1996年にスタートした「ザ・スライドショー」。みうらじゅんが全国を巡りながら撮りためた膨大な量の写真の中から、よりすぐりのものをスライドによってスクリーンに映し出し、それをいこうせいこうがツッコむ。この2人だけの舞台が今年20周年を迎えた。「ザ・スライドショー」はいかにして生まれ、発展してきたのか。その真実に迫るドキュメンタリー『みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary 映画ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』が2月18日(土)より全国公開される。それを記念し、みうらさん、いとうさんにインタビューを敢行。やはりそこに“レジェンド仲良し”なお2人の姿がありました。
◆映画『ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』が完成しました。実際に出来上がりをご覧になっていかがでしたか?
みうら:面白かったですね。スタートしてから20年たっているので、時系列で追っていくと当然若いころのスライドショーも出てきて、そこがすっごい恥ずかしいだろうなと思っていたんです。でも、これまでの13回のスライドショーの歴史全体を通して、自分が気づかなかった、節目、節目にこうやって変わっていったんだってことが分かりましたね。
いとう:最初にこの映画化の企画を聞いたときは「そんなのやってもどこが面白いんだ?」ぐらいなことを言っていましたからね。
みうら:この企画はうちら発信じゃないですから、言っときますけど(笑)。
いとう:でも、やってくれるって言うんだったら、やってくれたらいいって言って。
みうら:やってくれるんだったらいいって(笑)。
いとう:基本的にはドキュメンタリーフィルムってやっぱり面白いから、ちょっと自分のことなんだけど自分じゃないみたいに見ちゃうよね。「あぁ、この2人がこんなこと考えてたんだぁ」って。僕はみうらさんのインタビュー部分は知らないわけだから。
みうら:インタビューは別々に撮っているんですよ。
いとう:みうらさんもこのときは同じこと考えてたんだぁとか、みうらさんはあのときこう思ってたんだぁっていうふうに見るわけですよ。
みうら:うん。
いとう:しかもそれを「あっ、ボケの人はこういうセンスでこう考えるんだ」っていうふうにも拡大できるから。そういう何層にもわたって、レイヤーがいろいろあるというか、見方がいろいろある感じがしたので。きっと面白いんじゃないかなとは思いました。
◆みうらさんのいとうさんへの愛情がスクリーンからひしひしと伝わってきました。受け取る側としてはいかがでしたか?
みうら:暑苦しいやつでしょ(笑)。
いとう:激しいやつね。
いとう:受け取る側は「また始まった」っていう。病気がまた始まったよ、前よりひどくなっているなって。
みうら:そうだよね。治らないんですよ。
いとう:そこがまたみうらさんの面白いところで。昔は男が女の人に憧れるような態勢だったけど、今は、女性がどう見るか、女性の感覚から見たら世の中こうなんだっていうようなことの代弁者になってきているから。そこはやっぱ面白いなぁって思います。例えば、みうらさんを単体でずっと追っかけていたら、それはそれでドキュメンタリーとして20年たったら面白いですよ、絶対。でもいろんなことをやっているからこの人。普通20年は追えないと思うんですよ、ドキュメンタリーで。でも今回のようなやり方で“みうらじゅん”という人を追うことが可能だったんだなって。これからどうなってくのかという意味での面白さがありました。
みうら:俺は引き出されたボケだから。いとうさんの調教により引き出された…。
いとう:調教してねぇつぅの(笑)。
みうら:それが皆さんのお役に立っているなら良かったっていう。
いとう:なるほど。面白いんだったらよかったなと。
みうら:そうなんですよ。面白かったらいいわけで、面白くなかったら困るんですよ。
いとう:そう、一番困る。
みうら:この20年間のドキュメンタリーふうに語っているインタビューは、その変遷があるんですよ。葛藤もあったし。いとうさんが言うように、俺、元はツッコミの人間なんで。ネタに対しては。分かってボケてるんですよ。その秘密を明かされてしまったから、今後はどうするのかなっていう感じなんですけども(笑)。「ザ・スライドショー」はアドリブでやってるけど、実は緻密な頭の中の相手のツッコミ、ボケの熾烈な読み合い…。
いとう:将棋です。瞬間将棋です。
みうら:ここ指したらどうくるかっていうのを、3、4手先を読んでるんですよ。「ザ・スライドショー13」のときの“ワッフル”で、わぁってなったのは読みが全部当たってたんですよ、2人とも。そこまでくるまでにはいろいろあって。そういえばいとうさんと今後の「ザ・スライドショー」をどうしていくか、立ち位置を話したこともありましたね、実は。
いとう:毎回調整していたよ。
みうら:やってることはアドリブなんだけど、その後、すごく調整する。
いとう:「強めにツッコんだほうがいいんじゃないか」「いやいや強めにボケたほうが面白いんじゃないか」とかしゃべり方はこうなんじゃないかとか。
みうら:「敬語はやめよう」とかね。
いとう:いろいろなことをやって。そのパターンを全部やって。この3回ぐらい前から、カレーが熟成に入ってきたときに、たまたまそれを見てか、見ずか、WOWOWがこうやりたいって…そういう感じなんですよね。
◆劇中でいとうさんが“いいね!”を世界で1番早く押した話がありましたね。
みうら:いとうさんは、“どうよ”と“いいね”が早かった。もう何十年も前に“いいね!”出してたよ。
いとう:いいものを見つけて誉めるの好きだから。
みうら:「ROCK’N ROLL SLIDERS」のテーマ歌ったことあったでしょ? 映画にも入ってる。俺が歌うとさ、その横でいとうさんが「ディザイヤー」とか適当にあるところだけ拾って、英語よせて…。
いとう:ただ英訳してるだけね、中学生並みの英語なんだよ、あれが。
みうら:その途中で「いいね!」っていうのが入ってるよ。
いとう:うそ! 知らなかった…。
みうら:そんな昔から「いいね!」だからね。つい出ちゃうんだよ。いとうさんの周りの若いミュージシャンの人とかもね、いとうさんの“いいね!”が聞きたくて、つい「いいね!」が出たときの…。
いとう:うれしいから。
みうら:どれだけポイント稼ぐかが…。
いとう:“いいね!”ポイント!(笑)歌舞伎の“なんとか!”っていうような、タイミングよく言わないと格好悪いから。
みうら:うまいのよ。応援団やってたから。応援するのうまいの。応援のプロだよね。
いとう:で、持ち上げて持ち上げて、最終的にきついツッコミをしたときのみうらさんのがっかりが面白いの。
みうら:がっかり屋さんね(笑)。
いとう:「うんうん」って聞いてるからどんどんしゃべるけど、すっかり途中から聞いてないから。
みうら:思ってるようなオチにいかないの。こっちは頭の中で整理してるから、スライドショーの現場は。俺はスライドも見てるし撮ってるから。順番も考えて、「こうきたら、こういとうさんが言う」って予測の基に言ってるんだけど、いきなり日付のこととか言われちゃって。
いとう:最後の一手が違うでしょ?
みうら:そこから、あたふたが出た。
いとう:そこがまた面白い。
みうら:でも、今までお笑い広しと言えど、「集めんなよ!」っていうツッコミって聞いたことがない。漫才を見て「集めんなよ!」って聞いたことないじゃない。それは集めてないからだけど。
いとう:そうだね、集めたら怒んないと。
みうら:あれはスライドショーオリジナルツッコミだから。むやみに言わないもんね。
◆今SNSの影響もあり、最近は面白い画像をすぐネットに上げる人が多いような気がします。時期も関係なく、熟成しないというか。
いとう:とっておかないよね。
みうら:「早く出して上げんなよ」がバンバンね。それは分かってるよ。
いとう:よく見てみると、みうらさんがあたかも昨日見つけたのようにしゃべってるけど、15年くらい前のだからね。
みうら:つい日付が入ってるんだよ(笑)。
いとう:わざわざ出してきてというおかしさをまず恥ずかしめてからおもむろに言うんだよ。96年に何やっていたんだっていうわけ。
みうら:まぁ尋問だよね。
◆逆にみうらさんがツッコんだり、いとうさんがボケたりしたいと思うことは?
みうら:一時あったんだけど、それはグダけてきたね。
いとう:グダったね。あとね、お客さんも分からなくなっちゃうみたい。遠近法が。一応、僕の理性を通してみうらさんを理解しようって思ってるのに、僕が狂っちゃうことによって遠近法が狂う、見方が分からなくなっちゃうみたい(笑)。
みうら:いとうさんを通してみるショーだからね。20年もできたのは、俺がこんなに集めてきてすごいとかではなくて、それをみんなで共有して、お客さんが笑うっていうショーだから。おかしかったら自分なんていなくてもいいわけだから。
いとう:まぁね。話の中で、みうらさんのほうが正論を言ってるときもあるよね。そこは微妙に面白いんですよ。でも僕も正論で一生懸命にいく。でもみうらさんのほうがより正論を言う。で、俺は「まぁそうとも言えるけど」って言ってるときにお客は、「じゅんちゃん頑張った!」みたいな感じで拍手になるみたいな、そういうのあるよね。
みうら:寅さんもたまにはいいことを言うみたいな(笑)。
いとう:「あいつもいいこと言うな」って言われてるんだけど、次にはひっくり返ってるみたいな感じだよね。
◆ずっとお2人でラジオ、見仏記等もやられてる中で、次スライドショーくるなっていう匂いを感じたりすることはありますか?
いとう:僕は感じますよ。みうらさんが何となくスライドショーの前のシーンの話とか、例えば電車乗ってるときとかに、「あのネタなんだけど、この間あそこにもう1回行ってさ」みたいな話を普通にしてるけど、ちょっとだけ熱量が違う場合があって。
みうら:もう1回行くって相当だよね(笑)。
いとう:なんかやってるなぁみたいな感じはある。
みうら:こっちも「しまった!!」って思って、言わなきゃよかったって思うときあるよ。犯人はやっぱ元の場所に戻るっていうから、怪しいよね。
いとう:だけど、僕はすぐには言わない。スライドたまったの? とは絶対に言わない。
みうら:やばいと思って、つり革広告にある“ワンダイ”についてしゃべったり(笑)。
いとう:そういうことしていると、ある日、「そろそろやりたいな」って言ってくる。「ああ、分かった」って僕が違う人に連絡して場所を取ったりしてもらう。早くネタ集めてよーって言う立場でもないじゃん。だって俺「集めんなよ!」って言ってるんだよ。俺、すごく難しい立場だよ。
みうら:立場があるから。
いとう:俺には俺の正論があるから、それを崩すわけにはいかない。
◆楽しみにしているけど、言わないっていう?
いとう:そうそう、言えない。きっとなんか考えてやるんだろうし、この映画の中でも言ってたように、「別にノースライドショーでもいいんじゃないの?」って言ってるときもあるもから、それが『雑談』っていうラジオになっているけど、その公開収録に2000人集めてラジオ収録するでもいいんですよ。それも本当はスライドショーなんですよ。でもそういうことやっているうちにみうらさんはまた、犯人は現場に戻る状態で、スライドが撮りたいって思ってくれるのが俺は一番面白い。
◆みうらさんは逆にいとうさんを面白くさせたいという…。
みうら:それはね、いとうさんが転がしてくれてお客にうまく伝わるネタってどこにあるかわかんないんですよね、そんなもん。だから毎週日帰り温泉行ってるんですけどね。
いとう:何なんだよ、それ(笑)。
みうら:普通、日帰り温泉にないと思うじゃないですか、ネタ。分かんないんですよ、長く浸かってみれば(笑)。日帰り温泉で考えると、やっぱり源泉かけ流しがいいなとか、わがままっていうか注文が出てくるから。ということはなにかを求めてるなっていう手応えはあるけどね。
いとう:手応えあるの? 手応えあるとは思えないけどね。今の話からして思えないよね。
みうら:鉱泉とか書いてあるでしょ? 俺そのときピーンときたのは、“くじき”だったね(笑)。
いとう:それ言ってるね。
みうら:“くじき”って書いてあるでしょ? 首の痛みとか何とかの中に、ひらがなで“くじき”って書いてある。“くじき”って何なんだろう?
いとう:捻挫じゃないんだよね。
みうら:“くじき”って…ってなると、“くじき”から“うじきつよし”に…(笑)。
いとう:いやいや、“うじき”いかないよ、KODOMO BANDいかないよー。
みうら:この間、伊勢丹でばったり会ったとき、ピーンときたんだよ。何かのひらめきが…“くじき”のことばっかり考えてたら、“うじき”さんに会えたっていう。
いとう:(笑)。
みうら:だから、行ってみないと分からなくなってる。以前みたいに変なものありますよって撮りにいくわけじゃないから、もう。
いとう:俺も大変だと思うわ。もう芸術家、スライド芸術家の領域に入ったんだよね。
みうら:今でこそVOWみたいな看板が認知されたから、看板を撮っててもみんな変なこと言われないけど、俺は全く関係ない“くじき”だけの写真撮ったりしてるから。
いとう:それはまずい。
みうら:一番の尋問の対象になりやすいよね。説明ができない…。
いとう:「何をやっていたんですか」って言われたときに、説明したほうが怪しいのか、しないほうが怪しいのかっていうところあるもんね。
みうら:そうなんです。すると、きっと本署のほうに…って。でも日帰り温泉に行ってみないと分からないんですよね。
いとう:あとは、闇のスライドショーっていう企画とかね、みうらさんのエロネタばっかりっていう。
みうら:これはスライドショーではやってないしね(笑)。
いとう:子供たちが見れるようなショーがしたいからっていう思いもあってこれまでしていないけど。R18とか、男性だけとか、女性だけっていう回とか、そういうときにやるものもみうらさんはいっぱい持ってるわけですよ。僕に合わせて下ネタを抑えてくれてるから。今の「ザ・スライドショー」は僕の趣味だから、そうじゃないやつをみうらさんと一緒にやって、そのとき、俺が下ネタでどう下卑ないで笑わせるっていう挑戦にもなる。
みうら:面白いね、やりたいね、それ。
いとう:バカバカしいなと思って。すごいエロいもんが出てるんだけど、嫌にならないっていう。そういうことができたら面白いとは思ってるので、そういうことは合間合間にやりますよ、間違いなく。
◆実際に本編を見て音楽ドキュメンタリーを見ているような、ステージに立つお2人に迫っているというか。そんな感じがしました。
みうら:ステージのつくりとかね。
いとう:そういう意味では、俺たち楽器だもんね。
みうら:ワンダイみたいなもんだからね。
いとう:そう、ワンダイだから、俺たち。
◆よく音楽ドキュメンタリーで扱われるバンドとかグループだと、実際に仲がよかったのか、本当は確執があったんじゃないかとか予感させながら、本編を見るとやっぱり分かり合っていたんだっていうのが最後に分かるというか、そういう部分があると思うんですが、本作は、みうらさんといとうさんは仲いいんだろうなと思って見ると、やっぱり本当に仲がいいというのが分かって。
いとう:(笑)。新しい裏切りだよね!何にも変化ないんだって(笑)。ここまで仲良かったんだ、ひどいなと。
みうら:見たまんま!(笑)、仲いい映画って面白いですよね。
いとう:気持ちよく帰れるじゃん。今すさんでるからさ。いいと思うよ。
◆劇中でもおっしゃっていた仲のいいところを見ると気持ちがよくなるというか。
いとう:幸せになるじゃないですか。でもほんとは仲悪いのにだったら、これはめっちゃつらい仕事ですよね。
みうら:仲良くてよかったよ。
いとう:本当だよ、ストレスないもん。ストレスゼロだもん。
みうら:隠してる部分ないからね。
■PROFILE
●みうら・じゅん…1958年2月1日生まれ。京都府出身。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーター、作家、ミュージシャンなどとして幅広い分野で活躍。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。2005年日本映画批評家大賞功労賞受賞。話題の「ゆるキャラ」の名付け親でもある。著書に「見仏記」シリーズ(いとうせいこう共著)、「アイデン&ティティ」(2003年映画化)、「色即ぜねれいしょん」(2009年映画化)、「マイ仏教」、「人生エロエロ」、「「ない仕事」の作り方」など。『笑う洋楽展』(NHK BSプレミアム)にレギュラー出演中。2016年12月に企画・原作・脚本を務めた映画「変態だ」公開。
●いとう・せいこう…1961年3月19日生まれ。東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、講談社に入社。86年に退社後は作家、クリエーターとして、活字/映像/舞台/音楽/ウェブなど、あらゆるジャンルにわたる幅広い表現活動を行っている。著書「ボタニカル・ライフ」で第15回講談社エッセイ賞を、「想像ラジオ」で第35回野間文芸新人賞を受賞。音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活動し、カルチャーシーン全般に影響を与えた。現在「ビットワールド」(NHK)、「オトナに!」(MXTV)、「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)、「せいこうの歴史再考」(BS12)にレギュラー出演中。
■作品情報
映画 みうらじゅん&いとうせいこう20th anniversary
ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密
2月18日(土)より新宿ピカデリーほか全国公開
出演;Rock’n Roll Sliders(みうらじゅん、いとうせいこう、スライ)ほか
監修:みうらじゅん/いとうせいこう
構成:おぐらりゅうじ
監督:伏原正康
配給:日活/WOWOW
©2017 WOWOW INC.ARK co.,ltd.
●photo/中村圭吾