今期注目のアニメ『4人はそれぞれウソをつく』(2022年10月15日スタート ABCテレビ・テレビ朝日系 毎週(土)深2・00)の原作者である橿原まどか先生。同作は「週刊少年マガジン」のネーム原作賞奨励賞を経て新人漫画賞佳作を受賞し、「別冊少年マガジン」で即連載化。橿原先生は異例のスピードデビューを果たした。仲良しな女子中学生4人組が実は宇宙人、抜け忍、女性の心を読める超能力者、女装男子だったというこの学園コメディは、いかにして生まれたのか。橿原先生に制作エピソードを聞きました。
◆『4人はそれぞれウソをつく』で連載デビューが決まったとき、どんなお気持ちでしたか?
とてもびっくりしました。ネーム原作賞で奨励賞を頂いた後、新人漫画賞への応募に向けて絵の練習をしていたら、担当さんに「この作品で連載できたらいいですね」と言っていただいたんです。でも正直、実現したら最高ですけど、「そんな夢みたいな話はないよな」と本気にはしないようにしていました。なので、あくまで読み切りとしていい作品にしたくて描いたのですが、まさか本当に連載になるなんて。「夢みたいな話、あったんだ!」と思いました(笑)。
◆“秘密を抱えた女子中学生4人組の学園コメディ”という設定のきっかけは、何だったのでしょうか。
もともと「レッド・ファミリー」と「恋のロンドン狂騒曲」という映画がすごく好きで、その2作の影響はあったと思います。あと、4コマというフォーマットで描きたいという気持ちもあり、それらが自分の中でごった煮になった結果、行き着いたという感じですね。
◆宇宙人のリッカ、抜け忍の千代、女性の心を読める超能力者の関根、女装男子の翼という個性豊かな4人のキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?
最初に浮かんだのはリッカでした。「正体を隠した宇宙人がいたら面白いな」と。そこから「正体を隠している子がもう1人いるといいな」と千代が、「2人の正体を知っている人もいたらいいな」と関根が生まれました。ただ、それだと正体を知っている関根がパワーバランス的に強すぎてしまう。なので、関根にも正体が分からない子を出そうと、翼を考えました。実は「ネーム原作賞」の段階では、翼は時空をループしている女の子の設定だったんですけど、担当さんから「翼だけキャラクターが弱いから、違う設定にした方がいいのではないか」と提案をいただいて。吸血鬼にしようか、それとも雪女にしようか、などいろいろ考えました。そのときは、こういう萌え4コマ系の作品に男の子は絶対に出しちゃいけないという固定観念が私の中にあったんです。でも、雑談の中で担当さんに「男の子は出しちゃダメですよね…?」と聞いたら、「なぜですか? いいですよ」とあっさりOKされて衝撃を受けました(笑)。「4人目が男の子なら、他の3人とかぶらないし、ファンタジーやSFに偏りすぎず、ちょうどいいな」と、翼は女装男子に決まりました。
◆4人の関係性の強弱において意識した点はありますか?
誰か1人が特権的な強さを持たないようには気をつけました。例えばリッカは何でもできますけど、精神的に老成した面と幼稚な面を持っている。翼には特別な能力はないですけど、誰も彼の正体を知らないので余裕がある、という感じですね。
◆4人のキャラクターには、モデルがいるのでしょうか。
翼姉弟にはモデルがいます。私の友達とその弟なんです。だから、他のキャラクターを動かすとき…例えばリッカとかならイデオロギーなどを考えて「こういうふうにするかな」と想像するんですけど。翼姉弟だけは全く違い、「あの友達や弟だったらどうするだろうな」と考えています。
◆連載のこの先の展開に関して、考えていることはありますか?
実はこの作品を描き始めたころ、実生活で落ち込んでいたこともあって、突き放したシニカルな終わり方を考えていたんです。でも、今となってはたくさんの方々に読んでいただけて、自分にとってすごく大事な作品になりました。キャラクターたちにも愛着があります。なので、キャラクターたちが元気になる方向へ進めていきたいと思っています。
◆そもそもの話ですが、橿原先生が漫画家を志したきっかけは何だったのでしょうか。
「漫画家になろう」と思ったことは、あまりないんです。子供のころに絵画教室に通っていましたけど、絵を習いたかったわけではないですし。もともと外国語教室に通っていて、そのプログラムの一環として「外国語を学びながら絵を描こう」みたいな授業があったんです。そしたら、うちの親が先生から「この子は語学より絵のほうが向いている」と言われて、「じゃあ絵画教室に行かせよう」となっただけで。きっかけになったのは、先ほども言ったように実生活で落ち込んでいたことがあって、そのときに「新しい趣味を見つけて、人生が楽しくなったらいいな」と思って。それで浮かんだのが漫画だったんです。年齢に関係なく描けますし、コミティアとかに出られたら人生楽しくなるのでは、というくらいの気持ちで始めました。賞に応募したのも、「あわよくば引っかかったらいいな」くらいの考えだったんです。
◆それで応募した作品が賞を受賞して連載となり、アニメ化されるというのはすごいことですよね。アニメ化の話を最初に聞いたときは、どんなお気持ちでしたか?
何がどうなったのかとびっくりしました。「そんなことが本当にあるの!?」と。実は最終回の原稿がほぼほぼ終わったときに聞いたんです。逆転ホームランを狙うにしても、そんなときに「アニメ化が決まったらいいな」なんて考えませんからね(笑)。
◆キャラクターたちがアニメーションとなって動いているのを見て、どう感じてらっしゃいますか?
素晴らしい映像で感動しました。私自身がそれほどアニメに詳しくないのもあって、アニメ化のお話を頂いてから星野(真)監督の過去作を拝見したんです。その1つが『ダメプリ ANIME CARAVAN』だったんですけど、1話から女の子のツッコミのテンポが心地よくて。『4人がそれぞれウソをつく』でも監督がテンポをコントロールしているというか。漫然と「会話している2人をここに置こう」というのではなく、シーンごとに意図があってキャラクターを配置していることが伝わってくるんです。自分が門外漢なのもあり、「映像のテンポや文法ってこういうことなんだ」と勉強させてもらっています。
◆リッカ役は田中ちえ美さん、千代役は村上奈津実さん、関根役は佐倉綾音さん、翼役は潘めぐみさんと、キャストも豪華です。4人の演技に対する印象はいかがでしょうか。
声優さんってすごいな、とうならされています。4人とも技量があって自然に演じていらっしゃるので、キャラクターの背後に声優の存在を感じさせないんですよね。リッカ役の田中さんの声はカッコよくて色気があるというか。男装の麗人みたいな感じがすごくいいなと思いました。千代には天女のイメージなのですが、村上さんは本当に天女のごとく、ビロードのような美しい声です。発声だけでも清楚で上品な感じが表現されていますね。関根に関しては、オーディションのときに音響監督さんが「根底にクレバーさが欲しい」とおっしゃっていて。佐倉さんの声からはまさに利発さが伝わってきます。とても聡明な方なのでしょうね。ツッコミのテンポも気持ちいいです。びっくりしたのが、潘さん。実は4人のキャラクターの中で唯一明確な声のイメージがあったのが翼で。でもそれをうまく伝える語彙も持っていなかったですし、素人の私が余計な口出しをするのもなと、あまり事細かには言わずにいたのですが、潘さんが演じる翼の声を聞いたら私のイメージどおりの声でした。ちょっと怖かったくらいです(笑)。
◆原作者としてアニメに期待することはありますか?
期待なんておこがましいです。「アニメを作ってくださってありがとうございます」という感謝の念しかありません。既に1話を見させていただきましたがとても面白かったので、「アニメを見ようかな、どうしようかな」と迷ってらっしゃる方がいらっしゃったら、ぜひご覧いただけたらうれしいです。
PROFILE
橿原まどか
●かしはら・まどか…漫画家。「別冊少年マガジン」にて、2020年より『4人はそれぞれウソをつく』の連載を開始。単行本は2巻まで発売されている。
番組情報
『4人はそれぞれウソをつく』
ABCテレビ・テレビ朝日系
2022年10月15日スタート
毎週(土)深2・00~2・30
<STAFF&CAST>
原作:橿原まどか(講談社『別冊少年マガジン』連載)
監督:星野真
アニメーション制作:スタジオフラッド
声の出演:田中ちえ美、村上奈津実、佐倉綾音、潘めぐみほか
●text/篠崎美緒
©橿原まどか・講談社/製作委員会はウソをつく