“無責任男”と称され、その唯一無二のスタイルで昭和の日本を明るく照らしたコメディアン・植木等と、彼を付き人として支えた小松政夫の師弟関係を描く、笑いと涙のドラマ『植木等とのぼせもん』が9月2日(土)よりスタート。劇中「ハナ肇とクレイジーキャッツ」谷啓役として登場する浜野謙太さんにインタビュー。トロンボーン奏者として、俳優として、共通点も多そうですが…?
「こういうノリは経てたんだな」って気付きました
◆谷啓さん役のオファーを受けた時の率直なご感想からお聞かせください。
オファーを頂いたときは、正直荷が重いなと思いました。僕もトロンボーン奏者で、ドラマに出たりしている身として「ハマケンも谷啓さんみたいにやればいいじゃん」みたいに簡単に言われることがよくあって。でもだからこそ谷啓さんの存在の大きさは身にしみていたので、プレッシャーが大きいんです。しかも映像を見たりエッセイを読んだりすればするほど、谷啓さんの偉大さにひれ伏していっちゃう感じで。どの映画を見ても、本当にスターだったんだろうな、谷啓さんや植木さんがすること、やることみんな喜んだんだろうなって感じがすごく出てるんですよね。この谷さんの役をちゃんとできたら、みんなすごく喜んでくれるだろうな、と思いながらやっています。
◆SAKEROCK時代の活動などを拝見していると、クレイジーキャッツの影響を受けている部分もあるのかなと感じるのですが、これまでの活動の中で谷啓さんを意識することはありましたか?
意識という面では、そこまでしていなかったというか、クレイジーキャッツのコミック的な部分は、伝説的にしか知らなかったですね。でも、例えば「スーダラ節」をみんなで歌うシーンなんかでは、普段やり慣れていない(山本)耕史さんとかは最初、「ちょっと恥ずかしいな(笑)」とおっしゃってたんですが、僕は全然恥ずかしくなくて。そのとき「あ、オレ実はこういうノリは経ていたんだな」って気づいた感じはあります。
◆ではご自身と谷さんに共通点はあんまり…。
そうですね、ほぼないです(笑)。トロンボーンをやってることぐらい。僕はつり目だし、谷さんはタレ目でめちゃくちゃストレートヘアだし。だから僕もストレートパーマをかけてみたりして。僕とは全然違う人だと分かってたから、演じるのがめちゃくちゃ不安でした。谷さんのエッセイを読んでると、ファンタジーみたいというか、ワンダーランドにいるような人だなと思うんですよ。3話(9/16放送)で描かれますが、谷さんって、オリンピックにハマりすぎて仕事が手につかなくなったことがあって、エッセイにも「あの時俺はおかしかった。今はバカバカしい話としてこうして書いてるけど、あの時俺は本気だったんだ」みたいに書いてある。しかもあまりにもオリンピックが輝かしすぎて、「こんな全然為にならない仕事をしてる親父についてくる家族が不憫でならない」とまで言うんですよ。…すごいこと言ってるなって(笑)。「ガチョーン」だって、最初はギャグとして言ってたんじゃなくて、「ドカーン」みたいな擬音として普通の会話で使ってたって説もあって。そういう逸話を聞くと逸脱加減がすごいんです。ただ“ふわふわした人”だったんじゃなくて、猛烈に“ズレた人”だったからこそ、いろんなアイディアを考えられたんだと思いますね。僕は逆に「本当に自分はこれでいいのか」とかってふわふわしたりするので、谷さんは全然違うベクトルを持った人だなと思います。
◆撮影現場の雰囲気はいかがですか?
植木等さん役の山本耕史さんは、ほんとふざけたことを話してくるんですよ。ギャグとかがいちいち面白くて、すごく笑っちゃう。みんなのことをイジってくれて、今日も僕がせりふを噛んだら「おい、かみ(噛み)けい!」って(笑)。小松政夫さん役の志尊淳くんは、もともと僕『烈車戦隊トッキュウジャー』(テレビ朝日系)が好きだから、会うのめちゃくちゃ楽しみにしてたんです。会ったら「うわぁ本物じゃん」って感じで(笑)。めっちゃいいやつで、飲みに行ったりとかもしますね。
◆これまでの撮影で、印象に残っているシーンは?
監督と「谷さんの歌をどこかで歌いたい」という話をしていて、「愛してタムレ」を歌って踊ったシーンですね。台本にはなくて、付け足して頂いたんです。でも撮ったあとにモニターでチェックしてたら、何か自分がすごく照れてるんじゃないかっていうのが気になっちゃって。『ゴッドタン』(テレビ東京系)の“照れカワ芸人”ってあるじゃないですか。どれだけ照れずに思い切れるか、みたいなやつ。それでいうと完全にアウトな顔してたんですよ。踊ってる時の僕が。ああこれは一番やっちゃいけないやつだ、谷さんは一個のことにこう(集中する)な人だから、「何か踊っちゃった」みたいな感じはよくない、谷さんだったら爆踊りするはずだ! って思って。一回OK出たんですけど、オレ仕事で初めて「もう一回やらせてください」って言いました。2度目は爆踊りしたんですけど、どっちが使われてるかは分かんないです(笑)。
◆ちなみに、浜野さんの身近に“クレイジーな人”っていますか?
息子はクレイジーっていうか、面白いですね。この間2人で映画を見に行ったんですけど、僕の方がボロ泣きしちゃって、何回も泣いて、また「うお、これはまた泣ける!」と思ったシーンが来たんですけど、息子の集中力が切れて椅子からズルって下りたんですよ。そしたらその瞬間、映画館の椅子ってバーン!って戻るじゃないですか。椅子バーン!そんでポップコーンもバーン!ってなって、すっげー泣けるいいシーンの中、「はああああ(泣)」って焦って片付けてました(笑)。
■PROFILE
●はまの・けんた…1981年8月5日生まれ、神奈川県出身。O型。元SAKEROCKトロンボニストで現在は在日ファンクのボーカルを務める。連続テレビ小説『とと姉ちゃん』をはじめ、俳優業でも活躍中。映画「望郷」が9月16日(土)、「8年越しの花嫁 奇跡の実話」が12月16日(土)全国公開。
■番組情報
『植木等とのぼせもん』
9月2日(土)スタート
NHK総合 毎週(土)後8・15~8・43
原案:小松政夫「のぼせもんやけん」
脚本:向井康介
出演:山本耕史、志尊淳、山内圭哉、浜野謙太、武田玲奈、中島歩、でんでん、坂井真紀、富田靖子、勝村政信、優香、伊東四朗ほか
●photo/中田智章 text/寺田渓音