第22回釜山国際映画祭で映画『羊の木』が「アジア映画の窓」部門に正式招待され、ワールドプレミアに吉田大八監督が登壇した。
400人もの観客で満席となった会場で、上演後拍手が巻き起こる中、登壇した吉田監督は「『羊の木』は日本でもまだ一般のお客さまにはご覧頂いていないので、一番最初にここ韓国の皆さんにご覧いただけることを光栄に思います」とあいさつ。
原作は山上たつひこ×いがらしみきおで、吉田監督により誰も想像し得ない全く新しい衝撃と希望の結末を作り上げた本作。錦戸亮を主演に迎え、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平が出演している。
主演の錦戸について吉田監督は「錦戸さんとはこの映画で初めて会いました。彼はミュージシャンでもありますが、すごく良い意味で普通というか、普通の雰囲気を持っていると思いました。映画の中では個性あふれる人物に囲まれて、その真ん中でほぼ普通の人としてひたすらいろんな状況に対応し続ける。彼の表情1つひとつに観客が気持ちをのせていくような映画になってるし、撮影しながら現場ではひょうひょうとリラックスしてカメラの前で演技をしていて、普通の人を演じる天才的な能力がある人であり、フラットなままで状況に対応する月末という人物をすごく上手に演じてくれました。音楽をやってることもあり、すごく感覚的にその場に一番フィットする演技を理解してくれ、スムーズな現場でした」と語った。
「6名が町にやってきたとき、出迎える月末が毎回同じせりふをいうのが面白かった」という観客の声に対し、吉田監督は「最初、迎えに行ったときに、月末は市役所の役員として決まった手続きに則って、皆を同じように迎え入れたい、彼の仕事である新しい居住者を迎え入れるセクションでのルーティンの仕事と同じように受け入れたいと思ったんですが、今までの彼のルーティンの仕事とちょっと何かが違うなということを月末自身と観客に知らしめたいという狙いがありました」とその意図を説明。
また多様なキャラクターが出てくる本作で「監督にとって特に愛着があるキャラクターは?」という質問には「もちろん全員に思い入れがあって、分け隔てなく撮影から仕上げまでそれぞれのキャラクターを愛してきましたが、自分でも見直すたびに興味が湧くキャラクターが変わることがありまして、今日の上映では大野さんを受け入れたクリーニング屋さんのおばさんと、福元さんを受け入れた理髪店の店主のことを考えることが多かったです」と語った。
6名の元殺人犯のそれぞれ犯した罪の設定については「この物語には原作があって、原作ではもっと新住民の数も多いし、殺人だけじゃなく窃盗や性犯罪、詐欺などもあります。今回、殺人だけに絞ったのは、2時間の映画の中で1つ自分がこだわって考えたのは、人を殺したことがある人とない人の、間の境目がどう見えてくるかに興味があって、それを念頭において話を作りました。人を殺すことについても、弾みで殺したのか、計画的に殺したのか、あるいは残酷な殺し方なのか、運悪く相手は死んでしまったのか…その経緯によって、目の前に人を殺したことがある人がいたとしても、相手にどういう感情を持てるか、どう付き合っていけるのか、いけないのかを細かくやりたかったので、全員殺人犯として1人ひとり変化をつけました。自分も撮影しながら、何が見えてくるか考えながら撮っていました」と語った。
上映後、吉田監督は「映画祭のお客さんが皆、とても集中してご覧になっており、そのことを感じながら一緒に上映を見ることができました。最初にお披露目する機会として、とても良い経験をさせていただきました」と釜山国際映画祭に初めて参加した喜びを語った。
『羊の木』
2018年2月3日(土)より全国ロードショー
監督:吉田大八
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯/松田龍平
脚本:香川まさひと
原作:「羊の木」(講談社イブニングKC刊)山上たつひこ(「がきデカ」)、いがらしみきお(「ぼのぼの」)
配給:アスミック・エース
公式HP:http://hitsujinoki-movie.com/
<STORY>
ある寂れた港町“魚深(うおぶか)”にやってきた見知らぬ6人の男女。平凡な市役所職員・月末は彼らの受け入れを命じられた。受刑者を仮出所させ、過疎化が進む町で受け入れる国家の極秘プロジェクト。月末、町の住民、そして6人にもそれぞれの経歴は知らされなかった。しかし、月末は驚愕の事実を知る。「彼らは全員、元殺人犯」犯した罪に囚われながら、それぞれ居場所に馴染もうとする6人。素性の知れない彼らの過去を知ってしまった月末。そして、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文を巻き込み、町の人々と6人の心が交錯し始める―。
©2018「羊の木」製作委員会©山上たつひこ いがらしみきお/講談社