ドラマ&映画フリークのコラムニスト&イラストレーター・柳澤なーはるが、注目ドラマや映画に愛あるツッコミを入れる「なーはるのすっぱレビュー」。第4回は、菅田将暉、有村架純主演の映画「花束みたいな恋をした」。
「花束みたいな恋をした」~イラスト・菅田将暉~
ロングランヒット恋愛映画『花束みたいな恋をした』を観た。映画館の中はおそらく春休み中の大学生のカップルだらけ。
映画でよく「予告詐欺」というやつがあるけど、この映画もある意味、予告詐欺だ。この映画の予告は「ちょっとビターで甘酸っぱい恋愛映画」にしか見えなかった。よしキュンキュンしようーっと思って観た結果、気まずくなったカップルが続出したんじゃないかしら。特に男性のほう。なぜなら、この映画のカップル(菅田将暉×有村架純)のお別れの原因がほぼ100%男性側にあるから。たぶん観客の男性のみなさんは思い当たるフシがありすぎて、(やべえ…)といたたまれなくなったはずなのだ(笑)。
いや、最初はいいのよ。前半の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)は誰が見ても微笑ましい。
終電を逃して偶然出会って、好きな小説や音楽が全部同じで、ドリンクバー3往復するくらい話し込んで、3回めのデートで告白して、押しボタン式の信号のところでキスして…。もう観客は全員、こんな出会いをしてみたい〜ってキュンキュンしたよね。
麦くんは優しい男の子で、すねて帰った絹ちゃんを追いかけてきてくれたり、雨に濡れた髪の毛をドライヤーで乾かしてくれたり、電話越しに泣いているのを察してすっ飛んできて抱きしめてくれた。そんな彼が就活に苦労する彼女を思いやって「じゃあ一緒に暮らそうよ」と言ってくれたら、そりゃオッケーしちゃうし、まあ観客の大半は応援したよね。
実際、一緒に暮らし始めた二人はいい感じで。近所のパン屋で焼きそばパンを買って散歩したり、漫画を一緒に読んで泣いたり、神社で仔猫を拾ったり…。慎ましやかで仲良しで、多摩川の見える部屋も素敵で。あんな暮らししてみたいな〜ってうっとりした方々も多かったはず、一部を除いて。
え? さっきから一部の観客がキュンキュンから脱落していってないかって?
そのとおり。
だって、この映画の主な客層である平成生まれの方々に混じって観てる一部の観客=私を含む昭和生まれ世代はみんな知ってるんだもん。「同棲すると別れる確率が高い」って。知らない? 『神田川』という同棲カップルが別れる歌。あっちは神田川でこっちは多摩川。どっちも川のそば。縁起悪すぎ。
でも、そんなこと知らない二人は一緒に暮らしちゃって、案の定、おかしくなっていった。彼の就職をきっかけに。
しかし、麦くんの変貌ぶりは私の予想を超えていたよ。
「僕の人生の目標は絹ちゃんとの現状維持です」なんて可愛く言ってたのに、営業部に配属されて帰宅が遅くなり、絹ちゃんに薦められた本は積んだまま、二人で分けあって音楽を聞いたイヤホンは今は耳栓代わり。「(二人のお気に入りの)パン屋が閉店しちゃった」と彼女がラインしたら、「駅前のパン屋で買えばいいじゃん」と返信してがっかりさせ、彼女が転職したら、「せっかく資格とったのに何で放り出せるの?」「そんな会社、遊びじゃん」「うまく行かなかったらどうするの?」。
あちゃー、これがあの優しかった麦くんなのか?
絹ちゃんは何も変わってない。仕事と好きなことを両立させてる。
なぜ彼だけがこうも変わったのか?
いや、そうじゃない。麦くん、君の中に元々そういう性質があったんだね。真面目で頑張り屋でわき目もふらずに突き進む性質が。君の脳みそはめっちゃ「シングルタスク」だったんだね。男性にありがちな。まさに、それこそが二人のお別れの原因なわけで。もし夫婦なら別れの原因を作ったほうを「有責配偶者」と呼ぶが、この場合は、麦くん、君が「有責彼氏」だよ(笑)。
そして、それはこの二人だけの問題じゃない。彼氏が何かに没頭して彼女とのやりとりがおざなりになって険悪になる、なんてことはどこのカップルにも起きることなのだ。みんなの問題なのだ。
と、いうわけで。
観客の男性のみなさんの大半は自分に思い当たるフシがあるはずだから(やべえ…)と焦りまくり、一緒に来た彼女は(麦くんはあんたにそっくり!)とツッコミまくったことでしょう(笑)。
また、彼氏彼女いない人は(もし付き合うときは気をつけよう)と心に誓い、お別れして今フリーの人は過去を振り返って涙しながら(今度付き合うときは気をつけよう)と反省し、付き合いたての初々しいカップルは(私たちもあんなふうになっちゃうの? いやだ、気をつけよう)と肝に銘じ、とっくに恋愛卒業した昭和組は(男の脳みそは治らないわ)と達観し、元カレまたは元カノがいるカップルはこの映画のせいで自分の相手が(元カレまたは元カノのことを思い出してるんじゃ?)と不機嫌になったことでしょう(笑)。
ってなわけで。
こんなふうに、この映画はあらゆる人に『引っかかる』ように出来ている。けど、その引っかかり方はそれぞれの立場でまったく違うのよね。よくある恋愛映画なら、恋の行く手を阻む「障害」は二人の「外」にあって、それを乗り越えようとする二人に観客は心をひとつにするけど。実は「障害」は「内」にあって、「破局の原因は男性に内蔵されてる」となると、観客の感想はてんでバラバラ、ああだこうだ、何だかんだ。こんな恋愛映画、今まであったっけ?
そして、私がこの映画を観た日は、そんな観客のみなさんが、上映後にいっせいに感想をしゃべり出した(コロナ禍なのに!)。その中で一番目立ってたのは「俺、ハッピーエンド以外は受け付けないんだよ〜!」と大きな声で言ってたあなた。109シネマズ二子玉川にいたあなたですよ、ははは! 人はやましさをごまかすとき多弁になったり大声で話すっていうから、よっぽど思い当たるフシがあったんでしょうね(笑)。
映画「花束みたいな恋をした」
全国公開中
文・イラスト/柳澤なーはる