小林薫「『めしや』の空間全体がファンタジーなんだと思う」『深夜食堂』インタビュー

特集・インタビュー
2017年06月07日

東京の繁華街の裏路地に店を構え、深夜0時から朝7時ごろまで営業する食堂「めしや」を舞台に、訳ありな客人たちと、彼らを温かく迎えるマスターとの人間模様を描いたドラマシリーズ「深夜食堂」。2009年のドラマスタート以来、ドラマシリーズ4作、劇場版2作が製作されるなど、多くの観客をとりこにし、“常連客”にしている。そんな「深夜食堂」の劇場版第2弾「続・深夜食堂」のDVD&Blu-rayが好評発売中&レンタル中。松岡錠司監督“お茶漬けシスターズ”小林麻子さん&吉本菜穂子さんに続き、TVLIFEWebについに「めしや」のマスターを演じる小林薫さんが登場。作品への思いを伺いました。

小林薫インタビュー

◆劇場版第2弾となった「続・深夜食堂」の反響はいかがでしたか?

「深夜食堂」をドラマからずっと見続けている人が結構多いんだなと思いましたね。“深夜食堂”テイストって言うのかな、こういう雰囲気を好きでいてくれて、期待してくれているのはかなり感じました。「続・深夜食堂」が公開する前に、あらためて全部見たって言ってくれた方も結構いました。

◆ドラマが最初に放送されたのは2009年で、放送開始から8年近くたちます。海外でも放送され、韓国版や台湾版も製作された国内外問わず人気シリーズとなっています。マスターを演じられている小林さんだからこそ感じる、「深夜食堂」の魅力って何だと思いますか?

これは本当に僕らも分からなかった。船出のときは深夜枠の限られた予算だったので、話を聞いたときは成立するのかなって思っていたんですよ。細かいところまで手の込んだこういうセットのイメージが僕の頭の中では想像できていなかったので。今考えると、深夜枠のドラマからスタートした作品だと思えば、やっぱり奇跡みたいなことなのかなと思うんですよね。ドラマのときと映画のときとセットは変わっていない。そんなこと普通はないと思うんですよ。確か第2シリーズのときだったかな、セットの前の待機所で、松重(豊)君とお茶を飲んだりして待機していたんだけど、そのときに松重君が「小林さん、これは奇跡ですよ」って言ったんだよね。僕はシリーズが続いたことが奇跡なのかなぐらいに思って、確かめもしなくて話していたんだけど、今となって思うと、やっぱり出発からいつか映画化したいっていうプロデューサーたちの気持ちはあったにせよ、かなり難しいハードルがあったと思う。だからよく劇場版の続編までこぎつけたなって思いますよね。

小林薫インタビュー

◆ドラマから劇場版になってもそのまま入っていけるのがいいのかなと思いました。

それっていいのかい?(笑)僕らはドラマのセットを使ってそのまま映画を撮影するんですよね。ドラマを10本終えたら映画の撮影に入る。監督たち製作陣の映画に向けての諸準備があるんで、約2週間のインターバルはあったんですけど、セットとかは同じなんで、あの空気の中にすっと入っていく感じなんですよ。スタッフも変わらない、ゲストは代わりますけど出演者もそんなには変わらない。ここから映画を撮るぞっていう気はなかったですね。ただ監督としては、映画となると、監督が思うリアクションまでカット増やして撮るとか、芝居も長めにやらせて、じっくり撮るよっていうのとかがあったかもしれません。無理やり時間内に詰め込まなくてはいけないというのはなくなるから、監督の中でのドラマを見つめる余裕というか映画のほうでやりたいことが進化してやれるというのが伝わってきました。表面上、例えば美術のこだわりだと、カメラをのぞいてフォーカスが決まったときにいらないものは取るとか入れ込むという作業や、照明もしかり、そうやって作っていくスタンスはドラマから変わらないんですよね。

◆以前、松岡監督にお話を伺ったときに、最近は小林さんと作品について打ち合わせは特にしてないとおっしゃっていました。

してもしようがないんですよ(笑)、打ち合わせしたって逆にうそすぎちゃって。よく言うんですけど、マスターとお店があって始まる話ではあるけれども、お話の中心になってくるのは必ずゲストなんですよね。だから僕が、「監督、ここはこうしたいな、ああしたいな」と言ってこだわりが強すぎてもうまくいかないと思うよね。それこそ話が逆転しちゃうじゃないかな。レギュラー陣は緊張感がなくなりすぎて本当に常連客みたいになっている。ある意味ではそれは褒めているんだと思うんだけどね、お芝居然としているよりそのほうが業連客のムードになるからね。僕以外のレギュラーにはそういう空気感がありますね。むしろゲストのほうが緊張するみたいですね。そういう空気感の中に入ってきて、役がご近所さんやお店をやっているという設定だと、いきなり感ではなくて、日常的な振る舞い、リラックスした緊張感のないようなお芝居を見せていかないといけないわけで。そのあらためて入ってくる空気感にかなり緊張するって言いますよね。でも、監督と今更なんだけど、マスターに人を呼ぶ力がないと「めしや」は成立しないし、あまりに寡黙ってなっちゃうと客が居づらくなっちゃうから、少しすきを見つけたほうがいいんじゃないのって。「続・深夜食堂」の撮影を始めるときにそんな話をして。そういうことを心がけてやりたいけど、どうでしょうかって話はしましたね。

◆今回もゲストのキムラ緑子さんや池松壮亮さんは近所のそば屋さんの設定ですね。

そうそう、キムラさんがそう言ってたよね。せりふで言っているから設定はそうなんだけど、実際に合うのは初めてだし。設定がそうなっているからって、よーい、はいってなっても僕のほうも初めて、キムラさんも初めて。お互いが初めてならば気持ちをさぐりながらとかいろいろと演技することがあると思うんだけど、僕らの場合、ある意味出来上がっちゃっている世界にキムラさんが入ってくるという。そういうことは現場でも言っていましたね。

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◆「続・深夜食堂」ではマスターの背負っているものが少し垣間見られます。マスターは実際はどんなものを背負っているだとかマスターの過去を意識したりするのですか?

意識はしないようにしてます。監督ともお話しているんですけど。ただ今回は「先代」というか「親方」という人のことをマスターが言っているんだけど、僕は「親方」がいると、マスターの出発が料理人になっちゃうんで明らかにしないほうがいいと思っているんですよね。だから今回はいろんな意味を含めた「親方」としか言っていないんです。“豚汁を気に入ってくれましたよ”というせりふがあるんですけど、大きな括りで言ったら人生の師匠的な人を「親方」と言っている。料理という限定された親方を引き継いで「めしや」をやっているんじゃなくて、師匠的に親方と慕う人が亡くなっていて、その人のお墓参りをマスターは欠かさない、そういう受け取られ方が誤解を含めていいなと思って演じていて。絶対にこういう人だっていう正解というのは僕の中では思わないようにしていますね。

◆常連客をはじめ、「めしや」を訪れるお客さんたちは、マスターならば話を聞いてくれるという安心感みたいなものがあるのかなと思うのですが。

最初のドラマのときはマスターが意見を言うことはあったんですよ。だけど、だんだん意見さえ言わなくなって…(笑)。要するに、ちょっと抱えたものがある人たちが、たまたま「めしや」に寄ったときに、たまたま常連客とかマスターも含めてその空気感に浸ることで自分もぽろっとしゃべってしまう、だけど最後には自分で解決して「めしや」を出ていく。それこそ「めしや」を出て行ったら希望ってほど大きなものじゃないけど、見える景色が少し違っている、そういう仕掛けにはなっていると思うんですね。でも最初のころは、マスターも意見を言っていたような気がするんだよな。最近はそれさえもなくて、話は聞いているけど、俺は何にも言ってなくて、これほどまでキーワードというか何にも言わなくて大丈夫なのかって思っているよ。もうほとんど「はいよ」とか「お待ち」とかなんで(笑)。だいたいせりふとか入れていかないですもん。ゲストの人たちが大変です、せりふを頭に入れているから。ゲストの邪魔にならないように奥でたばこ吸ってますもん(笑)。マスターというよりかは「めしや」の空間全体だと思うんですよね。ある種、ファンタジーだと思うんですよ。癒やされるというか落ち着くというか、そういうのが自分が何かを決めるきっかけになっているんだと思います。

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◆「深夜食堂」のもう1つの魅力、「食」についてお伺いできますか。

「食」で言うと、映画関係って貧乏だから炭水化物系のものばっかり出すんですよ(笑)。だから「つまみを出せよ」って言っているんですけど、「続・深夜食堂」でも最後は豚汁がありますけど、1、2話はご飯ものですし…。僕はもう少しつまみみたいなものがあってもいいんじゃないのって話はするんですけどね。ただ、常連客には(飯島)奈美さんが工夫して新しい総菜というか付け合わせを加えたりしているんですよ、山芋のソテーとか。あの方は作るのがうまいんだなぁ。しょうゆが焦げた香ばしいのが山芋にかかって染みていて、それをビールのつまみにしたら最高じゃないかっていうもので、家で2、3回作りましたけどね。だけどね、何が違うんだろうっていうぐらい、奈美さんが100点だとすると頑張って80、70点ぐらいかなぁ。あれ、こんな味だったけって思ったんだよ。奈美さんに教わったとおりに作っているんだけどね。何か違うんだよな。そういう総菜が出たときはいくつか家でも作りましたね。今後「深夜食堂」が続いていくとすると、監督が奈美さんに相談して今までちょっと違う切り口で総菜が出てくる可能性があるんじゃないかって思います。

 

■PROFILE

小林薫インタビュー小林 薫
●こばやし・かおる…1951年9月4日生まれ。京都府出身。A型。近年の主な出演作に映画「東京タワー、オカンとボクと、時々、オトン」「歓喜の歌」「舟を編む」「海賊と呼ばれた男」など。現在は大河ドラマ『おんな城主 直虎』に出演、『美の巨人たち』ではナレーションを担当。現在映画「武曲 MUKOKU」、「海辺のリア」が公開中。

 

■作品情報

「続・深夜食堂」「続・深夜食堂」

<ストーリー>
マスター(小林薫)の作る味と居心地の良さを求めて、夜な夜なにぎわう“めしや”。
ある日、常連たちが何故か次々と喪服姿で現れる。不幸が重なることはあるもので、故人の話を語り合う中、また一人、喪服姿で店に入ってくる範子(河井青葉)。でも、この範子、喪服を着るのがストレス発散という変わった趣味を持っていた。だが実際に葬式をすることになり、そこで知り合った男にひかれて…。

父親を亡くした近所のそば屋の息子・清太(池松壮亮)は母親・聖子(キムラ緑子)との関係に頭を悩ませつつ、年上の恋人・さおり(小島聖)との結婚を考えていて…。

お金に困った息子に呼ばれて田舎からわざわざ出てきたという夕起子(渡辺美佐子)は、息子の知人という人物に大金を渡してしまう。だまされたのではと周囲は心配するものの、本人はどこか気にしていない様子…。

春夏秋冬、ちょっとワケありな客が現れては、マスターの作る懐かしい味に心の重荷を下ろし、胃袋を満たしては新しい明日への一歩を踏み出していく。

<スタッフ>
原作:安倍夜郎「深夜食堂」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)
監督:松岡錠司
美術:原田満生
フードスタイリスト:飯島奈美

<キャスト>
マスター:小林薫
常連客:不破万作、安藤玉恵、綾田俊樹、山中崇、宇野祥平、金子清文、中山祐一朗、須藤理彩、小林麻子、吉本菜穂子、平田薫、谷村美月、篠原ゆき子、片岡礼子、松重豊、光石研、多部未華子、余貴美子、オダギリジョー

ゲスト:佐藤浩市、河井青葉/池松壮亮、キムラ緑子、小島聖/渡辺美佐子、井川比佐志

■DVD通常版
価格:4,800円+税
1枚組:本編ディスクのみ(副音声)

■DVD特別版
価格:5,800円+税
2枚組:本編ディスク(副音声)+特典ディスク

封入特典:特別読本「めしやの台所」(ブックレット20P)
特典ディスク内容:メイキング&インタビュー、映画写真館、アウターケース付き

■ブルーレイ特別版
価格:6,800円+税
2枚組:本編ディスク(副音声)+特典ディスク

封入特典:特別読本「めしやの台所」(ブックレット20P)
特典ディスク内容:メイキング&インタビュー、映画写真館、アウターケース付き

外付オリジナル特典
映画「続・深夜食堂」 めしや特製“箸置き”
ドラマ「深夜食堂 第四部」 めしや特製“箸”

©2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

原作:安倍夜郎「深夜食堂」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)

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