人気オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、FFXIV)の最新拡張パッケージ『黄金のレガシー』のサウンドトラック『DAWNTRAIL: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』が、2024年10月30日(水)にリリース。本作には、主題歌「Dawntrail」をはじめ、フィールドや討滅戦などの全66曲が収録されている。今回は『FFXIV』のサウンドディレクター兼コンポーザーの祖堅正慶さん、コンポーザーの今村貴文さん・石川大樹さん・矢崎早彩さんにインタビュー。全体コンセプトのほか、数ある楽曲のなかからいくつかの楽曲をピックアップし、解説してもらいました。
コンセプトは「新しく始まる感」
◆最初に、『黄金のレガシー』の音楽面におけるコンセプトを教えてください。
祖堅:今回から新章になるということで、開発チームからは「新しく始まる感が欲しい」というリクエストがありました。また、ゲームの内容的に今回はさまざまな民族文化が入り乱れる新大陸が舞台なので、それに追従する形でバラエティ豊かな音楽を用意する必要があると思ったんです。それを軸に音楽を作っていきました。
◆なるほど。
祖堅:具体的な制作面では、いつもだったら自分がやるようなところも、若手の後輩たちに多くのタスクを渡して作ってもらいました。もちろん自分でも曲を作っていますが、僕はサポートという側面が今回は強かったですね。
◆今までやってきた積み重ねを踏まえて、後輩たちに任せられるだろうと思った。
祖堅:そうですね。石川・今村に関してはもう4年ちょい『FFXIV』の制作に関わっていますし、矢崎も2年ちょっとやっているので、『黄金のレガシー』の音楽を作っていくうえで、もう準備はできていると思い、ドーンと丸投げしちゃいました(笑)。そしたら、いい結果を出してくれましたね。
◆今村さん・石川さんは4年以上関わってきて、今回、任せられる範囲も多くなったと思いますが、自分自身で成長を感じたり、経験が活きていると感じたりする瞬間はありますか?
今村:いま祖堅さんのお話を聞いていて、4年も関わってきたという事実に驚いています。とにかく血眼になって必死でタスクをこなし、気が付いたらここに立っているという感じなんですよね。なので、成長しているかどうかも正直分からないです(笑)。ただ、間違いなくたくさんの経験を積ませていただきましたし、自分の曲が光の戦士(『FFXIV』プレイヤーの愛称)たちの新しい冒険の支えになったらいいなという気持ちはあるので、今回も気合を入れて作ってはいました。
石川:今村さんと同じく、本当に全速力でやってきたので、もう4年も経ったのかという驚きが大きいです。一方で、僕は結構成長を実感する瞬間があって。例えば、パッチ5.0からここまでの積み重ねのなかで、自分の曲がSNSなどで「BGMよかった」と言っていただけることが増えたんです。そういう反応を見ていると、祖堅さんに鍛えていただいた力が徐々に形として表れてきたのかなと思えるんですよね。特に今回は、今の実力を最大限に活かしてアウトプットできたと感じています。
◆今回のサウンドトラックを聞いていて、今村さん・石川さん節を私は感じました。
石川:えっ、本当ですか!
今村:“節”いましたか(笑)。よかったです。
◆矢崎さんは入社してから2年が経つというお話でしたが、入社前は音楽関係の仕事に関わっていたのですか?
矢崎:実はそうでもなくて。部活動や趣味で音楽をやっていましたし、中学生の頃は音楽関係の仕事をしたいと思っていましたが、高校生になってから、それは狭き門だということを知り、私には無理だろうと諦めて、音楽をあまりやらなくなっていたんです。
◆では、何かきっかけがあって、ゲーム音楽を作る仕事をやりたいと思うようになったんですね。
矢崎:はい。私、8年ほど前から『FFXIV』をプレイしているんです。大人になってから、こんなにハマるゲームに出会えると思っていませんでした。『FFXIV』は、ゲーム内容はもちろんですが、コミュニティも素晴らしいんですよ。ファンアートもすごく盛んで、私もそれに触発されて音楽のファンアートをやってみようかなと取り組み始めたんです。その気持ちが強くなっていき、次第に『FFXIV』の音楽を作りたいと思うようになりました。
◆『FFXIV』がきっかけだったんですね!
矢崎:そうなんです。ゲームの世界ってこんなに面白いんだと思いましたし、ゲーム音楽の素晴らしさや魅力も『FFXIV』で知りました。そうして憧れ始めて、いろいろと勉強して今に至るという感じですね!
◆矢崎さんの熱意が伝わったんですね。
祖堅:もちろん熱意もありましたが、矢崎はちゃんとある程度のスキルを身に着けてきたんですよ。昼間は仕事をして、夜は専門学校に行って音楽について学んだらしいです。なかなかそこまでできるやつはいないですよ。
◆想いだけでなく、実際に行動をしてスキルも身に着けていらっしゃったんですね。尊敬します。そんな矢崎さんは、得意分野はありますか?
矢崎:この仕事をやっていたら、得意というのが恥ずかしいのですが……(笑)。ただ、ずっとピアノをやっていたので、このメンバーのなかだとそこは割と活かせる部分なのかなと思っています。
蛮神戦楽曲の制作意図
◆実際に収録されている楽曲についてお聞かせください。まずはメインテーマの「Dawntrail」から。
祖堅:開発チームからは「夏休み感、明るいのがいい、わーわーしている感じで」というオーダーがあり、その通りに作ろうと思っていました。ただ、サントラのコメント(今作Blu-rayの本編映像再生中に読める、各曲のミュージシャンズコメント)にも書きましたが、どうやら僕はこういう真面目に明るい曲を作るのが苦手みたいでして……。
暗い曲とか、逆境に立たされて奮い立つときの曲とか、そういうのは得意なんですけど、底抜けの明るさ・太陽みたいなイメージの曲を作るのは得意じゃないみたいです。なので、制作が大変ではありましたが、最終的には(演奏している)THE PRIMALSが何とかしてくれました(笑)。
◆続いて、他のお三方が制作のなかで印象に残っている曲を教えていただければと思います。
石川:どれもこれも印象に残っていますね。
今村:この3人が共通している楽曲でいえば、蛮神の曲かな。
◆では、それぞれが制作した蛮神の曲についてお聞かせいただければと思います!
矢崎:私は「The Skyruin ~ヴァリガルマンダ討滅戦~」の編曲を担当しました。この曲はメインテーマの「Dawntrail」と「山峡の涼風 ~オルコ・パチャ:昼~」の楽曲のアレンジをミックスして入れているんです。ただ、「オルコ・パチャ」の曲はそこまでの激しさはないので、最初はもう少しテンションが軽めのアレンジで作っていたんですよ。そしたら祖堅さんから「蛮神戦の曲はこれじゃだめだ」と言われて、めちゃくちゃ迫力を足したんです。
◆蛮神戦らしいアレンジにしたというか。
矢崎:そうですね。特にヴァリガルマンダ討滅戦って、フェーズごとにフィールドや使ってくる技の属性が変わるので、楽曲にもそういうイメージを取り入れたいと思ったんです。序盤は激しかったり、途中はしっとりして氷や雪っぽさを入れたりと、コンテンツが絵替わりする感じを曲でも表現したいと思って作りました。締め切りギリギリの提出になってしまいましたが、結果的にコンテンツにもストーリー展開にもハマる曲に仕上げることができたと思っています。
◆石川さんは「レゾンデートル ~ゾラージャ討滅戦~」のアレンジを担当されています。
石川:この曲は、祖堅さんが担当された「Smile」のメロディを使ってほしいというオーダーがありました。「Smile」のメロディって、トライヨラで流れる音楽と同じなんですけど、ゾラージャが生まれ育ったのが、トライヨラなんです。その意図はすごくよく分かったのですが、「Smile」を蛮神戦らしい攻撃的なサウンドにどう落とし込めばいいのかは、悩みましたね。
矢崎:「Smile」は曲名の通り、超ハッピーな曲ですもんね。
石川:そうそう。しかも、ゾラージャ自体に「Smile」な感じもないので、どうしたものかと。具体的にサウンドの話をすると、ゾラージャのキャラクター性を出したいと思って作りました。ゾラージャは力を求めるキャラクターで、そのキャラクター性を表現するために、生演奏系の音は入れず、打楽器系で力いっぱい叩くようなサウンドを入れたり、思考が少し停止したような無機質な感じの音色を入れたりしました。こういう攻撃的なサウンドを『FFXIV』で作ることがあまりなかったのですが、今回こういう機会をいただけたので、自分が考える最大火力をつぎ込みました。
◆今村さんが担当された蛮神戦の曲は「エターナルクイーン討滅戦」。
今村:まさか僕がラスボス戦の曲を担当することになるとは(笑)。曲を作る前にこれまでのラスボス戦の曲を改めて聞いたんです。そしたら「いやいや、こんなの作れないよ!」って思っちゃって……。
◆ラスボス戦の曲を作るのは、相当なプレッシャーがあった。
今村:もうプレッシャーしかなくて。本当にどうしようと思っていました(笑)。ただ、今回から新しい冒険の始まりになるということで、今までの曲を踏襲せずに新しい方向性で作ってほしいというオーダーがあったんです。その言葉に救われました。この曲は「遠き日の思い出 ~リビング・メモリー:開園~」のメロディを使ってほしいというリクエストがあったのですが、そこに相当な意味があると感じたんです。いつもの“ラスボス感”よりも少し切なさを入れたいと思い、意識的にピアノの音を入れるなど、試行錯誤しながら作りました。
「シャーローニ荒野」の曲はかなりフィーリングで作りました
◆個人的には石川さんが担当された「ヤクテル樹海」の楽曲が沁みました。
石川:ありがとうございます! 制作を始める前に、祖堅さんから「ヤクテル樹海のフィールドはオーケストラ調でいきたい」というリクエストがあったんです。そういうサウンドは自分自身の得意分野ではあったのですが、ふつうのオーケストラサウンドで鳴らし続けると、プレイヤーは飽きちゃうかもと思ったんです。そこで、通常のオーケストラにはないエフェクトやボーカルを取り入れることにしました。特にボーカルに関しては『漆黒のヴィランズ』のなかで「シヴィライゼーションズ ~ラケティカ大森林:昼~」という超名曲があるので、そこに影響を受けつつ、キャッチーなオーケストラ曲にできればと考えながら制作しました。
◆今村節を感じる曲も数多くありました……!
今村:個人的には、「硝煙に青炎 〜シャーローニ荒野:昼〜」の曲が好きです。この曲は「野郎2人が路線沿いを歩くみたいな感じのイメージです。西部劇みたいな感じ」というオーダーのもと制作しました。そうなると、相当渋い曲になるぞと思ったんです。今までの『FFXIV』にはない渋さを追求しました。荒野でガンマンがタバコをくわえて銃を持ちながら歩くみたいな風景をイメージしながらギターを弾いたら、結果的にこういう曲が仕上がったんですよ。かなりフィーリングで作りました。
◆矢崎さんは先ほど得意ジャンルとしてピアノを挙げられていましたが、今回のサウンドトラックで、それが特に活かされたと感じている曲はどれですか?
矢崎:いちばん活かされたのは、「明けの空を見上げて」ですね。これは「Smile」のピアノアレンジ曲なのですが、元々は私がアレンジする予定ではなかったんです。実は、別の楽曲の進捗があまりよくなくて、どうしようかなと考えているときに、祖堅さんから「この曲、息抜きにどうですか?」と言われたんですよ。最初は「進捗があまりよくない状態なのに、新しい仕事を増やすとは……」なんて思っていたのですが、こういうシンプルでしっとりしたピアノ曲が最も得意ではあったので、本当に息抜きになって。結果的に全然進まなかった他の曲の制作も進むようなったんです。祖堅さんにすべて見透かされていました(笑)。
◆実際、祖堅さんはそういうことを見抜いてお願いをした。
祖堅:そうですね。誰しも、曲の制作に詰まって先に進まなくなることはありますから。でも、本当はそんなに振りたくはなかったんですけどね。というのも、経験上、成熟する前から得意なことばかりやってしまうのは、あまりよくないんですよ。経験を積めば積んでいくほど、やったことがないジャンルを作れなくなってしまいますし、やったことがないジャンルの曲をやることが経験値となり、結果的に得意なことにも活かされるんです。
◆なるほど。
祖堅:だから、早い段階からいろいろなジャンルに手を出しておくのは結構大事なんですよね。今回もそういう意図があって、矢崎にもいろいろな楽曲を割り当てていました。
矢崎:ありがとうございます。
◆今回のお話を聞いていて、「遠き日の思い出 ~リビング・メモリー:開園~」と「Smile」もひとつの核となる楽曲なんだろうなと感じました。どちらも祖堅さんがアレンジを担当されていますね。
祖堅:「リビング・メモリー」は途中までは調子よく作れていたのですが、サビがなかなか出てこなくて。手詰まりになって、どうしようかなと息詰まっていたんです。そんなとき、ふと、少し前に亡くなった知人のお別れ会に行ったことを思い出して。「リビング・メモリー」って、“別れ”というテーマがあるんですよね。それもあって、その故人のことを思い出してみたところ、不思議なことにスラスラって急にサビが出てきたんです。きっと力を貸してくれたんだと思います。不思議な体験でした。
◆ゲーム体験ももちろんですが、自分自身の経験や実体験などが音楽に反映されるようなときもある。
祖堅:やっぱりインプットは大事ですよ。わざわざインプットをしに行く必要はないですが、日常であったいろいろな出来事をひとつずつインプットしていくのは大切かなと思います。
◆金言、ありがとうございます。「Smile」についてはいかがでしょうか?
祖堅:パッチ6.0のとある曲で、「みんなが手拍子をしながらニコニコできる曲をお願いします」と言われて作った曲があったんですよ。それを作っていたときに、「あっ、これめっちゃ苦手な感じだ」と思ったんですよね。どうも、ミュージカル調の音楽は苦手でして。でもね、映画「ブルース・ブラザーズ」は好きなんですよ。だから、「Smile」もどうにかなるだろうと思っていましたが、やっぱり苦手でした(笑)。
石川:すごくいい曲だと思いますよ!
祖堅:何とか形になってよかったです。苦手なりにも思いを込めて作って、とてもいい曲になったので、ぜひ聞いてください。
◆最後に、サウンドトラックの発売を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします。
祖堅:これまでの『FFXIV』のサウンドトラックと同じく、映像と音楽を楽しめるディスクになっています。映像はフルHD、音は96Hz24bitのハイレゾ仕様。高音質・高画質でフル尺のサウンドを堪能できます。また、すべての音楽はMP3でもディスクに収められていて、スマートフォンやPCにダウンロードできるようにもなっています。これ1枚でいろいろな楽しみ方ができるので、お得です。ぜひ物語に思いを馳せながら音楽、映像を楽しんでください。
●photo/徳永徹 text/M.TOKU
リリース情報
『DAWNTRAIL: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』
2024年10月30日(水)発売
価格:5,500円(税込)
仕様::Blu-ray Disc1枚
収録内容:本編66曲+EXTRA MOVIE
封入特典:インゲーム「マメット・ゼロ」アイテムコード
発売元:株式会社スクウェア・エニックス
『DAWNTRAIL: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』商品ページ
『ファイナルファンタジーXIV(ファイナルファンタジー14)』
ジャンル:MMORPG(オンラインゲーム)
プラットフォーム:PlayStation®5|PlayStation®4|Xbox Series X|S|Windows®|Mac|Steam
【ファイナルファンタジーXIV 公式サイト】
「ファイナルファンタジーXIV」プロモーションサイト
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最新拡張パッケージ「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」
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