映画「寝ても覚めても」が第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、現地時間5月15日に行われたフォトコールと記者会見に、主演の東出昌大、ヒロインの唐田えりか、濱口竜介監督が登場した。
タキシードだった前日のレッドカーペットから、東出はマルタン・マルジェラのブラックスーツ、唐田は日本からパリへ進出したブランド「sacai」のキュートなチェックのドレスで記者会見に登場した。
<記者会見内容>
◆素晴らしい作品をありがとうございました。日本のヌーベルヴァーグ、新しい才能が現れたと思いました。とても繊細な映画です。どのようにその目に見えないような軽さ、繊細さを描写できたのでしょうか。
濱口竜介監督:震災が起こった後、被災地でドキュメンタリーを撮るようになったのですが、その土地で、カメラに対して、自分自身を差し出してくれる人たちが映画にいかに力を与えるかを痛感しました。『ハッピーアワー』では、本人でない人物を演じながら、本人を出すにはどうしたらいいのか、を試行錯誤し、最終的に、脚本を信用する、テキストを洗練させていくことになりました。何度も何度も感情を排した本読みをすることでテキストを体に入れ込んでいき、その言葉を発するとき、その人ならどういう風に言うのかをこのような反応を引き出せるもということを知りました。今回、2人を知る時間はあまりなかったのですが、直感的に好きだと思える人をキャスティングできました。その人たちに磨き上げたテキストをしみ込ませました。それでその人たちの演技が自然だとおっしゃるならば、非常にうれしいことです。
唐田えりか:真っすぐな感想をいただけて光栄です。私は演技経験があまりありません。でも、濱口さん、東出さんはじめ、みんなのことが好きで信頼して現場に挑みました。現場では皆さんに甘えて、頼りにさせてもらおうと思い、皆さんの演技を聞いて感じたことを出した結果、嘘でない演技ができたと思います。皆さんのおかげで演じることができました。
東出昌大:日本の映画界は大体1か月から2か月、もしくは1週間で撮ることもあります。しかし、クランクイン前にみんなで会えるかと言うとやれないことも多い。初めて会う人と20年来の友人役を演じることもあります。そういった場合、プロの役者は自分の用意したもので戦うしかないし、それができるからプロなんだと思います。でも己で用意したものは芝居臭くなる。だから、おっしゃった軽さはその対局にあるものだと思います。今回はクランクイン前に監督に会って、ワークショップもやり、俳優同士もつながってから撮影に入りました。濱口メソッドではやったことのないことをたくさんやりました。でも、用意したことをやるのではなく、そこにいること、感情を大事にすること、真心のようなものを大事にして、みんなで挑んだような気がします。
◆「繊細でナチュラルな演技の方向性が大事」だと言っていましたが、二役は難しい。繊細でナチュラルな二役をどのように構築して演じたのでしょうか?
東出:麦と亮平は標準語と関西弁との違いがあります。外国の方には分からないと思うけれども、2人は違う地域の言葉を話します。特に柴崎さんからのリクエストで関西弁には注意をして話しました。用意しないことが大事、と言いましたがクランクイン前は演じわけが大事だと思って、少ない引き出しを開けて、表面的に演じ分けようと思っていました。目線だったり、しぐさだったり、生き方によって、声色やしゃべり方は変わると思っていたので、声も変えようと思っていました。でも、監督に声は変えないでいいと言われた。東出という楽器から出てくる麦という音と、亮平という音を聞かせてくれ、と。実際、監督がおっしゃるとおり、読むセリフが違うので、別の人物になりました。小手先で変えるのではなく、気持ちの部分だと言うところに立ち返りました。
◆朝子を正面から捉えているショットの意図は?そのシーンをどう演じているのでしょうか。
濱口監督:朝子の顔を正面から取ることはやりたくてやったものです。僕は増村保造監督が好きなのですが、増村監督がよくやる俳優の配置で90度に人物を置いて、男性は女性を見ている、女性は横顔で目を合わさない、というものがあります。それを正面から撮るとどうなるか、に興味がありました。これは彼女にとっては難しいことだったと思います。彼女は正面にカメラがある、でも彼女の人生や魂を差し出してほしいと思っていたので、暴力的かもしれませんがカメラを置かせてもらいました。
唐田:カメラが目の前にあっても、カメラマンの佐々木さんを信頼していたし、防潮堤のシーンも、カメラがあるのにカメラから透けて海が見えていたような気がします。不思議なんですが。カメラが邪魔だと思ったことはありませんでした。
映画「寝ても覚めても」
9月1日(土)テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネパレスほか全国公開
<あらすじ>
東京。カフェで働く朝子は、コーヒーを届けに行った先の会社で亮平と出会う。真っすぐに想いを伝えてくれる亮平に、戸惑いながらも朝子は惹かれていきふたりは仲を深めていく。しかし、朝子には亮平には告げていない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦に顔がそっくりだったのだ――。
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
監督:濱口竜介
原作:「寝ても覚めても」柴崎友香(河出書房新社刊)
音楽:tofubeats
製作:「寝ても覚めても」製作委員会
製作幹事:メ~テレ、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
公式サイト:www.netemosametemo.jpc2018
©2018映画「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS
写真:©KAZUKO WAKAYAMA