お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、あぁ~しらきさんの『あぁ~しら喜劇』に参加した話。(TVLIFE 2024年11月27日発売号より転載)
近くで見ても遠くで見ても、しら喜劇
先日、あぁ~しらきさんが座長を務める『あぁ~しら喜劇』に劇団員として参加させていただいた。しらきさんを中心に巻き起こるドタバタ劇を2日間3公演やらせてもらえたのはとても新鮮な経験で、観ていただいた皆さまにも普段のお笑いライブとは違う満足感を提供することができたかなと思う。
メンバーは旧知の芸人だらけな上に、座長がしらきさんということで稽古からずっと朗らかでアットホームな空気感に包まれていた。それが舞台上からも漂っていたのかどの公演もお客さんがとても暖かく、特にしらきさんが登場してからはこの人が愛おしくてたまらない客席の想いが会場全体に満ちていたように感じる。もはやジャンルでいったら縁起物なのかもしれない。そうなってしまったら人としても芸人としても無敵で、しらきさんがセリフを噛んだりつまずいたりしても全てが爆笑に変わっていった。当の本人はまるで間違えてないかのような顔をして逃げ切ろうとしているのもまた愛くるしい。
そんな座長がいるもんだから本番では当たり前のようにハプニングが連発していたのだが、その中でも特段インパクトのある事件が初日に起きた。
物語の序盤で地面に横たわるしらきさんに僕が声をかけて起こすシーンがあったのだが、しらきさんが立ち上がると同時に突然一匹の蛾が目の前に現れた。そんなはずないけど、まるでしらきさんから生み出されたような奇跡のタイミングだった。どっからどう見たって想定外の状況にお客さんも笑ってはくれているが、それもきっと長くは続かない。いつまでも飛び回られたらさすがに気が散ってせっかくの初回公演が台無しになってしまう。なかなかのピンチをどう対処しようか頭をフル回転させていると、その蛾がゆっくりと演者の雨宮萌果さんが着けていたエプロンに止まったのだ。その瞬間、しらきさんが両手で蛾を優しくゆっくりと包み込んでそのまま舞台からハケていき、もう戻ってこられないようドアを一枚隔てたところに逃してから帰ってきたのである。あまりにもスマートな対応に会場は揺んばかりの大盛り上がり。僕がピンチだと思っていたことなんて、座長からしたらどうってことなかった。
終演後のカーテンコールではもちろんその話題になり、座長にどういう思いだったのか伺うと、「無駄な殺生はしたくない」とだけコメントしていた。カーテンコール史上初の文言ではないだろうか。
スターというのはどんな場所にいても勝手に輝いてしまうものだと聞いたことがある。あぁ~しらきさんはそれにピッタリ当てはまる気がする。
我を出そうとしなくても蛾が出てくるんだもの。
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。