『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞し、今や世界の映画人が注目する深田晃司監督の最新作『海を駆ける』の公開御礼舞台挨拶が行われ、主演のディーン・フジオカと深田晃司監督が登壇した。
深田監督は、2011年の東日本大震災の後に大学の研究チームの震災復興リサーチに参加。そこで、2004年にスマトラ島沖大震災による津波で壊滅的な被害を受けつつも、今では完全に復興を遂げた町バンダ・アチェを訪れて本作のアイデアを想起したという。自然はときに豊かに美しく、ときに脅威となり人を飲み込み、また人間の生活は自然と共にあるというさまを、インドネシアの美しい海、そして国籍や宗教を越えて育まれる若者たちの友情を通して描くファンタジー作品。
公開を記念した今回の舞台挨拶では、ディーンと深田監督が公開したからこそ語れる撮影秘話や、上映後の反響について語った。
ディーンは、「(本作がファンタジーであることから)皆さん現実に戻ってきてください!(笑)今回、リピーターの人が多いと聞いて、この2018年に映画館で何度も見る作品のひとつになれて、とても光栄に思います」とコメント。深田監督は「2時間前に急に声が出なくなったので、(ディーン扮する)ラウに治してもらおうと思いました(笑)」と、告白。続けて「 たくさんの方に見ていただき本当にうれしいです。見る人によって見え方がなるべく異なるようにしたいと思っていたのですが、SNSで感想をみていると、やはり見え方が人によって違っているようで良かったです」と語った。監督の声が枯れていて話し辛そうなところをディーンがフォローし通訳するというひと幕に、会場からは笑いが起きていた。
続いて、オファーを受けたときの気持ちを聞かれたディーン。「バンダ・アチェという映画の機材や映画館さえないような場所で映画を撮影するという行為が狂気の沙汰としか思えなかったです(笑)」とまさかの告白をしながらも、「しかし、自分の知らないインドネシアの未体験ゾーンに入っていくということにドキドキワクワクしました。実際、インフラが整っていない場所での撮影は大変でした。しかし、不便なりの過ごし方を見つけたり、また現地のスタッフと一つのゴールに向かって頑張ることや、インドネシアの魅力を再発見できて楽しかったですと」振り返った。
また、ディーンを起用した理由について、深田監督は「ラウは人を超越した美しさを持つ役で、演じられそうな人が見つからず、なかなかキャストが決まりませんでした。そのとき何人かに勧められてディーンさんのお顔をネット検索して見たときに、もうディーンさんしかいない、と思いました」と明かした。
これに対しディーンは「ありがとうございます(笑)。(監督がこだわるラウの見た目について)監督の求めるラウ像に日々近づけていくようにしました。せりふが少ないため、たたずまいや表情を意識したり、肌は、健康的に見せるために日向ぼっこをして肌が白くなり過ぎないようにしました。体形も、筋肉がつきすぎても細すぎてもいけないので、程よいバランスを保つために泳ぎました」と役作りの裏側を語った。
印象に残っている監督の演出について、ディーンは「言語を他の言語にスイッチして読み合わせをしたりすることで、自身のバックグラウンドをトレースするような作業があって、初めての体験で面白かったです。オーバータイムもなくて無駄がなかったですね」と振り返った。
元々セリフはもっと多言語に渡っていたということに対し、監督は「最初は中国語のせりふもあったんですけど、ディーンさんだから、そんなに言語を追加しているのかと思われてしまうかと思い、英語・日本語・インドネシア語に絞りました」と明かした。
最後に、ディーンは「日常生活では、映画に限らず(何かをしても)1回で終わってしまうことが多いのですが、何度も体験したいと思えるような、価値観として残るような作品になってほしいです」と。深田監督は「この作品をかわいがってくれてありがとうございました。今日は声が枯れてしまい、低すぎてお相撲さんみたいですね…。ごっつあんです…」というコメントで会場の笑いを誘い、舞台挨拶は終了した。
映画『海を駆ける』
テアトル新宿、有楽町スバル座ほかで公開中
<ストーリー>
インドネシア、バンダ・アチェの海岸で倒れている謎の男が発見される。片言の日本語やインドネシア語を話すが正体は不明。その謎の男にラウ(=インドネシア語で「海」)と名付けて預かることになった、災害復興の仕事をしている貴子と息子のタカシたち。その周辺で謎の男・ラウはさまざまな不思議な奇跡と事件を巻き起こしていく―果たしてラウは何者なのか…。
<キャスト>
ディーン・フジオカ 太賀 阿部純子 アディパティ・ドルケン セカール・サリ 鶴田真由
<スタッフ>
監督・脚本・編集:深田晃司
公式ホームページ:http://umikake.jp/