又吉直樹インタビュー「分かるけど“許されへん”のやろなって」『許さないという暴力について考えろ』

特集・インタビュー
2017年12月22日

初執筆の長編小説「火花」が芥川賞を受賞した芸人・又吉直樹が初脚本を手がけ、森川葵 森岡龍のW主演で送るスペシャルドラマが放送。ほぼオールロケの撮影で“渋谷の今”を切り取ったという本作への思いを聞きました。


分かるけど“許されへん”のやろなって

◆東京・渋谷を舞台に、渋谷と言う街の本質を取材するテレビディレクター・中村(森岡龍)と、服飾デザイン専門学校に通うチエ(森川葵)の物語がカットバックで進む今作。“許さない・不寛容”をテーマに選んだ理由を教えてください。

今回、渋谷を舞台に脚本をというお話を頂いて、渋谷という街は今どうなっているのか考えたんです。渋谷っていろんな仕事があったり、夢を追う人や学生さんも多い街。そこを歩く人たちがどんなことを考えながら街を歩いているのかと考えた時、自然とそういうテーマが浮かびました。渋谷の“若者の街”という感じと同時に、40、50代の“かつて渋谷で遊んでた人たちの渋谷”という感じも雰囲気で出せればと思いましたね。書き始めた時は“ドラマ”を書こうというよりは“コント”なのかもしれないと思っていたんですが、書いてる途中で、コント的なものよりもドラマになっていくと気づいて。…そもそもドラマをやったことないので、書いたはいいですけど、本当にこれが“ドラマ”なのかはあんまり分かってないんですけど(笑)。

◆又吉さんご自身が、周囲の“許さないという暴力”を感じたことはありましたか?

これもちょうど渋谷のラーメン屋でのことだったんですけど、傘立てがあったんですよ。そこに僕、ビニール傘を挿して入ったんですけど、食べ終わって出る時に、同じようなビニール傘がいっぱいあって。僕一本とって帰らなダメなんですけど、もうどれか分からへんくて、並んでる人みんなに見られてるから、わーって緊張しながら、多分この種類やったよなっていうのを一本取った瞬間、並んでた人に「俺のだよ!」って言われて…。そんな風に言わんでもいいやんって思ったんです。絶対傘立ての中の一本は僕のか、あるいは誰かが僕のを一本持って行ったから、その人の一本は僕が使っていい一本のはずなんですよ。でも、もうええわって思って、一本も取らずに濡れて帰りました。多分この人、自分の傘分からんようになったんやなとか、誰かに持って行かれたんやろうなとか、分かるじゃないですか。でもきっと“許されへん”のやろなって。そういうことって多いですし、何か、一人に対してみんなが“やったこと以上に怒りすぎる”みたいなことはあると思いますね。

◆執筆にあたり、渋谷の街を実際に歩かれたとお聞きしました。

例えば「火花」を書いていた時も、吉祥寺を書く時には、実際に電車に乗って吉祥寺まで行って風景を見て、っていうのはありましたが、その時以上に今回は渋谷という街が主役になればと思い、すごく渋谷に行きました。何となくその場所に行ってそこの雰囲気や人の流れを見ていると色々と思いついたりして。撮影するお店が決まった時に連絡を頂いて見に行ったりもしましたね。ガラス張りの店を、外から30分ぐらい腕組んで見てたので、中のお客さんに「おい、又吉すごいこっち見てんぞ」ってざわざわされちゃったんですけど(笑)。想像で何となく“それはないやろ”って思うことを書くのは勇気がいるんですけど、行って実際に見てみると人って想像以上に無茶苦茶な動きするんですよ。席立って一回外出て「あ、ちゃうわ」みたいな顔してトイレ行く人とか(笑)。どんな間違い方やねんっていう。でもそういうもんやんなと。ドラマには全く反映させてませんが(笑)、勉強になりました。


パルコがどう見えるかで、その時の自分の状況が分かった

又吉直樹インタビュー

◆ご自身が上京した頃と今の渋谷、どこが一番変わったと思いますか?

僕らがよく出演していた、シアターDという劇場がなくなったりとかですかね。あとはパルコですよね。パルコがない今の渋谷っていうのはすごい不思議。パルコがどういう風に見えるかっていうので、自分の今の状況みたいなものがすごく分かる感じがあったから。東京に来てすぐの頃にパルコを見たら、「眩しすぎて入られへん、オシャレやし、服も買われへんし」って思うと同時に、「うわぁ、ええなあ。渋谷に来たな」って感じてたんですよ。でもだんだん歳をとって来たり、仕事をいただけたり“自分の調子がいい時”は、パルコがすごくかわいく見えるというか(笑)。何か、パルコに普通に入って行ける自分がいて。で、調子が悪くなったらまたパルコが眩しくなる、みたいな(笑)。僕は今の渋谷の“どこを見ても割と工事中”っていう風景を、そんなにネガティブに捉えてないんですね。20年後に渋谷が本当に整った時に今回の映像を見たら、この時こういう感じだったよねっていうような、「工事中の渋谷が、僕たちの渋谷だった」っていう人もいるやろうし、今ってすごく面白いタイミングだと思ってる。パルコがあった時と、この10年後、20年後の渋谷の間の、今という時期に、こういうことができるっていうのは面白いなと思ってます。

 

■PROFILE

又吉直樹
●またよし・なおき…1980年6月2日生まれ。大阪府出身。B型。お笑いコンビ・ピースのボケ担当。小説「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞。最新作「劇場」が発売中。

 

■番組概要

『許さないという暴力について考えろ』
NHK総合
12月26日(火)後10・00~10・49
 
●photo/中田智章 text/寺田渓音 hair&make/ryo narushima styling/Babymix

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