『下剋上球児』新井順子P×脚本・奥寺佐渡子が語る名作誕生のリアルな舞台裏 最終回の見どころも

特集・インタビュー
2023年12月17日
『下剋上球児』©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

鈴木亮平さん主演の日曜劇場『下剋上球児』(TBS系 毎週日曜 午後9時~9時54分)の最終回(12月17日放送)を前に、新井順子プロデューサーと脚本の奥寺佐渡子さんにインタビュー。脚本を作るに当たって取り入れたことや、最終回の見どころを聞きました。

本作は高校野球を通して、現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描く、ドリームヒューマンエンターテインメント。「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘 著)にインスピレーションを受け企画され、登場する人物・学校・団体名・あらすじは全てフィクションとなる。

12月10日放送の第9話で星葉高校にサヨナラ勝ちし、ついに決勝進出を決めた越山高校野球部。しかしいざ勝ち進んでも、甲子園出場には高額費用がかかることが判明。丹羽(小泉孝太郎)は地元の有力者たちを集めて皆で頭を悩ませていた。

そんなこととはつゆ知らず、南雲(鈴木亮平)の家で決勝へと決意を固める部員たち。三年生は皆、高校生活最後になるかもしれない試合、そしてその後の進路について思いを巡らせる。


◆今回、「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘 著)からインスピレーションを受けて企画されたということですが、どういった部分を本作に抽出されたのでしょうか?

新井:主に球児たちのキャラクターと、どうやって勝ったのかというところを抽出しました。越山高校のモデルとなっている白山高校は松阪商業という本作でいうところの賀門先生率いる星葉高校と、初めて練習試合した時に20対0で負けたというエピソードがあって。そこは2話の試合シーンで入れましたし、実際白山対松阪商業が戦ったのは決勝戦ですが、ドラマでは準決勝で入れたりとしていますね。奥寺さんはここ使ったぞと記憶しているところはありますか?

奥寺:やっぱり球児全体の印象です。高校球児って夢に向かって頑張るぞみたいな感じが多いと思うのですが、練習が嫌だからサボっていたりしてかわいいんですよ。仲間思いですし、非常に素朴な印象があったので、共感できるところもあって、そこは生かしていきたいなという思いがありました。

◆主人公の南雲が抱える、教員免許を持っていないという秘密が本作の一つの軸だったと思いますが、なぜここまで大きな秘密を抱えている主人公にしたのでしょうか?

新井:野球ものに限らず、学園ドラマはあまり先生に物語がないなと感じていて。多少、家族の問題などは取り上げられたとしても、1話ずつ今週はこの生徒の話、来週はこの生徒の話みたいな構成になりがちだなと。原案にはキャラクターのヒントとなるものはありますが、あらすじがあるわけではなくて。実際、原案には先生が教員免許を持っていないという設定はありませんが、本作の中でどうやって南雲先生を成長させていくかというところで、主人公である先生にも下剋上をしてもらおうと思ったんです。最終回では、そんな南雲先生から「人生はいつでも下剋上できるんだぞ」というメッセージを感じてもらえるんじゃないかなと思っています。

◆奥寺さんには南雲先生を描くに当たって第1話から一貫して意識されたことがあれば教えてください。

奥寺:南雲に限らず、大人も全員マイナスからのスタートにしようと。そして後半にかけて地域やコミュニティ全体でいくぞとなっていければいいなという構成にしました。

◆たくさんの反響が届いているかと思いますが、その中でも特に印象に残っている反響はありますか?

新井:球児キャストたちは実際に元球児ですが、引退してからかなり時間がたっていて。その期間が長い人だと5年ぐらい、一番短い人で2年間空いているという感じだったので、それがどういうふうに視聴者の方に見えるのかなと思っていました。ですが、きちんと球児として映っていたようで、野球ファンの方からも「フォームがいい」などの反響をいただけたのでよかったなと思います。

「すごく成長したな」という反響もあって。球児たちが1年生を演じている時の顔と、現在の3年生を演じている顔が全然違うと言われます。実際に私もそう思いますし、約4か月間撮影をしているので、演じ分けているのか、その時間の中で変わっていったのかは分かりません。

ただ、彼らがこのドラマのオーディションを受け始めたのが昨年の12月で、そこからたぶん彼らは野球練習をスタートさせていると思うと丸1年という月日がたっているんです。8話に「もう終わっちゃうのかな」というせりふがありましたが本人たちの中にも、もうちょっとやれたらいいなみたいな感覚があって。本当の学生生活のように、部活に来ている感覚があるのか、最後までの撮影スケジュールが出てきた時はみんなが「終わるんだ」という気持ちになって、あと何日と計算しながら現場に来ていたり、その寂しさやいろんな思い出があいまってすごくいい表情になっているなと感じます。本人たちも8話は「エモい」と言っていました(笑)。

本人たちもすごく視聴者の方から直接反響をいただいているようで、毎日「フォロワーが何人になりました!」とか言いに来たり、もう少年のようですね(笑)。

◆さまざまな反響の中で、付け加えたシーンや変更したシーンはありましたか?

奥寺:オンエアが始まった時点で、既に後半の脚本を書いていたので…。

新井:最終回の試合シーンでは反響を交えたワンシーンがあるので注目してもらえたら。

奥寺:どういう反響が来るのか全く予想がつかなくて。それこそ、野球好きな人が見るのか、ドラマ好きな人が見るのかも想像がつかなかったんです。ただ、「野球が分からないけど面白い」と言ってくださる人がいてそれにホッとしました。

◆野球が分からない方でも、面白く感じられるようにというのはどういったところを意識されたのでしょうか?

奥寺:気持ちで見られるようにというのは意識していました。野球もドラマの一部で、その試合の中で気持ちがどう変わるのかということはきちんと作らないと、きっと野球が分からない人は置いてきぼりになっちゃうよねというのはよく話していました。

『下剋上球児』©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

◆脚本の制作から撮影を通して、ここが一番難しかったなと感じているところはありますか?

奥寺:これは試合の内容です。野球はすごく複雑で高度なスポーツなので、一球、一打席で勝敗の流れが変わってしまう。その2時間の試合をどうダイジェストしていったらいいのかというのは手探りでした。

◆実際どういうふうに進められたのでしょうか?

奥寺:実際、野球経験のあるスタッフさんや監督たちと話し合って、配球などの細かいところまでは考えられなかったので、それはきちんと分かっている方に託しました。なので、全員野球で作っています。台本になって、さらに現場に入ってからも、またいろんな要素をやってくださっているので、どの試合もものすごい人数が関わっています。

新井:奥寺さんがここでこういう気持ちになるとか、ここでこういうせりふを言う、ここで試合が逆転すると書いてくださっているものを見て、監督と野球が分かる助監督が6時間ぐらいかけて、「ここで楡がこの打順でこれを打つから、打順はこうしよう」と話し合って。「ここでライトに打撃が飛ぶ」と書いてあった時に、現場で打ったらレフトに飛んだみたいなことがあったんです。なかなか思ったところに飛ばすことは難しくて、最初の方はレフトに飛ぶまで10球でも20球でもやっていたのですが、だんだん打って飛んだところで、実況の方を変えていこうとなりました。

アナウンサーさんの実況がないと見ていて、「今どういう状況?ピンチなの?チャンスなの?」と分からないなと。実は1話は実況がなかったので、今がどういう状況なのか、あまり分からなくて。それで、奥寺さんが2話にラジオを入れたいと提案してくださって入れることになったんです。

奥寺:実況がないとなかなかダイジェストにもしづらいなと。

新井:それで2話では犬塚さん(小日向文世)のせりふで「ラジオ中継するよ」と入れたんです。それで実際、実況があるとないとでは全然違うとなって、試合シーンには全て実況を入れることになりました。この実況は一応叩きがあるのですが、アナウンサーの方が当日やってきて、その場で試合を生で実況してもらいました。

◆脚本を執筆される際に、楽しかったシーンはありますか?

奥寺:無駄話を書くのが好きなので、意味のない話を延々としているみたいなシーンは書いていて楽しかったですが、やっぱり球児の人数が多いので、なかなか全部書けなくて…。そこに現場でさらにアドリブを足してもらったりしていたので、いつも仕上がりを見るのが楽しみでした。

◆こんなふうになったんだというアドリブもありましたか?

奥寺:あります。脚本は基本、こういう話ですよみたいなことを1行ずつ順番にしか書けないんですよ。でも高校生って、わっと一斉にしゃべる印象があって。人の話を聞かずにちゃちゃを入れる人とか、そういったことは現場でやってもらっていました。

◆これまでも数々のヒット作品を一緒に手がけられてきていますが、その中でお互い常に心がけていることや、本作ならではのこだわったことは何でしょうか?

新井:このドラマに関してはドラマ的な、劇的なことはやらないようにということを奥寺さんがよく言っていたような気がします。

奥寺:そうかもしれません。でも、結果的にドラマっぽくなっていると思います。

新井:私が「例えばこういうのはどうですか?」と言った時に、「いやいや、そんなの現実ではないですよ」みたいなこと。

奥寺:現実でありそうだけど、ドラマとしてはちゃんと見てもらえるみたいなラインを探っていったかなとは思います。

◆今回、奥寺さんのインスピレーションで、球児たちの卒業後の進路が決まったと塚原監督がインタビューで話されていましたが、 脚本執筆に当たって、どういうふうに球児たちと会話をして、台本に落とし込まれていったのでしょうか?

奥寺:実はそんなに会話できる時間があまりなかったんです。むしろ現場で撮影中に「どういう表情がいいよ」「どういうお芝居がすてきだよ」「この役者さん、こういう感じだよ」というネタをもらって、それを脚本に反映していくということが多かったです。

新井:衣装合わせの日に1人5分ぐらいずつしゃべったんですよね。

奥寺:その時点で脚本を3話ぐらいまで書いていたのですが、そのイメージにピッタリな人が来て、あまりにもピッタリですごく驚きました。オーディションで役者さんを選ぶってこういうことなんだなと分かりました。

新井:こういうせりふを言うというのがあったのでそれも加味しつつ、本人たちの素材で選んでいたので、自然と当て書きになっている感じになりました。

◆球児の皆さんとはどんな会話をされたのでしょうか?

奥寺:こちらからはキャラクターの説明したのですが、書いている最中だったのでプレイヤーがどういう気持ちなのかを取材させていただきました。みんな野球をやり込んでいる人なので、心して書かないといけないなという気持ちが大きかったです。

◆台本から出てきたみたいと感じた方はいらっしゃいましたか?

奥寺:翔君(中沢元紀)もそうですし、楡(生田俊平)はよく楡がいたなと驚きました。

◆オンエアをご覧になって、感心されたシーンや想像を超えたシーンはありましたか?

奥寺:やっぱり試合です。試合の迫力が想像以上なんてものじゃなかったです。プレーのうまさやフォームの美しさに目を奪われてしまうというか、技術的なところに目がいってしまって、内容が頭に入ってこないことがあって、いつも3回ぐらい見直しています(笑)。

◆奥寺さんは台本でイメージしていたキャラクターより、より魅力的なキャラクターに見えた方はいらっしゃいますか?

奥寺:それは全員です。でも、鈴木亮平さんは素晴らしかったです。南雲先生という人物が矛盾もあって、いろんな要素を抱えているんですけど、先生をやっている時も、無職の時も、監督やっている時もきちんと一人の人間の中にその要素が入っていて素晴らしいなと思いました。みんなに叩かれている時に体が小さく見えたのはすごかったです。

◆新井さんは想定を超えていったキャラクターや印象的なキャラクターはいますか?

新井:一番変わったなと思うのは椿谷(伊藤あさひ)です。まさかキャプテンになるとは。

◆それは伊藤さんの演技も相まってというところもありますか?

新井:日沖役の菅生(新樹)君、富嶋役の福松()君がいなくなったぐらいに、その次にキャプテンとなる椿谷役の伊藤あさひ君に「キャプテンなので仕切ってほしい」とお願いをしました。伊藤君は意識的にも、現場にいる時は演じていないところでも、キャプテンとして振る舞わなきゃいけないみたいなところはあったんじゃないかなと。実際に控え室でどういうふうに過ごしていたかは分からないですが。だから、きっとそういうところで伊藤君はどんどん表情が変わっていたのかもしれないです。

奥寺:1話とは顔つきが全然違っていましたもんね。びっくりしました。

新井:久我原役の橘(優輝)君とか、楡役の生田君とかはそんな変わっていないんですよね。自分の思うように、自分のままに生きているようなキャラクターでもあったので。翔君も表情が変わりましたね。彼はアカデミーに1か月通い続けて、アカデミーの先生に「いいフォームだ」と褒められたり、監修の方も「こんなにうまくなるとは思わなかった」と言われていてすごく努力したんだなと。やはり特に現3年生のキャストは現場に一番長くいるので、亮平さんに「このシーンは何でこういうことを言うと思う?」「今の芝居こうだったよ」と声を掛けてもらって、本当の学校みたいな感じに亮平さんや黒木(華)さんから得るもので成長しているなと感じました。

『下剋上球児』©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

◆山住先生(黒木華)のせりふの中に野球漫画の「ストッパー毒島」が出てきてSNSでもかなり話題になっていましたが、さまざまな野球を題材にした作品がある中で、この「ストッパー毒島」をチョイスされたのはどなただったんでしょうか? また実際に漫画を参考にされたこともあったのでしょうか?

奥寺:「ストッパー毒島」は私が読んでいる数少ない野球漫画の一つで(笑)。山住先生の年代にも合うかなと思って入れました。

新井:現場では野球漫画を読んだり、コーチングの仕方みたいな本も。あとは、それこそ「タッチ」とか、「MAJOR」とか、「おおきく振りかぶって」「ROOKIES」みたいな有名どころもそうですけど、そういったところから試合を見て、どうやって試合を撮ったらいいんだろうみたいなのは、我々だけじゃなくて、助監督さんやカメラマンさんも研究していたんじゃないかなと思います。

奥寺:私はむしろ、野球部の実況に密着した動画や監督インタビューなども参考にさせていただきました。

◆さまざまな作品で奥寺さんとご一緒されてきたと思うのですが、奥寺さんの脚本の魅力はどんなところにあるなと思われていますか?

新井:せりふが素晴らしいですよね。塚原監督も取材で言っていましたが、優しいという表現がぴったりで、何げないひと言がグッとくるというか。一方で演出がとても難しいんです。せりふ一言の意味を理解できないと、全体に違和感が生じてくる…。そんな台本に出会えることはなかなかないので、とても面白いです。

奥寺:分かりやすく書きます(笑)。

新井:例えば、試合に向かっている途中、車に引かれて救急搬送されるとか、崖から落ちてたどり着けるのかとか、よくあるじゃないですか。実は、9話の準備稿では試合に向かっている車が途中の山林で故障して、携帯が圏外でどうしよう!たどり着けないかも!続く!となっていたんです。私が無理に入れてもらったんですけど、しばらくたって、決定稿打ち合わせの時にこれいる?となって(笑)。実際、原案で練習場に向かう時にバスが壊れて、近くの学校に頼み込んでバス貸してもらったというエピソードがあったので、そういうハラハラも必要かなと思って入れてもらったんですけどね。

奥寺:10話まで書いたら、バスのトラブルを描く余裕がなかったんです。

新井:そうなんです。きっと視聴者の皆さんは将来球児たちがどうするのかに興味があると思って。部活は引退したら終わりですが、学校は卒業まで終わりではないじゃないですか。この“ザン高”と言われている生徒たちがどうしていくのか。「野球するために学校に来たっていい」と言われていた球児が、野球が生きがいになって、引退を迎えたときにどんな思いになるのか?何か将来に見つけられるものがあるんだろうかということを、最終回にやろうと思っています。

◆お2人がテレビドラマを制作する上で大切にされていることは何でしょうか?

新井:奥寺さんは、映画とドラマの書き分けはされていますか?

奥寺:映画はみんなが集中して見てくれるものですが、ドラマは何かをやりながら見たりすることもあると思っているので、映画よりももう少し説明しなくてはいけないなと思ってはいるんですけど、なかなか説明が下手くそで…。でも、次もまた見てもらえるように、楽しんでもらいたいなということはあります。

新井:キャラクターの成長ですよね。1話から最終回まで同じままではなくて、何かしら変わっている感じがほしいなと思っています。

奥寺:毎週この人たちに会いに来てもらえたいですよね。今回は特に球児たちだけでなく、南雲先生も含めて成長を見届けてほしいなというのがありました。

◆最終回の見どころを教えてください。

奥寺:南雲監督自身も高校時代に決勝戦で負けているという苦い思い出があって。ここで生徒たちは二度目のチャンスを与えてもらって。仙台育英の須江(航)監督も言っていましたけど、「人生は敗者復活戦」みたいなところかなと思います。

新井:野球のその先にあるものが何なのかを見てほしいです。勝ち負けはさておき、試合中のやりとりだったり、それは試合の内容ではなくて、試合の中で生まれる感情から、南雲先生を含めた彼らがどういう道を歩んでいくのかというところです。 このドラマを見て少しでも野球に詳しくなった方がいたら、もう一度1話を見ると違うように見えるかもしれません。

奥寺:メンバーの顔が全員分かった状態で見るのも違って見えるかもしれませんね。

『下剋上球児』©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

番組情報

日曜劇場『下剋上球児』
TBS系
最終回:2023年12月17日(日)午後9時~9時54分

<キャスト>
鈴木亮平、黒木華、井川遥、生瀬勝久、松平健、小泉孝太郎、小日向文世 ほか

<スタッフ>
原案:「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘 著)
製作:TBSスパークル、TBS
脚本:奥寺佐渡子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山室大輔、濱野大輝、棚澤孝義
編成:黎景怡、広瀬泰斗

番組公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/
番組公式X(旧Twitter):@gekokujo_kyuji
番組公式Instagram:@gekokujo_kyuji
番組公式TikTok:@gekokujyo_tbs

TVer:https://tver.jp/series/srrrunwfun
U-NEXT:https://video.unext.jp/title/SID0094805

©TBSスパークル/TBS 撮影:ENO

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