お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、“お笑い怪獣”と初共演した話。(TVLIFE 2024年9月4日発売号より転載)
怪獣は今日も戦場で大暴れ
先日初めて『さんまのお笑い向上委員会』に出演させていただいた。向上ゲストのヤーレンズさんをよく知る人物ということでトンツカタンから僕とお抹茶が呼ばれた。ヤーレンズさんには頭が上がらない。
さんまさんと初めての共演ということで嬉しい反面、いわゆるバラエティの戦場で結果を残すことができるのかという不安も入り混じった感情が渦巻いていた。
事前のリモート打ち合わせを終え、お抹茶と番組の最後にやる予定の閉店ガラガラを考えていたらあっという間に収録の前日を迎えた。するとマネージャーから驚きの報告が。
「さんまさんの喉の調子が芳しくないのでもしかしたら明日の収録をお休みするかもしれません」
初めての『さんまのお笑い向上委員会』がさんまさん不在のイレギュラー回になりかけている。もちろんさんまさんの体調が最優先なので、いつかまたご本人がいらっしゃる時に出られるように引き続き全力で収録に臨もうと決意を固めた数時間後にまたしてもマネージャーから連絡が。
「喉こそ不調ですがさんまさん、収録にこられるそうです!」
一体この数時間でなにがあったのだろうか。とは言え、一度は諦めかけたさんまさんとの共演が実現する喜びはひとしおだった。
そして本番当日、スタジオに現れたさんまさんはスケッチブックを取り出し、ひな壇の我々に掠れたお声で
「声の調子悪いからフリップ書いてきてん」
と言って見せてくれた。なんとおよそ20枚にも渡るおもしろ文言が直筆で書かれていた。一枚一枚紹介していく度に笑いとツッコミが飛び交い、どんどん現場が盛り上がっていく。さながらさんまさんのピンネタを特等席で見させてもらっているような贅沢な時間だった。
こんなこと想像するのもおこがましいが、僕がさんまさんだったら絶対にこの日の収録を休んでいる。ましてや収録に向けて手書きのフリップを量産しようなんて考えにすら至らない。でもさんまさんはこの状況を逆手にとって全てを笑いに変えてみせた。お笑い怪獣と呼ばれる所以をまざまざと見せつけられた。この人は一体いつ手を緩めるのだろうか。
結局序盤で紹介してからはフリップをほとんど使わずいつも通り縦横無尽に進行をしており、なんなら終盤には少し声が出るようになっていた。なんでなんだよ。おそらく医者も説明できない治し方だと思う。
僕はというとひな壇でケタケタ笑っていたら収録が終わっていた。戦場に赴く前に平穏が訪れていた感覚だ。次こそは戦力になれるよう、少しずつ向上していこう。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。