テレビ情報誌「TV LIFE」で、今後さらなる活躍が期待されるネクストブレーク俳優&女優の魅力を紹介する連載「#今旬コレクション」。WEB版では、本誌に収まりきらなかったエピソードをスペシャル動画も交えて紹介します。第33回は舞台「エレファント・ソング」で主演を務める井之脇海さんが登場です。
「#旬コレ 7seconds CHALLENGE」井之脇海
◆本作で舞台初主演となります。戯曲を読んで直感的に「マイケルを演じるのは僕だ」と思ったそうですが、その理由を教えてください。
映画版でマイケルを演じたグザヴィエ・ドラン氏は、「マイケルは僕だ」とおっしゃったんです。それは英語圏の国民性やドランが背負っているパーソナルな問題などがリンクしての発言だと思いますが、僕はどちらかと言うと「僕“が”マイケルを演じたい」というニュアンスです。十数年役者をやってきて「この役は僕以外の人にやらせたくない」と、台本を読んで初めて感じました。というのも、マイケルというキャラクターが根幹で強く持っている「人から愛されたい」という気持ち、もっと言えば「自分という存在は何なのか?」と探求する気持ちみたいなものに共感した部分があったからです。とはいえ、“それ(愛されること)”を当たり前と思ってしまっている僕と、それが当たり前ではない環境にいるマイケルは違うので、マイケルという役に寄り添いながら僕自身も一緒に答えを探していきたいという思いからの発言です。
◆映画の「エレファント・ソング」もご覧になったそうですね。
はい。「面白い」と言ったらありきたりな感想ですが、マイケルが抱える悲しみをお客さんにちゃんと伝えることができているすてきな作品だなと思います。僕は単純にドランのファンなので憧れもあったのですが、今回マイケル役を演じるにあたり憧れるのはやめることにしました。ドランとは違うアプローチでマイケルを演じたいと思っています。
◆本作は精神病院の診察室を舞台にした、マイケルとグリーンバーグ院長(寺脇康文)、看護師のミス・ピーターソン(ほりすみこ)だけの会話劇です。マイケルは舞台に出ずっぱりで、とてもせりふが多いですね。
本当に多いんです(笑)。でも、舞台初主演作を三人の濃密な会話劇で迎えられるのは望んでいた形でもあるので、せりふが体になじむように頑張りたいと思います。とことん芝居に向き合える作品だと思うので、その中で自分に何ができるのか、マイケルをどれだけ深いところでつかめるのかを探していきたいです。
◆キャストの皆さんと本読みでせりふを合わせてみていかがですか?
寺脇さんとほりさんの体と喉を通って声が聞こえてきたときに、僕が想像していたものの遥か上を行ったというか。全く違った角度からのせりふや会話の流れ方に、ぼやっとしていたものがはっきりと輪郭を持って現れたなと感じました。本読みの段階で流れるお互いの熱い想いのようなものを交換できたので、稽古を重ねていくにつれてどんどん色濃くなり、輪郭的なものが形になって熱があふれていくのだろうなと今からワクワクしています。
◆論理立っていないように見えてマイケルなりの筋道のあるせりふはどう覚えるのでしょうか?
僕はあまり「せりふを覚えなきゃ」と思ったことがないんです。映像作品は、台本を何回か読めば覚えられたので。でも今回はせりふの量が膨大なので最初こそ「覚えなきゃ」という心境でしたが、本読みをして「覚えなきゃと思って覚えるのはよくないな」と考えをあらためました。マイケルがそのせりふを言う理由や彼の心の奥底にある欲をちゃんと探して、寺脇さんやほりさんと稽古を繰り返していく中で言葉を染み込ませていきたいなと。表面的にはトリッキーなことをしたり人を攻撃したりしますが、その裏や根底にあるものをつかむことが大事だと思っています。
◆主演という立場で、作品にどのように挑むのでしょうか。
僕は映像畑を歩んできたので映画での主演に関しては憧れがありましたし、“主演”というのは大きな二文字でしたが、今回は「あ、そうか。僕、主演だった!」という感覚かもしれません。というのも三人芝居ですし、共演するお二人は大先輩なので。主演だからこそ甘えさせていただいています。がむしゃらに、一生懸命演じることに徹したいです。
◆寺脇さんとほりさんの印象や、エピソードを教えてください。
寺脇さんは気さくな方で、僕の緊張や背負おうとしているものを柔らかくほぐしてくださいました。「“脇脇コンビ”で頑張ろうね」と声をかけてくださったり(笑)。それが本読みになるとグリーンバーグでしかないんですよね。どんと構えていてくださるので、マイケルとして遠慮なく攻撃させてもらおうと思っています。ほりさんが演じるミス・ピーターソンとマイケルは、舞台で描かれる以前からの関係性があるのでそこを一緒に作っていきたいと話しています。先日はマイケルが好きな象についての話をしました。優しい皆さんに支えられて、幸せな現場だなと思います。
◆本作は舞台の上で心理戦が繰り広げられますが、井之脇さんご自身は、マイケルのように人の心を読んだり、感情を隠して相手をコントロールするのは得意ですか?
マイケルのように人を思いどおりにコントロールしてやろうという考えはないです。でもリーダーシップとまでは言わずとも、論理立てて説明をして人に協力してもらうことは得意かもしれないです。人の感情に対してはそんなに鈍感ではないと思います。僕は集団の中に入るとあまりしゃべれなくなってしまうタイプですが、しゃべっている人を観察することが好きで。「この人、本音とは違うことを言っているな」というのは何となく察することができているのかなと。自分の感情はあまり表に出ないほうだと思っています。最初は心を開きづらいので、わりと用心してかかってしまうところがあるというか…。(周囲のスタッフに向けて)どう思います? あ、マネージャーさんが「(感情が)出ているよー」と言っています(笑)。隠せているつもりでしたが、そうでもなかったみたいです(笑)。
◆今まで周囲の人を観察してきた中で、マイケル役を演じるにあたりヒントになりそうな人はいましたか?
中学の同級生にすごく嘘つきの男の子がいたことをたった今思い出しました。マイケルのような攻撃的な嘘ではなく、自己防衛的な…。彼は嘘をついているときはどこかソワソワしている様子があったような覚えがあります。マイケルも裏を返せば自分を守るために嘘をつくように思うので、そこは今回の役に生かせるかもしれないですね。
◆どんなマイケルになるのかが楽しみです。では最後に観劇される方へのメッセージをお願いします。
この濃密な戯曲はきっと多くの方に響くものですし、上演時間以上に濃い時間をお届けできる予感がします。ぜひ劇場で体感していただければと思います。
PROFILE
●いのわき・かい…1995年11月24日生まれ。神奈川県出身。B型。最近の主な出演作はAmazonオリジナルドラマ『失恋めし』、映画「猫は逃げた」など。連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合ほか)にレギュラー出演中。
公演情報
PARCO PRODUCE 2022「エレファント・ソング」
5月4日(水・祝)~22日(日)東京・PARCO劇場ほか愛知、大阪公演あり
作:ニコラス・ビヨン
演出:宮田慶子
出演:井之脇海、寺脇康文、ほりすみこ
<あらすじ>
精神病院の院長・グリーンバーグ(寺脇)は突然消えた医師・ローレンスを探すため、ローレンスの患者であり、事件の鍵を握る精神病患者・マイケル(井之脇)と会うことに。しかしマイケルが話すのは象の話ばかり。グリーンバーグはマイケルが真実を話すことと引き換えに提示した三つの条件を飲み、彼が仕掛けた巧妙なゲームに巻き込まれていく。
●photo/干川 修 text/須永貴子 hair&make/AMANO Styling/檜垣健太郎(tsujimanagement)