お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、M-1グランプリ決勝戦で令和ロマンが放ったあのフレーズの話。(TVLIFE 2025年1月15日発売号より転載)
僕はというと、後悔と大成功の間に長いこといます
12月の頭くらいでしょうか、ファンの方から
「令和ロマンが漫才で森本さんの座右の銘を仰ってました!」
「ケムリさんが『トンツカタン森本の座右の銘じゃねえか』ってツッコんでましたよ!」
というメッセージを何件かいただいた。ネタで僕の名前を出してくれていることと、令和ロマンなら絶対にウケさせてくれているという信頼からとても嬉しかったのを覚えている。
それから数週間後に行われたM-1グランプリ決勝戦。前年王者が再びトップバッターで登場する大波乱から始まり、4年連続出場にも関わらず更なる進化を遂げた真空ジェシカ、ニュースターとしての産声を日本中に轟かせたバッテリィズ、ラストイヤーで命懸けの漫才を披露したトム・ブラウンなど、一分一秒余すことなくドラマが詰め込まれていて、こんなにもテレビから目を離せなくなったのは久しぶりだった。熾烈なファーストラウンドを終えて3組で行われる最終決戦。2組目に現れた令和ロマンの漫才中に僕は一気に冷や汗をかくことになる。
ネタの導入でケムリに戦国時代にタイムスリップすることを提案するくるま。そもそもそんなことできないとあしらうケムリを説得するためにくるまが言い放ったのが
「やらない後悔より、やって大成功」
だった。これは僕が「やらない後悔より、やる後悔」というフレーズをアレンジしたオリジナルの座右の銘だ。まさかあれがM-1でやるネタの中に組み込まれていたフレーズだったなんて。驚きと喜びも束の間、次に頭をよぎったのがあのメッセージだ。
「ケムリさんが『トンツカタン森本の座右の銘じゃねえか』ってツッコんでましたよ!」
まさかこのあと言わないよな。いや、普通なら絶対そんなこと言うはずない。でもチャンピオンとしての余裕がある令和ロマンなら万が一やりかねないのか?これでもし言ったらどうなっちゃうんだろう。このタイミングで知らない芸人の名前が出たら場が白けるに違いない。そのせいで漫才に支障を来たしたらどうしよう。
くるまがボケてからケムリがツッコむまでのコンマ数秒でありとあらゆる考えが駆け巡った。自宅でかく量とは思えない汗が手と脇から吹き出す中、ケムリが至極冷静に
「そりゃそうだろ」
とツッコんだ。観客の笑い声とともに、気付けばふたりは戦国時代にタイムスリップしていた。日本で唯一僕だけがあそこで緊張のピークを迎えたのではないだろうか。今思えばチャンピオンだからこそそんな変なマネするはずないのに。
そこからはみなさんご存知の通り、大接戦を制した令和ロマンが史上初のM-1グランプリ二連覇という偉業を成し遂げた。もちろんファイナリストの誰が優勝してもうれしかったけど、こうして自分が発信した言葉を入れてくれると勝手に思いが乗っかってしまうものである。心からの祝福を彼らに送りたい。
…え、僕の座右の銘ってボケで使われるくらい変だったの?
森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。