福岡県・博多座で3月に上演された時代劇版「101回目のプロポーズ~百壱通目の恋文~」。
1991年に放送された純愛ドラマの金字塔が、当時の主演コンビ・武田鉄矢さん×浅野温子さんの共演で初の舞台化、しかも時代劇版とあって、大きな話題に。
20年ぶりの共演を果たした武田さん、浅野さんに、作品への思いや久しぶりの共演について、たっぷりと聞きました!
ローカルを担うのは僕の宿命(武田)
武田「ローカルを担う、背負うというのは僕の宿命なので、博多座でやる以上、九州、あるいは博多の風土を担わないといやだった。それで目をつけたのが、肥後熊本の細川藩です。
三代目の忠利の代に、ちょうどタイミングよく宮本武蔵が晩年を肥後細川藩で過ごしている。最初から武蔵をトラック代わりに使おうというアイデアがあったんです。“絶体絶命”というのは、時代劇の場合は刀の下に首を出すということ。ほんとに都合がよくて。熊本というローカリティを入れて、馨さんを黒田藩の人にして、ローカルの中での『101回目のプロポーズ』として作っていこうと」
また『101回』に会えるんだっていう場にしたかった(浅野)
浅野「やっぱり映像のファンが一番興味を持ってるわけです。いまだに作品を愛してくれてるっていうのがあるので、そこを崩さないんだったらできるかなと思いました。時代劇版だったら崩さないで、作品を愛してくださる方が安心してまた『101回』に会えるんだっていう、そういう場にしたかった。映像って残ってますからね。それが皆さんやっぱりふくらんできてるわけですから、それを絶対に崩したくないって。
演出家の方と武田さんは“『101回』であって別物の『101回』を作りたい”っておっしゃってたんで、皆さんが一番気にしてらっしゃる興味どころはきっちりと押さえて、オイシイところはきちんと考えてある。ワクワクして待っててもらえるといいかな」
――20年ぶりの共演についてはいかがですか?
浅野「まったくの『101回』じゃないですから、どういう色になっていくのかなっていうのを様子見ながら稽古をしてて。昨日初めて『SAY YES』とか、音楽が入ってやったんですよ。私と武田さんの盛り上がりのところで、音楽がかかったりして。この方があの言葉を言ったりしたらね、“あれ、やっぱりそうなんだな”みたいなね。
映像(ドラマ)を撮ってるとき、曲が流れるだけでもガーンとやってたつらいことを思いだしました(笑)」
武田「やってるうちに呼吸を合わせるというよりも、2人とも思い出すことがあるというか、思い当たるというか。このシーンは現代劇のときはあのシーンで、あんな気持ちだったと思い当たりながらと言いますかね。
時代劇とはいえ“僕は死にません”があるんですけど、不思議なもんで、音楽が流れると共演者も呆然と…。“これがあれか”みたいな顔するんです(笑)。それは不思議なものですよ。画を作っていく人たちが、さらに画の中にいる自分を見ていると言いますかね」
浅野「音楽の力ってすごいですね。そこにくるまでに1時間くらいかけるわけですよ。その音楽がガーンとかかっただけで、そこまでの全部消えました、みたいなね。自分でも笑っちゃうな、みたいな。きっとお客さんもそうだと思うので、楽しんでもらえると思う」
武田「うんうん。自信が沸くんだよな。浅野さんが別のインタビューで言ってたんだけど、やっぱ入れないよな、俺たちは。あの定番を定番のとおりにやらないといけない。最初に作ったのは2人だけど、もうその後は、みんなが見て作ってるものがあるので、介入してはいけないんだっていう。その思いにね」
――ドラマで江口洋介さんが演じた弟役を山崎銀之丞さんが演じます
武田「高校の後輩なんですよ。不思議なもんでね」
浅野「あのときの江口・武田兄弟は、どちらかというと弟が焚き付けて一緒になってお兄ちゃんと一緒に遊んでるみたいな感じだったんだけど、今回の銀之丞さんはものすごく見守る。“俺たち一連托生”みたいな切なさを感じるよね。“俺たち兄弟は呪われてるんだ”とかって言うわけ。ほんとにそうだなって(笑)」
武田「テレビ版の方は江口と愉快な兄弟だった。舞台版の方は悲壮なんだよね。美女が私のとこに舞い込むだけど、あまりにも美女すぎる。私は鶴の化身だと。あの美しさは人間じゃないと。すると弟の方も鶴の化身かなと。話してるうちに、悲壮がおかしくなっていくというのをやってみたいと思っています」
――れんこんが物語の重要なアイテムになっているそうですが
「アイデアとしてれんこんは狙ってたんです。前から面白なあと思って辛子れんこんを食べてたんだけど、あれはまさしく忠利公から始まった食なんですよ。熊本名物の辛子れんこんは。その裏話というか、そこに『101回目のプロポース』を絡めている。ちっちゃいものが、実は大きい物語を動かしているというのが、すごく好きなんですよ。
決闘のシーンで武蔵が二刀流を抜く、僕は武器がないのでれんこんを持っちゃう。すると不思議なことに武蔵が斬りかかってこなかった。その理由は、れんこんを斬ると切り口が細川家の紋所と同じで、九曜紋になるんですよ。昔のお侍さんはよくあったらしくて。細川の侍はれんこんは食わないという、そういう小さい物語に託してやりたい」
――お互いに変わったところ、変わらないところは?
武田「素敵になられましたよね。アンチエイジングで闘っているっていう女優さんじゃなくて、エンジングのパワーを感じされる女優さんなんだよね。いいなあと思います。バームクーヘンのように年齢を包み込んで、同じ時代を生きている俳優として、本当にありがたい女優さんです」
浅野「一緒に丸くなってる感じがしますよね。20年間会ってなかったんだけど、距離感というものがないから、そこは楽だよね。ほかの俳優さんとはちょっと違うんですよ。何て言うんでしょうかね。そういうのを相性って言うんでしょうかね」
武田「相性ですね」
浅野「そういう人にこの業界でこの仕事やってて何人で出会えるかっていうことですよね。その宝の1人です」
武田「使い込んだ女優さんっていうのはいいですよね。使い込んだジーンズみたいなよさがありますよ」
浅野「若いときに出会って、またこの時期に使い込んだジーンズで出会うっていうことってすごくまれだと思う。出会えるかどうかってすごく難しいこと」
武田「僕はこの人と激しく激しくエンターテインメントの恋愛ドラマを作ってきたんだけど、やっぱりよかったなあって思った。アジアで『101回目のプロポーズ』をリメイクしたがる国とか女優さんとかけっこういるんだけど、日本では近寄ってこないんだよね。それはやっぱり強烈なね。それは誇りですよね」
(2月末、稽古場にて取材)
【放送情報】
舞台『時代劇版「101回目のプロポーズ~百壱通目の恋文~」』
時代劇チャンネルで
5月6日(日)後9・00~
5月12日(土)後10・00~
5月19日(土)正午~
■ストーリー
舞台は江戸時代初期、肥後熊本の細川家城下。熊本城で食材を集めるまかない役として勤める星野達郎左衛門(武田鉄矢)は、人が好いことだけが取り柄の、さえない中年侍。ある日、達郎左衛門は行き倒れになっている薫(浅野温子)という美しい女性を助け、共に暮らすようになる。達郎左衛門は薫に好意を寄せていた。薫は過去を語ろうとしなかったが、一度も心からの笑顔を見せないことの方が気がかりだった。そんな中、熊本城にある客人が招かれる。それと同時に薫は姿を消し、達郎左衛門は命を落としかねない大騒動に巻き込まれてゆく。それでもなお一途に薫を想い続ける達郎左衛門。二人の運命や、いかに――
原作:フジテレビ「101回目のプロポーズ」(脚本:野島伸司)
脚本:鈴木哲也/マキノノゾミ
演出:齋藤雅文
出演:武田鉄矢/浅野温子/相島一之/篠田光亮/北川弘美/山崎銀之丞/江波杏子ほか
福岡・博多座で2012年3月公演
時代劇チャンネル(http://www.jidaigeki.com/)
(2012.11.25)