映画「劇場」の初日舞台あいさつがリモートで実施され、主演の山﨑賢人、行定勲監督が登壇。舞台あいさつの様子は別会場にいる観客に同時中継された。
本作はお笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹による初の恋愛小説となる「劇場」を、行定勲監督が実写映画化。劇作家を目指す主人公の永田(山﨑)と、彼を必死に支えようとする沙希(松岡茉優)の“一生忘れることができない恋”を描く。
映画が公開となった気持ちを聞かれた山﨑は「この映画は劇場で観てほしい作品なので、こういう風に初日をやっと迎えられて本当にうれしく思います」と。行定監督も「4月に公開を予定していた時よりちょっと公開規模は縮小したんですが、映画館で上映できる喜びをすごくかみしめております。ここまで楽しみにしてくださった皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。僕はこの2020年7月17日に自分の新作が公開されたということを一生忘れないんじゃないかと思います」とあいさつした。
山﨑は自身が演じた永田というキャラクターについて「永田の人間としての弱さとか、愚かさとか、嫉妬心だったり。永田は劇作家で僕も俳優という仕事をやらせてもらっている中で、表現するという意味では近いところもあって、普段自分が抱えているような感情がいっぱいありましたし、台本を初めて読ませていただいたときに演じてみたいシーンがいっぱいありました。人間って愚かな部分がたくさんあると思うんですけど、ここまで愚かな部分を出せる役が初めてだったので、本当に永田が演じられてうれしかったです」と語った。
永田役に山﨑を選んだ理由を聞かれた行定監督は「誰が永田をやればいいのか原作を読んで思いつかなかったんですよね。俳優で誰なんだろうと思った時に、プロデューサーからの提案で山﨑賢人は、と。思いもしないですよね。というのは山﨑賢人がこれまでそういう役をあまりやってきていないから。それを聞いてこれは良いと思って(笑)。やっていない人間がやるのが一番僕の気持ちを凌駕してくるんですよね。それで山﨑くんに来てもらったんですけど、まぁきれいな顔をしていて(笑)。その瞬間にまず汚したい!と思ったんです(笑)。汚すために『髭とか生える?」とか『髪の毛ボサボサにしてさ!」とかって言うと結構本人がノっていて。素直で、いい意味でちょっといかれてるんです。無自覚にいろんな表情するし、やっていてすごく楽しかったですね。得体が知れない山﨑賢人が現場にいて、その場その場の衝動を撮るのに必死だったんです。それを皆さんに披露できるのがうれしいですね」と笑顔を見せた。
これを聞いた山﨑も「本当に行定さんと映画を作っていく過程は最初に出会った時から楽しくて(笑)。永田を作っていく上で、普段舞台の演出もされている行定さんのエッセンスを現場で感じながら永田に入れてみたり。しぐさ一つ一つ一緒に作っていくのが楽しかったですね」と振り返った。
ここで、スケジュールの都合でイベントに参加できなかった松岡茉優よりビデオメッセージが。松岡は「公開おめでとうございます!今回の新しい試みに対して、海外にいる山﨑くんや私や行定監督のファンの方が同時に観られるのがうれしい!という感想をいただいてうれしかったですし、すごく良いことなんじゃないかなと思いました。舞台あいさつに行けなくてとても残念ですが、私と山﨑くんが演じた永田と沙希ちゃんの7年間の恋の物語、そして夢の物語。恋をしたことがある人、夢を追いかけたことがある人、そして忘れられない人がいる人が、過去と向き合うのも悪くないんじゃないかなって思える映画じゃないかな思います。楽しんでください!」とコメントを寄せた。
山﨑は「すごい茉優ちゃんの魅力たっぷりなメッセージでしたね(笑)。茉優ちゃんとは同い年で、撮影に入る前に共通認識で『劇場』はこういう作品で、こういう結末があるから、どの時期にどういう想いを持っていたかを話そうって言ってくださったりして。本当に頼もしい女優さんだなと思いますね。ほぼ2人芝居だったので、お芝居できてすごくうれしかったです」と。
続けて「こういう時期だからこその試みだと思いますし、だからこその伝わり方があると思うので、本当に全世界の皆さんに同時に『劇場』を観ていただいて、伝わっていけばいいなと思います」と語った。
行定監督も「松岡茉優という女優はいろんなことを察してくれて頼もしいですね(笑)。僕の想いとかを察してコメントをくれたんだと思うんですが、僕は今回の様な取り組みになったのは良かったと思うんですね。コロナ禍の中で外に出にくい方もいらっしゃると思うので、そういう方たちも観れるという。またこの映画は観るとある仕掛けがありまして、最後にこれは劇場で観たかったなって思ったら観に行くという経験もできます」と語った。
また、劇中で沙希が永田に対して優しく語りかける「ここが一番安全な場所だよ」というせりふにちなんで、2人にとって「一番心地いい場所」はという質問が。
山﨑は「家ですね(笑)。自粛期間もあったりして、家が居心地よくなる様に努力しましたし。掃除して部屋が広くなるようにしたり、カーテンの色を変えたり、植物を置いたりして。場所で言うと家になっちゃうんですけど、居心地が良い人とか大事な人がいる場所が全部安全ないい場所になればと思いますね。外へ出れない分2パターンあります」と。
行定監督は「映画館ですね。やっぱり映画館は居心地いいですよ。例えば映画館でつい寝ちゃう体験をしたことがあると思うんですけど、それもある種映像や音に没入しているってことだし、逆に暗闇の中で1つの作品を観ている、他者と共有する瞬間っていうのもあるんですよね。そういうものがある映画館っていうのはいいですよね」と語った。
最後に行定監督は「今日映画館の入り口に『劇場』の大きな看板がかかっていて、鳥肌が立つ、感じたことのない感動を覚えました。当たり前のようにスクリーンで上映して舞台あいさつをして、というのが今となっては奇跡的な素晴らしい出来事だったんだと感じられる初日を迎えられました。この映画は一人で向き合ってもいいし、いろんな人たちと見終わった後に語り合ってもいい映画です。この映画を堪能していたければと思います」と熱く語りかけた。
山﨑は「劇場公開と同時配信という形になったんですけど、こういう時期だからこそポジティブに考えていければと思っています。この映画の永田と沙希ちゃんも、どうしようもない時間とか苦しかった時間とか自分の愚かさだったり、そういうものがあるからこそ、人とは違う景色が観れていると思いますので、そんなどうしようもなかった時間も自分の中で肯定できるようなきっかけにこの映画がなってくれたらと思いますし、大切な人に対して普段の自分はどうなのかなと振り返るきっかけにもなると思います。この映画を観てくれた全ての人が、いい未来に向かっていけるようになってくれればうれしいなと思います」と想いを明かした。
上映終了後には、行定監督によるティーチインを実施。行定監督は「スクリーンでかけられたこと、皆様に観ていたけたことが何よりもうれしく思います。最近スクリーンで観るっていう行為が特別なものに思えてきていて、大きいスクリーンにかけられるものっていうのは簡単にできないっていう時代がもしかしたら来るかもしれないですね。それでもスクリーンにかかる絶対的な映画を目指そうと思います。配信も観てみたんですけど、結構よかったですけどね(笑)」と観客に語りかけた。
さらに裏話として、自転車の二人乗りシーンは東京都内での撮影が交通法によりNGだったため、撮影可能な別場所を探して撮影したというエピソードを紹介。このシーンでは桜が咲いているが、キャストが撮影した時期には桜は咲いておらず、桜の時期に全く同じカットを撮影して合成したという話も飛び出し、観客を驚かせた。
作品情報
「劇場」
全国公開中/配信中
<出演>
山﨑賢人 松岡茉優
寛 一 郎 伊藤沙莉 上川周作 大友律/井口理(King Gnu) 三浦誠己 浅香航大
<スタッフ>
原作:「劇場」又吉直樹 著(新潮文庫)
監督:行定勲
脚本:蓬莱竜太
音楽:曽我部恵一
配給:吉本興業
<ストーリー>
高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想。そのはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡)を見かけ声をかける。女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。お金のない永田は沙希の部屋に転がり込み、ふたりは一緒に住み始める。沙希は自分の夢を重ねるように永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いつつも、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していき―。
©2020「劇場」製作委員会