新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系 午後9時~11時15分)が、2025年1月2日(木)放送。本作は鎌倉に住む葉子(松たか子)、都子(多部未華子)、潮(松坂桃李)のきょうだいを中心に新時代の“家族の在り方”を描くホームドラマで、野木亜紀子さんのオリジナル脚本作となっている。
演出を手掛ける土井裕泰さんは主演の松と共に『カルテット』を送り出し、野木さんとは『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』『重版出来!』、映画「罪の声」と、いずれも原作のある作品でたびたびタッグを組んで来た関係。10年以上の付き合いとなる2人が、本作に込めた思いを語ってくれました。
◆まずは『スロウトレイン』を制作しようと考えた経緯からお願いします。
土井:私事ではあるのですが、2024年の春に60歳を迎えたんです。TBSのドラマのディレクターとして一つの区切りになるような作品を作ってみようかなと思い立って、2年ほど前に野木さんに声をかけてみたんです。野木さんとはドラマと映画で4度ほどご一緒してますが、まだオリジナルをやったことがなかったので、この機会に実現させたいなという思いもあって。
野木:土井さんに卒業制作を撮りたいと言われたら、断れないですよ(笑)。私が断ったら他の人のところに行くんでしょうけど、それも後で絶対モヤモヤしそうだなと思い、無理やりスケジュールをこじ開けることにしたんです。
◆ジャンルをホームドラマにしたのは、どういう思いからですか?
土井:野木さんは社会派のエンターテインメントを書かれる作家ですが、かなり綿密に取材をされるんです。忙しいことは分かっていたので、今回はあまり負荷のかからないものがいいなと思いました。あと個人的に『コタキ兄弟と四苦八苦』が大好きだったので、あんなテイストで今の社会や市井のリアルな悩みが描けたらいいなと思い、人生の岐路に立った3人のきょうだいの話を考えていきました。
◆ホームドラマでありながら、物語の中心となる葉子を独身女性にしたのはどんな理由からでしょうか?
野木:4、50代の独身女性も増えている今、世間的にこれまで言われて来た、結婚して子供を作るという家族の形にこだわらなくてもいいかなと。あとは松さんってどんな作品でも、大概モテる役のような気がして(笑)。でも、松さんが独身だっていいじゃないかと。松さん自身もあまりそういう役をやってないから、お願いしようと思ったんです。
土井:ドラマで描かれる働く独身の女性像って、「運命の出会いを求めてる」みたいな人になってしまうことが多いですよね。でも寂しさとの向き合い方って人それぞれだし、そんなことを押しつけがましくなく描けたらいいなと。
◆舞台を鎌倉や韓国にしたのにも、何か理由がありますか?
土井:ちょうどこの企画を立ち上げた頃、電車で「小津安二郎生誕120年・没後60年」の企画展の広告を見たんです。60歳で亡くなった小津監督の年に自分がなることに小さな感慨がありましたし、何より小津映画の舞台となった鎌倉で家族や親子、結婚というテーマの作品をやることは、この何十年かの間に私たちの中で起きた変化を描くうえで、とても意味があると考えたんです。
野木:韓国に関しては、土井さんが昔、日韓共同制作ドラマ『friends』を作っていた経験から、日韓ものにしたいと最初から言っていて。
土井:あのときはまだ「冬ソナ」ブームの前でしたし、お互いに理解し合うのにもたくさんの壁がありました。でも気づいたら今は若者たちは互いの文化やエンタメに憧れ、その壁を簡単にクリアしていってます。その現在地点を自分でも知っておきたかったんです。
◆葉子、都子、潮ときょうだい3人の職業が個性的で、お仕事ドラマとしても見応えがあるものになっています。
野木:それぞれ言えば、潮は江ノ電に関係する仕事にしようとしたけど、松坂さんが駅員をやったらカッコよくなってしまうなと(笑)。それで江ノ電についての資料を片っ端から読んでたら、いかに軌道が大切かを書かれていた元駅長さんがいて。なるほどと思い保線員の方たちに取材させてもらって、潮の仕事への思いが出来上がっていきました。
土井:同様に葉子はフリーの編集者ということで、文芸や実用書含め数名の女性編集者の方たちに話を聞きました。また、都子と関わる韓国人男性オ・ユンス(チュ・ジョンヒョク)を描くにあたっても、独身の韓国人の男性たちにも会って、恋愛観や結婚観を取材しました。
野木:だから、今回はそんなに取材いらないと言いつつ、そこそこしてるんです(笑)。
◆葉子が編集として携わることになる「盆石」とは、どういう出会いを?
土井:たまたまテレビで、来日した外国人が盆石の家元を訪ねていく番組を見たんです。それですごく興味があって、あれって一瞬の芸術なんですよね。完成したら羽根でさっと払って無に返してしまう。そんな話を野木さんにしたら、葉子の作る本の題材にしたらどうかということになり、実際に体験しに行ってもらいました。
野木:ハマりますね、あれ。毛先のちょっとしたコツで出来上がる絵が変わるし、先生の作られた盆石が段違いで素晴らしすぎて、うらやましくなるし。
土井:今回、実際の細川流の先生に出演していただいてるんです。まだお若いんですが、本当に素晴らしい作品を魔法のように作られるんです。
野木:ただ、お稽古事としては難度が高いんです。お道具が希少品で、それなりに年数を積まないと手に入れることすらできない。
土井:白鳥の羽根を使っているし、もうなかなか手に入らないみたいですね。
◆実際、撮影を振り返っていかがでしたか?
土井:韓国ロケは寒くて、ちょっとキツかったけど(笑)、総じて撮影は楽しかったです。数ページにもわたる長いシーンも多かったんですが、キャストの皆さんが素晴らしくて、あっという間に終わってしまったという印象ですね。
野木:お芝居うまい方ばかりですし、助かりますよね。
土井:松坂君は実際にお姉さんと妹がいるので、潮の環境がとても分かると言いながら楽しそうにやってましたね。
◆今回、お正月の放送となりますが、その点は意識されたのでしょうか?
野木:そもそも、特番の枠がお正月ぐらいしかないって言われていて(笑)。書き始める段階で葉子がおおみそかをどう過ごすかが思い浮かんでいたから、そこに向けて作ったところはあります。きっと葉子と同じような過ごし方をしている人もたくさんいるだろうし、テレビの画面を通じて共感し合えたらいいなと。
土井:TBSでは昔から『向田邦子新春ドラマスペシャル』を放送していて。時代背景はいろいろなのだけど、新年に家族のことをしみじみと考えるいい機会だったんです。このドラマもそんなふうになればいいなとイメージしてやってました。
野木:向田ドラマと比べるなんて、恐ろしいこと言いますね(笑)。
土井:あとは、久しぶりにテレビドラマらしい作品を届けたいという気持ちもありました。野木さんも言ってましたけど、このドラマって爆発しないし、スーパードクターもラスボスも出ないし、タイムリープもしないんです(笑)。僕自身はそういうドラマも好きだけど、今ここでベーシックに帰ることが逆に新しいんじゃないかなと。
野木:ホームドラマって形は変われども、ずっと描かれていくものだと思うんです。『海に眠るダイヤモンド』も昭和のホームドラマという一面があるわけで、変遷していく家族像みたいなことはいくらでも書けるんじゃないかなと。こうしたベーシックな、刺激の少ないドラマだって見たい人がたくさんいると思うんですね。私自身もたまにこういう作品を書くことが、心の安寧にもつながるというか(笑)。
◆少し気は早いですが、続編も考えていますか?
土井:重鎮作家の二階堂を演じてくださったリリー・フランキーさんが、「これ毎年やればいいのに」と言ってくださったんです。このきょうだいがどうなっていくのか見続けたいと。毎年は難しけど、何年か後に実現させたいという思いはあります。もちろん、見てくださった人たちから、渋谷家の3きょうだいや百目鬼(星野源)にまた会いたい! という声が集まったらですけど。
野木:犬猿の仲だった、百目鬼と二階堂の関係はどうなるんだと。
土井:タイトルは、『スロウトレイン、北へ』かな?(笑)
野木:『スロウ、スロウトレイン』と2回言ってみるとかね(笑)。
番組情報
新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』
TBS系
2025年1月2日(木)午後9時~11時15分
<キャスト>
松たか子、多部未華子、松坂桃李、星野源
チュ・ジュンヒョク、松本穂香、池谷のぶえ、倉悠貴、古舘寛治
宇野祥平、飯塚悟志、菅原大吉、中村優子、毎田暖乃
リリー・フランキー、井浦新
<スタッフ>
脚本:野木亜紀子
演出:土井裕泰
プロデューサー:小牧桜
スーパーバイジングプロデューサー:那須田淳
協力プロデューサー:韓哲、益田千愛
©TBS