番組が始まって17年目。5月4日で放送800回を迎える『情熱大陸』。
“一番最初の視聴者”として番組を見つめてきたナレーター・窪田等が抱く『情熱大陸』への思いとは――。
後ろを振り返ってみると、一瞬恐ろしい感じがします
――放送が始まって17年目に入りましたが、感想はいかがですか?
17年って、長いですよね。
でも、毎週毎週やっている仕事の中で、ルーティンの仕事としてやっているから、そんなに長く感じることはないですね。
でも、後ろを振り返ってみると、これだけの方をご紹介したのか!と、一瞬恐ろしい感じがします。
こういう人たちの人生を見てきたのか、と。
ただ、仕事でやっていますので、全部覚えていないんです。意外と(笑)。
大体収録時間が2~3時間ぐらいなのですが、そこに集中しますので、終わると忘れちゃったりすることもあるんですよね。
よく「誰が一番印象に残っていますか?」と聞かれるのですが、意外と“あれ、誰だったんだろう”と、名前すら忘れちゃうこともあるんですよね。
でも、これだけの方々をご紹介してきたっていうのは、すごいなと思います。
800人って、とんでもないことだな、とまず感じますね。それが素直な印象ですね
――ちなみに、このような取材は今までありましたか?
初めてです(笑)。僕はナレーターなものですから、外に出るわけじゃないですよね。
いつも暗く狭いところで、映像を見ながらせこせこやっているような仕事ですから、人の前でしゃべることはほとんどないので、ものすごく緊張します。恥ずかしいです(笑)。
お手柔らかに!
――窪田さんにとって『情熱大陸』とはどんな番組ですか
僕やはり、制作している人間だから余計に思うのかもしれないけれど、いい番組、まず第一に思います。
結構しつこいんですよね。作るときに。
“本当だろうか、こうだろうか”と。真面目に作っている、そういう番組だと思います。
真摯な姿勢で作っている番組だし、みんな意外と投げないし、しつこいし。
ですから、この番組の一番骨子にあるんじゃないかと思います。
もちろんディレクターが対象の方に寄り添っていけるか、突っ込んでいけるか、というところもあると思うのですが、僕の印象としては、そういった全てのものを仕上げる段階で妥協しない、という点では皆さんしつこいです。僕もそうですが(笑)。
僕が一番最初の視聴者
――ナレーションを入れるにあたって気をつけていることは
まず、自分が主役にならないように。
あくまでもナレーターは影の存在ですよね。
ナレーションによっては、自分を主張したくなるようなコメントもあるけど、あくまでも出演なさっている方が主人公なので、その人をどうやって視聴者に伝えるか、という思いなので、まず失礼のないように気をつけています。
あとは、僕が一番最初の視聴者だから、作り手側の目線にいったり、あるいは視聴者の目線に行ったり、行ったり来たりして、その幅を行き過ぎず、離れすぎず、意外と大事だなと思ったりします。
作っている側はよくご存知なんです。
でもテレビで見る方は初めてなので、ナレーターは初めての目線でいないといけない。
抽象的な話ですけど。
――影の存在のナレーション、とおっしゃっていましたが、つい気持ちが入ってしまったことはありますか
結構ありますよ。アイルトン・セナが死んだときのセナ特番をやったとき。
そのときは初めてしゃべれなくなりました。
セピア色の鈴鹿のコーナーの絵があって、セナのレクイエムの曲があって。
「秋の鈴鹿。セナのいない鈴鹿」と言ったあと、しゃべれなくなりました。入り過ぎて。
なので5分間休みをもらって、それから音量を小さくして、入り過ぎないようにしました。
『情熱大陸』でも、台本を見ながらぐしゅっとすることもあります。
最近ではね、肺移植医・大藤(剛宏)先生のときでした。
テストをしたときに、ぐじゅっとしました。結構ありますよ。
ただ、ぐじゅぐじゅになってもいいと思うんですよね。
その思いで少し引いてやる。少し入ってみたほうが、より視聴者の方に伝わると思っています。
あー、楽天の時も胸に来ちゃったなぁ。(笑)
本番のときはクールにならなきゃいけないけれど、テストの時はぐじゅっとなります。
――“『情熱大陸』だから”特別気をつけていることはありますか
そういうふうに皆さん思いますよね。
でも私たちは作品の映像・文章・音楽、そういったものでふっと変わっていくんです。
『情熱大陸』に関しては、台本と絵に合わせていくので、この番組だからこうしよう、というのはないですね。
ただ以前「何だか『情熱大陸』らしくなくなってきたな」というコメントがあったのですが、僕は言いたくなくて。だって、“『情熱大陸』ってこうじゃなきゃだめ”ってことはないじゃない。
結構僕、文句を言ってしまうのですが「これだけは言いたくない!」というのを分かってくれて。
なので、“こうしなきゃ、ああしなきゃ”というのは一切なく、流れに任せて、という感じです。
あとは絶対譲れないものがあって。“間”ですよね。
伝えるためには“間”が必要なんです。
ドキュメンタリーなど、人に伝えるものはテンポだけでなく、“間”というものを大事にしてほしいな、とスタッフに伝えたいです。
新しいことを試すのもいいけれど、大事にしなきゃいけないものは大事にしなきゃいけない、と思います。
あの時は“してやったり”と思いました
――では、手ごたえを感じた回はありますか
こちらのプロデューサーがとんでもないことをやりましたからね。生放送(笑)。
初めてですよ、生放送。ドキュメンタリーで生放送ですよ。
でも、あの時は“してやったり”でした。
というのは、インタビューのあとにナレーションが最後の締めであったのですが、インタビューがどのくらいで終わるか分からないけれど、一応予測はするんですよ。
ただ、“もしインタビューがこのくらいの時間で終わったら、僕はこのせりふを切っちゃおう”と、ディレクターに内緒で考えていたんです。
終わらせなきゃいけないから。
でも、生放送だから絵に圧力があるんですよ。
余韻を残すために2秒と考えていましたが、これじゃ失礼だよな、と思ったんです。
せめて4秒ほしい。いろいろと考えていました。
が、すばらしいことに、予定より1秒か2秒余ったんです。
僕らにしてみれば、1秒2秒ってすごんですよ。
なので、せりふを言い終わったあとは、気持ちよかったです(笑)。
――窪田さんから見て、長く番組を続ける秘訣はなんだと思われますか
一切分かりません(笑)。
私たち弱い立場なので、いつもおびえています。
いつ首を切られるんだろうか、というのは常にあります。
例えばプロデューサーが変われば、僕が変わる可能性もあるわけだし。
なので、番組自体が長く続いてきたのは、なんだろう…。
あんまりそういうことは考えられないですね(笑)。
でも、長く続けられればいいな、とは思いながらやっています。
――窪田さんの回の『情熱大陸』が見たいです。
絶対嫌です!!(笑)。
あの、ものすごく皆さんには感謝しています。
普通家に入れたり、四六時中ついてこられたりしたら嫌ですよね。
皆さん良い人ですよね。僕は絶対嫌だなぁ~(笑)。
ただ、もし自分の回があれば、自分でナレーションをやります。
でも、絶対嫌です(笑)。
――視聴者としての楽しみ方は?
真剣に見てください(笑)。
音楽との絡み合いとか、結構あるんですよ。効果音とかね。
見ている方には伝わらないかもしれないけれど、細かいところもこだわっているので。
結構遊びまわっているから“あ、やってるな”と感じてもらえるとうれしいですね。
今回の800回は、僕は最近まで知りませんでした。企画自体を(笑)。
インタビュー構成ですか!面白いね。
というのは、インタビューをする人も構えているだろうし。
今までのとちょっと違いますね。
どんなインタビューを撮ってくるんだろう、と楽しみです。
PROFILE
窪田等
くぼた・ひとし…1951年3月27日生まれ。山梨県出身。
テレビ番組、CMなどあらゆるジャンルでナレーションを手掛ける。
『情熱大陸』では、放送開始以来ナレーションを担当している。
番組情報
『情熱大陸』
TBS系
5月4日(日)後11・00~11・30
5月11日(日)後11・10~11・40
記念すべき放送800回。800回の“8”にちなみ、第一線で活躍する人材を多く輩出していると言われる“1988年生まれ”世代に注目したインタビュー・ドキュメンタリーを2週連続で放送。
東出昌大、前田健太、黒木メイサ、加藤ミリヤ、五嶋龍、吉田麻也、大島優子、松坂桃李が登場。
“いま”を代表する若者たちのロングインタビューを入念に読み解き、彼らの世代としての強さの秘密に迫る。
『情熱大陸』公式サイト(http://www.mbs.jp/jounetsu/)