画じゃ体験できないことばかりで、掛け合いとか間の取り方とかもすごく勉強になりました。あと、印象的だったのが、面白いなと思ったところはどんどん膨らませるんですよ。同じことをもう一度言ったり、そのくだりをしつこいくらいにやり続けて、それが笑いにつながるという。
◆いわゆる“天丼”ですね。
山下:そうです。そうやって天丼で膨らんだところで次が自分のセリフだと、すごく緊張するんですよね(笑)。
山本:さっき話していた長回しも私には今まで経験がなくて、すごく勉強になりました。
あれがめちゃくちゃ刺激的すぎて(笑)。
山下:あははは(笑)。
山本:長回しって、気持ちがぐーっと上がっていく独特の感覚があるじゃないですか。そういうのってほかの作品だとなかなか味わえないですよ。
山下:確かに普通のドラマならだいたい細かくカットがかかるから、その都度台本を確認することもできる。だけど、この作品は最初に一から十まで全部頭に入れておかないとできないから、リハーサルやって、それとは別に練習時間も設けてもらって、みんなで何回も通しでやって。
山本:私、撮影当時はまだ19歳だったんですけど、皆さんが子供としてじゃなく大人の役者として接してくださったのがすごくうれしくて。あと、今までこんなに笑えた現場はないし、こんなに終わるのが寂しいと思った現場もないです。それくらい、皆さんのことが大好きになりました。
◆山本さんが最初に抱いていたコメディへの苦手意識は、今作を通して克服できましたか?
山本:うーん…この作品だったからできましたけど、ほかの作品だったらどうかなぁと思います。このメンバーだからうまくいったんじゃないかなと。
山下:もしこの作品のキャストが全員根っからの俳優さん、女優さんだったらきっと成り立ってないよね(笑)。
山本:そうですね(笑)。
山本:だって、撮影中にアドリブが盛り上がると、オークラさんが「それいいね」って言い出して、「じゃあこっからは好きにやっちゃっていいよ。さっきみたいな感じて盛り上がって、最後にオチつけてくれればいいから」ってさらっと。いやいや、こっちで勝手に盛り上がって最後にオチつけるとか、それ相当レベル高いですけど、っていう(笑)。
山本:そんなときでも東京03さんは即座に対応できるから、すごいですよね。
山下:ちゃんと形にするよね。プロだなと思いました。そんなことなかなかできないですよ。
山本:ほかの作品だったら私、「セリフを覚えるのでつけてください」って言っちゃってます(笑)。
◆来春には同じメンバーで舞台化されますが、それに向けての意気込みもお聞かせください。
山下:撮影を通してこの作品がすごく好きになりましたし、それを同じメンバーで舞台化できるということで、すごくうれしいです。稽古はこれからなんですけど、今から待ち遠しくて。個人的に舞台が久しぶりということもあり、楽しみで仕方ないです。チームワークはもうばっちりですし、絶対面白い作品になるという確信があるので、ぜひ遊びに来ていただけたらと思います。
山本:私は今回が初舞台になるんです。この作品が一番最初の舞台にしたいという思いがあったので、その夢が叶って、しかも同じメンバーでまた一緒にお芝居できるというのがすごくうれしくて。来春までにもっといろいろ経験を積んで、成長できたらと思っています。絶対めちゃくちゃ面白い舞台になるので、楽しみにしていてほしいです。
山下さんと山本さんの“漫画みたいにいかない”経験とは…
◆山本さんは撮影後の10月13日に、20歳になられたんですよね。
山下:おめでとう!
山本:ホントに思ってます?
山下:思ってるよ(笑)。
山本:じゃあ、ありがとうございます(笑)。でもなんか、20歳という年齢に対する期待が膨らみすぎちゃってか、逆に冷めちゃっているんですよね。
山下:あははは(笑)。
山本:楽しみとしては、打ち上げの席でお酒が飲めるようになることですかね。
山下:絶対楽しいと思うよ。
山本:でも逆に、今まで「未成年なので先に帰ります」って言えていたのが言えなくなるっていう…。
山下:帰りたいの?
山本:そういう時もたまにはあるじゃないですか(笑)。
山下:正直だな(笑)。
山本:この作品ではまだ打ち上げしてないから、やりたいですね。そのときは皆さんと一緒にお酒も飲みたいです。
山下:ぜひぜひ。打ち上げやりましょう!
◆山下さんはどんな20歳でしたか?
山下:ダンスの専門学校に通っていて、週7で踊ってましたね。毎日、踊ってバイトして踊ってバイトして…の繰り返し。21歳のときにユニバーサル・スタジオ・ジャパンのダンサーになったんですけど、それまではずっとそんな生活で。
◆大人の先輩として、山本さんに何かアドバイスはありますか?
山下:いやいや、僕から見たらもう立派な20歳ですから。
山本:うそだ!(笑)。
山下:うそじゃないよ(笑)。でもまぁ、お酒で失敗しないようにだけはしてほしいかな。
◆それはご自身の経験からの教訓ですか?(笑)。
山下:そうです。何回もあるので(笑)。特に舞香ちゃんは女性なんだから、気を付けてね?
山本:はい。酔って道路で寝ないように、とか?
山下:そうそう。撮られちゃうよ。
山本:気を付けます(笑)。でももし万が一撮られたら、そのときは笑ってくださいね。だから気を付けろって言ったじゃん! って(笑)。
山下:分かった(笑)。
◆お二人は傍から見れば順風満帆な人生を送っているように見えますが、この作品のタイトルのように“漫画みたいにいかない”と思う経験も今までありましたか?
山下:上京してきたとき、僕は三代目J Soul Brothersになるのが夢で、それが無理だったときは京都に帰ろうと自分の中で期限を決めていたんです。その間は苦しかったですね。東京に友達はいないし、お金もないから借金もすごくしましたし。どうしようもなくて、ヤバかったです。
◆でも、そういう経験が今の原動力にもなっているのではないですか?
山下:そうですね。まぁ、苦しいっていうレベルは人それぞれですけど、でも今となってはそういう下積み時代があってよかったのかなと思います。
山本:私は親の友達の方がフリーペーパーの編集部にいらして、遊び半分で誌面に載ったら、それを今の事務所の社長さんが見て頂けて、それで鳥取までスカウトしに来てくださって。で、初めて受けたオーディションが三井のリハウスガールでそれに合格することができて…。
山下:漫画みたいじゃん!(笑)
山本:でも正直、全然心の準備ができないままこの世界に入ってきてしまったので、私の中では漫画みたいに、とはいきませんでした。お芝居だって最初は全然やりたくなかったんです。ただお芝居を始めるといろんな人との出会いがあって、その方々のおかげでここまで――もちろんこれからもっともっと大きくなっていかなきゃいけないんですけど――とりあえず今、ここまで来ることができました。こうして東京03さんや山下さんと一緒にお芝居ができて、自分の力になって、という経験ができているのもその賜物なので、皆さんに感謝していますし、そんなふうに思えるようになった自分にびっくりしています(笑)。
◆この世界に入ってよかったですか?
山本:今、すごく楽しいです。
■PROFILE
●やました・けんじろう…1985年5月24日生まれ。京都府出身。三代目J Soul Brothersのメンバーとして人気を博す一方、ドラマ『Love or Not』『福家堂本舗-KYOTO LOVE STORY-』、映画化もされた「HiGH&LOW」など俳優業でも活躍。
●やまもと・まいか……1997年10月13日生まれ。鳥取県出身。B型。2011年に『それでも、生きてゆく』で女優デビュー。映画「未成年だけどコドモじゃない」が12月23日(土)公開予定。現在、『王様のブランチ』にレギュラー出演中。
■作品情報
『漫画みたいにいかない。』
Huluにて独占配信中
毎週(土)更新 全10話
出演:角田晃広、飯塚悟志、豊本明長 山下健二郎、山本舞香
脚本・監督:オークラ
イラスト&アニメーション:ニイルセン
“ビッグになるんだ!”と漫画家になるも、ヒット作は生まれず、うだつの上がらない毎日を過ごすオサム(角田)。そんなオサムを中心に、幼馴染の定食屋の店主・鳥飼(飯塚)、担当編集者の足立(豊長)、アシスタントの荒巻(山下)、そして一人娘のるみ(山本)との日常を描く。
●photo/関根和弘 text/甲斐 武