連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか 毎週月曜~土曜 午前8時~8時15分ほか)の宇佐川隆史制作統括にインタビュー。主演の橋本環奈さんの印象や、脚本家・根本ノンジさんの魅力、制作裏話などを語っていただきました。
◆平成という時代をテーマに選んだ意図を教えてください。
ここ数年の朝ドラは昔の時代の物語で、モデルとなる人物もいて。朝ドラの可能性として、さらに幅を広げようとすると、現代かもしくはもっと昔なのか、少し違うものにトライしようと思っていました。
その上で平成を選んだのは、私や脚本家の根本ノンジさんに確かな“手触り”があったからです。専門家の方たちから平成について「失われた30年」「いろいろあって大変だった」「それが今の不安な状況につながっている」という話を聞いたことがあるのですが、私たちの見解としては、「そうは言ってもなんとか生きてきたし、楽しかったよね。頑張って生きてきたよね」と。今というものに過去がつながっているなら、平成を描くことで「今も大丈夫だよ」「今を頑張って楽しんでいこうよ」というストレートなメッセージをお届けできるのではないかと思い、平成を選びました。
無理に平成をいい時代に見せたいわけではないんです。でも、平成の人たちの生きた証を見せたい、そこから今を元気づけたい、という思いでこのドラマを作っています。
◆主演の橋本環奈さんの朝ドラヒロインとしての印象はいかがですか?
橋本さんは自分の中でペースを作って気持ちの上で無理をすることがない。どんなに大変なときでも、そういったマイペースさを崩さず、私たちを引っ張っていってくれるんです。私自身、撮影が大変なときに「大丈夫かな」と不安になったりマイナスな気持ちが出てきたりすることもあるのですが、彼女が主演として変わらず笑顔でいてくれているのが、すごくみんなの安心感にもつながっているし、物語の雰囲気にもつながっているんです。
主人公の米田結という役は特別な人間ではなくて、むしろおじいちゃん(米田永吉/松平健)やお姉ちゃん(米田歩/仲里依紗)など結の周りの人たちが個性豊か。今まで橋本環奈さんはキャラが立っている役を演じられてきたと思うのですが、結は個性が強い人ではないんですよね。でもそんな役を橋本さんに演じてもらうことで、新しい何かを引き出せるんじゃないかと思っていました。実際、橋本さんご自身の飾らない魅力と合致して、新しい魅力が出ているのではないかと。何者でもない結を気負わずに見ることができる、でも魅力にあふれている…それは橋本さんだからできることなのかなと思っています。
◆家族のコミカルなシーンも多い本作ですが、松平健さんをコミカルなシーンに据えた意図や起用理由を教えてください。
朝ドラ全スタッフが思っているのが、「皆さんの朝を楽しいものにしたい」ということなんです。私自身は『正直不動産』からプロデュースを本格的にやらせていただいているのですが、“本気で”皆さんを元気にするにはどうすればいいのかということを常に考え続けてきました。ストレートに元気になれるものを伝えたいと思ったときにお名前が浮かんだのが、幅広い年齢層の方々にパワーを与えていらっしゃる松平さんでした。カッコいい渋い役を演じる松平さんはこれまでたくさん見てきましたが、そんな中で、プロ野球チームのホークスを応援する法被を着た松平さんを想像したら、スタッフみんなが笑顔になって。これ以上の元気はないなと思いオファーさせていただきました。
松平さんも、ここまでのコミカルな役というのは初めてだとおっしゃっていたのですが、現場でも非常に楽しく演じてらっしゃって、それが家族の役の皆さんの絆にもつながっているのかなと思います。以前、撮影の裏側で皆さんが健康の話をしながら健康体操、ストレッチをしていて。それを見て、劇中だけではなくて裏でも本物の家族のようだと感じました。
◆作中で震災も描いていますが、震災を描くことの意義や難しさなどを教えてください。
震災を描くというのはすごく難しいことで、ドラマを見てくださる方の気持ちを第一に考えないといけないなと思っています。一方で、阪神・淡路大震災の教訓や、そのときに感じた皆さんのつらさ、思いが今生かされているのかということを考えたときに、ストレートに真正面に描くことも大事なんじゃないかと思いました。震災から30年近くたって、震災のことを語れる人が減ったと聞きましたが、何が起こったのか、どんなことが大変だったのかということをちゃんと伝えたいというのが一つのポイントです。それをどう描くかとなったときに、物語に合わせて雰囲気を変えるというということではなく、全てを同じ熱量で作っています。ギャルの存在も未曾有の災害も、これが平成だったんだということをそのままの形で、全てをしっかりと描くということが難しいところでもあり、覚悟を決めたところでもあります。
◆阪神・淡路大震災から30年ほどたっていますが、この時間の重み、今描くことの意味はどう感じていますか?
まさに、時間の流れというのが本作の一つのテーマになっています。私自身、これまで自分事として感じることができなかったことへの申し訳ないという気持ちがあって。時間がたって、自分にも重なるはずなのに重なりきれてないといいますか…そのジレンマを持ち続けていました。他の方が過去に経験していることを、これから私たちも経験するかもしれない。私たちが一歩進むために、どうやったら自分事として考えられるか、過去の出来事からどう学んでいくかというのがすごく大事だと思っています。
◆脚本家の根本ノンジさんの魅力をお聞かせください。
根本さんは、「非常に人気な町中華」のような職人だと思っています。作っているものは火力で元気よく炒めたもの、バリバリと食べられるもの。でも、その中に技がたくさん詰められていて、奥に本物が隠されている。根本さんの原稿は、最初の段階からどんどんブラッシュアップされて最終的に王道なものになるんです。ここが私が惚れているところです。今は、せりふの繊細さや考察などが取り上げられて褒められたりするようなことが多いと思うのですが、根本さんは自分の評価というよりも、とにかく皆さんに楽しんでもらえればいいという考えで。みんなが毎日食べても飽きないシンプルなものでありながらも、裏側にいろいろと考え抜いた本気が詰まっている。今だからこそストレートな作品をやってもいいんじゃないかという思いで根本さんと作品作りをしています。
◆視聴者の方に期待してほしい部分、見どころなどを教えてください。
青春物語として、“ギャル”と“家族”というところをお楽しみいただけたのではないかと思います。4週目にパラパラのショーが放送されましたが、そこまでは丁寧に王道をお届けできたかなと。その後からの震災のパート、過去の話もしっかりと描いていければと思っています。
朝ドラではいろいろな物語が見られる、という可能性を広げていきたいと思っていますので、さまざまな要素を皆さんにじっくり楽しんでいただけたらうれしいです。
番組情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合
毎週(月)~(土)午前8時~8時15分
※土曜は一週間の振り返り
NHK BS・BSP4K
毎週(月)~(金)午前7時30分~7時45分