「人を笑わせるためならコスパなんて気にしちゃダメだよな」トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行【第32回】

特集・インタビュー
トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行
2024年07月03日

お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回はサンシャイン、そいつどいつ、かが屋、そしてトンツカタンの4組によるユニットライブの話。(TVLIFE 2024619日発売号より転載)


人を笑わせるためならコスパなんて気にしちゃダメだよな

5年ほど前からよしもと幕張イオンモール劇場で『Tokyo Emotional Conte』というユニットライブを隔月で行なっている。メンバーはサンシャインさん、そいつどいつ、かが屋、トンツカタンの4組。元から仲良くさせてもらっていたが、このライブが発足してから絆もさらに深まり、毎回幕張から『美味しいものしりとり』をみんなでしながら電車で帰るほどだ。

そんな中、諸事情により先日初めて幕張を飛び出して恵比寿の劇場で公演をやることになった。メンバーのほとんどが東京在住のため、幕張に比べてかなりアクセスの面では近づいたという旨の話を楽屋でしていると誰かが「そういえばお抹茶は近くなったの?」と尋ねた。何を隠そう相方のお抹茶は埼玉の奥地に住んでおり、幕張でやっていた時は誰よりも早く違う方面の電車に乗って離脱していた。

「実は今日一本で来れたんだ」

お抹茶が照れくさそうに答える。周りの芸人たちも「本当によかったね」と背中をトントンと叩いた。5年も同じメンバーでやっていると劇場のアクセスが良いだけでこんなにも暖かく喜んでくれるのかよ。その流れでまたしても誰かが「ここまで何駅だった?」と聞いた。

「35駅」

ほぼ旅行だった。一本で来れたというミスリードにまんまと翻弄されていたのだ。あまりの遠さに思わず楽屋も大盛り上がりし、この流れをぜひオープニングトークでやろうということになった。そこからはお抹茶、サンシャインのぶきよさん、かが屋賀屋、そいつどいつ市川がメインメンバーとなりその流れを何回も練習していた。ネタ合わせをする度にこのくだりがブラッシュアップされていき、最終的にはブルゾンちえみwith Bのネタをアレンジして「35億」の代わりに「35駅」と言うことになった。ああでもないこうでもないと意見を出し合いながら全力でオープニングトークを仕上げる4人。それぞれのコンビトリオのネタ合わせをおろそかにしてしまうほど熱心に取り組んでいた。

あっという間に開演時間が迫り、全員が舞台袖へと集まる。「折れずにやりきろう」「俺たちなら大丈夫」「練習を思い出して」。例の4人からは賞レースの予選みたいな緊張感が漂う。そして迎えた本番。

「どうもー!!!」

練習通り、駆け出しのような元気で好感の持てる登場をするメンバー。初めての人前で若干ペースの乱れはあるものの、例のくだりが始まった。「お抹茶は遠かった?」「一本で来れたんですよ」「何駅?」「35駅」。

ここで想定通り会場が笑いに包まれた。そしてここから入念な稽古を重ねたブルゾンパート。突然の出来事と奇数のwith Bに初めはお客さんも動揺していたものの、見方がわかってからは渦巻くようにウケて、見事最後は拍手喝采で終わった。喜んで抱き合う4人。芸歴10年を超え、良くも悪くも少し落ち着いてしまったような自分がいたが、笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねる彼らを見て、今後どんなにブレイクしたとしてもこの気持ちは忘れずにいなければなと思った。ただ、その後調子に乗ったみんなが練習してないくだりを一か八かでやり始めたらとんでもない空気になっていたのでオープニングトーク全体としては

35点。


森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。

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