「音楽のテーマはダークファンタジーの王道」『FFXVI』音楽のこだわりをゲームコンポーザー・祖堅正慶・石川大樹・今村貴文に聞く【インタビュー前編】

特集・インタビュー
2023年07月20日
左から)石川大樹、祖堅正慶、今村貴文

人気RPG「ファイナルファンタジー」シリーズによるナンバリングタイトルの完全新作『ファイナルファンタジーXVI』(以下、『FF16』)。発売から約1週間で全世界累計販売本数300万本を突破(※パッケージ出荷本数とダウンロード販売数の合計)するなど話題となっている本作のサウンドトラックが、7月19日(水)にリリースされる。

今回は、約180曲以上もの楽曲が収録される本サウンドトラックの発売を記念し『FF16』コンポーザーの祖堅正慶さん・石川大樹さん・今村貴文さんにインタビュー。ゲーム音楽を作るうえでのこだわり、『FF16』の楽曲に込めた物語についてお聞きした内容を前後編に分けて紹介する。まずは音楽の方向性や3人の役割についてお聞きした前編インタビューをお届け。


◆みなさんの自己紹介とあわせて、本作での役割を教えてください。

祖堅:『FF16』で主に音楽のまとめと雑用をやっていました、祖堅正慶です。現在も雑用は続いています(笑)。

今村:同じく、コンポーザーと雑用を担当している今村です。

石川:右に同じく、コンポーザーと雑用を担当している石川です。僕たちは、祖堅をリーダーとしたチームで本作の音楽制作に臨みました。

祖堅:ふたりは4年ほど前に中途採用で入社したんです。それぞれ経歴もバラバラで、ゲームコンポーズの経験も全くない状態でした。そこで、『FF14』で一緒に仕事をして、ゲームのための音楽を作ることをみっちり教え込んだんです。そこで大体は仕上がったので、今度は開発中のゲームに曲を実装する作業をやってもらおうと思って。ゲーム音楽って、楽曲を作ることと同じくらい、ゲームに音楽を実装する作業が大事なんですよ。むしろ、作業量でいえばそちらのほうが多いくらい。今回はその作業を主にふたりにもやってもらいました。

◆どういうゲームなのかによっても、実装の仕方は変わってきそうです。

祖堅:全然違いますね。音楽って、思っている以上にゲーム体験と密接に結びついているんです。ゲームコンポーザーは、楽曲をどのように実装すれば効果的にゲーム体験を盛り上げられるのかを考えるのが、とても重要なんですよ。そういう意味で、『FF16』では新しいシステムを用意して、よりゲーム体験にのめりこめる仕組みを取り入れています。それを丁寧に説明しようとするとアカデミック過ぎる話になってしまうのですが……ざっくり言うと、『FF16』をPS5にインストールすると、ミニ祖堅が同時にインストールされて、みなさんのプレイ状況に合わせてその場で曲を編集している、と思っていただければ(笑)。例えば、敵を倒して主人公が決めポーズを取っているときに、音楽もちゃんと決まって終わる、盛り上がるところは盛り上がり、落ち着くところではちゃんと曲も落ち着くという仕組みになっています。それによって曲数は膨大となり、ふたりが大変なことになりました(笑)。

◆なるほど(笑)。そんなおふたりへの印象を教えてください。

祖堅:まず共通しているのは、変な奴ら(笑)。今村は音楽制作の仕事をして食えない時代を過ごしてきて、なぜかゲーム音楽の世界への門を叩き、石川はサラリーマンとして約束された人生があったのに、波乱の世界へとやってきた。ただ、共通項としてゲームへの愛があると感じたんです。それなら、未経験でも一緒にやっていけるんじゃないかと思い採用しました。ふたりは同時期に入社したのですが、得意ジャンルがそれぞれ違っていて。今村はポップス、石川はクラシカルな方面が得意と、相反する音楽性を持っていました。それがいいように働き、お互いがお互いに苦手なところを補完するなかで、僕が何かをしなくても勝手に育っていったんです。同時期にふたりが応募してくれて、めちゃくちゃラッキーでしたね。

◆今村さんは元々バンド活動をされていたとお聞きしました。

今村:そうですね。中学生からやっていて、当時から音楽の仕事をしたいと思っていました。ベーシストとしてスタジオミュージシャンになりたいと思っていたのですが、18歳くらいのときに先生から「スタジオミュージシャンで食っていくのは難しい」と言われまして。それで、もともとバンド活動をやっているときに曲を書いていたので、作曲家はどうだろうと思い、大学生の頃に音楽制作事務所に入って、コンペの仕事をやるようになりました。それでも厳しい世界で、なかなか食えなくて。5、6年そんな日々が続いたとき、スクウェア・エニックスが採用募集しているのを発見したんです。もともとゲームが好きだったので、音楽とゲームに関われたらと思うようになり、応募しました。

◆石川さんはどのような経緯で応募されましたか?

石川:僕は今村とは違い、音楽関係の仕事は未経験でした。ただ、クラシックが好きで高校・大学の部活で弦楽器を弾いたり、オーケストラの指揮の先生に習いに行ったりしたことはありました。合わせて、ゲーム好きの少年でもあったので、漠然とゲームサウンドクリエイターになりたいなと思うようになり、大学卒業のタイミングで応募したんです。ただ、当時は狭き門をくぐり抜けることはできず、電機メーカーに就職しました。それでもサウンドクリエイターになりたいという気持ちが抑えられなくて。そんなとき、スクウェア・エニックスの中途採用の募集があるのを発見し、この機会を逃してはいけないと思い応募しました。

◆入社してから祖堅さんの元で働くことになったおふたり。祖堅さんへはどのような印象をお持ちですか?

今村:曲の作り方・考え方、ゲームに対して音楽をどう当てていくのかなど、ゼロから祖堅に教えていただきました。そのおかげで、ゲーム音楽はシンプルに作るだけじゃなくて、ゲーム体験をいかに盛り上げるのかが大事ということを知ることができたんです。ゲームコンポーザーとしての基本を教えてくださった、尊敬する方です。

石川:未経験の僕を拾ってくださった祖堅は、もう命の恩人とも呼べる存在です。加えて、曲は作れる、ゲームは作れる、バンドはやる、マネージャーとしてサラリーマンの業務もやると、仕事の守備範囲がとても広くて。入社する前から祖堅のことは知っていましたが、入社後はよりマルチタレントという印象が強くなりました。組織のなかでやっていくバランス感覚を僕も見習わないといけないです。

祖堅:そんないいことばっかり言って! ふたりに何か渡したっけ(笑)? あっ、インタビューだからか。

ふたり:そうです。

祖堅:おい(笑)。

音楽と物語の繋がりを大事にした

◆そんな3人も含めたチームで制作した『FF16』の音楽。どのようなテーマを持って作っていきましたか?

祖堅:本作はダークファンタジーなので、音楽でもバカ正直にそれを表現するというテーマがありました。

◆プロデューサーをはじめ、他のクリエイター陣からもそういうリクエストがあった?

祖堅:そうですね。王道でいきたいというファーストオーダーがあったので、そこから外れないようにやりました。音楽チームを含めて、変なことをしようという気は全員なかったんじゃないかな。ダークファンタジーの王道を進むための取り組みをしていたと思います。

◆制作はいつ頃からスタートしましたか?

祖堅:確か6、7年前からスタートしたんじゃないかな。サウンドを鳴らすには専用のエンジンが必要なので、それの設計をやっていたと思います。コンポーズはまだやっていませんでした。その後、プロデューサーの吉田直樹からテーマ曲のモックアップが欲しいと言われたのが4、5年前。そこから曲を書き始めました。ゲーム制作においてサウンドは最終工程なので、ラスト1年で一気に仕上がっていった感じですね。

◆今回のサウンドトラックに収録されているだけでも約180曲と相当な曲数があります。分担はどのように決めましたか?

祖堅:まず柱となるテーマ曲を作って、それを以てゲームのテストプレイを繰り返して3人で集まり、「あの場面でこのテーマ曲のアレンジが必要だよな」などあーだこーだ言いながら、実直に作っていきました。それで気が付いたら、ゲームに実装されている曲数だけでも300曲近く作っちゃっていて。でも、それだけの数が今回は必要だったんです。

◆なるほど。

祖堅:これは議論になりがちなんですけど、曲数が多いからよいサウンドだってことは絶対にないんですよ。むしろ、少なければ少ないほどよいと思っています。メロディが多岐にわたって混在するゲームって、指針も柱もないから取っ散らかっちゃう可能性が高いんですよね。少なければアイコニックな存在になるし、記号にもなります。だから必要最低限でいいと思うんです。今回は削ぎ落しても300曲近く必要でした。もっと少なくできればよかったのですが、そうはいかなった。

今村:確かに曲数は多いですが、今作は祖堅も話していたように柱となるメロディを作ってそこからシーンに合わせてアレンジしているんです。なので、ストーリーやキャラクターと音楽が繋がっていると分かるような作りにはなっていると思いますね。

祖堅:本作は特に音楽と物語の繋がりを大事にしました。そのシーンではどのキャラクターの心情を表しているのか、誰がそのシーンの主軸なのかを議論したり、開発チームにヒアリングしたりして、柱となるメロディをアレンジしていきました。

◆もしかすると、2周目をプレイするときに音楽にも注目してみると、「ここはこのキャラクターの心情を中心に表しているのか」など、シーンや音楽への印象が変わるかもしれないですね。

祖堅:そうですね。発見はいろいろとあると思います。もちろん、ゲームを楽しんでいただけるだけで、僕たちは満足です!

後編インタビューに続く。

●photo/YOSHIHITO_SASAKI text/M.TOKU

商品情報

『FINAL FANTASY XVI』
発売中

対応機種:PlayStation®5
ジャンル:アクションRPG
プレイ人数:1人
価格:デジタルデラックスエディション(ダウンロード)12,100円(税込)/ 通常版(パッケージ・ダウンロード):9,900円(税込)

商品HP:https://jp.finalfantasyxvi.com/

『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack Ultimate Edition』
2023年7月19日(水)発売

価格:8,580円(税込)
品番:SQEX-11031-8
仕様:CD7枚組+ボーナストラックディスク1枚

『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack』
2023年7月19日(水)発売

価格:6,600円(税込)
品番:SQEX-11039-45
仕様:CD7枚組

<ダウンロード配信>
配信先:https://sqex.lnk.to/vPfoY9
※各楽曲の配信状況はリージョンやサービスごとに異なります。
※詳細は各配信サービスをご確認ください。

商品HP:https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/FFXVI/ost/

© SQUARE ENIX
LOGO & IMAGE ILLUSTRATION:©2020, 2022 YOSHITAKA AMANO

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