佐古忠彦監督インタビュー「これからのことを考える1つのきっかけに」映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

特集・インタビュー
2017年09月19日

2016年にTBSテレビで放送されたドキュメンタリー番組に追加取材、再編集を行って映画化した「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」を監督したTBSテレビ報道局の佐古忠彦さんにインタビュー。『筑紫哲也のNEWS23』でキャスターを務め、長年にわたり沖縄問題を取材してきた佐古さんに、初監督作となった本作への思いを聞きました。

佐古忠彦監督インタビュー

◆ドキュメンタリー番組から映画化に至ったきっかけを教えてください。

映画を撮るなんて発想は全くなくて、テレビでいつもと同じように作って放送に出したんです。夜中の番組ですから、普段はそんなに反応がたくさんあるわけではないんですが、驚いたことにTBSでのローカル放送にもかかわらず、ものすごい数の反響があったんです。番組宛にメールや手紙をたくさん頂いて「こんな人物がいたのか」「沖縄の人がなぜ声を上げているのかよく分かった」という感想を頂いて。
こんなに反応を頂けるんだったら、これは伝わったんだなと思って、ならば、少しでも多くの人に見ていただく方法はないかなと思ったときに、映画という方法もあるよというお話があったんです。
それで、いろいろな人に相談したりして、そこから追加取材をして、ここに至りました。

◆作られるうえで、映画とテレビの違いはありましたか?

テレビではいつもどこを切るかって詰め詰めでやるものですから、映画ならゆったり編集できるんだなと思っていたんです。
ところが、いざ取材して帰ってきて編集し始めたら、ものすごい尺になってしまって(笑)。結局、縮める作業になって「いつもと同じことやってるな」と。
だから、制作過程においてはテレビと映画の違いはなくて。
ただ、テレビでは私が編集マンと編集をしてそのまま放送に出ていきますが、映画ではそこから多くの方が関わるようになり、自分たちの手から離れてからどんどん大きくなっていく。これは初めての経験なので、自分自身もびっくりしています。

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

◆瀬長亀次郎さんを題材にしてドキュメンタリーを作ろうと思ったきっかけは?

もともと取材で沖縄に通う中で、この方の名前は知っていたんです。いつか向き合いたいなと思っていたんですけど、なかなか機会がなかったんですよね。
というのも、沖縄戦は不十分だけど報道してきた、今も基地問題も含めてやっているんだけど、戦後史をやっていないんですよね。すっぽり抜け落ちているなあという思いがずっとあったんです。
でも、その抜け落ちている戦後史にこそ、実は今の沖縄の問題であるとか、いろんな意味での原点があるのではないかと思っていて。
そして、当時まさにその先頭に立っていたこの瀬長亀次郎を通して沖縄の戦後史を見るというのをやりたいと思って、始めてみたんです。
そうしましたら、エピソードに事欠かないですし、次から次へと本当に掘れば掘るほどいろんなものが出てきました。

◆亀次郎さんは沖縄ではやはり知名度は高いんですか?

そうですね。伝説のヒーローと言う人もいますし。ですが、40代の半ばくらいの人でも、名前は知っているけど、何をやった人か、までは分からないと言っていました。世代的にそのあたりからは本土とそんなに変わらないかもしれないですね。

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

◆そうすると、さらにその下の若い世代はもっと分からなくなっているかもしれませんね。映画の中で実際に亀次郎さんと接した方々の証言が出てきます。やはり当時を知る人の言葉はすごく胸に残りますが、その世代の方々の証言もこれからどんどん難しくなっていくと思います。今回取材する上ではいかがでしたか?

今回、皆さん70代、80代、中には90歳すぎの方にも話を聞けたからよかったんですよね。沖縄戦の取材をするときにやっぱりずっと感じていたことで、一昨年の戦後70年までもだいぶ取材をしてきましたけど、取材の約束をしていても急に体調が悪くなってしまって会えなかったという方もいるんですよね。

亀次郎さんの時代も、沖縄戦の時代と戦争直後ですから、そんなに変わらないですよね。そういう意味では、だんだんそういう域に入ってきます。戦後史も掘り下げていきたいので、もっといろいろ取材したいですね。

でも、今回に関しては、証言者が見つからないとか、そういうことはあまりなかったです。亀次郎さんに関わったコアな方にたくさん協力していただけたので、よかったなと思っています。

◆本編に出てくる亀次郎さんの肉声もそうですけど、自筆の日記がすごく力があるなと感じました。あれはどこかで保管されていたんですか?

あれは亀次郎さんの娘さんの内村千尋さんのお宅にあって、最初、千尋さんは2年間くらい1人で読んでいたらしいんです。
だけど、「これは沖縄の戦後史だ」と思ったそうで、形にしなければならないと要点をまとめて本にまとめられています。
原本の一部は千尋さんが開いた「不屈館」というところで公開されています。
亀次郎さんの考えていたこと、話したことがあの日記に全部詰まっているんですよね。

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

◆「米軍(アメリカ)が最も恐れた男~ その名は、カメジロー」というタイトルは、非常にインパクトがあります。強大な力を持つ米軍が最も恐れたのが亀次郎さんであり、民衆の力だったというこのタイトルはどんな経緯で決まったのですか?

もともと番組では「米軍が最も恐れた男~あなたはカメジローを知っていますか」というタイトルだったんです。映画化に当たって、“米軍”を“アメリカ”と読ませたりと少し変えてみました。“カメジロー”がメインタイトルでもよかったかなと迷ったんですが。

亀次郎さんを恐れると同時に、民衆が一体となって立ち上がってくることへの恐怖をアメリカは持っていたんだろうなと思ったんです。だからこそ、亀次郎さんに対してあれだけ理不尽なことをやり続けた。
民主主義国家であるはずのアメリカが、民主主義で選ばれた、選挙で選ばれた人をどうやって追放するかということを画策しているわけです。

◆映画に出てくる那覇市の水道の供給を止める話もすごいですよね。亀次郎さんが市長を辞めれば水道を復帰するというとんでもない条件を出して。

預金の凍結もそうですけど、ある種市民も恫喝しているわけですよね。権力側からすると、やっぱり力を分断していく一つの手法だったんでしょうね。

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

◆そういう歴史に対して私たちはあまりにも無知だということに衝撃を受けました。この映画を見て感じたのは、本土復帰という言葉に、何かが終わった、解決したような印象を持っていましたが、実は何も解決はしていないということ。そうすると、今の基地問題も当然地続きだということが分かります。

そうなんです。1つひとつは点なんだけど、こうして見てみると、実はあの時代からずっと線が引けて、1本の線がつながって今に至る。
あの戦後の沖縄で何があったのかと、1つでもこうやって見ていただけたら、なぜ今こういうふうに沖縄の人たちが声を上げるのかということが少しでも分かってもらえるんじゃないかと思うんです。
本土は経済復興し、そして平和も手に入れた。でも、その一方の沖縄では何があったのかということですよね。

◆全国の米軍専用施設面積における沖縄の割合が7割を超えているという事実も意外に知られていないことかもしれません。本土の基地が減った分、沖縄に吸収されているわけですよね。

それも本土復帰後の話ですからね。沖縄の人たちは、日本に返還されてからは本土並みに基地が減っていきますよとずっと言われるんです。ところが、減るどころか増えている。
あれほど亀次郎さんが、みんなが求めた祖国復帰ですが、帰った先がどうだったのかという話になってくるんですよね。

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

◆やはり亀次郎さんの時代からの問題、課題は今も続いているわけですね。それでは、これからこの作品を見る方々にメッセージをお願いします。

これは50年前、60年前のお話ではありますが、私は昔話だとは全く思っていないんです。いっぱいテーマがあるんですが、すべて今日性があるというか、今が見えてくる。
それは権力と、それに対して立ち上がった人たちとの攻防であるとか、そこから今に至る沖縄を包む歴史であるとか。
映画の最後のほうにもありますけど、当時の総理大臣が、政治的な立場の違いはきちっと認めて、そのうえで誠実にやりとりをしている。それに向かって主張する亀次郎さんがいるわけですが、今の政治家との違いも見えてくるかなと思います。

この映画をご覧いただくと、点が線になる部分もあると思いますし、歴史なんだけど今が見えてくると思います。ぜひ今の沖縄問題や、私たちの暮らしているこの国、そしてこれからのことを考える1つのきっかけにしていただけたらと思います。

◆最後に、佐古さんがドキュメンタリーを手掛ける上での思いをお聞かせください。

テレビの原点というか、1つの事象に取材者が向き合って、丹念に作っていく。そういう作業はなくしちゃいけないと思っています。
作品の中身としてはこういうものがあってもいいし、若者に見ていただけるような、今の文化を見せるようなものがあってもいいし。もっと作品の幅を広げたいと思っています。
これがテレビの役割という気もしていて、それを果たさなきゃいけないという思いで作っています。

 

■PROFILE

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」佐古忠彦…さこ・ただひこ
1988年、TBS入社
1996~2006年 『筑紫哲也NEWS23』
2006年~2010年 政治部
2010年~2011年 『Nスタ』
2014~2017年 『報道LIVEあさチャン!サタデー』『Nスタニューズアイ』
2013年~ 『報道の魂』(現『JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス』)プロデューサー

近年では、
2013年 『生きろ~戦場に残した伝言』
2014年 『生きろ~異色の司令官が伝えたこと』『茜雲の彼方へ~最後の特攻隊長の決断』
2015年 『戦後70年 千の証言スペシャル 戦場写真が語る沖縄戦・隠された真実』
2016年 報道の魂SP『米軍が最も恐れた男~あなたはカメジローを知っていますか』
などを制作

 

■作品情報

映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」
東京・ユーロスペースほか全国順次公開中

<イントロダクション>
第二次大戦後、米軍統治下の沖縄で唯一人“弾圧”を恐れず米軍にNOと叫んだ日本人がいた。「不屈」の精神で立ち向かった沖縄のヒーロー瀬長亀次郎。民衆の前に立ち、演説会を開けば毎回何万人も集め、人々を熱狂させた。彼を恐れた米軍は、様々な策略を巡らすが、民衆に支えられて那覇市長、国会議員と立場を変えながら闘い続けた政治家、亀次郎。その知られざる実像と、信念を貫いた抵抗の人生を、稲嶺元沖縄県知事や亀次郎の次女など関係者の証言を通して浮き彫りにしていくドキュメンタリー。

監督:佐古忠彦
撮影:福田安美
音声:町田英史
編集:後藤亮太
音楽:坂本龍一、兼松衆、中村巴奈重、中野香梨、櫻井美希
エグゼクティブプロデューサー:藤井和史
プロデューサー:大友淳、秋山浩之
語り:山根基世、大杉 漣
テーマ音楽:「Sacoo」作曲・演奏 坂本龍一

配給:彩プロ

公式サイト:http://www.kamejiro.ayapro.ne.jp/

©TBSテレビ

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