KADOKAWAとハピネットが「リミッターを外せ!」を合い言葉に、“ジャンル映画”の中でも特にエッジの立った作品を共同で開発、発信していくプロジェクト『ハイテンション・ムービー・プロジェクト』の第一弾となる「殺人鬼を飼う女」が4月12日(金)より公開。1人の女の4つの人格を4人の女優が演じ分ける異色作のメガホンをとった中田秀夫監督と、中田監督による「ホワイトリリー」に続いて主演を務める飛鳥凛さんにインタビュー!
◆飛鳥さんは中田監督の「ホワイトリリー」でオーディションを勝ち抜いて主演の座を射止めて、今回再び中田監督の作品に主演するわけですが、出演が決まったときはどんな気持ちでしたか?
飛鳥:マネージャーさんからこのお話を聞いた時に、もうこれ以上ないぐらい幸せを感じて、本当に!?っていう感じでした。原作があると伺ってすぐに買いに行って読みふけって。もう楽しみで楽しみで仕方がなかったです。
◆プレッシャーとワクワク感はどちらが強かったですか?
飛鳥:ワクワクの方が強かったですね。どういうビジョンというか、世界観になるのだろうっていうのは自分の頭の中のだけでは分からなかったので、すごく楽しみでした。
◆中田監督は飛鳥さんをどんな理由で起用されたんですか?
中田:もちろん「ホワイトリリー」で堂々と主役としてやってもらったというのがあります。あの時は確か50人以上の方をオーディションして「この主役は是が非でも、私がやるんだ」っていうものすごい強い意志を飛鳥さんから感じて。その印象も強かったですね。その後、すぐに僕の「劇場霊」というホラー映画のスピンオフの「劇場霊からの招待状」という深夜ドラマがあって、ゲスト主役として、“自分が囚われ人のふりをして、実は連続殺人鬼”という女性を飛鳥さんにやっていただいたんです。アクションもあるその役を思いっきりやっていただいた印象も強く残ったんです。それで今回、濃厚なラブシーンがある殺人鬼…これはもう飛鳥さんでしょうと(笑)。
飛鳥:(笑)
中田:ちょっと単純かもしれないけど、間にそのテレビの仕事を一緒にやったっていうのはかなり大きかったですね。
◆本作でも飛鳥さんの迫力はすごかったですが、ほかの3人の女優さんも強烈な印象が残りました。
中田:中谷仁美さんはロマンポルノのリブートの仲間の「風に濡れた女」という塩田明彦さんの映画で、ラブシーンもありで出演なさっていて、その印象が強く残っていました。彼女はああいうルックスなので、少女のパーソナリティであるハルを演じてもらうことになりました。大島正華さんは、テレビでワンシーンだけだったんですけど、とてもいいお芝居をしてもらっていて。こういうラブシーンがある映画は初めてですが、出ますか?とオファーしました。松山愛里さんは「ホワイトリリー」の時の飛鳥さんと同じくオーディションですね。
大島さん、松山さんの2人は、ラブシーンが初めてで。「ホワイトリリー」の時にも飛鳥さんとみっちりやりましたけど、僕はロマンポルノの助監督をやっていたので、撮影が9日しかない中で3日間ぐらいリハーサルをしちゃうんです。1日かけて、ラブシーンの絡みを演出部とエキストラの女性でやってみて、それを女優陣にこんな感じなのかって見ておいてもらって。もちろんラブシーン以外もリハーサルはやるんですが、やっぱりここが1つの見せ場であると。キョウコの分裂した人格と絡んで起きていく殺人というサスペンスフルな物語なんですが、やはり「R18+」ということで、ラブシーンが見せ場=商品性という信念は日活ロマンポルノ出身者としては外してはいかんというか。今回もラブシーンでは、元々は1.5倍以上撮っていて、それを切っています。「長い!」って思われても「短い!」って言われるより良いし、はしょってすぐ終わるセックス場面は、(女性同士は特にそう感じます)「非現実的」だと思っています。
◆4つの人格を4人の女優さんが演じるというアイデアは最初の段階からあったのですか?
中田:最初は迷ったんです。もちろん飛鳥さん1人でやり切るっていうのも考えました。例えば「スプリット」という映画はそれをやっているんですけど、いかんせんラブシーンがあると。しかもレズビアンのシーンがあって、飛鳥さんと飛鳥さんという撮り方でやり切れるかどうか、ちょっと考えてみたんです。でも、飛鳥さんだけで演じてもらう場合はかなり複雑な指示になって、ナチュラルなラブシーンが撮れない。じゃあボディだけ飛鳥さんに体格が似た女優さんに来てもらって、顔を飛鳥さんで寄りを変えて撮るか。でもやっぱり体格はいくら似ていても同じではないので難しい。それと、見るお客さんにとって飛鳥さんと飛鳥さんっていうのをずっと見続ける、特にラブシーンでそれはかなり人工的すぎてどうなのかなって思って。だったら、いろいろ大変さはあるけど、もうこっちしかないと。
例えば、水橋(研二)さんが本を貸しにやってきて、大島さんが応対するんだけど、水橋さんの頭を超えると大島さんから飛鳥さんに変わっているっていうシーンでは、飛鳥さんにしゃがんでおいてもらって、大島さんの前にひゅっと立って入れ替わる。超原始的ですけど、こうしたライブ演出がこういう映画には合ってるだろうなって思ってやりました。
4つの人格があって、衣裳も違うんだけど、第三者には飛鳥さんとしてしか見えてないっていうことをなるべく早めに分かってもらうために、飛鳥さんにはほかの人格の口調も真似してもらって。大島さんがエレベーターの中で水橋さんに悪態をつくところとか、松山さんがお母さんの根岸さんに馬鹿にしたように言うとか、中谷さんが子供っぽく返事するところとか、それを飛鳥さんに聞いておいてもらって、口移し的に口調を真似てもらいましたね。
◆飛鳥さんはそのあたりのお芝居はいかがでしたか?
飛鳥:難しさはありましたね。でも、演じていく中で、キョウコとしての幸せを感じる部分とかもすごく多かったんです。それとの対比がすごくて、撮影中、自分がブッ飛んでるなって思うことも結構あり、泣きはらしたり、ワーッとなったり、本当にキョウコの気持ちでもみくちゃになっていたりして。もういっぱいいっぱいでした。
◆複雑な役柄ですが、撮影に入る前に準備されたことはありますか?
飛鳥:解離性同一性障害について調べたり、そういう障害が関係する事件の当事者が、自分の頭の中ではこうなっていたということを語る映像などを見たりしました。そういうのを見たからか、アパートの1室がキョウコの頭の中の世界に思えてきて。撮影に入る前にそういう資料をたくさん読んだり見たりしましたね。
◆4つの人格が別々の人物の姿で食卓で話しているシーンが不思議で、楽しかったというとちょっと違うかもしれませんが、とても印象的でした。
中田:冒頭でわりとはっきりと見せていますが、子供時代に性的虐待を受けて、それが苦しいがあまりに、心の中に逃げどころして友達を作ると。いわば現実逃避としてそういう友達を作ると、そこから枝別れしていくらしいんです。リアルに考えると、かなり重い話なんですが、僕は映画はどんなに苦しい、つらい、重い要素を含むものでも、やっぱり最終的にはエンタメというか、お客さんに楽しんでもらうというものでありたい。この80分間「殺人鬼を飼う女」にぐっと引き込まれて、日常のうっぷん忘れて楽しんでほしい。どういう内容であれそうありたいと思っているので、楽しんでいただいて正解だと思います。
◆本作の大きなキーアイテムとして「私のなかの私」という本が出てきますが、ご自身の中にも“私のなかの私”が存在しますか?
飛鳥:えー!(笑)。私のなかの私ですか…。私は犬を飼ってるんですけど、どうやら夜中とかに散歩に出ているときに、結構大きな声で独り言を言っているようにみえるらしくて。私的には犬にしゃべってるんです。(笑)でも他の人から見たら、夜暗い中で、ジャージにマスクに帽子をかぶっている人が、すごく大きな声で「今日は寒いなー」とか「お散歩できてよかったねー」とか言いながらゆっくり歩いてくるという(笑)。みんなサッといなくなるんですよ。いなくなって、「あ、またやっちゃってる…」って。そういうよく分かんない人格はいます(笑)。
◆監督はいかがですか?
中田:僕は、ああ今アグレッシブになってるなぁとか、意識はするんですよ。昔は主演女優さんにガーっと言って、ワーっと泣かれて、メイク直しで2時間待ちとかよくやってたんですけど(笑)そういうことから学んで、現場では自分を抑えるというか、クランクアップするまではなるべく穏やかに、感情を乱さないようにしています。例えば、テニスプレーヤーが試合が決するまでは感情を秘めて、決した瞬間に倒れたりするじゃないですか。あれは彼らが途中で感情が爆発するとマイナスに働くというのを分かっているからで、僕はそういうアグレッシブなものを抑えているからかもしれないですけど、日常生活では1人でいる時に急に「ウォーっ」とか言ったりしてますね(笑)
飛鳥:えー!
中田:子供の時から急に「ワーっ」とか、汚いワードを叫んだりしてました(笑)。でもそれが違う人格なのかって言われたらちょっと分からないですけど。
◆今日はお2人での取材なので、このどさくさにまぎれて飛鳥さんから監督に言いたいことなどがありましたらぶっちゃけちゃいましょう!
飛鳥:監督に言いたいことですか…。緊張する…。
ずっと監督の作品が好きだったので「ホワイトリリー」にオーディションで選んでいただいて、また今回こうやって「殺人鬼を飼う女」で、しかも完成披露の今日が私の誕生日なんです。本当に泣けちゃうぐらいうれしいんですけど…本当にありがとうございます。
中田:こちらこそ頑張っていただいてありがとうございました。誕生日おめでとうございます。歳聞いちゃっていいのかな?
飛鳥:28です。
中田:28か!いいなぁ(笑)
飛鳥:(笑)
◆これから女優さんとしてどんどん魅力的になっていかれると思うのですが、監督から“女優・飛鳥凛”に期待することは?
彼女はズバッと言えば天然系なんですよ、実は(笑)。だけど、映画をご覧いただけばすぐ分かると思うんですけど、いざキャメラの前に立つとエッジの効いたお芝居をしてくれる。僕はそういう俳優さん、女優さんが好きなんです。日常がそのまま出るのがいいんでしょというようなお芝居をされると、やりすぎじゃない?と思っていいから、ズバッとやってくれって言います。なぜならこういう作品はホラーよりは現実に起きる話だけど、それでもかなりエキセントリックな展開だから、ぐっと輪郭がシャープなお芝居でいいんだと。彼女はそういうことをきっちりやってくれる女優さんなので、そこがすごく好きなんです。ここから先に未来が開けているわけだから、いろんな役をどんどんやっていって、貪欲に舞台でも映像でも、活躍の場を横にも縦にも広げていってもらいたいですね。
飛鳥:ありがとうございます(喜)
◆それでは最後に、この作品の見どころをお願いします。
中田:一部にですね、飛鳥さんが犬を飼うように、物理的に殺人鬼を飼っている女の話であると思っている人もいるとか(笑)。そうかもしれませんが、そうでないかもしれないので、そこがまずどっちなんだろうと。そして、飛鳥さんのパーソナリティーというかキャラクターが、ある苦しみをずっと抱えながら生きてきて、悲しい別れもありつつ解放されていくという話なので、そういうドラマとサスペンスの部分、あとラブシーンと、いろんな角度から楽しんでいただけると思いますので、どうぞ十二分に楽しんでください。
■PROFILE
中田秀夫●なかた・ひでお…1961年生まれ。岡山県出身。
1985年日活撮影所に入社。助監督を経て1992年に「本当にあった怖い話」で監督デビュー。同年、文化庁芸術家在外研修員として渡英。1995年に帰国。
1996年に「女優霊」を監督し、1998年に発表した「リング」が大ヒット。現在では黒沢清や清水崇らと並ぶ、Jホラー(ジャパニーズホラー)の代表の一人と目されている。2003年、「ラストシーン」で芸術選奨新人賞受賞。2016年の日活ロマンポルノ45周年を記念した企画『ロマンポルノ・リブート・プロジェクト』に参加「ホワイトリリー」がロマンポルノ初監督作品となる。2018年公開「終わった人」では主演の舘ひろしがモントリオール国際映画祭・最優秀男優賞を受賞。「スマホを落としただけなのに」は興行収入19億円を超える大ヒットとなった。今年5月待望の「貞子」新作の公開が控えている。
飛鳥凛●あすか・りん…1991年3月28日生まれ。大阪府出身。
2007年の映画「天使がくれたもの」でデビュー。翌年「口裂け女2」で初主演を果たす。その後も、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍し、09年「仮面ライダーW」では、敵役ヒロインで人気アイドルでもある園咲若菜を演じ、ブレーク。2017年にはファースト写真集「凛」を講談社より発売し、日活ロマンポルノ45周年を記念した「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト』のうちの1作『ホワイトリリー』(中田秀夫監督)で主演を務めた。
今年7月には舞台『HERO~2019夏~』への出演が控える。
■映画情報
映画「殺人鬼を飼う女」
4月12日(金)テアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
<STORY>
愛を交わした時、彼女は現れる―
キョウコはビストロで働く美しいギャルソン。
だが幼い頃義父から性的虐待を受け続けたことで、キョウコを愛するレズビアンの直美、ビッチなゆかり、そしてあの小学生のままのハルという様々な人格と辻褄を合わせ共存し支え合っていた。
だが、ある日マンションの隣人が憧れの小説家と知り恋心を抱いたのをきっかけに、得体の知れない歪みを感じ始める。それと時を同じくして彼女の周りで謎の死が相次ぎ、保たれた均衡が崩れ始める―。
<キャスト>
飛鳥凛
/水橋研二/大島正華 松山愛里 中谷仁美/根岸季衣
<スタッフ>
監督:中田秀夫
原作:大石圭「殺人鬼を飼う女」(角川ホラー文庫)
脚本:吉田香織
音楽:坂本秀一
製作:KADOKAWA ハピネット
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給:KADOKAWA
©2019「殺人鬼を飼う女」製作委員会
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