池波正太郎の時代小説「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」の映画製作発表記者会見が行われ、松本幸四郎が五代目・長谷川平蔵、豊川悦司が藤枝梅安を務めることが発表された。
衣裳デザイナー・黒澤和子がこの日のために手掛けた衣装で登壇した2人。「鬼平犯科帳」で五代目・長谷川平蔵を務める幸四郎は「今、すこぶる興奮しております。人が人らしく生き抜いたドラマ。そして池波先生が江戸の世話物を描かれたいという思いからできました『鬼平犯科帳』。それを江戸、そして時代劇という職人芸でお見せいたします。どうぞご期待ください」と意気込んだ。
「仕掛人・藤枝梅安」で新たな藤枝梅安を務める豊川は「とても大きなキャラクターを池波正太郎先生からお借りすることになりました。身が引き締まるどころか、身が縮こまる思いではありますが、撮影もこれからとなります。素晴らしい映画を皆さんにお届けるよう、誠心誠意頑張る所存でございます」と語った。
演じるに当たっての思いや、決まっての感想を聞かれると、幸四郎は「鳥肌が立つ思いでいました。池波先生の傑作でもありますし、それに加えて祖父(八代目・松本幸四郎)、叔父(中村吉右衛門)ら、とても近い存在が演じておりました作品でもありましたので、このお話をいただいた時は喜び以上に驚きがあった。やりたいという気持ちがあった。根拠のない自信が即答させた感じ」とオファーを受けた時の気持ちを振り返った。
豊川は「驚きました。『俺が梅安?』『どうしてだろう』と。子供の頃、緒形拳さんが演じていた必殺仕事人、怖いけどカッコいいと夢中になった時期があった。僕の中でも梅安という人が憧れのヒーローであったので、それをまさか自分がやるなんてと驚きがあり、すごく迷うような部分もありました。でも、大森寿美男さんが描かれた素晴らしいシナリオを読み、誰が監督するんだと思った時に、河毛俊作さんの名前が出て、これはやるしかないなと腹をくくったというか、チャレンジしがいのある仕事を映画の神様がくれたんだなと思いました」と明かした。
杉田成道監督は「幸四郎さんを見ていると血だなと。一つのオーラっていうんですかね。鬼平というのは、動かないような泰然としたものがやっぱりあるんだと思った。また、豊川さんを見ていて、梅安は色気だなと。2人に匂うものと、池波さんが描こうとした単純な切り合いとかだけの向こうにある、人の苦みというようなものが、後ろに匂っているような気がして、この2人なんだろうな」と2人の印象を明かした。
「この発表会に、どんなお気持ちでスタンバイされていましたか?」と聞かれると、幸四郎は「幸せですね。祖父の鬼平はリアルタイムでは見れていませんが、それを五代目としてやらせていただく、ひたすら幸せですね。それを通って、五代目の鬼平を作り上げたいと思っています。そこを飛び抜けて進化した鬼平を目指したい」と語り、「現在歌舞伎座で共演している叔父の中村吉右衛門さんにはご報告されましたか?」と問われると、「内容についてはまた別の機会に」と笑った。
大人の色気を感じられる梅安について問われると、豊川は「当時のテレビドラマは子供が見るには刺激が強いシーンもあったんですけど、緒形拳さんの作品を観た。緒方さんの半分しか明かりが当たっていなくて、人間の顔ってこういうふうに見えるんだと強く感じた覚えがある。今回の新しい梅安もダークヒーローと言われ方がありますけど、梅安っていうキャラクターを取り巻く、世界の光と闇みたいなものがどの時代でも普遍的にエンタテインメントになっていくんだなと」と当時感じた思いとともに、今のイメージを語った。
「いま時代劇がどのような意義を持っているか」と問われた豊川は「時代劇はこれから黄金期がくる期待があります。世界的な流行を見ても、未来を見ることよりも、過去、昔の人たちがどういう生き方をしていたのかを学ぼうとしている。そういう意味で時代劇で描かれるシンプルで人情ある世界はどんどん需要が出てくると思っています」と期待を寄せた。
また、京都での撮影することの魅力について問われると、幸四郎は「時代劇という表現方法、演出方法だと私は捉えております。そういう意味では、それを作るに当たっては本当に職人芸だと思います。着物、道具、カツラ、所作など、全て職人芸だと思っております。その職人が集まっている場所でもありますし、私自身30年以上そこでお世話になっておりますので、その方々の職人芸を見ていただきたい。それを作れる場所が京都だと思っています」と明かした。
最後に、幸四郎は「『鬼平犯科帳』これは善悪はハッキリ明確としていると思います。ここに描かれているのは善人でもあり、悪人でもある人々の人間ドラマだと思います。人が人と接しないと何も情報も得ることができない時代だと思います。人強くつながっていることによって、いろんなドラマが生まれる作品だと思いますので、その人として、人らしさを感じていただける、その先に温かさ、優しさというものを感じていただけたら。そこに決断力と繊細な情報を持った長谷川平蔵がいるという作品を目指して務めたいと思います」と。
豊川は「僕自身がかつてそうだったように、今の子供たちが見て、『怖いけどカッコいいな』と思ってもらえるようなヒーロー像を作り上げていきたいと思います。伝統を踏まえながらも、やはりこの時代に作る新しい梅安というものを河毛監督と一緒に作り上げていきたいと思ってます」と意気込み、締めくくった。
「仕掛人・藤枝梅安」は、2022年に映画2作品を撮影。2023年2月に第1作、同年5月に第2作を公開予定。監督は、『セーラー服と機関銃』『抱きしめたい!』『ギフト』『救命病棟24時(第4シリーズ)』などの演出を担当してきた河毛俊作。
「鬼平犯科帳」は、映画を2023年5月ごろに撮影を開始し、連続シリーズを23年末に行う。映画は2024年5月の公開予定で、同時に連続シリーズも配信する。監督は、『北の国から』シリーズの演出や『最後の忠臣蔵』(10年)などで知られる杉田成道。また、連続テレビ小説『なつぞら』や大河ドラマ『風林火山』などを手掛けてきた大森寿美男が両作の脚本を担当する。