体中の臓器がお互いに情報を交換することで人体が成り立っているという新しい「人体観」を、最先端の映像を駆使して伝える『NHKスペシャル シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク』。その最終回「第7集“健康長寿”究極の挑戦」が、3月25日(日)後9・00より放送される。フィナーレを前に、タモリと共にシリーズの司会を務めてきた、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥さんにインタビュー。
番組をきっかけに、将来医師や研究者を目指す人が増えてほしい
◆司会という立場でシリーズに携わってこられて、手応えはいかがでしょうか?
最先端の研究の現場をいかに分かりやすく、かつ正確に伝えるか、ということが僕の使命だと思っているのですが、やはり司会というのは初めてなので難しかったです。これは研究全般に言えることですが、100%完全な事実というのはほとんどないんです。今事実と思っていることが、何年か後には間違いだったということもありますし、そもそも今はまだ仮説のことも多いですから、内容に興味を持ってもらいながら、かつ仮説ということを理解してもらうのは非常に難しい仕事でした。個人的には、普段の研究だとどうしても狭い視野になりがちなところを、今回は人体全体を臓器別に紹介するということでたくさん勉強もさせていただきました。学生さんぐらいの方が番組を見て、将来医師や研究者を目指してほしいというのが一番の願いでしたが、それと同じぐらい自分も楽しんでおりましたのでとても満足しています。それから、タモリさんと司会をさせていただくのは得がたい経験でしたので、本当に楽しかったです。
◆研究者として、番組出演からどのようなものを得られましたか?
番組で紹介した情報のうち、自分が医学部時代に学んだ内容というのはほんのわずかなんですね。過去に学んだことも大切ですけれども、それにとらわれていたら本当の真実にはたどり着けない。時には昔学んだことを否定して、新しい考えを取り入れるということが、何歳になっても研究者に求められることだなとあらためて感じました。
◆中でも特に驚いたことを教えてください。
リウマチの原因とされる「IL-6」が、ほかの研究者から見ると“筋肉が出すいいメッセージでもあった”ところでしょうか(第2集「脂肪と筋肉が命を守る」)。1つの物質に複数の意味があるというのは、研究者として当然分かっていたつもりでしたが、自分にとって身近でよく知っていると思っていた物質でもそういう側面があるというのはとても勉強になりました。
◆いよいよ3月25日(日)放送の第7集で最終回を迎えます。見どころを教えてください。
これまでは臓器別に紹介していきましたが、最終回は臓器から離れ、私たち医学研究者の挑戦を紹介しています。がんをはじめ、人間がかなわない病気というのはまだ数多くあり、私たちがそこにどう挑戦しているかがテーマでしたので、iPSそのものではないんですけれども、医学研究者が何を考えてどう仕事をしているのかを伝えられたらと思っております。
最初の人体のシリーズ(※)は、僕より10歳ぐらい下の世代がちょうど学生時代に見ていたと思うんですが、「『人体』を見て医学を志しました」という人もたくさん知っています。自分が70、80歳になったときに主治医の先生から「僕はあの番組を見て医師になったんです」「研究者になったんです」と言われたらとてもうれしいですし、そうなることを祈っています。でもそれには10年以上待たないと…。長生きしようと思います(笑)。
※1989年に放送された、大型科学ドキュメンタリー番組『驚異の小宇宙 人体』。当時もタモリが司会を務めた。
■PROFILE
●やまなか・しんや…1962年9月4日生まれ。大阪府出身。医学者。京都大学iPS細胞研究所 所長・教授。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
■番組情報
『NHKスペシャル シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク』
「第7集“健康長寿”究極の挑戦」
放送局:NHK総合
放送日時:3月25日(日)後9・00~9・49
出演:タモリ、山中伸弥、久保田祐佳アナウンサー、石原さとみ、樹木希林
公式HP:https://www.nhk.or.jp/kenko/jintai/
【特番情報】
『タモリ×山中伸弥 驚き!人体解明ヒストリー』
放送局:NHK総合
放送日時:3月31日(土)後7・30~8・43
タモリ×山中伸弥が再タッグ。東京・上野の国立科学博物館を舞台に「人間はどうやって人体の謎を解明してきたのか」という驚きの歴史秘話に迫る。