映画「ベルヴィル・ランデブー」の公開記念トークイベントが、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催。本作に魅了されたという音楽家・文筆家の菊地成孔と、フランス映画に詳しいライター・編集者の小柳帝が登壇した。
本作は、2003年のカンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映され、ニューヨーク映画批評家協会賞をはじめ多くの映画賞を受賞。フランス映画として初めて、アカデミー賞の長編アニメーション映画部門にノミネートされた作品だ。
おばあちゃんと幸せに暮らす、内気な少年・シャンピオン。情熱を傾ける自転車レースのためにふたリは特訓を重ね、ついにツール・ド・フランスに出場するが、そこで事件は起きる。
マフィアに誘拐された孫を追って、おばあちゃんは愛犬ブルーノとともにシャンピオン奪還のための大冒険を始める。協力してくれるのは、伝説の三つ子ミュージシャンの老婆たち。腕力では敵わないが、人生経験と知恵そしてユーモアと愛で数々の難局を乗りきっていく…というストーリーだ。
映画を観て大ファンになったという菊地は、2003年度アカデミー賞歌曲賞と第47回グラミー賞にノミネートされ、その音楽が高く評価されている本作の魅力を、音楽面から掘り下げて語った。
「原題は 『LES TRIPLETTES DEBELLEVILLE』で、ベルヴィルの三つ子という意味。TRIPLETTESは三つ子という意味だけど、音楽用語にすると三連符になる。音楽に密接に関わるタイトルで、こういった洒落が効いてる作品」と、細かな仕掛けや有名人のオマージュネタがさりげなく盛り込まれている本作の魅力をタイトルからひもとく。
さらに「三つ子のおばあさんたちトリプレットが歌う主題歌の『ベルヴィル・ランデブー』がジャンゴ・ラインハルト調の“マヌーシュ・ジャズ”のメロディーで、マヌーシュはジプシーの音楽。そして、孫を追うおばあちゃんと三つ子が橋の下で出会うシーンで、三つ子が手拍子を打って歌いながら登場するが、そのリズムが“マグレブ”という北アフリカの音楽と一緒」だという。
続けて「ジャズはかつてフランスの領地とされていた、アメリカ・ニューオーリンズで生まれている。こういう風に、フランス・アメリカ・アフリカの深い関係性を音楽で立体的に描いていて、文化史的な厚みを持った素晴らしい作品」と分析した。
またストーリーに関しても「戦争で両親を亡くした孫をおばあちゃんが育てるという、いくらだって泣ける話なのに、いつ泣かせるのかな? と待っていると、最後までおばあちゃんと孫の交感のシーンがない。この映画は泣きどころのないドライな映画かと思っていると、最後の一撃がくる」と。
「一番最初はトリプレットが登場する50年代のテレビを観て『もうこれで終わりなの? おばあちゃんに教えて』と孫に問いかけるが、孫は答えない。それが、ブーメランのように最後に同じシーンに戻ってきて、孫が初めてしゃべるセリフが胸に迫ってくる」と絶賛する。
エンドクレジットについても、「最後に“両親に捧ぐ”という謝辞が出てくるが、おばあちゃんに育てられる孫の話なので、両親は映画には登場しない。けれど祖母ではなく、映画には出てこない両親にこの映画が捧げられているという仕組みも洒落ていて、終わった後にジーンとくる」と、味わい深い作品に胸を打たれたことを明かした。
イベント概要
映画「ベルヴィル・ランデブー」公開記念トークイベント
2021年7月11日(日)ヒューマントラストシネマ渋谷シアター1
登壇者:菊地成孔、小柳帝
作品情報
「ベルヴィル・ランデブー」
全国順次公開中
監督:シルヴァン・ショメ
音楽:ブノワ・シャレスト
配給:チャイルド・フィルム
公式サイト:https://child-film.com/Belleville/
©Les Armateurs / Production Champion Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvain Chomet