2002年7月に日本で実際に起きた「和歌山出会い系サイト強盗殺傷事件」を実写映画化した「愛の病」が公開中。本作で映画初主演を果たした瀬戸さおりと岡山天音が対談。作品作りにおける苦労や、初めて共演して感じたことなどを語り合った。
◆いよいよ公開を迎えました。率直なお気持ちは?
瀬戸さおり:とてもワクワクしています。ぎりぎりまで追い込みながら、一丸となって作り上げた作品なので、観客の皆さんがどう思ってくださるのか、反応がとても楽しみです。
岡山天音:僕もお客さんのリアクションがとても気になります。台本を読んだ時や出来上がった作品を観た時に、僕個人として感じるものはありましたけれど、でも具体的に答えを出してしまう映画にはなっていないので、観る人によって受け取るものが全然違うと思うんです。僕が思ってもみなかったような感想を持つ人もいるでしょうし。たくさんの人に観てもらえたらと思います。
◆脚本を読まれていかがでしたか?
瀬戸:実際の事件を調べていき、脚本を何度も読む中で、エミコの女性として共感できる部分や、逆に女性として嫌だなという部分が見えてきました。ショッキングな事件ではありますけれど、エミコの物語だと感じ、彼女を通して見えてくるものがあると思いました。また、人間誰しもが持っているであろう、弱さも見えました。
◆具体的にエミコのどんな部分に共感したのでしょうか。
瀬戸:エミコは本能的に行動して生きているタイプだと思います。孤独と戦いながらも、好きな人に対してはすごく愛情を注いでいるんです。でも自分自身が愛情を注がれてこなかった分、娘に対してもどう接していいのか分からない。真之助に対しての愛情は歪んだものだったので、理解するのに時間がかかりましたが、アキラ(八木将康)への愛情は本当に素直で真っすぐで、そういった部分はいとおしく、かわいいと感じました。
◆岡山さんは脚本を読まれていかがでしたか?
岡山:自分が演じると考えながら読み進めると興味が高まりました。ただ実際の事件を基にしていて、亡くなられている方もいるので、すごく繊細に向き合って演じていかなければいけないと思いました。真之助という役柄だけじゃなく、この作品全体のなかで、僕がどういう役割を担っているのか、そこをちゃんと把握しないと、踏み込んではいけないと思いました。
◆真之助は“ゆかりん”を好きになりますが、ある時から、エミコがエミコ自身として現れます。“ゆかりん”とエミコは全く違う印象の女性ですけれど、真之助の愛は変わらない。そのへんは理解できますか?
岡山:理解できます。もう真之助のなかでは、好きとかっていうくくり方ではなくなってきているというか、アイデンティティというか真之助そのものを、エミコにつかまれちゃっている。でもそういうのって、日常的な恋愛の地続きにある感覚だと思うんです。僕自身はまだそういう地点に行ったことはありませんけど、でも全く想像できないことではありませんでした。だから、ざっくり分けたら、僕自身も真之助と同じジャンルに属しているんじゃないかなと思います。
◆どういったシーンを覚えていますか?
瀬戸:特に印象深いのは、レストラン場面の後に続く歩道橋のシーンです。
岡山:撮影の順番としては、レストランの撮影の前に撮ったんですよね。あそこは吉田監督の現場にいるなというのをすごく感じました。
◆吉田監督の現場というのは?
岡山:いろんな現場がありますけれど、台本の動きやキャラクターがしゃべっているセリフで成立する作品ではないというか。
◆気持ちということでしょうか。
岡山:そういったものが映らないと先に進んでいかないものになっている。だから1つひとつのシーンを素通りできないんです。歩道橋のシーンは撮影2日目あたりで、監督と話しながら回して止めて、また話して回して止めてというのを繰り返して。1つひとつの芝居を大事にしながらやっている感じがとてもしました。
瀬戸:順撮りではないので、気持ちを持っていくのには苦戦しました。監督がエミコの状況や真之助との関係性を、その都度細かくお話ししてくださって、それで撮っていったのですが、本気でぶつかり合わないといけないシーンばかりで、監督もまだいける!まだ足りない!という感じだったので、そこは大変でした。でもその域まで持っていくというのに、自分だけではなくて、相手から受け取るものがすごく大きいんだなというのを、とても感じた現場でした。
◆大変な役での共演でしたが、お互いの印象は?
岡山:役とのギャップがすごくて。瀬戸さん、普段は腰が低いんです。だから正直、どんな人なのか分からないというか(苦笑)。あと、瀬戸さんは本読みのときから本番に近いエネルギーでいたので、ビックリしました。リハのときの僕はまだ真之助との距離感があって、セリフを返すだけでいっぱいいっぱいの状態だったので、瀬戸さんに押されてましたね。衣装合わせのときは腰が低い人だったのに(苦笑)。だからどういう方なのかよく分からないです(笑)。それに現場ではそんなに話してないですし。
瀬戸:そうですね。あえて、距離をとっていたかもしれないです。
岡山:とりあえず目の前のことを全うしていかないと、という感じだったので。
◆瀬戸さんからの岡山さんへの印象は?
瀬戸:とても目が真っすぐな方だと思いました。真之助としてもエミコを真っすぐな目で見てくださいましたが、衣装合わせのときにお会いした時からそうだったので、最初から真之助っぽいなと感じていました。
◆最後にあらためて、出来上がった作品をご覧になって感じたことを教えてください。
瀬戸:エミコは孤独と戦っていたり、世の中と戦っていたり。逃げてもいるんですけど、最後の最後で孤独とどう向き合っていくのか見ていただきたいです。そこは観てくださった方に委ねている部分ですが、私自身、完成した作品を観て、それぞれの人間の弱さがすごく出ていると思いましたし、エミコは、やっぱり人間なんだなというのを感じました。愛を求めたり、認めて欲しいというのは、誰もが思うこと。母親だけど女性として見られたいとか、そういう彼女の気持ちが見えると思います。私としては、特に女性に観ていただきたい作品だと思っています。
岡山:ベースになった事件はありますが、でもオリジナルの作品になっていると思います。こうした作品が作られたということがうれしいし、そこに関われて幸せです。世の中とか社会にとって、映画ってこういうものであってほしいと思える作品になったと思います。関わることができて本当にうれしいです。
■作品情報
映画「愛の病」
シネマート新宿ほか公開中
<物語>
生活費を稼ぐため出会い系サイトのサクラとして働き始めたエミコ(瀬戸さおり)は、工員の真之助(岡山天音)に目をつけ、金を貢がせることを思いつく。エミコに入れ込んでいた真之助を騙すのは容易く、「私はヤクザの組長の娘。組長に結婚を認めてもらうには組への登録料が必要」などと騙し、大金を毟りとる日々を過ごしていた。ある日、エミコは、解体作業員のアキラ(八木将康)と出会い一目惚れ。デートを重ね、交際を迫るが、アキラには重度障害の姉・香澄(山田真歩)がいることを知る。香澄の存在に煩わしさを感じ、いっそ殺してしまいたいと思ったエミコが連絡した先は、真之助であった…。
出演:瀬戸さおり 岡山天音/八木将康 山田真歩/佐々木心音 黒石高大/藤田朋子
監督:吉田浩太
脚本:石川均
音楽:神尾憲一
制作:ステアウェイ
配給:AMG エンタテインメント
公式サイト:http://ainoyamai-movie.com/
©2017「愛の病」製作委員会