辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜)、浜中文一、早川聖来(乃木坂46)らが出演する舞台「スマホを落としただけなのに」が6月9日、日本青年館ホールで開幕した。
志駕晃が手掛けた同名の人気ミステリー小説を原作として、昨年初めて舞台化されたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、公演が途中で中止に。再演を心待ちにしている観客の声に応え、およそ1年3か月の時を経て今回、初演キャストそのままに“アンコール”上演されることになった。
舞台は警察の取調室。若く美しい黒髪の女性5人を残忍な方法で殺害し、その遺体を山中に埋めるという猟奇的事件の容疑者・浦野善治(浜中文一)の取り調べが行われている。ベテラン刑事の後藤武史(原田龍二)の厳しい追及にも、浦野は飄々とした態度で、自らを刑務所番号にかけて「ハチバン」と名乗るなど、本名すら明かそうとしない。
そんな中、警察に転職したばかりで、サイバー犯罪に強い若手刑事・加賀谷学(辰巳雄大)は、浦野が不正ハッキングに使用していたスマホの解析に成功。その被害者とみられるサラリーマンの富田誠(佐藤永典)に聴取を行う。
すると、スマホを落としたことをきっかけに、さまざまな被害に遭っていたことが発覚。そして富田の恋人・稲葉麻美(早川聖来)が浦野のターゲットになっていたことを突き止めたのだが…。
今や生活必需品と言っても過言ではないスマホ。そのスマホを運悪く落としてしまったことで、あらゆる個人情報や秘密が暴かれ、犯罪に巻き込まれていくという、現代版ホラーと言えるだろう。
ただ、本作は単なるホラーに留まらず、事件に関わる人々の背景や心理状況を描くことで、「デジタル信号化のできない情けとか絆とか愛とか、それらが如何に愛おしく尊いものかというメッセージ」(脚本・演出の横内謙介)が込められているという。
加賀谷学役を演じる辰巳は、警察に転職してきたばかりという設定などから、冒頭から少し「異質」な存在感を醸し出す。難しいサイバー用語をすらすらと口にしながら、人とのコミュニケーションはあまり得意ではないという加賀谷の人物像を非常に丁寧な芝居で表現。物語が進むにつれ、「異質」なのは彼か、それとも我々か。そんなことまで考えさせられる奥深さがあった。
浦野(ハチバン)役を演じる浜中は、その屈折した心理状況や狂気を見事に体現。「連続殺人事件の容疑者」という設定で、俳優としてはなかなか演じるストレスも大きいかと推察されるが、本当に「ハチバン」が憑依してしまったかのようなスリリングな芝居からは終始、目が離せない。
稲葉麻美役を演じる早川は、この1年でグッと大人びた。初演と比べて、稲葉麻美という役の本来の強さだけではなく、弱さにもフォーカスを当てており、より役を深めた印象も。「悲劇のヒロイン」の裏側にあるものをしっかりと伝えていた。
初日のカーテンコールで、辰巳は「こうして舞台に再び立てたのは、みなさんのおかげです」と感謝の意を述べ、観客の目の前で芝居ができた喜びを噛み締めていた。そして最後に、辰巳は「千秋楽までみんなで駆け抜けたいと思います」と決意を表明。
脚本・演出の横内謙介は初日観劇後、辰巳雄大と浜中文一に対して「素晴らしい俳優たち。ふたりとも演技の楽しみを、本質的に掴んでるから、PLAYがきっちりと劇となる。世の人々に、広く知って欲しい」と讃え、ヒロインの早川聖来には「(昨年より)また伸びた。この大きな舞台で、映える。そして情感が伝わる。こういうのを大器という」と称賛した。
上演時間は、約2時間10分(途中休憩なし)。公演は6月14日(月)まで開催され、東京都の開催制限に準じてチケット発売中だ。当日券も販売されるとのことで、詳細は公式サイトを参照。
公演情報
舞台「スマホを落としただけなのに」
2021年6月9日(水)〜6月14日(月)東京・日本青年館ホール
原作:志駕晃「スマホを落としただけなのに」(宝島社文庫)
脚本・演出:横内謙介
出演:辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜)/浜中文一/早川聖来(乃木坂46)/佐藤永典/原田龍二
伴美奈子/三浦修平/真坂雅/北村由海/高畠麻奈/野依健吾/山田良明
公式サイト:https://www.sumahootoshita-stage.jp/
公式Twitter:@sumaho_STAGE
●取材・文:五月女菜穂/撮影:GEKKO