いよいよ本日12月18日、漫才日本一を決める「M-1グランプリ2022」決勝が開催される。昨年は“2人合わせて93歳!”の錦鯉が最年長優勝という劇的な結末に。過去最多となる7261組がエントリーした今年は、ファイナリスト9組のうち初決勝進出が5組、2度目の進出が4組というフレッシュな顔ぶれ。どんな展開が待ち受けているのか期待が高まる。
TV LIFE webでは、昨日まで毎日1組ずつファイナリストのインタビューをお届けしてきた。そして最後に、今年のM-1グランプリの総合演出を担う朝日放送テレビ(ABC)の下山航平氏に単独インタビューを敢行。ファイナリスト9組についてや決勝の見どころ、今年のキャッチフレーズが「漫才を塗り替えろ。」である理由などを語ってもらった。
◆下山さんは今年から総合演出をご担当されると伺いました。
はい。M-1自体には2016年から携わっていますが、昨年までは敗者復活戦の演出と、決勝の1週間後に放送される「M-1アナザーストーリー」というドキュメンタリー番組の演出を担当していました。
元々は「熱闘甲子園」がやりたくて入社し、スポーツ部で高校野球や阪神タイガース担当などをしていたのですが、制作部に異動になった最初の冬についたのが「M-1グランプリ2016」でした。
それまでは、もちろんお笑いもバラエティ番組も好きでしたが、いわゆる“芸人さん”にそこまで関心を持ったことはありませんでした。2016年に初めてわけもわからぬままM-1の現場に連れていかれて、舞台裏、それこそ決勝だとかを手伝わせてもらったときに「めちゃくちゃすごいな! 面白いな!」と思ってからは、どっぷり浸かっているという感じです。
◆昨年までは決勝自体は担当としてではなく、すぐ近くで見ているという立場だったかと思いますが、去年のM-1にはどういう感想をお持ちですか?
毎年、決勝進出者9組が決まったときは「どんな大会になるのかな…」と思うのですが、特に昨年は真空ジェシカさんやランジャタイさんといった新顔、いわゆる正統派ではない芸人さんが多くてまったく想像がつかない中で、あれだけ盛り上がった。なんか僕らの心配なんて関係ないんだな、と。だからきっと今年もすごい大会になると信じて制作を進めています。
◆今年の決勝進出者は、どんな9組ですか。
ここ何年も1回戦から見続けていますが、今年は参加組数が史上最多だったこともあり、もう準々決勝くらいの時点で、ハイレベルすぎて「もう、これ選ぶの無理なんちゃう?」という空気が流れていて。ここまでになったのは、今年が初めてではないかと思います。
だからこそ、この勝ち上がった9組はもう本当に面白い。今年は特に「ネタが面白い9組」になったと感じています。あと、なんだか今年は眼鏡をかけた芸人さんが多いんですよね。その雰囲気というか、センス系が多い? のも特徴かもしれません。
◆今年のキャッチフレーズ「漫才を塗り替えろ。」の意図を教えてください。
毎年、まずはロゴの数字、今年でいうと「2022」の部分の色から決めていくんです。例えば、昨年のオレンジと赤のグラデーションは、オリンピックが開催された年でもあり、日が昇る感じを表現しています。
今年のM-1は、いろいろなことが変わるのではないかとスタート時から感じていたんです。M-1自体が昨年の錦鯉さんの優勝で、なんというかいったん更地になったような気がして。なので、今年はこれまでチャレンジしたことのない色でもある「白」にしようと。
M-1って、毎年流れが変わっていくんです。2018年に霜降り明星さんが史上最年少優勝したと思ったら、翌2019年には劇場で腕を磨き続けてきたミルクボーイさんが史上最高得点で優勝。その翌年にはマヂカルラブリーさんが「漫才か漫才じゃないか」論争を巻き起こし、昨年は錦鯉さんが最年長優勝と、思わぬ方向から違う流れで毎年歴史が塗り替わっている。
なので、真っ白なところからどんな色が付くか。今年もまた新しい色に染めてくれよという意味で、白ベースで「漫才を塗り替えろ。」にしました。
◆M-1は年々、大きなコンテンツになってきています。なぜにM-1はこんなに愛されるのでしょうか。
歴代の諸先輩方からずっと言われていて胸に刻んでいるのは、「M-1を“紅白”にする」ということ。国民的行事にしていきたいという思いです。なので、年々大きくなってはいますが、まだまだ行ける! 行かないと! と考えています。その制作を担うことについて、プレッシャーも正直ありますが…。
なぜ愛されるのか。それはまず第一に、出ている芸人さんが真剣だからだと思います。それと、武器がマイク1本というのが奥深さもあり、自由度も高い。「あれはどうだった。ここがすごかった」と誰もが語りやすいところも大きな理由だと思います。
◆予選の模様を映したVTRをネタ直前ではなく番組冒頭にまとめることで、ネタ披露時にバイアスがかからないようにするであるとか、芸人さん本人の声はネタに入るまで聞かせないこと、1組ごとにマイクの高さをきっちり合わせるところなどに、制作側の“M-1愛”もあふれているように見受けます。
芸人さんの声を聞くのは、ネタでの第一声のいわゆる「はいどーも」が最初であるべきというVTRの作り方は今年も変わりません。なので、ネタ前に流れる紹介VTRではご本人たちの顔は出ますが、声は一切使っていません。マイクの高さは、リハーサルの際に音声さんが1組ずつ測って、ネタの前ごとにそのコンビの最適な高さにきっちり合わせています。テレビではあるけれど「漫才師の漫才をいつも通り見せる」という考え方なので、ピンマイクもつけません。
芸人さんたちは、みなさんとんでもない苦労をしてこの決勝の舞台まで上がってきてくれているので、我々はそれを最大限の力で、最高の舞台を整えてお迎えするという姿勢です。そういう気づかいも、ABCの中で脈々と受け継がれています。芸人さんへの愛やリスペクト、芸人さんファーストの姿勢はまさにABCらしさだと思います。
◆M-1が大会として成長するにつれて、もはや“競技”のようだという意見も増えてきました。
確かに、4分間という区切りを設けていることで“競技漫才”化しているという意見もあります。でも僕個人としては、競技だと言い切りたくはないです。M-1の4分間も漫才だし、寄席などでの10分、20分のネタも漫才だし。漫才は漫才、区別するものではないと思っています。
◆競技化していると言われつつあるM-1を、スポーツ担当をされてきた下山さんが演出されるということに対して、正直少しうがった見方をしておりました。
そこは関係ないですね。ただ、お笑いだけをずっと見続けてきたわけではないという、こういうキャリアだから作れるM-1もあるのではないかと思っています。漫才を「すっごい面白い!」と純粋な目で見ることができていると思うんです。だからこそ、テレビの前で見ている人のことを「分からなければ置いていくよ」ではなくて、みんなに分かるようにしたい。
芸人さんってやっぱりすごい生き物で、すごくかっこいいと思うんですよね。アスリートとはまた違うかっこよさ、素晴らしさ。僕なりに感じた面を表現できたらと。マイク1本で人を笑わせる、そこにリスペクトを持って作っていきます。
◆最後に、改めて今年の見どころを教えてください。
今年のファイナリスト9組は“いい意味で”タレントっぽい人がいなくて、劇場でずっとネタを磨き続けていた方々ばかり。なので見どころを一言でいうなら“ネタ!”です。ネタがもう本当に面白い9組が揃いました。もちろんM-1は毎年ネタだけの勝負ですが、今年は特にその色が強いと思います。
国民的行事を目指しているからには、全体としてスケール感も出したいと考えています。ネタ以外としては、前年王者として来ていただく錦鯉さんがどういう形で出られるかも、楽しみにしておいてください。
●text/松田優子
番組情報
『M-1グランプリ2022』
ABC・テレビ朝日系列全国ネット ※生放送
2022年12月18日(日)午後6時34分 〜10時10分
『M-1グランプリ2022 敗者復活戦』
ABC・テレビ朝日系列全国ネット
2022年12月18日(日)午後2時55分〜5時25分 ※一部地域を除く
『M-1グランプリ2022 アナザーストーリー』
ABC・テレビ朝日系列全国ネット
2022年12月26日(月)午後11時15分〜深夜0時15分
番組公式HP:https://www.m-1gp.com/
©M-1グランプリ事務局