スタジオコロリドの長編アニメーション第4弾となる映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』が、2024年5月24日(金)よりNetflix世界独占配信&日本劇場公開された。本作は、“嫌われたくない”高校生の男の子・八ツ瀬柊(やつせひいらぎ)と、“嫌われてもいい”鬼の少女・ツムギが織りなす青春ファンタジー。
ある日、柊がひとりの少女と出会うことから物語は始まる。幼い頃に消えた母を探しに人間世界へとやってきたツムギの旅に柊も同行し、2人は心を通わせていく――。そんな本作について、柊を演じる小野賢章さんとツムギを演じる富田美憂さんにお話をうかがいました。
◆スタジオコロリドの最新作ということで、多くの方が楽しみにしています。まずは、本作の印象や注目ポイントをお聞かせください。
小野:この作品は、それぞれに悩みを抱えた少年少女たちがいろいろな人と出会うことで、自分がどうしたいかを見つけていく過程、成長していく姿を丁寧に描いています。観ていて心があたたかくなりました。誰しもが抱える悩みは共感できるでしょうし、なおかつファンタジー要素もあるので、どの世代の人も楽しめると思います。それこそ、いま悩んでいる人に観てもらって、勇気に変えていただけたらうれしいです。
富田:親世代の方々にもぜひ観てもらいたいですね。観る方の年代によって柊やツムギに共感できる人もいれば、親目線で感じることもあると思いますから。私も共感できる部分がたくさんありました。家族や友達と一緒に観て、勇気をもらってほしいです。
◆映像としての見どころはいかがですか?
小野:完成したものは(インタビュー時点では)まだ見ていないのですが、僕はスタジオコロリドさんの『泣きたい私は猫をかぶる』にも出演させていただき、そのときから日常の中にファンタジーを落とし込んでいくのが上手だなと感じていました。僕が言うのもおこがましいですけど、すごく自然に非日常が紛れ込んでいるので、実際にあるんじゃないかと思わせてくれる映像なんです。それを今回も感じました。
富田:日常の風景はもちろんですけど、隠(なばり)の郷の雰囲気やユキノカミのぐにゃぐにゃ動く感じを劇場の大きいスクリーンで見たら、すごく胸に来ると思います。私も劇場で観るのが楽しみです。
◆そのような本作で、柊とツムギをどのように演じたのでしょうか?
小野:ことし35歳になる僕からすると、高校1年生の柊は20歳ぐらい年下になるので、大丈夫かなと最初は不安でした(笑)。柊は気持ちを言葉にするのがちょっと苦手だったり、友達を作るための行動が空振ってしまったりする男の子で、どの家庭にもあるような親子の問題も抱えています。同じ悩みを持った少年少女が全国にたくさんいるだろうなと思ったので、“この癖を強くする”とかはせずに、本当にどこにでもいる男の子になるように演じました。
富田:私も、ツムギは“鬼だから”とキャラを作り込みすぎないようにして、そのまま出たものをやろうと思いました。それと、ストーリーに書いてある通り、彼女は小さい頃にお母さんがいなくなってしまったので、セリフや行動の端々にほかの家族へのうらやましさや寂しさが出たらいいなと思って演じています。劇中に、柊のお母さんに髪の毛をといてもらうシーンがあるのですが、ツムギはこういうことをあまりされたことがないと思うんですよ。「ちょっとむずがゆい感じを出してください」とディレクションいただき、そこはすごくこだわりましたね。
◆富田さんはお母さんと仲が良いとよく話していますが、髪をとかしてもらったことも?
富田:はい。昔は髪の毛がすごく長かったので、毎日違う髪型にしてもらっていました。小さい頃、ゲームセンターで取ってきたバラのコサージュみたいなものを髪につけたいとゴネたらしく、髪につけるものじゃないのにお母さんがどうにかつけてくれたこともあったそうです。でも、ツムギはお母さんとずっと会っていないから「お母さんはきっと嫌な人」と思っている節があるんですよ。実は私も父親とは仲が悪かったので、その気持ちは共感できました。ツムギのお母さんに対する気持ちは、自分の父親を思い浮かべながら演じていましたね。
◆柊とツムギは対比的なキャラクターで、掛け合いも多いです。掛け合いの中で意識したことを教えて下さい。
小野:この作品に限らず、相手のセリフをしっかり聞いて会話することをいつも心がけています。序盤のツムギは天真爛漫で元気。柊との対比がよく出ていますので、富田ちゃんの演じるツムギに振り回されるように、発してきたものをしっかり受け取れるように意識しました。能動的ではなく受動的といいますか。物語が進むにつれて、柊も自分がやりたいことを素直に行動に移せるようになっていきます。その対比も会話の中で出せたらいいなと思っていました。ただ、キャラクターがとても分かりやすく描かれていて、台本の流れに沿っていたら自然とできた気がします。
富田:私はどちらかと言うと、“言葉を声に出して発する”よりも“頭の中で考えすぎちゃう”タイプ、モノローグが多いタイプなんですよね。でもツムギは、思ったことをすぐにバン! って相手に投げることができるので、そこはすごく意識しました。
◆柊とツムギのコミュニケーションは率直にどのように感じましたか?
小野:ツムギが顕著ですけど、距離感の詰め方が子供ならではのスピードですよね。でも、色恋の話になると、2人は子供らしく“好き”が認識できないところもあって。大人の自分が改めて演じると、これが甘酸っぱさだよなと感じました。それを演技にしっかりのせられたら、と思いましたね。
富田:確かに、ツムギは誰に対しても距離近めにスタートする子で、そこに若さをすごく感じます。賢章さんもおっしゃっていた通り、彼女たちの甘酸っぱさを見て、自分も大人になってしまったと感じることが端々にありましたね(笑)。
◆余談ですが、植物の「柊」は魔除け・厄除けの効果があると言われていて、別名が「鬼の目突き」、花言葉が「あなたを守る・用心深さ」ですから、ピッタリの名前ですね。
富田:え〜! すごいです!
小野:(演じる前に)それを教えてくれればよかったのに(笑)。本当にキャラクターそのままを表している感じがしますね。
富田:ツムギも由来があるなら知りたいです。
◆ほかのキャストとは収録が別だったそうですが、映像を観てさすがだなと思った方をあげるなら誰でしょうか?
小野:この作品はロードムービー的な要素もあり、たくさんの人と出会います。1人1人みんなが印象的で、「こういう人、絶対にいるよな」と思わせてくれるような人たちばかりなんですよ。それはキャラクター像を作り上げたスタッフさんたちの力と同時に、役者のみなさんの力のおかげだとすごく思います。個人的には、旅館の主人を演じている斎藤志郎さんとは『ハリー・ポッター』でも近い関係性の役を演じていて、今回もお茶目で安心感のある声だなと感じました。
富田:カフェのオーナーさんとかも、「本当にこういう人いますよね!」って感じるんです。ツムギ的にはやっぱりお父さんとお母さんがとても印象的でした。先に2人が収録されていたので、私は2人の声を聞きながらできたんですけど、本当にあったかくて両親ってこうだよなと感じました。三上(哲)さんのお父さんがカッコいいんですよ!
◆楽しみですね。お母さんを演じるのは日髙のり子さんですし。
富田:そうなんです。日髙さんのラジオには何度か出演させていただいたことがありますが、同じ作品に出演するのは初めてだったので、すごくワクワクしながら収録しました。
◆柊は「嫌われたくないため、気持ちにふたをする・本心を隠すタイプ」、一方のツムギは「思ったことを口にしちゃうタイプ」です。おふたりはどちらのタイプに近いですか?
富田:柊タイプです。
小野:僕も柊タイプかな。昔はツムギタイプの部分も持ち合わせていたと思いますが、大人になって自分で消化できることが増えたこともあり、我慢して言わないのではなく、「自分で消化できるなら表に出さなくてもいいか」となりましたね。自分1人で仕事をして完結するなら言いたいこと言えばいいし、やりたいことやればいいと思うんです。でも、大多数の人は1人で仕事をしているわけではなく、社会で生きていく中で、それを言うことが必要かどうかジャッジしていかなきゃいけない。これが大人になることだなって思います(笑)。
富田:私は3人姉弟のいちばん上ですし、10代の頃から仕事をしているのもあって、「しっかりしなきゃ!」って気持ちが強かったんです。あまりワガママを言わないようにしようと無意識に思っていました。大人からみると、すごくかわいげのない子供だと思われていたかもしれません。でも最近は、私も「言っちゃダメだ」よりも「別に言わなくていいかな」って気持ちが強くなりました。言わなければ丸く収まると、見極められるようになってきたといいますか。甘えてもいいかなってときはちょっとワガママを言いつつ、言うべきじゃないときは言わない……その線引きができるようになった気がします。
◆最後に、山形出身者としてぜひお聞きしたいのですが、本作の舞台である山形の印象はいかがですか?
富田:さくらんぼ(笑)!
小野:米沢牛(笑)! 山形に行ったことはまだないですけど、せっかくこの作品に参加できたので行ってみたいですね。山形で舞台挨拶とかあったらいいですし、これをきっかけに山形が少しでも盛り上がったらうれしいです。
富田:私も行ったことがないので、作品を通して足を踏み入れられたらうれしいなって淡い期待を持っています。
◆機会があればぜひ! 劇中には山形にまつわる食べ物や花も出てきますから。
小野:分かる人は分かるんですね。そういうところにもこだわりが詰まっている作品なので、ぜひご覧いただけたらうれしいです。
富田:よろしくお願いします!
●text・photo/千葉研一
PROFILE
小野賢章
●おの・けんしょう…10月5日生まれ。福岡県出身。
富田美憂
●とみた・みゆ…11月15日生まれ。埼玉県出身。
作品情報
映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』
2024年5月24日(金)よりNetflixにて世界独占配信&日本劇場公開
【スタッフ】
監督:柴山智隆
脚本:柿原優子/柴山智隆
キャラクターデザイン:横田匡史
キャラクターデザイン補佐:近岡 直
色彩設計:田中美穂
美術監督:稲葉邦彦
CGディレクター:さいとうつかさ
撮影監督:町田 啓
編集:木南涼太
音楽:窪田ミナ
音響監督:木村絵理子
配給:ツインエンジン・ギグリーボックス
企画・製作:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
【キャスト】
八ツ瀬柊:小野賢章
ツムギ:富田美憂
ほか
【ストーリー】
高校1年生の柊(ひいらぎ)は、“みんなに嫌われたくない”という想いから、気づけば“頼まれごとを断れない”性格に。毎日“誰かのために”を一生懸命にやってみるも上手くはいかず、親友と呼べる友だちがいない。
季節外れの雪が降った夏の日、柊はツムギに出会う。また頼まれごとを頑張ってみたものの、何かが上手く行かず「なんだかな」と思いながら家に帰る途中、泊まるあてがないというツムギを助けるが…その夜、事件が起きる——。
とあることで、お父さんと口論になりそうになるも、 “本当の気持ち”を隠してしまった柊。「なんだかな…」という気持ちを抱えながら、部屋で居眠りをしてしまうが…寒さで目を覚ますと、部屋が凍りついていて⁉
さらには、お面をつけた謎の化け物が襲い掛かってきて—…
異変に気付き、助けに来たツムギとふたりで部屋を飛び出す。
一息ついた先でふとツムギの方を見ると…彼女の頭には“ツノ”が⁉
ツムギは自分が鬼で、物心つく前に別れたお母さんを探しにきたという。そして、柊から出ている“雪”のようなものは、本当の気持ちを隠す人間から出る“小鬼”で、小鬼が多く出る人間はいずれ鬼になるのだと…。
柊はツムギの「お母さん探しを手伝ってほしい」という願いを断り切れず、一緒に旅に出ることにするのだが—…。
時を同じくして、ツムギの故郷・鬼が暮らす“隠の郷(なばりのさと)”でも事件が起きていて──。
©コロリド・ツインエンジン