宮田愛萌、2冊目となる小説『あやふやで、不確かな』に込めた思い「登場人物にムカついたり、嫌いになったりしても、いいんです」【インタビュー】

特集・インタビュー
2024年04月25日
宮田愛萌
宮田愛萌

『きらきらし』(新潮社)で小説家としてデビューした宮田愛萌が、2冊目となる書き下ろし小説『あやふやで、不確かな』(幻冬舎)を執筆。2024年4月17日(水)に発売された。今作のテーマは「コミュニケーションの難しさ」。4組の恋人たち、一人一人の心情を丁寧にすくい上げるように書いた作品だという。そんな本作について彼女は「登場人物にムカついたり、嫌いになったりしても、いいんです。むしろ、そういう感情の動きを大事にしてもらいたいです」と語る。


◆2冊目の小説の発売、おめでとうございます。

ありがとうございます!

◆執筆を終えたいまの率直なお気持ちを教えてください。

「よかったー!」って感じです(笑)。書き終わって、形になって一安心しています。先ほど初めて実物を手に取ったのですが、そのときに「本物だ!」って思いました。データなどで表紙を見てはいたのですが、こうやって「本」という形になると、全然印象が違って。うれしいですね。

◆私も事前に本文のデータをいただいていましたが、こうやって本になってパラパラめくるだけで、ちょっと気分が違うというか。

違いますよね!

◆紙でめくるならではの楽しさ、魅力ってあるなと改めて思いました。

そうなんです。本によって、手触りが全然違うんですよね。今回もめっちゃ手触りがいいんですよ! ブックジャケットのカバーも、ツルっとしている訳じゃないけど張りがあって。手触りでも楽しめるのがよきです。

宮田愛萌
宮田愛萌

◆アイドルグループを卒業されてから2冊の小説を発売した宮田さん。そういった仕事をやっていきたいと思った理由を改めて教えてください。

元々、本に関わる仕事をしようと思って生きてきたんですよ。ただ、アイドルが好きだったこともあり、「これも何かの経験になるはず!」とオーディションを受けてみたら、合格をいただけて。驚きました。アイドルは憧れであり、自分には縁のないものと思っていたので。本に関わる仕事への遠回りになってしまったかも、と感じる瞬間もありました。でも、アイドル時代にも応援してくださる方々に本を紹介する機会をいただけて。それがきっかけで本を好きになったという方がいらっしゃったり、大学の学部を迷っていたけど、日本文学科に行くことに決めましたと言ってくださる方もいたり。なかには、「愛萌さんの大学の後輩になりました」と報告してくれる方もいたんですよ。そういう声を聞いていると、アイドルになって本当によかったなと思いました。自分の好きなことをみんなも好きになってくれる感じがして、うれしかったですね。

◆すてきなお話です。

アイドルグループを卒業してからも、本に関わる仕事をしたいという気持ちは変わらずで。ただ、小説を書きたい、小説家になろうということはあまり思っていませんでした。というのも、何か文章を書くのはずっと好きだったので、仕事にしなくてもいいかなという気持ちがあったんです。私生活でもきっと何かを書くだろうからって。それなら、出版社に就職するとか、図書館の司書になるのがいいかもなーと、思っていたんです。

◆そうだったんですね。

でも、ありがたいことに小説執筆のお話をいただけて。「それなら、頑張ってみようかな」と書いてみて、実際に本になったのを見たら、思っていた以上に感動して! 欲張っちゃいけないと思いつつ、「これからもいろいろな人に読んでもらいたいな、伝えたいな」という欲が出ちゃいました(笑)。

◆Web小説のサイトがあったり、自費出版みたいな形もあったりはしますが、こうやって出版社さんから本を出すというのは、特別なことというか。

そうですね。あとは表紙を書いていただいたり、出版社の担当者さんと相談して一緒に作ったりすることが、一人で書くのとは大きく違うなと実感しています。自分一人で書いているだけだと分からないこと、できないことがいっぱいあるんですよね。

宮田愛萌
宮田愛萌

◆いろいろな方と一緒に作っていき誕生した『あやふやで、不確かな』。テーマは「コミュニケーションの難しさ」です。こういったテーマで書こうと思ったきっかけを教えてください。

私、人の気持ちが分からないんです。何なら自分の気持ちもよく分からないと思っていて。いろいろな本を読んできて、そのときに書いてある感情と自分の感情が一致するかどうか比べて、「ここにうれしいと書いてある。あぁ、これがうれしいってことなんだ!」ってラベリングをしているんです。だから、まだ分かっていない感情がいっぱいあって。でも、みんなはそういう作業をしないというのを聞いて驚きました。誰かとこういう話をするまでは、みんな自分と一緒だと思っていたんです。

◆なるほど。

感情の言語化ってすごく難しいと思っていたのですが、みんなは「私はできている」と言うんですよ。うれしいときにはうれしいという感情を出しているって。それなら、人は自分以外の誰かの気持ちも分かるのかなと思ったんです。でも、考えれば考えるほど、自分以外の人間と完全に分かりあうことなんて、やっぱり不可能だよなって。分かり合えたらと願ってしまうけれど。ただ、そういう矛盾もなんかいいなと思って、「コミュニケーションの難しさ」というテーマで小説を書きました。

◆『あやふやで、不確かな』を読んでいて、個人的には日常風景が思い浮かんでくるような感じがあって。男同士の飲み会や就職活動の話など、「こういう風景を見たかも」と思ったんです。どちらも宮田さんご自身には経験がないことだと思うのですが、リサーチなどはどうやってされたのですか?

どちらも「想像」なんですよね。男の子たちの会話が全く分からなかったので、ネットで「男子会」などと検索して調べました。今の時代って便利ですよね。YouTubeとかで日常生活の様子を配信されている方がいらっしゃるんです。そういうのは面白いなと思いましたし、どういう距離感で会話をするのかなどの参考にもなりました。就職活動に関しては、私自身もしていないのですが、周りの友達もコロナ禍真っ只中で、スーツを着て大学に行ったり、面接会場で合同面接をしたりという機会がほぼなかったんです。友達に聞いても「説明会も面接もぜんぶリモートだった」と言われました。だから、情報を集めて「こういうことなのかな」と思いながら書いたんです。

◆実体験を踏まえたかのようなリアリティがあるなと個人的には感じました。

本当ですか!? そう感じていただけたならよかったです。小説って「想像」だと思うんですよね。だから、実際に経験がなくても、みなさんの「就活と言えば」というイメージと合致すれば、それがリアリティに繋がるのかもしれないなと思っています。今回も、イメージを引き出すにはどうすればいいのかを考えました。

宮田愛萌
宮田愛萌
宮田愛萌
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◆今回の小説には「嫉妬」で上手くいかない恋人関係も描かれていました。私はあまり「嫉妬」という感情が分からない人間でして。ただ、「嫉妬ってこういうことなのか、こうやって嫉妬する人がいるんだ」と、それこそ想像しながら読んでいました。

私も嫉妬という感情がよく分からなくって。でも、想像できたとすれば、もしかしたら「嫉妬」しているけれど、それが自分のなかでは別の名前になっているだけかもしれないですよ。他の人はそれを「嫉妬」と呼んでいるかもしれない。

◆本当にそうかもしれないですね。その感情を言語化できていないだけで。

そういうことも考えながら、この小説を読んでいただけたらなと思います。

◆今回、二冊目に書いた小説だからこその難しさはありましたか?

名前です。イニシャルや音の響きが前回の小説のキャラクターとなるべく被らないように気を付けました。前回の小説で出てきた人物の名前をノートに全員書き出して、イニシャルなどを表にしたんです。

◆被らないようにしたのには、どういった理由が?

私、あんまり人の名前を覚えられなくて。きっとそういう方もいらっしゃると思ったので、被ったら不親切かなと思ったんです。

◆ご自身も苦手なことを踏まえたうえでの配慮なんですね。

そうですね。

宮田愛萌
宮田愛萌

◆「コミュニケーション」という点でいえば、宮田さんはご自身の非公式Xなどでもいろいろと情報を発信されていると思います。その発信が、応援されている方々から大変好評だと感じています。SNSをやるうえで、何か気を付けていることはありますか?

なるべく何かを告知したり告げたりするときは、いろいろな人が読んでも分かるような、国語がちょっと苦手かもという方でも読み取れるような文章を書こうと気を付けています。そうじゃない日常のつぶやきは、「分からなくてもいいや、伝わらなくてもいいや」と思っていて。あれは、私が書きたくて投稿しているだけなので(笑)。これが私の文章だからと思って、人に読んでもらう用の文章にはしていないですね。書きたいように書いています。

◆それで言えば、小説を書くときはどうなのでしょうか?

なるべく分かりやすく書きたい気持ちはあります。……なんですけど、私、結構文章も話自体も装飾過多になることがあって。でも、それによって伝わる情景もあると思うので、その譲れないラインがあるうえで分かりやすい文章になるよう心がけています。

◆それこそ、先ほどお話されていた編集さんに確認していただくことによって、そのバランスが整うのかもしれません。

本当にそうですね。今回も「これ、分かりにくいですかね? こういうことなんですけど、伝わらないですかね? どうやったら伝わりますか?」というやり取りをしました。やっぱり自分一人では分からない部分もたくさんあるので。とても助かりました。

◆まだ2冊目の小説が発売したばかりですが、次にもし小説を書くとしたら、どんなテーマがいいですか?

今は青春ものを書いているんですよ。その次はどうしようかなー? また恋愛ものでもいいかも。今回の小説を書いているときも、登場人物たちとは分かり合えそうになかったので、もう恋愛は無理かなと思っていたのですが、完成したものを見てみると「やっぱり恋愛がテーマもいいかも」と思っちゃって(笑)。書いているときは苦しさもあるのですが、学びもたくさんありますし、心理描写や心の動きは恋愛が面白く書きやすい気がするので。今度は王道感あるやつとかどうでしょうか。

◆楽しみにしています! ここまでのお話を聞いていて、決して共感できる、自分も気持ちが分かるという人物だけを書いている訳じゃないということがよく分かりました。

そうですね。今回の小説でいちばん気持ちが分かるのは智世です。それでも分かり合えない部分もあって。なんでこんな人と付き合っているんだろうという疑問があります(笑)。

◆自分の共感どうこうではなく、小説として伝えたいことを登場人物たちに託しているんですね。

そうですね。

◆本日はいろいろなお話ありがとうございました。最後に、本書を楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。

この小説を読んだ後に、登場人物にムカついたり、嫌いになったりしても、いいんです。むしろ、そういう感情の動きを大事にしてもらいたいです! 私も小説を書いているとき、成輝に何度ムカついたことか……(笑)。桃果、超かわいいですからね! もっと大事にしてくれよと思っていました。

◆そういう感情は決して間違っていない。

ないですし、逆に成輝の感情がすごく分かるという方もいると思うんですよ。自分とは違う考え方をする人は絶対にいます。だからこそ、もうちょっと自分の感情を言葉にしてみたら、伝わることもあるし、助かる人もいるんじゃないかな。本当にすてきな作品にしていただけたので、なるべくたくさんの方に読んでいただけたらうれしいですね!

宮田愛萌
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●photo/小川遼 text/M.TOKU

PROFILE

宮田愛萌
●みやた・まなも…4月28日生まれ。東京都出身。2023年にアイドルグループを卒業。同年2月に初の小説集『きらきらし』(新潮社刊)を執筆するほか、9月にはバターの女王アンバサダーにも就任。『小説現代』(講談社)にてエッセイ「ねてもさめても本のなか」を連載中。2024年2月よりTV LIFEラジオ番組「文化部特派員『宮田愛萌』」のパーソナリティを務める。そのほか、執筆活動でさまざまな出版物に寄稿し、短歌研究員としても活動中。

書誌情報

「あやふやで、不確かな」
著者:宮田愛萌
判型:四六判並製/200p
発売日:2024年4月17日(水)
価格:1,760円(税込)

あらすじ
考えていることなんて伝わらないし、言葉はあいまいだ。
だから私たちは、伝える努力をしなくちゃいけない。
どこにでもいる普通の女の子、冴。冴からの愛を信じられなくなった伸。友人が恋人と別れたことをきっかけに、自分が恋人のことを愛しているか分からなくなった成輝。逆に、恋人との絆を強くした智世。冴のことが嫌いだけど好きで忘れられない真澄――。4組それぞれが抱える恋心を丁寧に描く。

https://www.gentosha.co.jp/topic/detail/031457/

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