【M-1カウントダウン連載最終回】決勝レポート/「M-1のチャンピオンになる人生とは思わなかった」ウエストランドが漫才を新しい色に塗り替えた

特集・インタビュー
2022年12月19日
優勝が決定した瞬間のウエストランド(左から井口浩之、河本太) ©M-1グランプリ事務局

12月18日に、漫才日本一を決める「M-1グランプリ2022」決勝が開催された。初めて6000組を超えた昨年を大きく上回る7261組がエントリーした今年は、ウエストランド(井口浩之、河本太)が2020年以来2度目の決勝進出で念願の優勝を果たした。

決勝のOA開始は18時34分。その頃のツイッターでは、M-1に合わせて急いで帰宅したり、テレビを見る準備をしたりのつぶやきが多かったことから「M-1のために」というワードがトレンド入りしており、注目度の高さが伺えた。

いよいよ決勝がスタート。今年は夜空を昇っていった色とりどりの星が大きな“M”の文字を描く、という映像で始まった。夢舞台、夢のある戦いであることが染みわたるオープニングだ。

昨年の王者である錦鯉、MCの今田耕司と上戸彩に次いで審査員が登場。TV LIFE webで決勝直前に配信したインタビューで、総合演出・下山航平氏が「ここまでになったのは今年が初めてではないか」と評していたほどハイレベルな予選だったことが耳に届いているのか、審査員が「いつもと違ってドキドキしている」(松本人志)、「どこが優勝してもおかしくない」(サンドウイッチマン富澤たけし)と口を揃えていたのが印象的だった。

そして1組目の漫才に。ネタ順を決める笑神籤でトップバッターに選ばれたのは、カベポスター。コンビ名を呼ばれた瞬間、浜田順平は頭を抱えたのちに意を決して歩き出し、それを追う永見大吾はカメラに笑顔でピースをして舞台へ向かう。

昨年までは、コロナ感染予防でスタジオにいる人数を抑えるためか、芸人たちは別室でスタンバイし、笑神籤で引かれたコンビがスタジオまでの廊下を歩く約30秒間があったが、今年はそのストロークはなし。ネタ前の約1分間の紹介VTRも、キャリア紹介の後は「カベポスターとは?」との問いに対しての自らの答えがテロップで出るのみ。いわゆる自己紹介は一言だけで、この後に披露するネタだけに視聴者を集中させるストロングスタイルだ。

カベポスターはトップバッターという難しい出順ながら、「トップにしては全部がハマっていた」(中川家・礼二)が点数は伸びず。続く2組目の2年連続決勝進出の真空ジェシカは、大喜利も得意とする博多大吉から「大喜利と漫才が融合したネタのトップランナー」と称賛された。

3番目に笑神籤で引かれたのは敗者復活組で、発表された名前はオズワルド。屋外での敗者復活戦で、オズワルドがネタをする少し前から強めの寒風が吹いていたこともあり客席から笑いが上がりにくい状況だったが、それでも貫禄さえ見えるネタ運びで2位に大差をつけて決勝への切符を手に入れた。

オズワルドはすぐにスタジオへ向かい、少しのネタ合わせを経てネタ披露に。ネタ終わりには今田に「お帰りなさい!」と迎えられるも、「いつものオズワルドじゃなかったかな」(富澤)との評価だった。

空気を大きく動かしたのが、4組目のロングコートダディ。上戸が「新しい漫才でしたね」と迎えた「縦で動く漫才」(松本)で、ここまでの最高得点を叩き出した。続く5組目のさや香は、コント系漫才のロングコートダディとは真逆とも言える王道のしゃべくり漫才。「王道でここまで爆発するとは」(富澤)、「美しい漫才」(松本)と賞賛の嵐で、最高得点を塗り替えてトップに立った。

6組目の男性ブランコは、昨年のキングオブコント準優勝コンビ。今田に「なにこの漫才!?」と言わしめ、松本は「こんなん大好きやねん」と笑い泣き。ここまでで3位の高得点に、浦井のりひろは思わず「うわー!」と声を上げる。

7組目のダイヤモンドは、ここ3組の激しめに動く漫才の後だったことが影響したか、大きな笑いにつながらずに涙を飲む。続いて8組目に引かれたのはヨネダ2000。この時点で残る2組が、今回2組だけの吉本興業所属以外のコンビであり、同じタイタン所属のキュウとウエストランド。4人は立ち上がってこのレアな状況をアピールする。

女芸人No.1決定戦「THE W」で準優勝を果たしたばかりのヨネダ2000は、結成わずか2年数か月。「イギリスで餅つこうぜ!」という突飛な設定の漫才を目をぱちくりしながら見ていた立川志らくは、高得点をつけながらも「自分でも意味が分からない」と言い、山田邦子からは「期待通り!」と賛辞を受けるも最終決戦3組に入ることはできなかった。

9組目に引かれたのはキュウ。「発想に感心しちゃう」(富澤)との評価と、「順番に恵まれなかった」(松本)ためか高得点にはつながらなかった。

ラスト10組目は、井口いわく「10位よりもウケてない9位」に終わった2020年以来、2度目の決勝となるウエストランド。あるなしクイズに形を借りた毒舌漫才で、点数が出た瞬間に今田が「いったー!」と叫んだ高得点で最終決戦3組に滑り込み。「あなた方がスターになってくれたら時代が変わる」(志らく)、「今日の中で一番あっと言う間だった」(ナイツ塙宣之)と大絶賛を受けた。

ウエストランド(左から井口浩之、河本太) ©M-1グランプリ事務局

最終決戦に進んだのはさや香、ロングコートダディ、ウエストランド。1本目の上位から希望のネタ順を選んだ結果、1組目はウエストランドに。しかし、連作のようなネタだったため、このネタ順が功を奏す。

入りで同じネタ? と思わせながらも毒舌に拍車がかかり、その矛先は1週間後に放送される(今年は12月26日放送)ドキュメンタリー番組『M-1アナザーストーリー』にまで及んだが、1本目の勢いのままに笑いが増幅。

この頃にはウエストランドの優勝を予感したかツイッターのトレンドに「伏線回収」のワードが上がり、同時間帯に放送されていたNHK大河ドラマの最終回の感想と合わせて、「アナザーストーリーで伏線回収」を期待するツイートが多く見られた。

ロングコートダディ、さや香とネタが終了。「しゃべくりvsコント系vs毒舌の三つ巴」と松本が評したその審査の難しさに、「(審査員の)お顔が見えない。みんな下向いちゃった」と上戸が笑顔で指摘する。

審査の結果は、7票中6票とウエストランドが圧勝。その瞬間、のらりくらりとしたキャラの河本はさめざめと泣き、井口は目の端に涙を見せながらも「ウケたんでよかった」と笑顔で受け答えする。そんな2人を松本が「窮屈な時代だけど、キャラクターとテクニックさえあれば毒舌も受け入れられると夢を感じた」と称えた。

トロフィーを掲げる(左から)井口浩之、河本太 ©M-1グランプリ事務局

その直後に行なわれた優勝会見会場に、2人はひょこひょこと軽やかに現れて「(雰囲気が)厳かすぎないですか?」(井口)と第一声で場を和ませる。

「M-1のチャンピオンになる人生とは思わなかった」と喜びを表した井口は、OAのラストで発した「自分の人生だけど初めて主役になれた気がした」の一言は、優勝したら言おうと考えていたとニヤリ。いつものペースに戻った河本は、「M-1のPVを何十回も見て泣いた」と質問の答えにならない回答を発し、これまたいつものように井口にどやされていた。

そして会見は質疑応答の時間に移るが、途中で記者陣からの質問が途切れる時間が生じてしまう。その後、写真撮影を終えてウエストランドは、次の打ち上げ生配信の現場へ。カメラにポーズを取るサービス精神を見せながら退出して行く井口を、「この会見のことも『なんで質問がないんだよ!』と、ネタというガソリンに変えるんだろうな」と思いながら見送った。

優勝者会見で喜びを語るウエストランド ©M-1グランプリ事務局

今年のファイナリストは、敗者復活のオズワルドを除くと初進出が5組に、2度目の進出が4組と「“いい意味で”タレントっぽい人がいない」(総合演出・下山氏)フレッシュな顔ぶれだった。

ファイナリストたちは毎年、決勝進出者発表を終えるとそのまま集められて、決勝で使う写真やVTRの撮影などに臨む。筆者は毎年代表インタビュアーとしてその場に立ち会うのだが、今年はその集まり方に特徴があった。

撮影など一連の流れはすべてコンビとして動くため、決勝経験者は心得たもので始めからコンビで固まって待機しているが、今年は最初バラバラで座る芸人が多いように見えたのだ。お互いを讃えあったり、豪華なお弁当を見て喜んだりと、緊張をいったん解いてその喜びを味わっているように見えて微笑ましかった。そしてその姿は、下山氏の言う「タレントっぽい人がいない」にも通じるように思えた。

そんなファイナリストたちが作り上げた今年のM-1。今年のキャッチフレーズ「漫才を塗り替えろ。」の意図を下山氏に尋ねたところ、「今年もまた新しい色に染めてくれよという意味で、白ベース(のロゴ)で『漫才を塗り替えろ。』にした」との答えが返ってきた。

何色もの星でオープニングを飾り、時代を変えうる漫才と評されたウエストランドが頂点に輝いて幕を閉じた今年のM-1。これまでのどの色とも違う、新しい未来の色で漫才が塗り替えられたように感じる一夜だった。

●text/松田優子

優勝者会見でのウエストランド ©M-1グランプリ事務局

番組情報

『M-1グランプリ2022 アナザーストーリー』
ABC・テレビ朝日系列全国ネット
2022年12月26日(月)午後11時15分〜深夜0時15分

番組公式HP:https://www.m-1gp.com/

©M-1グランプリ事務局

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