40代独身の主人公でデザイナーの拓郎(眞島秀和)、高校時代の同級生で拓郎を25年間思い続けてきたキャリアウーマンの絵里(矢田亜希子)、拓郎の初恋の人だった安奈の娘で女子高生のくるみ(中田青渚)。そんな不器用な3人の男女が繰り広げる、おかしくも切ない人間ドラマ『しょうもない僕らの恋愛論』(読売テレビ・日本テレビ系)がSNSなどで話題に。本作を手掛ける山本晃久プロデューサーに、ドラマ誕生への経緯や撮影現場のエピソードなどを聞きました。
◆原作がある作品ですが、ドラマを作ろうと思った経緯から教えてください。
僕自身が昨年、読売テレビに転職してきたということがありまして。初めて番組を企画するというときに、木曜ドラマ枠で今までやってこなかったことをやった方がいいのかなと思ったのがまず1つあります。もう1つは、自分が大学受験をしていたころに(原作の)原秀則さんの漫画をよく読んでいたというところです。例えば原さんの代表作の一つである「冬物語」は浪人生の男性の恋がテーマだったりして、結構男性にも刺さる作品という印象があったんです。それで今回ドラマの企画を探していたときに、原さんが「しょうもない僕らの恋愛論」という漫画を描いていることを知って。読んでみたら、40歳を過ぎた男性が昔の思いを引きずりながら、それをきっかけに人生がちょっとだけ前に進むという話だったんですね。そんな主人公の境遇が、今45歳の自分と重なり合ったというか。社会的な立ち位置も、上司の言うことも部下の言うことも分かるという、真ん中の管理職という立場だったりして。ちょうど転職したばかりで環境の変化を感じているところでも重なりました。
◆「恋愛論」という部分に関しても?
うだつの上がらない男性の恋愛観は、すごく共感します(笑)。「結婚」という2文字に対する男女の捉え方の違いってあると思うんです。男性は結婚を考えていても、なかなかすぐに決断できなかったりする生き物で。女性からしたら“何をゴチャゴチャ言うてんねん!”みたいな感じだと思うんですけど(笑)。そういったことが自分の経験的にもすごく響いて。物語の展開上、それほど大きな出来事は起きない作品なんですけど。他人から見たら“しょうもない”と思われるような気持ちを、きちんと描くドラマがあってもいいのかもしれないなと。そういう思いに至って、ドラマ化の企画を提案しました。
◆細かいところまできちんと丁寧に描いているからこそ、よけいに響きますよね。
そうですね。5、6話あたりで言うと、絵里が気持ちを伝えているのに拓郎が鈍感で伝わらないという描写が出てきましたけど。あれは絵里の立場からしたら“どうして気づかないの?”っていう鈍感さだと思うんです。でも、何も思っていない相手を目の前にしたときの鈍感さって、ああいう感じなのかなという気がしていて。男性って女性のアピールに気づいたとしても、その空気感から逃げちゃうところがあるので(笑)。そういうところは、結構リアルに描かれている気がしますね。
◆実際の反響や手応えはいかがでしょうか?
男性の方々には、同級生の友達と飲んでしゃべっているシーンが共感できたという感想を多くもらっています。女性の方々はやっぱり絵里の気持ちに共感していただいている気がします。あとはその、淡々とゆっくりとした雰囲気がいいと言ってくださっている方も多くて。わりと展開の早いドラマが多い中で、そう感じていただけているのはうれしいです。
◆現場の雰囲気はどうですか?
すごく明るいです。眞島さんは俳優としてダンディーなイメージがありますが、話をするのが好きで、おちゃめなところがある方で。周りとフランクに接しながら、いい空気を作ってくださっています。矢田さんは最近よくバラエティにも出られていますが、華があって空気を明るくするパワーがありますよね。お2人のおかげで、すごく明るい現場になっています。
◆現場で感じる、眞島さん、矢田さん、中田さんの俳優としての魅力は?
拓郎って非常に難しい役だと思うんです。イケてるわけではないけど、そこまでダメ男ではないという人間なので。そのさじ加減をちょっとでも間違えると、ダサくなってしまうというか、自堕落な人間のように見えてしまうと思うんです。でも眞島さんはそこを丁寧に渋い雰囲気を出してくださって、セリフの言い方も工夫してくださっていて。“かわいげのある、ちょっとダメなおじさん”というキャラクターを、うまく表現してくださっているなと思います。だから、くるみと会って話しているシーンもいやらしく見えないし、鈍感なところもかわいらしく見えるんだろうなと。矢田さんは、ご本人が底抜けに明るい雰囲気をお持ちの方。だからこそ、拓郎を25年間ずっと片思いし続けていたという設定でギャップを出してくださっていて。それが、絵里というキャラクターを切なく感じる理由なんじゃないかなと。中田さんは、表情がすごくいいです。拓郎との複雑な関係の中で、拓郎のことを“自分のお母さんが好きだった人”として見ていたのが、だんだん自分も好きになってきているという気持ちの微妙な移り変わりをうまく表現してくれているなと思います。
◆中田さんはオーディションで選ばれたとお聞きしました。
くるみは難しい役だと思ったので、書類選考から始めて何回か審査しました。その中で、中田さんは分かりやすい芝居をしないというか、芝居が主張してこない感じがして。それでいて、表情やテンションはすごく振り幅があって、存在感があるんですよ。その場に監督もいたんですが、満場一致で選ばせてもらいました。
◆劇中では母の安奈も演じられていて、2役を見事に演じていますよね。
本人も悩んだと思いますが、うまく違いを見せてくれています。最初は、彼女に2役をやってもらうか、安奈は安奈で別の方をキャスティングした方がいいのか、監督といろいろ議論したんです。でも結局、中田さんにどちらも演じてもらおうということになって。その選択は間違いではなかったと思います。
◆制作面で特にこだわっている部分はどんなところでしょうか?
実は今回、30歳男性と25歳の女性という若い監督に演出をお願いしているんです。ここも一つの挑戦になっていて。彼らはまだ拓郎や絵里の気持ちをそこまで理解できないと思うんです。でも40代の男女の心の機微みたいなところを、彼らなりに捉えてくれているところがあって。近藤啓介監督は拓郎の細かいしぐさにこだわってくれていますし、松本花奈監督は登場人物たちが切なくきれいに映るように頑張ってくれています。あと制作班が映画を主に作っているチームなので、自然と映画っぽい空気感も出ていて。音楽に関しては、あまりつけすぎないようにしています。弾けた感じというよりも、少し落ち着いて見られるような。そういった感じに仕上がっていると思います。
◆ドラマもいよいよ終盤に突入しますが、8話(3/9放送)以降の見どころを教えてください。
絵里とくるみが拓郎に対してどういう決断をするのか…というのが1つあって。それを拓郎がどう受け止めるのかというところが最大の見どころになっていきます。絵里もくるみも、男性の僕でも共感できるような動きがあるので。いろいろな方に響くような終盤になるのかなと思っています。何かが終わったり始まったりするときって分かりやすい理由を求めがちだと思うんですが、そういうふうには描いてないんです。彼らが仕事と恋愛に関してどう決着をつけるのかをぜひ見守っていただきたいです。
◆その中でキーパーソン的な人物を挙げるなら、誰になりますか?
嶋田久作さんが演じられているマスターですかね。やっぱり、拓郎と絵里のことを長年見守ってきたというところがあるので。今まではわりと絵里に対してアドバイスしてきましたが、今度は拓郎に対しても「このままでいいのか」っていうようなことを言うんです。拓郎と絵里はマスターに動かされていると言ってもいいぐらいなので(笑)。終盤でも大きなキーパーソンになってくると思います。もう1人挙げるなら、木全翔也君が演じている、くるみの幼なじみの悠です。実は多分、一番つらいところにいるのが彼だと思うんです。くるみのことをすごく好きなのに、その彼女は拓郎のことを見ていて。しかもそれを自分は手助けしているっていう。あのけなげな感じは応援したくなります(笑)。木全君自身、ちゃんとお芝居をするのが今回初めてということもあって。不器用ながらも素直に撮影に向き合っている感じが、いいお芝居につながっています。最後まで楽しんで見ていただけたらうれしいです。
番組情報
『しょうもない僕らの恋愛論』
読売テレビ・日本テレビ系
毎週(木)午後11時59分~
©原秀則/小学館/ytv