秋之桜子×寺十吾×三津谷亮インタビュー 演劇集団「西瓜糖」第六回公演『レバア』

特集・インタビュー
2018年04月18日

演劇集団「西瓜糖(すいかとう)」第六回公演『レバア』が4月18日(水)から上演される。作・秋之桜子、演出・寺十吾、主演・三津谷亮で終戦後の日本を舞台に、とある一軒家に集まった老若男女の人間模様を描く本作。ご自身も女優・山像かおりとして出演する秋之さん、寺十さん、三津谷さんに、稽古場の様子や作品への思いを聞きました。

秋之桜子×寺十吾×三津谷亮インタビュー◆稽古の手応えはいかがですか?

寺十:手応えですか?ありまくりです(笑)。いいものになっています。

三津谷:周りの役者さん、周りの支えてくれるスタッフさん、寺十さんも含めスペシャリストというか、すてきな方々が多くて。本当にそのまま皆さんが舞台上で生きているような感じがするので、そこに僕自身が近づいて怖がらずに入り込んでいけたらいいなと思いながら日々稽古しています。

秋之:作家としては、寺十さんと新作では2回目なんですけど、やっぱりすごく気心が知れているって今回本当に思っています。私の本って映像的というか、日常を切り取るみたいなかたちの本なので、人によってはアップができないんだからとか言われちゃうんですけど、さっきも「日本映画みたいな舞台になってきたよ」っておっしゃっていたので、うれしくて。
内容はわりとハードだったりもするんですけど、自然にいろんな内容を受けとめていただいて、個々の人物にいろんな人生があるので、それを昔の話だけど今のことのように思ってもらえたらいいなと思って、そういうふうになってきているのかなと思います。
演者としては、まだまだこれから詰めていかないといけないところがあると思いつつ、でも雰囲気もすごくいいし、毎日本番をやっているような緊張感のある稽古場です。

三津谷:そうですね。

秋之:といってもいやな緊張感ではなくて。
すごく稽古が短いんですよ。キュッと集中して。
だからこそ無駄にできない稽古場なので、お互いに相手役と呼吸ができる感じではいまして、もっとさらにって思っています。

◆寺十さんに演出をお願いした経緯は?

秋之:昔、女2人芝居のコメディを描いていて、あるプロデューサーさんにもっとほかに好きなのないのって聞かれて。もともと私は昭和の文士が好きで、坂口安吾とか織田作之助とか大好きでむさぼるように読んでいて、そういう人たちの下にも絶対いろんな文士がいただろうと。
有名な人たちしか私たちは知らないけど、その下にはいろんな作家さんがいて、っていう市井の小説家みたいな人たちを描きたいと思ったんです。
その前に寺十さんの演出で、私は役者としてご一緒していて、この人はすごく台本を丁寧に読んで、作家を愛しているというと変ですけど、その本に書かれたことを丁寧にやられる人で、こういう人に演出してもらいたいとずっと思っていたんです。
それで、その話が出た時に寺十さんにお願いして「猿」(2010年)という舞台をやって、劇作家協会新人戯曲賞を頂いて、それから昴(劇団昴「暗いところで待ち合わせ」2012年)でご一緒したんです。西瓜糖は松本祐子という演出家がいたんですけど、彼女もいろんなところの演出をしたいということで、今回誰にしようかということで真っ先に寺十さんにお願いしたいう経緯です。
寺十さんにお願いしたことでちょっと安心して、すごく短い時間で脚本が出来て。実はオリンピックが始まったときに書き始めて、オリンピックが終わったときに書き終わるという(笑)。
今回は初稿がそのまま書き直しもなく完成稿になって、いまの稽古場で作り上げられているというかたちです。

◆寺十さんにお伺いします。秋之さんの脚本の魅力はどんなところにありますか?

寺十:かっこ悪い人が出てくる。非常に魅力的なかっこ悪さを持った人たちがたくさん出てくるところが楽しいですね。
かっこいい役もあるけど、かっこ悪い役が好きな役者さんってやっぱり結局かっこいいわけで。
役者さん好みなんじゃないですかね。やいたいってすぐ思える。みんな見せ場があるし。

◆三津谷さんは振り幅の広いいろいろな作品に出演されていますが、今回の出演が決まったときの感想は?

秋之:「パタリロ」の次(笑)。

三津谷:「パタリロ」が夜公演のみのときは「レバア」の稽古があったんですけど、パラレルワールドのようで(笑)。
いま現実ってどこなんだろうというか、何がリアルなのか混乱するというか。
いまは「レバア」一本で稽古をやっているんですけど、2本やっていたときのほうがいい意味であんまり考えなくてよかったです。
いまは考えすぎちゃって、野生的な感覚がなくなりかけてるのがだめだなって。
振り幅的には、前回は2.5次元で今回はストレートっていうかたちなんですけど、すごく楽しくて、毎日が充実しています。4月が3か月くらいあるみたい(笑)。

◆共演者はクセのある役者さんぞろいです。

三津谷:たくさんの先輩方と共演するんだってなったときに、最初萎縮しちゃうんだろうなって思っていたんですけど、意外にそうじゃなくて。
皆さん表現を出しやすいような環境づくりをしてくださるんです。
同じくらいの年代の子たちが集まると、みんな自分の見せ場だったり、自分のシーン以外は見なかったりということがあるんですけど、そうじゃない現場で、お芝居を見てくれている。
一緒に作っているという感覚がすごくあるので、自分自身だけの役じゃなくて、みんなでそれぞれの立ち位置で物を作るところがすごくすてきだなって思っています。
やっぱり僕は知識も少ないので、当時の戦後の知識も映像などで見ているんですけど、演じている中でせりふの厚みや深さが足りないなって思う部分に関しては、周りの方が手助けしてくださるんです。役者としては恥ずかしい作業なのかもしれないけど、僕はもらえるものはもらおうと。言ってもらえたことを受け止めてやっていくというか。
でも、そればっかりを期待して待っているとあっという間に本番を迎えてしまうので、自分でも常に勉強というか、拾える感情などなるべく見つけてます。

昨日の稽古はだめだったんです。
感情がぜんぜん動かなくて。で、(寺十を見て)すぐ察知するので。

寺十:(ニヤリ)

一同:(笑)

三津谷:でも寺十さんから感情をたくさんいただけるので。それで何とか後半のけいこは立ち上がっていったんです。
でも、それは朝起きた時から立ち上がってなきゃだめなんだなってすごく思って。
朝からログインボーナスをもらうためにアプリゲームとかをやっちゃうとだめだなって(笑)

秋之:どうしよう。私もゲームやっちゃった(笑)

三津谷:(笑)。「パタリロ」をやっていたときはゲームをやる時間もなかったんです。「レバア」の台本を横に置いて寝ていたくらいで。
朝起きたら読むみたいなことをしていたんですけど、自分に余裕がないときのほうがいいんだなって。
余裕をもってゲームをやり始めると…

秋之:ああ、どうしよう!やっちゃった(笑)

三津谷:違います、違います!僕の場合ですよ(笑)
今日の朝もテレビで戦争を体験した人のお話とかを聞いて、朝からそういうものを積み上げていくというか。
そういう作業をしています。

◆お2方から見て三津谷さんはどんな役者さんですか?

寺十:感受性が豊かというか、ささいな言葉でもすぐに気持ちが広がるから、演出するほうもわくわくします。
こんな風に言ってみたらどうだろうかということがバーッと身体に広がって。
それが毎日刻々と変化しているだろうし、それを見ていて楽しいし、刺激を与えがいのある役者さんですね。

秋之:私は本を書くときに一回お会いして、一番揺れ動く役を描きたいなって。この中で一番難しい役なのかもしれないけど。
出てきたときに見ていたいって思える人だなって思って。稽古場でも三津谷君がやり始めたときに女性陣がくぎづけになっているっていう(笑)
正直、この時代にマッチするのにもっと時間がかかるのかなって思ったんです。映像的な部分でも、このおじさんたち、おばさんたちとですし。
でも、三津谷君って空気を読む力がすごくあるから、その空気を吸収して、そこに立ったらその人たちの色をフッと盗むみたいなところがあって。
ああ、そこにいる人になっちゃったっていうのがある不思議な役者さんで。
もちろん華があるっていうのも彼の素敵なところだと思うですけど、ちょっと浮いて見えるっていうのは今回はマイナスかなって思っていたんです。でも、華はあるけどちゃんと今回の色の中にスーッと入ってきたというのが不思議(笑)。だからすごいなって思うんです。
最初のときに違和感がありつつ入ってきたのが役のまんまでよかったと思うし、変に気負わないっていうのも魅力なのかもなって。見習います(笑)

◆寺十さんの演出で印象に残っていることはありますか?

秋之:立ち稽古で「役者の品評会みたいになりたくないよね」っていうのが、すごくなるほど!って思いました。
役者ってどうしてもある程度役が膨らんでくると、自分の役がかわいいし、いとおしいので頑張りすぎちゃうんです。
頑張りすぎてるって気持ちもなくて、芝居の中に入り込もうって思っているんだけど、知らず知らず役を膨らませすぎちゃうっていうのがあって。
そこを抑えて、もう一回元に戻すというか。稽古を経てから元に戻すって絶対にマイナスにならないじゃないですか。
ピュアな気持ちにならなきゃなって。すごく分かりやすくて、すごく厳しい言葉だなって思いました。

三津谷:僕も「品評会にはなりたくない」っていう言葉は印象に残っています。
毎日寺十さんから頂く言葉にいつもハッとさせられるんです。昨日は感情のスイッチが入らなかったときに周りの音がすごく気になってしまって。
僕自身、普段は本番に入ってもそうなんですけど、お客さんの空気を借りてお芝居をすることがすごく多くて。お客さんの感情の空気をもらってお芝居をしていたからやりやすいということもあったんですけど、それでブレることもやっぱりあって。
昨日は外の音が聞こえ過ぎて自分の役柄に寄り添えなかったときに、寺十さんに「誰も見てないほうが自分がこの役のことを一番よく分かってあげられるから、俺が分かってあげてるよという気持ちになってやればその感情にいけるよね」って言われたときに確かにそうだなって思って。
今までお客さんや周りの空気に芝居を乗っけていた部分が、そうじゃないときにどうしたらいいかってずっと自分でも悩んでいたので、その言葉で何を自分は一人でこんなに抱えていたんだろうって思ったんですよね。
自分じゃなくて役のことを考えなきゃなって思って、そこが自分にとってハッとさせられた瞬間でした。

◆寺十さんが演出で軸としていることは?

寺十:せりふの中で“生きる糧”というのが出てくるんです。戦争という大きな出来事があって、家族を失って、家もなくなって、自分の周りから自分が大事にしていたものがすべて奪われた人たちがこれからどうして生きていこうかというときに、やっぱりそれで生きていられるっていうものを探し始めるんです。観ている人たちにとっても、それさえあれば何とかやっていけるっていう、そういうものが実は周りに潜んでいるというか、つくるというより探してみるといくつか出てくる。
それを見つけて、そこからバーッと気持ちが広がっていく。そういう作業になるといいかなと。

◆先ほど「役者ごのみの本」というお話がありましたが、寺十さんは役者としてウズウズしませんか?

寺十:そりゃしますよ(笑)
演出より役者のほうが楽しいですし、何も考えなくて身体だけでいいし。演出は頭ばっかりだから。
今度は出してください(笑)

秋之:一度出ていただいていますし、またよろしくお願いします(笑)
そのときの衣装を今着てるんですよね。

寺十:あ、そうだ!

三津谷:衣装合わせのときに、寺十さんが「あれ?」って(笑)
「これ僕が着てたやつだ!」って。

秋之:受け継いでおります(笑)

◆三津谷さんはご自身が演じる復員兵はどんな役柄だと感じていますか?

正義だったものが正義じゃなくなった人たちの思いを背負っているような役だなと思っています。
でも、こういう役って言っちゃうと、そういう目で見ちゃう気がして…

秋之:嫌な人ばっかりです(笑)

三津谷:でも生きていかなきゃいけないし。結果、人間って弱いなっていうことではある気はします。

秋之:弱いけど強い、そのやじろべえみたいな感じ。みんなキャラクターはそれぞれ違うんですけど、どこか似ているというか、どこかずるいっていうか、どこかさびしいっていうか。

◆三津谷さんは俳優として11年目を迎えましたが、舞台への向き合い方、仕事への向き合い方、考え方は変わりましたか?

三津谷:最初のころは、ねたみなどのマイナスのエネルギーで頑張ってきたんですが(笑)、気が付いたらいつの間にか周りを見ると応援してくれるプラスのエネルギーがあって。この人のために、見に来てくれる人たちのために物をつくれたらなっていう考えに変わってきましたね。
「来週『レバア』があるから頑張れます」とか、そういうコメントをもらうと、自分も“生きる糧”じゃないですけど、いろんな意味で人のためにできるようになってきたかなって。まだまだ足りないですけど。
だから、数字にしたら11年ですけど、お芝居の本当の楽しさに気づけたのはここ1、2年なんじゃないかなと思います。

 

■舞台情報

演劇集団「西瓜糖」第六回公演『レバア』演劇集団「西瓜糖」
第六回公演『レバア』

作/秋之桜子(あきのさくらこ)
演出/寺十 吾(じつなしさとる)

日程:4月18日(水)~4月29日(日)
劇場:中野 テアトルBONBON
料金:4,500円 (税込/全席指定)※未就学児入場不可

<ストーリー>
昭和20年8月、終戦。家族を失い、身体を失い、心を失い、残されたのは焼け焦げた街。行き場のない誰もが住処を探していたあの頃。とある一軒家に集まった老若男女。価値観の違いなどには目をつぶり、生きることを選んだけれど、違和感はそれぞれの心にフワリフワリと浮かんでは消え、消えては浮かぶ。笑い、泣き、愛し、歪み、騙す者たち。昭和という時代を経て、平成が終わりを迎える今、2018年。ヒトが心の奥に隠し持つ「ザラツキ」が繊細に炙り出されていきます。あなたの、こころの、レバアは押されるのか、引かれるのか、それとも…

<キャスト>
三津谷亮/佐藤誓/村中玲子 陰山真寿美 難波なう 森川由樹 足立英/奥山美代子 山像かおり/外波山文明/森田順平

<スタッフ>
作:秋之桜子
演出:寺十吾

美術:石井強司/照明:阿部康子/音楽:坂本弘道/音響:岩野直人/小道具:のねもとのりか/衣裳:上岡紘子/舞台監督:井関景太/演出助手:中山朋文/制作助手:間宮りん/宣伝写真:サト・ノリユキ/宣伝美術:オザワミカ/宣伝ヘアメイク:畑中嘉代子/舞台写真:宮内勝/運営協力:難波利幸・木村彩菜/デザイン BUG STUDIO LLC

<スケジュール>
4月18日(水)~4月29日(日)

4月18日(水)19時
4月19日(木)14時/19時
4月20日(金)19時
4月21日(土)14時/19時
4月22日(日)14時/19時
4月23日(月)19時
4月24日(火)14時/19時
4月25日(水)14時/19時
4月26日(木)19時
4月27日(金)14時/19時
4月28日(土)14時/19時
4月29日(日)14時

『レバア』:http://no-4.biz/suikato6/
『西瓜糖』:http://suikato.blog.jp/

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