1980年代にアニメ声優ブームの中心にいた立役者たちが残した音楽作品のサブスクと楽曲配信が、2024年3月20日よりスタートした。今回配信されるのは、キングレコードに所属していた麻上洋子さん・吉田理保子さん・戸田恵子さん・古川登志夫さん・水島裕さん・三ツ矢雄二さんらがリリースしてきたシングルやアルバム。筆者がアニメをよく見るようになったのは1990年代後半で、恥ずかしながら名優たちが残した楽曲のほとんどを知らずにここまで生きてきた。
ということで今回は、実際に配信された楽曲の一部を筆者が試聴。いま世界的にブームとなっている「シティポップ」の要素をふんだんに織り交ぜられた楽曲たちの中から、筆者が特に印象に残ったものを紹介する。
麻上洋子さんの“主人公の表情が見えてくる”ような歌声
麻上洋子さんは現在、一龍斎春水という名前で活動している講談師・声優・心理カウンセラー。声優としては『宇宙戦艦ヤマト』森雪役、『シティーハンター』野上冴子役など、数々の名作を声で彩ってきた。そんな麻上さんが歌唱する「哀しみのサテン人形(ドール)」は、Aメロの囁くような、呟くような歌い方から、サビにかけて思いをぶつけるように歌う変遷が印象的。ラストの「一人舞台」という歌詞を2回繰り返しているところは、強がってそうつぶやく人の姿が思い浮かんできた。
曲全体を通じて自然と楽曲の主人公の表情が見えてくる歌声に、何度もリピートして聞き入ってしまう。学生の頃に吹奏楽部に所属してパーカッションも担当していた筆者としては、効果的に入るクラベスの音色も心地よかったので、演奏や編曲にも注目してほしい。
ラジオから誕生した麻上洋子さん・吉田理保子さんのデュエット曲
昨今では、多くの声優が地上波・インターネットなどでラジオ番組のパーソナリティを担当している。そんな先駆けとも呼べる番組が、1979年からラジオ大阪で放送されていた『アニメトピア』だ。初代パーソナリティは麻上さんと『アルプスの少女ハイジ』クララ役、『ゲッターロボ』早乙女ミチル役などで知られる吉田理保子さん。ふたりが番組から派生したユニットとして歌唱したのが、「街角のカフェ」だ。
この楽曲を一言で表すと「さわやか」。聞いていて、とても心地よくなる。夜遅くまで働いていた朝は憂鬱になりがちだが、この曲のイントロを聞けば、穏やかな気持ちになれそうだ。フランク・ミルズが作曲したインストゥルメンタルバージョンは、数多の番組で採用されており、読者の方のなかには「あの番組の曲だ!」という発見があるかもしれない。それくらい、今でも色あせず愛される名曲だ。
アニメ作品にも寄り添う戸田恵子さんの歌声
私が戸田恵子さんを知った(認識した)のは、ドラマ『ショムニ』であった。その後、『アンパンマン』のアンパンマン役、『機動戦士ガンダム』のマチルダ・アジャン役を務めていることを知ったときの衝撃は、今も忘れない。
そんな戸田さんのデビューアルバム『ソフト・ドリンクス』には、彼女もカララ・アジバ役として出演したアニメ『伝説巨神イデオン』エンディングテーマ「コスモスに君と」が収録されている。Aメロ・Bメロは伴奏メインで歌声を聞かせて、サビに向けてドラムなどパーカッションの音数が増えていき、そして、サビ終わりには音数が減っていくという構成、さらには間奏のオーボエの音色からは、宇宙の広さ・美しさ、そして孤独も少し感じられる。
同アルバムにはTVアニメ『機動戦士ガンダム』エンディングテーマ「永遠にアムロ」を戸田さんが歌唱したものや、映画『宇宙戦士バルディオス』挿入歌「女いのち歌」も収録されており、作品を見ていたファンならたまらないラインナップとなっている。同アルバムでは、力強さ・かわいらしさ・大人な雰囲気など、さまざまな戸田さんの歌声を堪能できた。
なお、今回紹介したアルバム以外にも『Lookin’ for Love』『Naturally』『Tenderly』、そして2012年リリースの『ROUTE 55』など、戸田さんの楽曲は数多く配信スタートする。難しい楽曲も歌いこなす戸田さんの歌声は、必聴だ。
心に語り掛けてくるような古川登志夫さんの歌
『機動戦士ガンダム』カイ・シデン役、『うる星やつら』諸星あたる役、『ドラゴンボールZ』ピッコロ役などを担当し、今では俳優養成所「青二塾」の塾長も務める声優・古川登志夫さん。そんな古川さんが歌唱する「HEARTへようこそ」はTVアニメ『最強ロボ ダイオージャ』の挿入歌で、今回の配信楽曲としてもラインナップされている。
ストリングスの美しい旋律や、ブラスの心地よいサウンドに乗せて届けられる古川さんの優しい歌声に心が安らぐ。語りかけてくれているような歌い方は、お芝居もしてきた方ならではの表現なのかもしれない。「HEARTへようこそ」が収録されたデビューアルバム『“TIME WAVE” TOSHIO ファースト』ほか、今回は『Shining Wave/Toshio II』『HEARTFUL WAVE/TOSHIO III』などのアルバム楽曲も配信スタート。古川さんの多くの楽曲は語りかけるような、寄り添ってくれるような歌い方で、心にグッとくるものばかりだった。
演奏と歌声が調和する水島裕さんの楽曲たち
『六神合体ゴッドマーズ』明神タケル役ほか、吹き替えなどでも活躍する名優・水島裕さん。数多くの楽曲のなかで、筆者は特に4枚目のシングル「グッドラック・マイ・ラブ/ライラライ」の2曲が印象的だった。この2曲ともに、ベースラインがとにかく耳に残る。曲全体を通じて演奏と感情をこめて歌う水島さんの歌声が見事に調和しており、非常に心地よかった。
その他、水島さんの3枚目シングル「沙羅葉/夕陽になったサッカー・ボール」、5枚目シングル「ロスト・ラブ/浮気なハネムーン」や、アルバム『YOU』、『風をみちづれに』、『You 3』、『ハロー・グッドバイ』、『LOVE THE PEOPLE』の楽曲も配信される。
三ツ矢雄二さんがジャズの名曲をカバー
『タッチ』上杉達也役、『キテレツ大百科』トンガリ役を担当し、昨今では声優バラエティ番組でも目にする機会が増えた三ツ矢雄二さん。そんな三ツ矢さんが歌唱したなかでも筆者がみなさんにオススメしたいのは、オールドタイムジャズな作風『FOUR』に収録されている「雨のブルース」だ。淡谷のり子さんが歌い、多くのアーティストがカバーしてきた本曲。三ツ矢さんが歌唱したのは、ピアノとブラスの静かな旋律で奏でられたジャズアレンジのバージョンだ。アレンジによってこんなにも雰囲気が変わるんだという驚きと、三ツ矢さんの曲に合わせた嫌味のないねっとりとした歌い方が絶妙だった。
三ツ矢さんは同アルバムで、多くの楽団が演奏するジャズスタンダードの一曲「Four Brothers」や「Tea For Two」など、耳にしたことがある人も多い楽曲をカバー。「この曲も!?」という発見をするだけでも楽しかった。その他、『シナモンの香り』『to NICOLE』『MODERN BOY』『Be Fresh!』『Say! It’s Love』『Hi-Touch』のアルバム楽曲や、シングル「ラブ・ジャングル/君に大人は似合わない」、「もう一度だけ・カーニバル/You are beside me」も配信される。
今回配信がスタートする100を超える楽曲たち。時代によってトレンドはあるものの、音楽は色あせないんだということが改めてよく分かった。サブスク・配信がスタートしたことで聞きやすくなった名優たちが残した名曲。当時聞いていた人だけでなく、まだ聞いたことがない人にもぜひ堪能していただきたい。
●text/M.TOKU
各種ダウンロード
麻上洋子
https://bio.to/yoko_asagami
戸田恵子
https://bio.to/keiko_toda
古川登志夫
https://bio.to/toshio_furukawa
水島裕
https://bio.to/yu_mizushima
三ツ矢雄二
https://bio.to/yuji_mitsuya