生瀬勝久インタビュー「“演じたい”ではなく “演じてもらいたい”と言われたい」ドラマ『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』

特集・インタビュー
2017年11月29日

生瀬勝久さんが主演のテレビ朝日系日曜ワイド『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』が、12月3日(日)午前10時より放送される。作家・藤野恵美さんの人気小説が原作で、人形作家のハルさんが愛娘の周囲で起きてきた“事件”を振り返る感動作だ。『トリック』や『貴族探偵』での個性的な刑事役から朝ドラ『べっぴんさん』での坂東家の父親役まで、演じる役柄は幅広いが、そのどれもで名演技を残してきた生瀬さん。小劇場出身で、役者生活30年以上。それだけ続いた秘けつは「ただ演じることが好き」だから。今回演じたハルさんとも重なるその純粋な思いに迫りました。


役者生活のターニングポイントとなった“事件”とは…

ドラマ『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』

◆2時間ミステリーというと殺人事件が起きるのが定番ですが、この作品ではそういったことは一切起きませんよね。父親が娘の結婚をきっかけに事件という名の思い出を回想し、それを通して親子の絆を描いているところがすごくすてきだなと思いました。

僕もそこがいいなと思いました。日曜の午前中の番組って、僕もどれを見ようか結構迷ったりするんですけど、このドラマはいろんな世代の方が楽しめて、とても幸せな気持ちになれると思います。ぜひシリーズ化してほしいですね。

◆ハルさんというキャラクターをどうとらえ、どう演じようと思いましたか?

ハルさんは会社勤めを辞めて、好きだった人形作りの仕事を始めた人。奥さんの瑠璃子さん(緒川たまき)を不慮の事故で亡くしていて、男手一つで娘のふうちゃん(風里=飯豊まりえ、子役・遠藤璃菜)を育ててきた。そういうバックボーンは演じる上でのベースになりました。あと、これはご覧いただければ分かると思いますが、物語に“ファンタジー”な部分があるので、そのさじ加減に関しては監督と相談しましたね。

◆撮影には、しっかり役作りをしてから入られるのでしょうか?

僕はそういうことはあまりしないです。共演者の方の顔を見て、声を聞いて、セリフを合わせてみて、それで感じるものを大事にしたいので。それに、舞台だと1か月くらい稽古があるのでそこでみんなであーだこーだ言って考えられますけど、映像はその場でああしよう、こうしようとなる場合が多いのでね。もちろん、それまでに最低限話し合ったり、決めておいたりすることはしますけど、自分で何かを用意することはほとんどしないです。

ドラマ『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』

◆緒川たまきさん、飯豊まりえさんとの共演はいかがでしたか?

緒川さんとは、映像では初めてでしたけど、舞台では何度もご一緒しているので、やりやすかったです。独特な世界観を持っていて、すごく面白い。彼女自身も“ファンタジー”みたいな方ですね。パンを食べて「ご飯(ライス)を食べてるみたい~」とか、よく分からない例えをするんですよ(笑)。飯豊さんとはバラエティや、あとドラマ『学校のカイダン』(2015年)でも共演しているんです。『学校のカイダン』では僕が教頭役で、彼女は反発グループの生徒役。今回は頼りない父親としっかりした娘という関係性だったので、印象は全然違いました。とってもきれいになっていましたし。お芝居ながら、結婚相手(前野朋哉)を連れてきた時には本当に心配になりましたよ。こいつでいいのか! って(笑)。

◆ふうちゃんの成長が幼少期から描かれていくので、ラストの結婚式のシーンになるころには見ている側もまさにそういうお父さん的気持ちになっていて、それで感動してしまうんですよね。生瀬さんもハルさんを演じていて、より“お父さん”という感覚になられたのでしょうか?

そうですね。ウチは子供が男の子なんですよ。まだ小学生ですけど、成人すれば親としてはやっぱり感慨深いでしょうし、それが女の子ならなおさらな気がします。かわいかったり、頼りなかったりした子供が1人の男となり、女となって旅立っていくのを送り出すのは、親にとって一番のドラマですよね。

◆生瀬さんがご自身の人生を振り返った時に思い出す一番の“事件”は何ですか?

大学時代に就職活動をして、内定ももらっていたんですけど、両親の前で考えさせてくれって言ったんです。バイトしながらでも演劇をやりたくて。小劇場でしたから、お金にはならないし、一生の仕事になんてもっとなりえない。だから、学生時代のモラトリアムとしてやっていたんですけど、それを本職ではなくとも続けていたかった。それで、アウトロー…つまり決まっていた線路を変えた。全くビジョンのない方向へ自分を持っていたんです。それが僕の人生の一番の“事件”であり、ターニングポイントだと思いますね。


ハルさんの思いに共感「お金じゃないんです。やり甲斐なんですよ」

ドラマ『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』

◆今回の飯豊さんのように若手の俳優さんたちと共演する機会も多いと思いますが、その世代から刺激を受けることもありますか?

やっぱり若い人たちには体力も知力も筋力も全部ある。それはうらやましいですよね。そんなんじゃダメだよと思う時もありますけど、余計なお世話でしょうから。僕も若い時には調子に乗っていましたし。ただ、将来どうなっていくかはそれぞれ次第だけど大変だよ、ということは言ってあげたい。そして、僕は絶対抜かされないよ、と。結局は作品に入れば同じ土俵なんですよ。僕の方が年上とかキャリアがあるとか、そういうのは関係なくて、今この場で共演してるっていう、それがすべて。だから、別に親心とかそんなんじゃなく、その瞬間、瞬間を楽しいって思えることが一番なんじゃないかなと僕は思いますけどね。

◆生瀬さんは役者生活30年以上になりますが、それだけ続けてこられた理由はどこにあるのでしょうか?

ただ単純に演じることが好きだから、ですね。こういうお仕事が僕には合ってるんだと思います。サラリーマンは僕にはちょっと無理だったかもしれない(笑)。

◆ハルさんが人形作家という仕事について「大変だけど、やり甲斐があって楽しい仕事」と言いますが、生瀬さんにとっての役者という仕事はまさにそれですか?

そうですね。だから、ハルさんの「人形を作りたい」という気持ちは、きっと僕よりもピュアなものだと思うんですけど、すごく共感できました。お金じゃないんです。やり甲斐なんですよ。僕の場合、自分の好きなことをやってその対価としてお金を頂けるなんてことは小劇場時代ではありえなかったんです。それが今、こうしてギャランティとしてお金を頂けるというのは、対価じゃなく“ご褒美”という感じですね。

◆生瀬さんが役者をやっていて一番やり甲斐を感じるのは、どんな時ですか?

やっぱり、見てくださった方にほめていただける時でしょうね。面白かったよとか、笑ったよとか、あのキャラクターよかったね、とか。自分で自分の作品を見て思い通りに出来たなとか、逆に出来なかったなとか考えることもありますけど、結局それは自分の価値観でしかない。信頼できる第三者の方にほめていただけるのが、自分にとっての達成感になっています。

◆役者として普段から心がけていることはありますか?

街中でも、今こうして取材を受けている時でも、面白い人がいたらずっと観察して、どうすればその人に見えるかを考えます。しゃべり方や特徴、印象がいい人であればなぜ印象がいいのか、失礼であればなぜ失礼なのかを見つけて、それをインプットする。だから、人と会えば会うだけ引き出しが増えていくんですよ。それはもう僕のクセですね。職業病です。そのせいで僕、電車に乗れないんですよ。この人はなぜこういう格好をしているのかとか、なぜそんなに下を向いているのかとか、気になり始めるときりがなくなってしまう。僕にとって電車は、情報が多すぎるんです。

◆これまで数々の役柄を演じられていますが、この先はどんなことに挑戦してみたいですか?

特別これを演じたいと思うことはないです。もしあったとして、誰がそれに応えてくれるのかって話ですから(笑)。それよりも僕は「これを“演じてもらいたい”」と言われたい。それが役者にとって一番うれしいことなんです。

 

■PROFILE

●なませ・かつひさ…1960年10月13日生まれ。兵庫県出身。O型。今年だけでもドラマ『べっぴんさん』『貴族探偵』、舞台「髑髏城の七人-Season風-」、公開中の映画「怪盗グルーのミニオン大脱走」「ミックス。」など多数の作品に出演。蒼井優との舞台「アンチゴーヌ」が2018年1月より新国立劇場ほかで上演される。

 

■作品情報

ドラマ『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』日曜ワイド『ハルさん~花嫁の父は名探偵!?』
テレビ朝日系
12月3日(日)前10・00~11・50

原作:藤野恵美(「ハルさん」創元推理文庫)
脚本:深沢正樹
監督:大谷健太郎
出演:生瀬勝久、飯豊まりえ、緒川たまき、近藤芳正、前野朋哉、山下容莉枝、小野了、渡辺哲ほか

©テレビ朝日
 

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