東日本大震災から10年…映画「漂流ポスト」主演・雪中梨世インタビュー

映画
2021年02月13日

“漂流ポスト”とは、「手紙を書くことで心に閉じ込められた悲しみが少しでも和らぎ、新たな一歩を踏み出す助けになるなら」という思いから、被災地である岩手県陸前高田市の山奥に建てられた郵便ポスト。当初は東日本大震災で亡くなった人への思いを受け止めるためのポストだったが、今では病気や事故など、震災に限らず亡くなってしまった最愛の人に向けた思いを手紙につづり、届ける場所になっている。震災から9年以上たった現在も多くの手紙が届き、その数は500通を超える。手紙は同じ境遇の人々にシェアされ、心の復興を助けている。

2011年3月12日に仕事で岩手を訪れる予定だった清水健斗監督は、自分が1週間前に訪れた場所が津波に流されてしまう様子をニュースで見て、他人事とは思えず、長期ボランティアに参加。そこで直に見聞きした被災者の想いを風化させないために、ニュースで知った“漂流ポスト”を舞台に、心の復興の映画を製作した。このたび、主演の雪中梨世のインタビューが届いた。

◆実在の漂流ポストの管理人の赤川さんとはどのような話をしましたか?

雪中 漂流ポストにどんな思いが込められているかという話をしていただいて、どんな方が今まで来てくださったとか手紙を書いたことによって一歩踏み出せたんだよというお話をしていただきました。

◆監督とは撮影前に何か話しましたか?
雪中「気負わず、雪中さんが思ったままやってくれていいからね」と言っていただきました。撮影前に、漂流ポストを取材した番組の映像と被災地の高台にある「風の電話」の映像をいただきました。

◆撮影はいかがでしたか?

雪中 本当に3.11を風化させないという思いが集まってできた撮影だったと思います。(実在の漂流ポスト管理人の)赤川さんの全面協力で、実際に漂流ポストがある場所で撮影ができたということもそうですし、監督が主人公の心情に寄り添ってくださっていたので、普段だったら映画の撮影はスケジュールの関係でバラバラに撮ったりするんですけれど、脚本どおり順撮りで撮ってくださったので、すごくやりやすかったです。

◆ドキュメンタリー的なシーンもあるとの事ですが、どのシーンですか?

雪中(漂流ポストのある)ガーデンカフェ森の小舎に実際に届いた手紙を入れている箱があって、その手紙を読むシーンです。

◆監督は、この映像を本編で使うとは言わないでカメラを回していたそうですね?

雪中 言わなかったんです! 手紙を書いている一文字一文字に魂がこもっていて、どういう思いでこの手紙を書いたんだろうと考えるだけで言葉にできない思いが出てきました。

◆実際の漂流ポストやガーデンカフェ森の小舎で撮影できたことは演技に影響しましたか?

雪中 だいぶ大きかったと思います。森の中にあるんですけれど、周りに建物がなく、本当に静かで、赤川さんの包み込むような優しさが全面的に出てきているので、そこで引き出されるものがありました。

◆「一歩踏み出すことが、忘れることにつながりそうで怖いんです」というせりふのシーンが真に迫っていましたが、撮影時のエピソードはありますか?

雪中 私もそのせりふが印象的でした。実際に私も撮影前に大切な人を亡くしたこともあって、どうしたらいいんだというやり場のない気持ちが迷いになっていました。「自分の自己満じゃないか」「忘れることにつながりそうで怖い」という思いでそのまま演じました。自分の葛藤もあったと思うし、それが漂流ポストに来る人たちと同じ思いなのではないかと感じたので、自分の迷いや葛藤は全面的に出していこうと思いました。

◆本作で特に注目してもらいたい部分はありますか?

雪中 手紙を書くシーンです。撮影のちょっと前に亡くなった祖母に実際に手紙を書いたんです。撮影前も、このモヤモヤした気持ちはどうしたらいいんだろうなとすごく迷っていたので、この手紙に全部ぶつけようと思って書いたら、本当に不思議なくらい肩の力がふーって抜けて、すっきりしたんです。なので、手紙を書くということは文字にエネルギーが込められているんだなとすごく感じました。

◆ただ役者として撮影に行ったというだけではなく、大切な人を亡くした一人として、漂流ポストに助けられたという部分があるんですか?

雪中 はい、それがきっかけで手紙を書くようになったし、伝えたい時は手紙にしようと思うようになりました。

◆インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。

雪中 3年前に海外(映画祭)に行った作品が、震災から10年という節目の年に劇場で公開していただけることは本当にうれしいです。この作品を見て、1人でも多くの人が一歩前進できるきっかけになればいいなと思っています。

雪中梨世(池淵園美役)

●ゆきなか・りせ…1994年10月7日生まれ。福岡県出身。2013年、舞台「桜の森の満開の下」(原作:坂口安吾)にてヒロインに抜擢されデビュー。その後、少年社中「ネバーランド」や柿喰う客フェスティバル「サバンナの掟」など舞台を中心に活動。テレビドラマでは「家政夫のミタゾノ」や「越路吹雪物語」など話題作にも出演。本作品にて映画初主演を務める。

映画「漂流ポスト」
3/5(金)よりアップリンク渋谷ほかにて公開

出演者:雪中梨世 神岡実希 中尾百合音 藤公太 永倉大輔
監督・脚本・編集・プロデュース:清水健斗

©Kento Shimizu

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