2013年の「このマンガがすごい!」オトコ編で1位を獲得した近代SF漫画「TERRAFORMARS(テラフォーマーズ)」。今秋テレビアニメが放送されることも決まっている人気絶頂な「TERRAFORMARS(テラフォーマーズ)」の原作者である貴家悠(さすが・ゆう)先生にインタビュー!「TERRAFORMARS(テラフォーマーズ)」制作の裏側に迫ります。
漫画が2巻以降続いたのはミラクル
――アニメ化が決まったときのお気持ちはどうでしたか?
貴家: アニメ化はうれしいです。漫画を始めるときはこんなに続くと思っていなかったんですよ。最初は一巻の6話目で終わる予定だったんです。“いずれラグビー漫画で大ブレイクする貴家先生の初期の迷作”的な位置づけになったらいいなって思って書き始めたんです。5話目の火星の謎を明らかにするシナリオを書いている途中で、担当の人に「やっぱ続くから」って言われて(笑)。途中まで火星の謎を解説してくれた知的キャラ(チョウ・ミンミン)の首を飛ばして(笑)、火星の謎を残し、2巻以降続くようになったんです。2巻以降を出したのは皆さんと言ってもいいくらいのミラクルです。なのでアニメ化は想定外でした。まずアニメにできるのかっていう。リアルテラフォーマー(本物のゴキブリ)も作中出てきたりもするので嫌だろうなぁって。血も出ますし。出来たアニメを見ていても地球ゴキブリの影がザザッと動くとこがあるんですけど、動きがリアルすぎて、そんなリアルに作らなくてもって思いました(笑)。制作の人が気合を入れてくれたみたいでありがたいです。
――ラグビー漫画でブレイクするというのは?
貴家: もともとラグビー漫画を書いていて、担当の人に見せたときに「うん、面白いと思います。じゃあ次は潜水艦か宇宙船か火星の話を描いてきて」って言われて(笑)。「いまラグビー漫画読んだよね?」と思いながら(笑)
火星に苔とゴキブリを送る、という理論自体はあるんです。今は古い理論になっちゃったのでやらないと思うんですけど。そういう理論が大真面目にあって、その理論を昔TVで見たのを覚えていたんです。僕が潜水艦か宇宙船か火星で知っていることといえばそれしかないと思って、火星にゴキブリを送る話というところからテラフォーマーズが始まったんです。よく「なんでゴキブリの話を書こうと思ったんですか」って聞かれるんですけど、ゴキブリありきで始まったんじゃなくて、ラグビー漫画を読んだ担当さんが「火星の話を書いて」って言ったのが始まりです(笑)。
担当編集者: ラグビー漫画とかもいいけど、彼の書くせりふがすごくキレていたので、もっと大きい舞台でやってもドラマチックにできるんじゃないかなって思ったんです。ド新人の頃からせりふのキレは本当にとても良かったので。大きなことを語っても耐えうるようなせりふを書いていたので、スケールのデカイ話を書けるんじゃないかなって思って。誰でもいいから振ったわけじゃないですよ。
――「テラフォーマーズ」は虫の能力や解説がすごく細かいですが、もともと虫が好きだったんですか?
貴家: 特に虫に詳しいとかではなかったですね。昆虫の話を書くって決めて、図書館の子供昆虫コーナーとか大人昆虫コーナーに通って本を読むと面白いなぁって。なので調べ物はしっかりしていますよ。で、作中で妙に詳しく説明が書いてあるのは、「魁!!男塾」っていう漫画があるんですけど、その漫画、超詳しい説明の後に“民明書房刊「~~」より”って書いてあるんですよ。その演出が超かっこよくて。その演出を実際にある本でやったら俺、超頭良く見えるんじゃないかって思ったんです(笑)。
ジョジョ、ダイ、たけし…そしてARMS、バキに受けた影響
――影響を受けた漫画はありますか
貴家: やっぱり少年ジャンプですね。「ジョジョの奇妙な冒険」と「ダイの大冒険」と「世紀末リーダー伝たけし!」と、あとは「ARMS」ですね。近代のSFバトル漫画はどれだけ「ARMS」に近づけるかの勝負だと僕は思っていて、「ARMS」が完成形だと思いますね。
あとはヤンキーものとかも好きです。「BOY」とか「湘南純愛組」とか「ウダウダやってるヒマはねェ!」とか、僕のお兄ちゃんの世代の漫画も読んでいました。あと「バキ」とかも。
やはり「ジョジョ」とか「バキ」とか「ARMS」っていうのを知った上でテラフォーマーズを見ると「あぁ…」って思います。完全に影響を受けているのを全く隠さない感じがありますよね。正直に言うと格闘シーンとかは「バキ」の影響はすごく受けています。まず関節技をグッと決めたときに「ガキッ」って音がするのが「バキ」ですからね。僕の中でも「ガキッ」って音はしているんですけど、いくらなんでもそれを書いたら完全に「バキ」だなぁって(笑)。でもちょっと迷った末にやっぱり「ガキッ」って書きました(笑)。
――漫画はどれくらい好きだったんですか?
貴家: 漫画はもちろん大好きですよ。ジャンプ、ヤンジャン、チャンピオンは買っていました。
アニメはあまり観ないんですよ。僕が幼稚園か小学生くらいのときに「ドラゴンボール」が終わって、そのあとのアニメブームが来るのってちょっと時間がかかったんです。で、僕が高学年くらいのときに「おジャ魔女どれみ」とか始まるのに入っていけずに、今に至るって感じです。ゲームもそうですね。僕が小学校低学年くらいのときにスーパーファミコンが終わって、初期のプレステ、64が同時に出たくらいに、どっち買おうか迷っている間に付いていけなくなって、中学生になっちゃったみたいな感じですね。だからアニメ、ゲームは全然知らないですよ。そんな中でそばにあったのは漫画で、漫画はずっと読んでました。
――ほかに影響を受けたものはありますか?
貴家: 大学生が読むくらいの、専門家の人が一般向けに書いているような新書や本を読むのが好きでした。説明を読んで「へぇー」って思うと、頭の中にすごくかっこいいナレーションでそれを説明している絵が浮かんでくるんですよ。そういう本の影響は受けていますね。ガチの専門書を2~3割しか分からずに読むのとかも好きです。
担当編集者: 確かに普通の専門書で「こういうのを表面張力といいます」みたいな文章を読むと、彼の脳内の中で中二病っぽく変換されて「表面張力。それは!」みたいにかっこよくなったりしますね。それは彼の得意技です。実際は図書館の小学生がいるような子供コーナーで、しかも平日だから入り浸って調べたりしていると怪しい人っぽく見えるんだよね(笑)。
貴家: そうなんですよ。小学校6年生くらいの女の子たちがキャッキャウフフしながら夏休みの宿題をやっている横で、昆虫図鑑をめっちゃ読んでいるひげヅラの男っていう(笑)。図書館で警備員の人に「何かお探しですか」って言われましたからね(笑)。
絵は下手なのに最後まで読ませる才能
――漫画家はいつから目指していたんですか?
貴家: 小学生のときに、いとこが家に「世紀末リーダー伝たけし!」の2巻を忘れていきまして、それから漫画っていうものを強く意識するようになりましたね。そのときからずっと漫画家になりたいって思っていて、思っていたはいいものの、漫画家になるためには何をしたらいいかも分からず、絵の練習もせず、ラグビーばかりやっていたら絵がうまくならず、原作者になってしまいました(笑)
――原作者になるきっかけは?
貴家: 大学に入ってからようやく暇になったのでラグビー漫画を描いて、某少年誌に持ち込みをしてやんわりと全ボツになりました。それからヤングジャンプを読んでいたらアシスタントを募集していたので、まずは修業ということで電話をしたんです。実力を見るために担当さんと面接になって、今まで趣味で描いた漫画を全部持っていって読んでもらったら、「絵は下手だね」って言われたんですけど「ここまで下手なのに最後まで読ませるのは逆にすごい」って話になって。とりあえず形だけ橘先生(「テラフォーマーズ」作画担当)のアシスタントを3日くらいして、そこから原作者としてネームだけ書いて来てって言われたんです。
担当編集者: 話は面白いんだけど絵が厳しいなと思って、とりあえず橘先生のアシスタントとして入れたんです。橘先生はすごく温厚で穏やかな人で、どんなに下手な人を入れてもだいたい雇うんですけど、3日目で「さすがにこれは…」って言われて(笑)。でもお話はうまいしな、ってネームを切ってテラフォーマーズの1話が、ほぼ何も言わない状態でできてきて、僕はすごく面白いって思ったんですよ。橘先生に見せたら「絵が下手すぎて分からない」って言われたですけど、「騙されたと思って一回このネームを清書して」って言ったんです。で、清書した橘先生から電話がかかってきて「超面白い!これ俺描きたい」って言ってくれたんです。そんな感じで彼は、最初はアシスタントとして入ったんですけど、原作者として橘先生のパートナーになったんですね。二人とも偶然、同じ大学出身で性格的にも合っていて、歳は少し離れているんですけど仲良くなって、これだったらいけるなってデビューしたんです。
――最後に、「テラフォーマーズ」は人気の理由はどこだと思いますか?
貴家: 僕の感覚が若いのかなって思いますね。抽象的で申し訳ないんですけど、溜め込んでいる怒りみたいな部分や、こういうものを見ると熱くなるっていう感覚ですね。
演出もあえてリアルにやっていない部分があるんです。首相が宇宙開発の問題に関わって会談とかしているわけないけど、そこは置いておいて、日本の首相がやっているぞ!ってことにしたほうが話に入りやすいじゃないですか。現実は漫画の世界に入らせるための繋ぎ役として使う程度で、こうだと面白いだろっていうのを優先して見せるようにしていますね。本格派が好きな人たちには物足りない部分があると思うんですけど、漫画だからこうしたほうが面白いだろっていうのをダイレクトに見せることを意識しています。そういうところが若年層を含め多くの人に受け入れてもらえているのかなと思います。
PROFILE
貴家悠
●さすが ゆう…2011年にミラクルジャンプで連載を開始した「テラフォーマーズ」で原作者デビュー。漫画原作者として活躍中。
作品情報
「テラフォーマーズ」 1~9巻 発売中
作:貴家悠 画:橘賢一
定価:各555円(税込)
テラフォーマーズ特設サイト(http://youngjump.jp/terraformars/)
アニメ『TERRAFORMARS(テラフォーマーズ)』
アニメーション制作 :LIDENFILMS
テレビアニメ公式ページ(terraformars.tv)
テレビアニメ公式Twitter@_terraformars
TV アニメ「アネックス1号編」放送情報
TOKYO MX…9月26日24時30分~ 放送開始予定
CSテレ朝チャンネル1…10月2日(木)24時~放送開始
ほか、朝日放送、中部日本放送、BS11でも放送予定!
OVA「バグズ2 号編」商品概要
<テラフォーマーズ 10巻 OVA 同梱版(バグズ2号前編)>
発売日:2014年8月20日(水)
予価:1,980 円(税込)
商品内容:
YJC「テラフォーマーズ10巻」
DVD「00-01 THE ENCOUNTER 既知との遭遇」
本編約25 分/カラー/16:9LB/Dolby Digital/片面1層(予定)
<テラフォーマーズ 11巻 OVA 同梱版(バグズ2号後編)>
発売日:2014年11月予定
予価:1,980 円(税込)
商品内容:
YJC「テラフォーマーズ 11巻」
DVD「00-02 UNDEFEATED 敗れざる者たち」
WEB ラジオ情報
「RADIO TERRAFORMARS ~バグズ2 号航海記録~」が、響 -HiBiKi Radio Station-、インターネットラジオステーション<音泉>にて毎週土曜日配信中。パーソナリティは、膝丸燈役の細谷佳正。
(C)貴家悠・橘賢一/集英社・Project TERRAFORMARS
●構成/寶福加寿美